第67話 帝国の聖女
「それでは今、帝国の中央は混乱しているってことは?」
「混乱ではないですね。ふたりいる政務長官が勢力争いをしているだけです」
「それって混乱じゃないの?」
「元々、帝国というのは、ひとりに権限を与えないって方針ですから」
ガリナ王国で生まれて、公爵令嬢として育ってきたイライザにとって、帝国の事情は理解しづらい点が多い。
王国では、国王を頂点に領地や役職を持った貴族がそれぞれの領地や組織において絶対的な権限を持つ。
イライザの父親、ラッセル公爵はラッセル公爵領においては、領民に命令を下す権限を持つ。
すでに決まっていたことであっても、領主の権限で変更してしまえばいい。
絶対権限を持つのが領主だ。
ところが帝国においてはそうではないという。
仮に皇帝であっても、自分の管轄外に対しては権限がないということが起きるらしい。
「すると、今の帝国を動かしているのは誰なの?」
「権限的には、ふたりの執政官です。ただ」
「ただ?」
「実際に動かしているのは、聖女アデリーナでしょう」
「誰、それ?」
聖女アデリーナ、聖魔法の使い手にして錬金術士の女。
元々は貴族の出ではなく、市民の出。
各種職業人の集まり、ギルドに影響力を持った人。
ギルド連盟の相談役。
執政官のアドバイザーもしている。
彼女の意見が今の帝国を動かすと言われている。
帝国が今、活発に軍事活動をしているのは東方の諸国を平定して属国として国家収入が急激が上がってきているから。
そのきっかけを作ったのが聖女アデリーナと言われている。
もう50歳を超えているはずなのだが、永遠の美貌を持つ彼女は20代中頃としか見えないという。
公爵令嬢のイライザにとって、他国とは言え絶大なる権力を持つ聖女アデリーナは気になる存在だ。
「それで、あなたと聖女さんとの関係?」
ロマニア帝国の内部情報を提供してくれているのが、巫女のアルテア。
ガリナ王国に逃げてきたところを保護している。
「私にとっては、追放を命令した張本人ってところね」
「なら、むかついています?」
「ちょーむかつく」
なんか、気が合いそうね。あなた。
巫女としてもっている帝国のツテを使って、なにか面白いことできるんじゃないか。
利用価値ありとして、判断している。
当然ながら、同時に危険性も理解している。
「匿っているのがバレたら、相当やばいわね」
それでも、うまく利用できると信じている公爵令嬢だった。




