表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
77/78

第5章「遠い国の赤い犬」⑥

 「俺の母親だと名乗る女は、どんな様子だった」

 「立派な身なりよ。お金持ちのパートナーが側にいた」

 生まれてからまともに顔を見たこともない人物の話を、それも伝聞で、しかも今日初めて会う人間から聞くのだ。リュウにとって、とうてい信じる気にはなれなかったが、それでもルビアの手紙を無視することはできなかった。手紙に記された記号は、リュウの実家に残されていた母の痕跡と一致していたからだ。


 「横にいた男の人は、あなたの母親に、家来のよう従っていたわ」

 傍らの男は、まるで服従することに喜びを見出しているかのようで、女の願いを叶えるために、始終全身の神経を張り巡らしていた。

 「あなたの母親は」とルビアはじっと見つめ、

 「自分のために男を使い捨てる女」とリュウに告げた。


 女は皮の袋に入った石をルビアに渡し、けっこうな金額を与えた。

 「あなたは、故郷に帰るべきよ」

 そして、そこで、私の息子を待ちなさい。

 そうすることが、何年も昔に決まっていたかのような確信を持って、女はルビアに命じた。もちろん従う必要はなかった。

 だが、皮の袋の中に入った石を見たとき、これは拒むことができない運命であるとルビアは悟り、観念した。一族の悲願がそこにあったからだ。


 「それで、この街に帰ってきたのか」

 「そう。それから5年、あなたを待ち続けていた」

 彼女は皮の袋をテーブルの上に置き、中から丸い塊を取り出した。

 それは、ただの、丸い石くれにしか見えなかった。

 リュウが微動だにせずに、見つめていると、ルビアは石を掴み、石の表面に口づけした。それから、口を開くと、石を飲み込んだ。喉元が大きく膨らみ、やがて体の奥に納められていった。

 リュウは、息を呑んだ。異様なことが始まっている気配を感じた。

 彼女は、深く目を閉じ、大きく息を吸い込むと、部屋の一切の音が聞こえなくなった。

それから、目を開くと、部屋の明かりが瞳に集まり、吐く息が熱く蒸気のように天井に立ち込めた。

 「さぁ」とルビアは言った。

 「今から、私と交わりましょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ