第5章「遠い国の赤い犬」⑬
隣町に抜ける街道は、大雨のせいで道が崩れていた。
リュウは慎重に斜面を降りると、髭面の男をみつけた。片足が変な方向に曲がり、体中に傷を負っていたが、まだ生きていた。
リュウの姿に気が付くと、驚いた顔をしたが、すぐに安堵の表情を見せた。
「隣町に行くつもりだったが、道がおかしい。どうしてもたどり着けない」
男は疲れた声で話しかけてきた。
たどり着けるはずがない。とリュウは思った。事前に通り道に呪いを施し、迷い続けるようにしていたからだ。
髭面の男は、自分がリュウの有り金を持ち出したことを忘れているかのようだった。
何の疑問もなく、彼がこの状態から助け出してくれるに違いないと信じているようだ。
「今日、娼館に行った」
とリュウが男に伝えると、びっくりしたような顔をした。それから、「こんな天気の日にか」と、いつもの下品な笑いを頬に浮かべ、「よほど、はまったんだな」と続けた。
「女を殺してきた」
とリュウは告げた。男の表情から笑いが消え、すぐに体を懸命に動かし、リュウから距離を置こうとした。だが、折れた足の激痛を感じ、苦痛で顔を歪ませながら、
「長い付き合いじゃないか」と震える声を出した。
リュウは男が動けないのを確認し、足元の手頃な石を持ち上げると、ゆっくりと彼に歩み寄った。「転落して、頭を砕かれた、顔が潰れるくらいに」と、呟きながら、その通りに実行した。
呼吸が止まったのを確認すると、男の荷物から自分の金を取り戻し、リュウの身分証を男のものと入れ替えた。男の苗字は、「副島」と書かれていた。
今日から自分は、この男になる。
リュウは、男の荷物にナイフを残し、その場から離れ、隣町に抜けた。
そして、港から自分の国に帰っていった。




