第5章「遠い国の赤い犬」②
やがて、父親は死んだ。
飲み過ぎたからだ、と周囲の人間は決めてかかったが、リュウもあえて否定はしなかった。寝床の隣で、父親のうめき声が聞こえたのを無視しただけだ。だいいち。医者を呼ぶ金なぞなかった。
すぐさま、あらゆる伝手を頼んで、移民団に潜り込むことができた。故郷に未練はなかった。地元の人間たちも、彼の扱いに困っていたことから、厄介払いができたと思って安堵しているようだった。
当然のように、異国は、楽園などではなかった。
リュウは、農場の小作人として過酷な労働に放りこまれた。一日中、穀物の取入れに駆り出され、疲れ切って家畜小屋の隣に作られたバラックの中で泥のように眠る。その繰り返しだった。当然、手元に賃金などほとんど残らなかった。このままでは、国を捨てた意味がないと思い、リュウは農場を逃げ出した。
その国には高い山脈から流れ出る川に沿って、幾つかの鉱山が営まれていた。
リュウは、そのうちの一つに潜り込んだ。
鉱山では簡単に人が死んだ。穴を穿つ爆薬の量が多すぎたために、岩の下敷きになる者、弾けた岩盤で頭を砕かれる者。現場作業だけが危険ではなかった。鉱山に集まる男たちは皆気性が荒く、気に食わない言葉一つで、簡単に刃物を持ちだす。喧嘩が始まれば、どちらが勝つかで賭けが始まる。
喧嘩が終わると、負けた者は麻袋に詰められ、ロバが引く馬車の荷台に乗せられて、墓地に運ばれていく。だが、墓地には大きな穴があるだけで、袋を放り込んでは石灰と砂をかけるだけだった。
雨季が訪れると、ひどい病気がはやり始めた。
鉱山から流れてきた水は、薄い緑色をしていたが、手を触れるだけで、皮膚がただれた。誰もが競って高台の小屋に逃れたが、小屋に入り切れない人間は、土砂崩れに巻き込まれて谷底に落ちていった。
リュウにとっては、ここも地獄と変わりがなかった。




