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021 アズル・ディールとクシャナ・ディール

 翌日。


 昨日は側近候補に会ったり、バルタザールが動いたり、離宮を壊したり、空を飛んだり、お引っ越ししたり、とにかくたくさんのイベントがあったけど、今日は穏やかないつも通りの日々が続いていた。


 今までの日常と違うことと言えば、側近候補がいることと、バルタザールが動いていることかな?


 そんな側近候補たちだけど、護衛騎士候補のブラッドリーとニーナはそれぞれの実力を計るための訓練をしているらしい。


 文官候補であるオズワルドとナディアはお勉強会だ。


 そして、メイド候補であるアンジェリカお姉ちゃんとシェリーは僕に仕えるのに相応しいメイドになるために、いろいろと情報を教えてもらったり、綺麗な所作を学んでいるんだとか。


 その間、僕が何をしているかというと、僕の側近の中でも最年長である文官、デズモンドに歴史を教えてもらっているところだ。


「もともと、人間の国はいくつもの小さな都市国家に分かれていました。エインズワース王国もその中の一つだったのです。この都市国家同士は、争いや和平を繰り返していました。ですが、やがて人間にとって脅威となるものが現れます。それが、モンスターです」


 バルタザールも人間の歴史に興味があるのか、僕の横でデズモンドの話を聞いていた。


「デズモンド、モンスターって邪神が連れて来たんだよね? その邪神は異世界からやってきた……。その異世界ってどこにあるの?」

「それには諸説ありますが……」

「ふむ。ならば我から答えよう」


 デズモンドが知らないとわかったのだろう。バルタザールが代わりに声をあげた。


「そも、ニンゲンたちは今の世界の形を知っているのか?」

「世界の……」

「形、ですか? 周辺の地図ならばありますが、さすがに世界そのものとなりますと……」


 デズモンドが困ったようにその長い眉毛をハの字にしていた。


 いつもはなんでも知ってる賢者みたいなのに、こんなに困ったデズモンドの表情を見るのは初めてだ。


「ふむ。たしかにニンゲンの足では世界は踏破できんだろうから仕方がないか。よいか? 世界は卵の形をしておる」


 そう言って、バルタザールが手を動かした。


 すると、僕たちの頭上に卵型の水が現れた。


「こ、これは、魔法!?」

「然り。今はこの身だが、我はもともとドラゴンの王ぞ? 四大元素を操ることなど些事である」

「すごい!」


 人間だったら限られた者しか使えないはずの水の魔法も、バルタザールにとっては朝飯前みたいだ。


「そも、なぜ世界がこのような形になったか。それは、二つの世界が合体したからだ」

「合体?」

「どういうことですか?」

「ふむ」


 バルタザールが短い腕をちょこちょこ動かすと、頭上に浮かんでいた卵型の水が二つの球体に分かれた。左の方が大きく、右の方が小さい。


 全然関係ないんだけど、短い腕をちょこちょこ動かしてるバルタザールがかわいすぎる!


「この右の小さい世界が我々が元々住んでいた世界。ドラゴンたちはアズル・ディールと呼んでいる。そして、左の大きな方が邪神の治めていた異世界だ。名をクシャナ・ディールという」

「小さい方が僕たちの世界なの?」

「そうだ。小さいから弱いと思ったのであろうな。邪神はこの世界を吸収するつもりで合体させたのだ。異世界とは言うが、今や地続きの大地を指す言葉である」


 頭上の二つの球体がだんだん近づき、ぶつかると卵型の水の玉になった。


「というわけで、邪神のいた異世界はどこかという質問には、もう我らの世界と一つの世界になっているが答えだな」

「なるほど……」

「まさかそのようなことになっておったとは……! これは皆に知らせねばなりませんな。バルタザール様、そのクシャナ・ディールとはどのような世界なのでしょう? 知的な生物は存在するのでしょうか?」


 デズモンドは紙にさらさらと達筆な文字でメモを書きながらバルタザールに質問する。


 デズモンドはしわしわの顔には、満面の笑みが浮かべられていた。


 文官であり、知識欲の強いデズモンドにとって、バルタザールは自分にない知識をたくさん持っている、まさに宝箱なのかもしれない。


「これは我の知っている情報。つまり三千年前の知識だが、クシャナ・ディールの生物、こちらではモンスターと呼ばれる中にも、知恵の回る奴はいる。だが、クシャナ・ディールのモンスターたちは、そのほとんどが略奪民族だ。農作などせず、他者から奪うことを最上としている。これは異世界をも奪おうとする邪神の思想が強く現れた結果ではないかと言われていたな」

「なるほど……。ずいぶんと物騒な話ですな……」


 デズモンドはメモを止めることなく頷いていた。


「まぁ、知的と言ってもゴブリンやオークも知的な部類になるほどのレベルだと思えばよかろう」

「ゴブリンやオークが、知的……?」


 思わずあげてしまった言葉に、バルタザールはコクリと頷いた。


「錬鉄ができるのだ。十分知的と言ってもいいだろう? まぁ、そのレベルということだ」

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