第5章「遠い国の赤い犬」⑩
ルビアは椅子に座ったままだった。衣服を脱ぐ様子はなく、
「もう、十分だから」と微笑む。初めて彼女の笑顔を見た気がした。
「そうか」と寝台の端に腰かけ、リュウと彼女は向かい合った。
「教えてくれ」と彼は問いかけた。
「どうやって、それを取り出すんだ?」
そう言いながら、彼女の腹を指さした。
「時が満ちれば、自然と体の外に出るわ」
そういうものなのか、とリュウは考え込んだが、必要ないことだと思い直し、
「じゃぁ、俺は用無しなんだな」と尋ねた。
彼女は目を伏せ、少し思案気な顔をしたが、
「そうね」と呟いた。
だがすぐに顔を上げると、
「でも、ずっとこの街にいてもいいのよ」と満足げに微笑んだ。
『彼女の一族の悲願が果たされるのを見守ることを許す。』
「そういうことなのだろう」とリュウは理解したが、すぐに、
「いや、俺は、ここを出る」と即座に彼は答えた。
「そう、ご自由に」とルビアは事も無げに言い、「それじゃぁ、お別れね」と立ち上がって、扉を指さした。
リュウも立ち上がり、別れを告げるために、彼女に歩み寄った。
最後の挨拶をかわすため、二人は抱き合った。
抱き合いながら、リュウはズボンの後ろに隠していたナイフを取り出すと、彼女のろっ骨を避けるようにして、胸に突き立て、心臓を貫いた。
「これで、お別れだ」




