第35話 意中具現
はじめは不敵な笑みを浮かべたまま、分厚い資料の隣に、ゴツリと不骨な金属製のアイテムを置いた。
「これはね、対マテリアライズ用の武器。特殊な素材でできていて、人を傷つけることは基本ない。武器の形状は隊員によって違うんだけど、大体は取り回しのいいナイフ型を選択することが多いかな。刃の素材がとにかく特殊で、黒い因子を切り裂く専用の刃なんだ。」
はじめはそう言うと、椅子から立ち上がり、軽く背筋を伸ばした。そして、琥狛に向かってニカっと笑うと、思い切りよく右腕を前方へと伸ばした。
「おいで! 大和!」
はじめがそう叫んだ瞬間、会議室の空気が一変した。
彼の伸ばした腕の周りに、先ほどモニターで見たシミュレーション映像のような、しかし今度は不気味な黒ではなく、白く輝く暖かな光の粒子――白い因子が、目に見えるほどの密度で急速に集まり始めたのだ。
光の粒子は渦を巻き、まるで意思を持っているかのように、はじめの腕を包み込んでいく。
「な、なんですか、これ……!?」
琥狛は思わず息を呑み、椅子の上で身を固くした。手元の資料がパラパラと音を立ててめくれる。
光の渦が収まったとき、そこには一羽の鳥が、はじめの腕を止まり木にして羽を休めていた。
「カラス……?」
琥狛は呆然と、その鳥を見つめた。
それは紛れもなくカラスだった。
しかし、一般的なカラスのように全身が真っ黒ではなく、羽の端々には白い因子がまだ微かに光を帯びて残っており、まるで光を纏っているかのように美しい。
「よく見てみて」
はじめは腕を琥狛の方へ少し突き出し、満足げに言った。
琥狛は緊張しながらも、そのカラスを注意深く凝視した。光を纏った羽、鋭い嘴、自由そうに動く尾羽、そして――
「……えっ?」
琥狛は自分の目を疑った。
そのカラスの腹部からは、二本ではなく、確かに三本の足が伸び、はじめの腕をしっかりと掴んでいたのだ。
「こいつは僕の相棒。八咫烏の大和だ。僕たちは相棒と一緒に戦ってるんだ」
大和は誇らしげに胸を張り、琥狛に向けて低く賢そうな声で「カァ」と鳴いた。
しかし、目の前で起きた驚きの連続に、琥狛の処理能力はとっくに限界を迎えている。慌てて手を振るようにして、はじめの言葉を遮った。
「ち、ちょっと待ってください。それより、今はじめ先輩の体から現れたように見えたんですが?」
「ん? ああ、大和のこと?」
はじめは不思議そうに首を傾げると、記憶を遡るように顎に手を当てた。
「あれ、琥狛くんもできるんじゃないの? 今日、君の相棒は見てないし……てっきりもう呼び出せるもんだとばかり思ってたよ」
「いやいや初めて見ましたよそんなこと!?」
琥狛は思わず立ち上がり、身を乗り出してツッコミを入れていた。
はじめは「そっかぁ、まだだったか」と、悪びれもせずあっはっはと笑っている。大和もはじめの肩に飛び移り、面白がるように琥狛を見つめていた。
「まぁまぁ、そんなに驚かなくても大丈夫。相棒の呼び出し方なんて、原理さえ分かればすっごくシンプルだよ」
はじめは人差し指を立てて、琥狛の目の前で軽く振った。
「まず、自分の頭のなかで相棒が過ごしやすい環境を想像するんだ。心地いい森とか、静かな部屋とかね。そうやって脳内に居場所を作ってあげれば、あとは相棒が勝手に入ってくれる。呼び出したいときは、その名前を呼べば出てくると思うよ」
「名前を呼ぶだけで……?」
「そう。……あ、でもね、たまに出てこないときあるけど。ハハハ!」
「いや笑い事じゃないですよ! 命令無視されるんですか!?」
琥狛が思わずツッコミを入れると、はじめは「まぁ、それも含めて相棒ってことさ」と機嫌良さそうに机の上の資料をパタンと閉じた。
「座学の初日だし、GVMCがどういう組織か分かればまずは満点。武器の変形も相棒の呼び出しも、これから家でじっくりイメージしてみてよ」
はじめは椅子から立ち上がると、いつもの飄々とした笑みを浮かべて琥狛の肩をポンと叩いた。
「じゃあ、今日のレクチャーはここまで! 琥狛くん、次は相棒も連れて来てね。楽しみにしてるよ」




