↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/85

第5章「遠い国の赤い犬」⑨

 その日は朝からひどく雨が降り続き、坑道近くの山が崩れたため、鉱山の仕事は休みになった。外出できるような天候でなく、町に人影はなかった。

 夜になり、雨の勢いが衰えてきたころ、リュウは出かけることにした。その日は、暦に書かれた赤い印の最後の日だった。

 「行くのか」と、寝床の中から髭面が声をかけてくる。リュウは無視して外に出た。閉じる扉の隙間から、髭面のにやけた顔が目に残った。

 「このあと、おそらく、あいつは俺の金を盗むだろう」

 リュウが部屋の中に隠した全財産は、死んだ父親が残した神職の家の術で、何重にも呪符がかけられた布に覆われて、自分以外の誰にも存在を認識されることはなかった。

 今日は出かける前に、その術を解き、半ばを残して部屋を出た。もっとも、たびたびの娼館通いでかなりの額を減らしてはいたが。

 「あいつは、それを見つけると、この鉱山を抜け出すに違いない」

 雨の勢いは少し収まりつつあったが、肌理の細かい雨が、切れ目なく降り注ぎ、道を歩く彼を薄布のように浸していた。頬をぬぐうと、雨が指先にまとわりついた。

 その前に、大事な用事が残されていた。

 用を済ませれば、すぐに髭面を追いかけねばならなかった。鉱山から抜けて隣町に向かう道筋の途中で追いつけるであろう。あいつは、道に迷う。 


 娼館に到着するまで、リュウは一人の人間にも出会わなかった。

 それでも、町のいたるところから人の気配が感じられた。

 自分に関わることを避けているような気がした。


 いつものように階段を上り、あの女の部屋に入る。

 「ちゃんと、来たのね」とルビアが声をかけてきた。

 椅子に腰かけた彼女は、臍下に手のひらをあて、満足そうに微笑んだ。

 「ああ」とリュウは答えた。

 「今日で最後だからな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。