第5章「遠い国の赤い犬」⑧
目を覚ますと、まだ夜は明けておらず、窓の外は薄暗い闇だった。
徐々に暗さに目が慣れてくると、寝台の横に女がいた。彼女はリュウを見下ろしていた。
「いちどでは十分ではない」と目覚めた彼に厳かに告げた。
それから、彼女は一枚の紙きれを渡す。
それはこの土地の暦が記されており、数字の上に赤い印が書かれていた。
「その日に、再び、私を訪ねてきなさい」
規則性があるのかも判らないが、赤い印に従えば、月に4から6回は訪れるようだった。
その申し出を、受け入れる必要はないと思いながら、拒めば、自分が深い罪悪感に沈むような予感がした。
ルビアから、無言のまま紙切れを受け取ると、身なりを整えて部屋を出た。
小屋に戻ると、髭面の男が、下卑た笑いを浮かべながら、
「で、どうだった?」と話しかけてきた。リュウは何も答えず、頭の中では、紙切れの通りに再び売春宿を訪問するには、採掘現場の仕事だけでは足りないと計算し、何か他の手仕事で稼ぎを増やさなければと考えを巡らしていた。
それから、リュウは、言われたとおりに訪問し、指図通りに女と寝床を共にした。
日にちを重ねるうちに、リュウの風貌は薄汚れていき、以前、娘たちに向けられていた興味の視線が、ドブネズミを見るような目に変わり、髭も伸び、同室の男と見間違うような顔つきになっていった。
ある日、寝床で事を終えた後、
「なぁ、あんた」とリュウは女に問いかけた。
「一番最初にあんたが飲み込んだ塊が、何か別のものに変わるのか」
「いいえ」と女は事も無げに言った。
「あの石は、既に私の中で解けていったわ」と。
その代わりに、私の中に、丸い窪みが作り出され、その中に、私とあなたの交わりの雫を貯えていく。
そういいながら、ルビアは臍の下あたりを愛おし気に撫でた。彼女の手が離れると、珈琲色の肌の下から、薄赤い丸い輝きが見えた気がした。
「そこにあるのか」と彼はその場所を頭の中に焼き付けた。




