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第4章「妻と柴犬」⑳

町の斎場で葬儀が行われた。

棺の中の彼女は、痩せて小さくなっていた。


「病院の検査で、病気がみつかったらしいのよ」と参列者の会話を聞きながら、坂本自身は、庭に埋めた犬の死体と、その後に咲いた赤黒い花のことが頭から離れなかった。そのことと、夫人の死に関連性を見出すのは非科学的なことだと思いつつも、何かしら心の奥に罪悪感を覚えていた。


喪主である前原夫人の長男は、別の町で仕事をしているらしく、急な葬儀に忙しく立ち働いていた。式が落ち着いたところで挨拶をすると、彼は疲れた様子ながら、向かいに住む坂本のことを思い出したようで、丁寧に参列の礼を述べた。

「空き家になって、ご迷惑をおかけするかもしれません」と彼は詫び、定期的に帰って来て、家の状態を確認します、とも言った。

「いずれ帰って来れるといいね」と坂本が言うと、彼は曖昧に笑いながら、そうですねと答えた。


次の年、庭の花の色は元に戻っていた。


しばらくの間、長男に依頼を受けたであろう業者が、定期的に庭の草木の剪定を行い、前原家は空き家ながらもきちんと管理されていた。長男が家の空気の入れ替えに訪れたときには、坂本と会釈を交わすこともあった。


それから数年後、前原宅に長男は帰ってきて、そこで生活をするようになった。

久しぶりに顔を見た彼は、やつれていて、見違えるようだった。

「ちょっと事情がありまして」と彼は、きちんと目を合わせず、言いにくそうな様子だった。

坂本は深くは聞かなかったが、自ずと周囲の住人から、彼が勤め先での人間関係から、大けがを負い、仕事を辞めざるを得なくなったという話が伝わってきた。

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