第5章「遠い国の赤い犬」⑤
「どうして、この女は、赤い宝石のことを知っているの」
ルビアは警戒した。
「魔女なの」
「違うわ」とルビアの心を読んだかのように、女は答えた。
機先を越され、黙り込んだルビアに向かい、「安心して」と微笑みかける。
「あなただけにしか、お願いできないことがあるの」と貴婦人はルビアの目をじっと見つめた。
「私の息子と会ってほしいの」
南の大陸の最も深いところに伝わる話に、赤い宝石を体に埋めた獣が出てくる。その赤い宝石は、あらゆる願望を叶え、持つものに無限の富をもたらすという。
ルビアの遠い先祖から受け継がれている言い伝えであったが、母から、現実に手にした者が存在すると聞かされていた。
「母の祖父、つまり私の曽祖父が、長い旅の果てに見つけ出したの」
その石を手に入れてから、一族は思うままに土地を買い占め、家畜を殖やし続けた。溢れるほどの財産を手に入れ、金庫からはみ出した金貨が廊下に敷き詰められたという。
「とうてい、信じられない」とルビアは母の話を笑い飛ばしたが、彼女はいたって真面目な顔だった。それから「ある日、赤い石は輝きを失ったのよ」と悲しそうにつぶやいた。その日を境にして、曽祖父は正気を失い、家畜たちに悪い病気が蔓延し、瞬く間に家の中の財産が失われていった。家族は、床板の隙間に落ち込んだ金貨を穿り出して、どうにか日々を過ごすことになった。やがて、遠くからやってきた征服者たちが、二束三文で屋敷を買いたたき、家に残されていたルビアの母に手を付け、彼女が妊娠すると、いくばくかの金を持たせて体よく厄介払いしたのだ。
「あの石さえあれば」というのが、母の口癖であったが、生前の曽祖父は、どうやってあの石を手に入れたのか、一族の誰にも語り伝えてなかったのだ。




