20 お眠アーサー
「しかしアーサーよ、ミアの能力は素晴らしいな」
その日の夕食の席で、父上が唐突にミアを褒め始めた。
たぶん、クライヴの手紙を読んで、ミアのすごさを知ったのだろう。
「アーサーは素晴らしい『魂の魔法』を授かったな。神々に感謝しなくては」
「ありがとうございます、父上!」
「親父殿、ミアってのはたしか黒猫のぬいぐるみだったよな? 親父殿を疑うわけじゃないが、そんなすげえのか?」
ブライアン兄上が豪快に手に持ったお肉を食いちぎりながら言った。
その様子に苦笑しながら、父上が口を開く。
「ああ。アーサーの離宮にあった荷物をすべて自分の影に入れて持ち運んだらしい」
「そいつはすごいな! ミアがいれば、荷馬車も必要ねえし、軍もかなり自由に動けるようになるぜ! なあ? 同じ黒猫のぬいぐるみを作れば、ミアと同じ能力を手に入れられることができるんじゃないか?」
「その発想はありませんでしたね」
ブライアン兄上の言葉に喰いついたのは、メルヴィン兄上だった。
「ブライアン兄上の自由な発想にはいつも驚かされますが、今回は飛び切りです。なるほど。その可能性はありますね。たしか、ぬいぐるみを注文したのは母上だったと記憶していますが、店の名前はわかりますか?」
「ええ。記憶していますよ。アーサーへの初めてのプレゼントでしたから、作った職人の名前まで覚えています」
母上がおっとりと答えると、父上は杯に入っていたワインを一気に飲み干して、杯をテーブルに置いて口を開く。
「では、明日にでも召喚するか」
「ついでに、白い犬のぬいぐるみも作ってもらおうぜ」
「ブライアン? 何か考えがあるのか?」
「いや、ノアの力ってすっげー便利なんだってよ。アーサーの勉強中、メイドたちが取り合いしてるぜ? 汚れものなんて、どこも大量に出るからノアの力は大助かりなんだとよ」
「へー」
ノアがメイドたちと仲が良いとは思っていたけど、そんなことになっていたんだ。
僕の知らないところでも、関係って築かれていくんだなぁ。
「主人のぬいぐるみの能力で楽をしようというのはどうなんだ?」
父上は厳しい顔でそう言う。
「父上、一応、僕が許可を出したことですから。ノアも嫌ならやらないでしょうし……」
「ふむ……。腑に落ちんが、アーサーがそう言うならば、しばらく様子を見るか」
僕はホッと息を吐く。やっぱり、メイドたちが怒られるのはかわいそうだからね。ノアも遊び相手がいなくなったら悲しむだろうし。
◇
「ふぁ~」
夕食の後。リビングで家族と談笑していたら、急に睡魔に襲われた。
「あらあら。アーサーはお眠かしら?」
「はい……。僕はそろそろ寝ることにします」
本当はもっとみんなと一緒にしゃべっていたいけど、急に眠たくなっちゃった……。
「おとと……」
ソファーから立ち上がると、体が倒れそうになってしまう。
「あぶねえな。おぶってやろうか?」
「大丈夫です、ブライアン兄上。倒れたらノアに運んでもらいます……」
「ワフ!」
ノアは「任せろ!」とばかりに元気よく吠える。
その様子がおかしかったのか、みんなが笑っていた。
「そうか! んじゃ、ノア! 頼んだぜ?」
「ワフ!」
みんなに頼られれているのが嬉しいのか、ノアは尻尾をぶんぶん振って応える。
「おやすみなさーい……」
僕はそれだけ言うと、フラフラした足取りで自分の新しい離宮へと歩き出した。
いつもならすぐなのに、いつもよりも長く感じる離宮への帰り道。
「おかえりなさいませ、アーサー様」
「ただいまー……」
ティファニの開けてくれた離宮のドアをくぐると、グレイスとシェリーが出迎えてくれた。
シェリーもなんだか眠たそうだね。僕も眠いよ。
「僕はもう寝ようかな。みんなも今日もご苦労様」
「ありがとうございます。寝室も準備できております。おやすみなさいませ」
「おやすみなさいませ」
「うん。二人とも、おやすみー……」
そんなふわふわの会話をして、僕はミアに先導されるように寝室へと向かう。
「じゃあ、ティファニ、アンジェリカもおやすみー……」
「おやすみなさいませ」
「おやすみなさいませ」
付き添いの二人に挨拶すると、僕は寝室に入る。
そこまでで限界だった。
倒れそうになると、もふっとした感触に包まれた。ノアだ。
「ノア、ありがとー……」
「ワフ!」
そのままノアの背中に乗って、僕は大量のぬいぐるみが置かれたベッドの上へ。
このぬいぐるみたちも動いてほしいなぁ。
そんなことを思いながら、僕はノアの背中からベッドの中央に降ろされた。
このまま眠ってしまいそうだ。
そのままぽけっと天蓋を見上げていると、ノアがお布団を被せてくれる。
「ありがとー、ノア……」
「ワフ!」
僕は暗闇の中ノアの首筋を撫でる。
ノアは嬉しそうに一鳴きすると、僕の横でパタンと倒れた。
どうやら一緒に寝てくれるらしい。
お腹の上にちょっとした重みがある。きっとミアだろう。
「おやすみー……」
僕は最後にそれだけ言うと、夢の世界へ旅立った。
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