第36話 悪役令嬢は暗躍する
「それで今度のミュージカル、どんな内容になるのかしら?」
「それはもう、壮大なスケールで人気爆発ですよ」
「本当かしら。前もそんなこと言ってましたわよね」
「今度こそ、大丈夫です」
はっきり言って、この男の話は半分として聞いておかないと大損しかねない。
この男、ミュージカル劇を作るプロデューサだ。
街にはひとつ、大きな劇場があってそこで演じるミュージカルの新作を作る準備中だ。
ただし、新作ミュージカルはとにかくお金が掛かる。
だから、貴族のパトロンは絶対に必要となる。
「公爵令嬢ブランド、順調みたいですね。私のミュージカルも公爵令嬢ブランドをつけてもらえれば・・・」
「大コケした前作みたいになったら目も当てられないから公爵令嬢ブランドは無理ね」
「厳しいですね」
「ただ、私のお願いを聞いてくれたら、新作ミュージカルのエンジェルになってあげるわよ」
新作の劇を作るときのパトロンは、エンジェルと呼ばれていて成功すると公演が続く限り定期収入が発生する。
その代わり失敗すると最初に投資したお金はほとんど返ってこない。
だから、幸運を与えてくれる存在としてエンジェルと呼ばれている。
「わお。それはありがたいことですね。えっと、どんなお願いなんですか?」
「それはね」
ミュージカルには多数のスタッフが関係する。
その中には、人気絶頂のスターと売り出し中の女優と俳優がいる。
もちろん、美人、イケメン揃いで演技もぴか一だ。
「そうね。年齢は20代前半でモテそうな俳優っているわよね」
「それは、もちろん。えっ、その俳優のパトロンになるとか」
「そんな訳ないでしょ。ふざけないでよ」
年齢が高いマダムの中には、若手俳優のパトロンになって秘密の恋人にしてしまう人もいる。
「それでは、若い俳優に何を望むんですか?」
「それは直接、若い俳優に話すわ。あなたは、口の堅い恋愛上手な若い俳優を紹介してくれたらいいの」
その日の午後。公爵令嬢イライザは若い俳優と会っていた。
「へぇ~。本当にイケメンね。ちょっと私を口説いてみてよ」
「そんな公爵令嬢様を口説くなんて」
「なによ、つまらない。それでもプロの俳優なの?」
「ずいぶんと自信がおありと見受けられますね。美貌と地位、そして財力。あなたが手にできない物などないでしょう?」
「それはどうかな。思い通りにならないこともあるのよ」
「それ、聞かせてもらえませんか?」
なんだかんだ言って、すべて聞き出されてしまった。
「だから、そのアリサって女がすごく気に入らない訳よ」
「それは気に入らない女ですね。身の程をしっかりと分からせてあげる必要あり、ですね」
「そうなのよ。で、あなたの出番って訳よ」
「わかりました。私が必要ということですね。やりましょう」
この男、意外に使えるわね。頭の回転も速いし。気持ち良くさせるのは本当にプロね。大して売れていない俳優のはずなのに身につけているのは高級品だし。きっと多くの女に貢がせているのね。
「あなたにやってもらいたいのはね」
「はい」
アリサを落とし入れる罠は着実に準備されていた。




