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022 バルタザール強化

 たぶん、ドラゴンであるバルタザールから見たら、僕たち人間もゴブリンもオークもその知的レベルには大差ないのかもしれないなぁ。


 なんとなく、物語の中で、ドラゴンは物知りだったり、知的な存在として描かれていることが多いことを思い出した。


 中には、人間の賢者が病魔が蔓延している国を救うためにドラゴンを訪れるなんて物語もあるくらいだ。


 ドラゴンの頭がいいというのは、半ば僕たち人間にとって常識なのである。


 バルタザールは、そんなドラゴンたちの王様だ。僕も王族だからいっぱい勉強しているけど、たぶん、バルタザールもたくさん勉強してきたのだろう。


 それに、バルタザールは飛べる。


 その移動速度は人間の比じゃない。それだけ、人間よりも広い世界を知っているということだろう。


 いいなぁ。


 僕がバルタザールに覚えたのは、素直な憧憬だった。


 バルタザールに乗せてもらって、世界を旅することを夢見てしまうのを止められそうにない。


 僕は第三王子だし、王族でも少しは自由の身だ。僕のわがままも許されないかな? やっぱり難しいかな?


「で、では質問があるのですが……」

「うむ。なんでも訊くがよい」


 なんだかすっかり僕への授業ではなく、バルタザールへのデズモンドの質問タイムになってしまったね。


 ドラゴンの知識に触れる機会なんて滅多にないだろうし、学問の徒であるデズモンドがバルタザールに会ったらこうなるのは必然だったかもしれない。


「神話ではバルタザール様の他にもドラゴンの王が登場するのですが、その方々との関係はどういったものなのでしょうか? 神話では互いに協力していますが、普段はどうだったのでしょう?」

「ふむ。我が友の話か。単純に治める場所の違いだな。我は蒼穹の支配者であり、大地の支配者と蒼海の支配者は別にいるというだけだ。関係は、そうだな……。たまにケンカはするが、まぁ良好と言えるだろう」


 デズモンドとバルタザールの会話を聞きながら、僕の意識は窓の外に見える青い空に向かっていた。


 あの向こうには何があるんだろう?


 いつか行ってみたいなぁ。



 ◇



「じゃあバルタザール、やるよ?」

「うむ。頼んだ」


 中庭。日がさんさんと照り付ける中、僕は左右の手の指からそれぞれ十本の糸を出した。


 僕の目の前には、元のサイズに戻ったバルタザールが、首を上げて上を向いた状態で待機していた。


 これから、僕はバルタザールを縫っていくのである。


 ようやく動くようになったバルタザールだけど、その力は神々の牙と呼ばれていたかつてと比べると、かなり落ちているらしい。


 自分の力が落ちているのは我慢ならないらしく、バルタザールが提案してきたのは、もっとバルタザールのぬいぐるみの体を縫うことだった。


 どうやら、僕がバルタザールの体を縫うと、それだけバルタザールの力が回復するらしい。


 どういう原理なのかはわからないけど、バルタザールがしょんぼりしているのがかわいそうなので、僕は他のぬいぐるみを動かすよりもバルタザールのことを優先していた。


 まぁ、前にはできたことが、できなくなるのは悲しいもんね。


 そんなわけで、僕は今日もバルタザールのぬいぐるみの体に糸を走らせる。


 僕ももう糸の扱いはお手の物で、合計十本の糸を一気に走らせて縫うことができるようになっていた。


 バルタザールはドラゴンだから、鱗のような形の刺繍をしている。


 時折、無性にかわいらしい花の刺繍をしたくなるけど、どうやらバルタザールはこの透明な糸がちゃんと見えるらしく、前に花の刺繍をしたら怒られた。


「ふぅー……。終わったよ」

「感謝するぞ、アーサー」


 十本の糸を使えば、あっという間に刺繍もできるけど、その分すぐに魔力もなくなってしまう。今日は、バルタザールの顎の下をちょっとやっただけで終わりだ。


「そういえば、前に牙や爪も念入りに刺繍したけど、調子はどう?」

「なかなかいい感じだ。まだまだ全盛期とまではいかんが、体の刺繍をすると、牙や爪の強度も上がるらしい。この体はもしかしたら、我の全盛期を超えるやもしれんぞ!」

「すごいね!」


 全盛期って、やっぱり邪神を封印した時のことかな?


 その時よりも強くなるなんて、バルタザールはいったいどこまで強くなるんだろう?


 ちょっとわくわくしている自分がいる。


 でも、バルタザールの本体であるドラゴンの体よりも、ぬいぐるみの体の方が強いというのは、それはそれでいいのだろうか?


 まぁ、僕はバルタザールが喜んでくれるなら、どっちでもいいんだけどね。ぬいぐるみのバルタザールかわいいし。


「そういえば、そろそろ父上に呼ばれている時間じゃない?」

「ふむ? そうだったか……」


 実はバルタザールは、この前試しにブレスを撃って、山を消し飛ばしちゃったんだよね。あれにはビックリしたよ。


 たぶん、そのことで父上に怒られるはずだ。


「本当に付いていかなくてもいいの?」

「大丈夫だ。我は子どもではないのだぞ?」


 そんなことを言いながら、バルタザールが両手で抱えられるくらいに小さくなった。

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