第58話 怒りの理由
エリオットが報告があるという。たぶん、次の劇の主役のことだろう。
私は約束の時間5分前にカフェに着く。
さすがに1時間前ではなくなったけど、遅れないようにするのは習い性になってしまっている。
「アリサさん。やりました。主役です」
「あっ、そう。よかったですね」
「あれ?喜んでくれないんですか?」
「いえいえ。喜んでいます」
すごく喜んでいるエリオットを見て冷めた気持ちになる。
よかったね、とは思うがそれで私がうれしくなることもない。
「よかったら、お礼にお食事でもどうですか?」
「よくありません」
「え?」
もう、デートみたいなことはする気はない。
知り合い程度の関係に戻るのだ。
「アリサさんのおかげで主役になれたんです。ダブルキャストだから、もうひとりの主役の人と比べられることになりますが。アリサさんのドロップがあるから負けません」
「がんばってくださいね」
なぜか、冷静のままなアリサをみて不審に思ったのか、こんなことを聞いてくる。
「もしかして。私がアリサさんを怒らせるようなこと、してしまいましたか?」
ふざけるなっ!
怒らせるどころか、存在を抹消したいくらいよ。
でも、そんなこと言う気にもならない。
「いえ、別に。怒ってなんていませんわ」
冷たい顔で笑ってあげる。
何が起きているのか、全く分からないという顔。
「それでは、アリサさん。何か欲しい物ってありますか?」
嘘をつかない恋人かしら。嘘つきはこりごりです。
「特に今は。仕事もうまくいっているので、お金には困っていないんです」
「あ、そうですよね」
なんか話がはずまないね。
このあたりで、席を立つとしましょう。
「すいませんが。この後、予定がありまして」
「あ、そうですか。わかりました。あ、そうそう。これ」
封筒をひとつ手渡してくる。
「なんですか、これ」
「初日のチケットです。2枚入っています。ぜひ見にきてほしいと思いまして」
「まだ、行けるかどうか、わかりません」
「そうですか」
そのまま、席を立ってカフェを出た。
予定は本当にあるのだ。もっとも、今日じゃなくてもいいんだけど。
「なんか変だ、彼女。何かあったのか?」
アリサとの関係をつないでおかないと主役の座が危ない、というのもあるけど、それだけじゃない。
今までは、主役になれるかもと言う話をすごく喜んで聞いてくれたアリサ。
今回は主役に決定したという話だから、すごく喜んでくれると思っていた。
それがそうならない。
たぶん、何かあったのだ。
その何かが、何なのか。気になってしかたない。
アリサの後をつけてみた。
どこに行くんだろう。
私との時間より優先しなければいけないことというのは何か。
「あ、そういうことか」
アリサが入っていった場所で分かってしまった。
紅炎の騎士団の駐屯地。
「あの騎士団長との約束か」
自分の恋のライバルが誰なのか。
はっきりと意識したエリオットだった。




