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023 内緒の話

「気を付けるんだよー! たぶん、父上も謝れば許してくれるから!」

「うむ……」


 我は重たい気持ちを抱えながら、背中の翼を打つと、そのまま低空飛行で指定された部屋へと向かう。


 しかし、山一つ消したぐらいでそんなに騒がなくてもよかろうに。


 ニンゲンとは、些細なことを気にするのだな……。


 山を消した時は、ニンゲンたちは上から下からの大騒ぎだったことを思い出す。


 だが、その山がニンゲンにとって大切なものだったのだとしたら、我も謝罪しなければならぬのだろう。


 不服だが……。まぁ、これからはニンゲンの間で生きるのだ。彼らの意見もある程度は尊重せねばなるまい。


 我もだいぶ慎みというものを覚えてきたのではないか?


「バルタザール様、こちらでございます」

「ああ」


 ニンゲンの王、コンラッドもあまり大事にはしたくないのか、今回は公的な場である王宮ではなく、王族の私的な空間、国王夫妻の後宮へと案内された。


「入れ」


 コンラッドも我を待ちわびていたのか、侍女がドアをノックすると、誰何の声もなくドアが開かれる。


 応接間というものなのだろう。ドアの向こうに現れたのは、ソファーとローテーブルが中心にある意外にも質素な部屋だった。


「バルタザールは入ってくれ。それと、一刻は誰も取り次がないでくれ」

「かしこまりました」


 コンラッドの言葉に腰を折り、退出する侍女。


 これでこの部屋の中には、我とコンラッドの他には、オーレリアとメルヴィンの姿しかない。


 王族しかいないスペース。察するに、何か密談がしたいのだろう。ブライアンがいないのは、あいつがこういったことには向いていないからだろうな。


「先に言っておくが、今の我にドラゴンの国を動かす力はないぞ?」


 先制攻撃を放つと、コンラッドは苦笑して自身の向かいのソファーを指した。


「残念ではあるが、わかっている。まあ、座ってくれ」

「ふむ……」


 我がソファーに座ると、さっそくコンラッドが口を開いた。


「まず、前提知識を共有したい。我がエインズワース王国は滅亡の危機に瀕している。今は東の帝国、西の共和国の緩衝地帯として生かされているに過ぎない。両者の間で戦争が始まれば、この国は通り道として蹂躙されるだろう。そして、どうやら帝国も共和国も戦争をお好みらしい。まぁ、我らとてタダでやられるつもりはないが、元の国力が違いすぎる。大国に腰を据えられれば勝てん」


 そこまで一気に語った後、コンラッドはジッと我を見た。紫の少し入った青い瞳が真剣な光を放っている。


「そこで、我の力を借りたいと?」

「恥ずかしながら、そういうことになる」


 コンラッドが苦笑しながら頷いた。オーレリア、メルヴィンは緊張した面持ちで我を見ている。


「エインズワース王国には、ある伝説が残されている。救国のドラゴン、エドゥアルトの伝説だ」

「ほう?」


 思いがけず、懐かしい名が出たな。エドゥアルトは我の息子の名だ。


 邪神が現れ、モンスターによる被害もあるのに、いつまでもニンゲン同士の戦争をやめようとしないニンゲンに業を煮やしてエドゥアルトを派遣した記憶がある。


 我としては、ニンゲンの戦力化ができればよかったのだが、エドゥアルトはエインズワース王国の下にニンゲンを統一することを選んだ。


 効率だけ考えれば、別の選択肢もあったはずだが、エドゥアルトは敢えてその方法を選んだことになる。


 なぜかと訊いた時、エドゥアルトはエインズワース王の目の色が気に入ったからと言っていたが……。


 我はアーサーの紫の瞳を思い出す。


 たしかに、見ていると不思議な気持ちにさせられる神秘的な色だとは思う。


 それに、我のこともそうだが、エドゥアルトのことをちゃんと覚えているというのも印象がいい。


 だが、それだけの理由でニンゲンの争いにドラゴンである我がしゃしゃり出てもいいものか……。


 たしかに、三千年前はニンゲンはエインズワース王国という統一国家となった。


 その結果、ニンゲン同士の争いは減り、モンスターと本格的に戦うことになる。そう仕向けたのは我だ。


 しかし、栄枯盛衰。常に栄えている者などいない。悲しいことだが、これも自然淘汰の一部ではないだろうか。


「儂らエインズワース王家の総意として、次期国王はアーサーと決まった。それはここにいないブライアンも承知している」


 我の感触が悪いと感じたのだろう。コンラッドが続けて口を開いた。


「ちょうど近日中に東のアシュクロフト帝国との会談がある。おそらく、儂はその場で殺されるはずだ。アシュクロフト帝国はエインズワースを国として認めていないからな。奴らの言い分によると、エインズワース王国はアシュクロフト帝国の土地を不法に占拠する山賊らしいぞ?」


 そう自嘲気味に嗤うコンラッド。


 しかし、次の瞬間には我を射抜くような瞳で見ていた。


「その時、アーサーを擁立する準備は既に完了している。エインズワースの国民感情も一気に戦争へと舵を切るだろう。その時、どうかアーサーに力を貸してやってほしい」

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