第5章「遠い国の赤い犬」⑭
帰国してから、貯えた金を元手に相場で荒稼ぎをした。不思議なくらいに値段の上げ下げが手に取るよう感じられ、大きく買うとき、素早く引くとき、いずれも間違うことはなかった。
勝負時には、いつも、あの赤黒い石を懐に入れていたが、皮袋に手を当てると、熱を感じ、頭の奥に何かささやきかけるような声が聞こえた。はっきりと聞き取れないが、その囁きを啓示のように受け入れると、選択を間違えることはなかった。
たちまちに、莫大な財産が積みあがった。
その金を有効に使い、近寄ってくる人間たちを品定めし、一番見返りが大きくなるような投資を続けた。買った土地は全て数倍に値上がりした。
それから貯えた金で、金貸しを始めた。
担保を設定し、返済が遅れれば容赦なく取り立て、多くの恨みを集めたが、歯向かうものには報いを受けさせた。
荒々しい男たちが家を出入りしたが、異国の炭鉱に比べれば、まだ可愛いものだった。
それから、借金まみれの名家から嫁を迎え、息子が生まれた。
家族を持ちたいという願望はなかったが、その血筋がいずれ利用できそうだという考えが頭に囁いてきたからだ。
子供が小学校に上がるころ、子犬を欲しがった。
特に拒む理由はないと、好きなようにさせた。
ころころした柴犬がやってくると、息子は大喜びした。一日中柴犬と遊ぶと、疲れて眠り、その傍らで柴犬も添い寝をしていた。
リュウは、何の感動もなく、眠る犬を眺めていると、犬は目を覚まし、リュウの顔をじっと見つめ返した。
くりくりした黒目がじっとまっすぐに彼の顔を見ている。
「何か言いたいのか」と思わず口にすると、声が聞こえた。
「追いかけるといったでしょ」
部屋には息子と柴犬しかいなかった。
リュウは、身動きもせず、犬の顔を見つめた。
「あなた、子供がいるのね」
柴犬は、桃色の舌を出して笑いかけた。




