第5章「遠い国の赤い犬」④
絶好の相方を選べたのか、男の顔はだらしなく蕩けていた。
あるいは、何か怪しい薬を嗅がされているのかもしれない。
髭面の男は、手紙を持たされていた。
リュウが折られた手紙を開く、そこには、
『あなたのお母さんを知っている』
と記されていた。
リュウは、手持ちの中で一番ましな上着を引っかけ、売春宿に向かった。宿が近づいてくると、いつものごとく窓越しに客待ちの娼婦が黄色い声をかけてきた。今日はその声から逃げることなく、宿の扉を開け、受付の老婆に、持っていた手紙に書かれたサインを見せる。老婆は階段上の隅の部屋を指さした。女たちは息を呑んで遠まきに彼の様子を伺っていた。
扉を開けると、女が待っていた。椅子に腰かけ足を組み、キセルを咥えて、リュウのことをじっと見つめる。やがて、
「母親にそっくりだね」と言うと、長く息を吐く。
甘い匂いのする煙が部屋中にたちこめた。
「どこで会ったんだ」とリュウは問いかけた。
「ここよりもずっと北の方で」と女は答えた。
女の名は、ルビアといった。征服者を父に、先住民を母に持っていたが、父は簡単に母を捨てた。二人だけの家族は、流れ者の生活を送ることになった。母が先祖から受け継いだ呪いの知識を駆使し、行く先々で人々を感心させ、幻惑し、あらゆる形で金に換えた。故郷を遠く離れ、大都会にたどり着いて町はずれの市場で水晶玉占いをしていたとき、一人の貴婦人が足を止めて、彼女に話しかけた。
「あなたが欲しいものはここにはないわ」
ルビアは、自分に話しかける女の顔をみつめ、
「マダム、何をおっしゃられているか判りませんけど」と問い返すと、
「体の奥に赤い宝石を宿す獣を探しているのでしょう」と貴婦人は上品に笑いかけてきた。
「それが、あなたの母親さ」
そういうと彼女は微笑んだ。




