第4章「妻と柴犬」㉒
しばらくして、町はずれの空き地で犬の死体が見つかった。
近くで遊んでいた子供が見つけ、親に伝えたことから、もしや連れ去られた飼い犬ではないかという話になった。
死体、といっても、平べったい茶色い皮が置かれたよう見えるほど、ひどくやせ細った状態だったらしい。
ただ、目立ったのは、喉元が、何か詰まったように大きく膨らんでいたことだった。
飼い犬の捜索願いと、死骸の状況に人為的なものが疑われることから、警察がやってきて、犬の死骸を袋に入れて回収したという。
飼い犬がいなくなった家の周りで、怪しげな若い男を見かけたという話を聞いた。
「可愛い犬ですね」と軽薄そうな男が、家族に話しかけたという。
見るからに陰気そうな老犬に対してまで、不自然な誉め言葉を伝えられ、さすがに不審に思った者もいたらしい。警察も、男について住人に聞き取りをしたようだった。
「だが、ついに見つからなかった」
犬の死骸について、何かの結論が出たとは聞いておらず、やがて犬の失踪もぷつりと途絶えてしまい、飼い犬を失った当事者家族以外にとっては、重要度を失い、忘れ去られていった。
そのころには、坂本は町内会長を引退していた。
「だが、そのまま見過ごせない気がしてな」
引退後も、自主的な広報誌を作成して、折につけ犬の失踪について注意喚起しているという。
「あんたは、俺の気持ちが判るんじゃないか」
と坂本は急に大隈に問いかけてきた。
「ああ」と答え、大隈は、昔見たあの屋敷の地下の景色を思い出していた。
「ところで、あんたが連れていた犬」と坂本は話を変えた。
「変わったところはないか」




