第5章「遠い国の赤い犬」⑥
「俺の母親だと名乗る女は、どんな様子だった」
「立派な身なりよ。お金持ちのパートナーが側にいた」
生まれてからまともに顔を見たこともない人物の話を、それも伝聞で、しかも今日初めて会う人間から聞くのだ。リュウにとって、とうてい信じる気にはなれなかったが、それでもルビアの手紙を無視することはできなかった。手紙に記された記号は、リュウの実家に残されていた母の痕跡と一致していたからだ。
「横にいた男の人は、あなたの母親に、家来のよう従っていたわ」
傍らの男は、まるで服従することに喜びを見出しているかのようで、女の願いを叶えるために、始終全身の神経を張り巡らしていた。
「あなたの母親は」とルビアはじっと見つめ、
「自分のために男を使い捨てる女」とリュウに告げた。
女は皮の袋に入った石をルビアに渡し、けっこうな金額を与えた。
「あなたは、故郷に帰るべきよ」
そして、そこで、私の息子を待ちなさい。
そうすることが、何年も昔に決まっていたかのような確信を持って、女はルビアに命じた。もちろん従う必要はなかった。
だが、皮の袋の中に入った石を見たとき、これは拒むことができない運命であるとルビアは悟り、観念した。一族の悲願がそこにあったからだ。
「それで、この街に帰ってきたのか」
「そう。それから5年、あなたを待ち続けていた」
彼女は皮の袋をテーブルの上に置き、中から丸い塊を取り出した。
それは、ただの、丸い石くれにしか見えなかった。
リュウが微動だにせずに、見つめていると、ルビアは石を掴み、石の表面に口づけした。それから、口を開くと、石を飲み込んだ。喉元が大きく膨らみ、やがて体の奥に納められていった。
リュウは、息を呑んだ。異様なことが始まっている気配を感じた。
彼女は、深く目を閉じ、大きく息を吸い込むと、部屋の一切の音が聞こえなくなった。
それから、目を開くと、部屋の明かりが瞳に集まり、吐く息が熱く蒸気のように天井に立ち込めた。
「さぁ」とルビアは言った。
「今から、私と交わりましょう」




