表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マテリアライズ  作者: 谷川 秋太


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/40

第15話 霧喰実体

 怒涛の展開が続いたあの濃い2日間から2週間が過ぎた。


 あの2日間に比べれば、今の生活は驚くほど穏やかだ。


 俺は学校から帰ると、カバンを放り出してギンと一緒にいつもの「散歩」へと繰り出す。それがここ数日、俺たちの新しいルーティンになっていた。


 散歩の途中、黒いモヤを見つけたらギンが吸収する。やることはそれだけだ。


 そのおかげなのかは分からないが、あの黒いモヤが凶悪な化け物へと変異することは、俺の周りでは今のところなくなっていた。


 化け物の“芽”が小さいうちに未然に摘むという俺の仮説は、どうやら大正解だったみたいだ。


 「ナイス、ギン。お前のおかげで今日もこの街の平和は守られたな」


 このまま地道にモヤを掃除していけば、あの命がけのバトルなんて二度と経験せずに済むかもしれない――。


 そう思いながら、俺はその日もいつも通りの散歩を終え、平和な気持ちのまま眠りについた。


 翌朝。


 「う、ん……?」


 顔のあたりに、妙に温かくてモフモフした塊が乗っかっている感覚で目が覚めた。


 俺は眼をこすりながら、視線を落とした瞬間、俺の思考は完全にフリーズした。


 「……え?」


 そこには、いつも通りのつぶらな瞳で俺を見つめるギンの姿があった。


 いや、いつも通りじゃない。


 俺の胸の上に乗っかっているギンの足が、俺のパジャマを確かに押し潰している。


 恐る恐る手を伸ばし、その白い体に触れてみる。


 「っ……! つ、触れる……!?」


 指先から伝わってきたのは、柔らかくて、紛れもない生き物の確かな感触だった。これまでは触ろうとしてもすり抜けていたはずのギンが、今はしっかりと俺の手のひらの中に収まっている。


 琥狛はあまりの驚きに、ベッドの上で言葉を失って固まってしまった。


 そんな俺の混乱を置き去りにしたまま、階下からいつも通りの容赦ない声が響く。


 「ちょっと、琥狛! また10時過ぎてるわよ! いい加減に起きなさい!」


 ドタバタと階段を上がってくる足音。


 突然の事態に頭が追いつかず、体がうまく動かない。


 ガチャリと乱暴にドアが開け放たれる。


 「もう、毎週毎週……って、あら?」


 入ってきたお母さんが、説教の途中でピタリと口を止めた。


 その視線は、俺の顔ではなく、俺の胸の上で首をかしげている白い生き物――ギンに完全に釘付けになっている。


 「何よその子……。琥狛、あなた、お母さんに内緒で犬なんて拾ってきたの!?」


 「……え? 母さん……見えるの?」


 「何言ってるのよ、バッチリそこにいるじゃない。ちょっと、すっごく可愛いじゃないの!」


 お母さんは怒るのも忘れて目を輝かせ、ズカズカとベッドに近づいてくると、ギンの頭を思いっきり撫で回し始めた。ギンも拒む様子はなく、気持ちよさそうに目を細めている。


 目の前で繰り広げられる信じられない光景に、俺は冷や汗が止まらなかった。


 「ちょっとあなた、ちゃんとエサはあげてるの? 骨格がしっかりしてるから、もっと食べさせなきゃダメよ」


「いや、エサっていうか……」


 モヤを食ってるとは口が裂けても言えない。


「お父さんにも相談して、今日中にケージを買いに行きましょ。名前は何ていうの?」


 怒涛の勢いでまくしたてるお母さんの横で、俺は頭痛が激しくなる一方だった。


 俺にしか見えず、触れもしなかったはずのギンが、急に実体を持って誰の目にでも映る存在になっている。


 この2週間、街の黒いモヤを大量に吸収し続けたせいで、ギンの中で何かが変わってしまったのだろうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ