同じもの
「虎松」
「はい」
「さっき、寸法を決めたと言ったな」
「はい。榊家寸のことですか?」
「それだ」
信長様は、さっき俺から取り上げた鉛筆をまだ持っていた。返す気はないらしい。俺の帳面も目の前に置かれたままで、そこには治具を説明するために描いた簡単な図と、信長様が試し書きした線が残っている。
「その寸法は、誰が決める」
「誰が?」
「榊家寸というのであろう。ならば榊屋が決めるのか」
「そうですね。最初は俺が決めたところも多いですけど、今は親父とか職人と相談して決めてます」
「何を相談する」
「作れるかどうかです」
信長様が俺を見る。
「寸法を決めるだけではないのか」
「決めるだけなら出来ますよ。でも、作れん寸法を決めても意味ないですから」
「作れぬ寸法?」
「例えば、俺がここを絶対この大きさにしろって決めても、今ある道具じゃそこまで揃えられんことがあります。材料によっても変わりますし、あんまり厳しく決めたら、使えるものまで全部駄目にすることもあります」
「厳しく決めれば良いわけではないのか」
「はい」
ここは、俺も何度か失敗した。
前の世界で使っていた数字の感覚をそのまま持ち込んで、もっと揃えればいい、もっと細かく決めればいいと思っていた時期がある。でも、数字というのは書くだけならいくらでも細かく出来る。紙の上なら、どれだけ厳しい寸法でも簡単に決められる。
作れるかどうかは別だ。
同じにするために手間が掛かりすぎれば、数を作るという本来の目的から離れてしまう。使う上では何の問題もない違いまで不良にしてしまえば、せっかく作ったものを捨てることになる。逆に、少し違っただけで部品が合わなくなる場所なら、そこは面倒でも揃えなければならない。
「同じにしたいからって、何でも細かく決めればええわけやないんです。作る人がちゃんと作れて、使う時に困らんところまで決めればいい。逆に、そこが違ったら困るってところは、ちゃんと決めます」
「違ってはならぬところと、違ってもよいところがある」
「そうです」
「それを榊屋が決めておる」
「うちで作るものについては」
「他の鍛冶は?」
「知りません」
「知らぬ?」
「はい。他所には他所のやり方がありますから」
信長様は少し考えた。
「ならば、他の鍛冶が榊家寸と同じ寸法で鉄砲を作ったらどうなる」
「どうなるって……別にええですよ」
「よいのか」
「はい」
信長様の眉が少し動いた。
「真似をされたことにはならぬのか」
「寸法だけなら、俺は別に気にしません」
「何故だ」
「同じ寸法の部品が増えた方が、俺らも助かるんで」
今度は一益様までこちらを見た。
「他所の鍛冶が作った物であろう」
「そうです」
「それでお前が助かるのか」
「ちゃんと合うなら」
俺は少し考えてから、尾張へ来て実際に見たものを思い出した。
「例えば、うちの鉄砲を持ってる人が尾張で地板を壊したとしますよね。堺まで持って帰らんでも、近くの鍛冶が榊家寸に合う地板を作れたら、その場で直せるかもしれません」
「榊屋の仕事を取られるぞ」
「取られますね」
「構わぬのか」
「全部うちで直せたら儲かるんでしょうけど……壊れた人からしたら、そんなこと知ったこっちゃないですから」
一益様が笑った。
「商売人らしくないな」
「だから善次郎がおるんです」
「こっちに投げんな」
善次郎がすぐに返してきた。
信長様がそちらを見ると、善次郎の背筋が伸びた。前回で学習したらしい。
「ただし」
俺は続けた。
「同じ寸法で作ったからって、それを榊屋の部品やと言われるのは困ります」
「何が違う」
「うちが作ったか、外から買ったとしてもうちが受け取って検査して、これなら榊屋として出してええって判断したものなら、榊屋の部品です。でも、他所の人が同じ寸法で作っただけなら、それは榊家寸に合う部品であって、榊屋の部品ではないです」
「何故分ける」
「責任取れんからです」
これは迷わなかった。
「俺らが見てもないものが壊れて、『榊屋の部品が壊れた』って言われても困ります。寸法を真似するのは構いません。でも榊屋の名前を付けるなら、俺らが確認したものにしてほしいです」
「なるほど」
信長様が鉛筆を指で転がした。
「同じものを作られることより、同じ名を使われることの方が困るのか」
「そうですね。寸法は使ってもらって構いません。でも、榊屋が責任を持つものは榊屋で決めたいです」
「寸法は広がってもよい」
「はい」
「名は勝手に使わせぬ」
「はい」
「面白いな」
信長様はそう言って少し笑った。
◇
「では」
また来た。
この人が「では」と言う時は、大抵、話が一段飛ぶ。
「尾張中の鉄砲鍛冶に、その寸法を使わせたらどうなる」
「……はい?」
「榊家寸だ」
「尾張中で?」
「そうだ」
「全部?」
「出来るのであろう」
「いやいやいや」
一益様が俺を見る。
俺も分かっている。
だいぶ口が悪くなってきた。
でも、これは言わせてほしい。
「そんな簡単ちゃいますって」
「何故だ」
「同じ寸法にしろって言っただけで、同じものが出来るなら苦労せんですよ」
「寸法は同じなのであろう」
「書いてある寸法は同じです」
「何が違う」
「まず、測るものが違ったら困ります」
「測るもの?」
「物差しです」
俺は帳面の上に指を置いた。
「例えば、ここを一寸にしろって言いますよね。でも俺の使ってる物差しの一寸と、別の鍛冶が使ってる物差しの一寸が微妙に違ったら、同じ一寸って言ってても出来上がるものは違います」
「同じ一寸なのにか」
「同じ名前なだけです」
今の時代、尺や寸という言葉そのものは広く通じる。だからこそ厄介だった。
皆が同じ言葉を使っているから、同じ長さを測っているように思える。でも、その元になっている尺まで完全に同じとは限らない。わずかな違いなら大きなものを作る時には問題にならなくても、小さな金具を別々の場所で作り、最後に組み合わせようとすれば無視出来ないこともある。
しかも、物差しだけ揃えれば終わりではない。
「同じ物差しを使っても、作る道具が違います。材料も違うし、職人のやり方も違う。同じ数字を書いたからって、同じ物が出来るわけやないです」
「なら、物差しも同じにせねばならぬのか」
「……まあ、そうなります」
嫌な予感がした。
「尾張中で同じ物差しを使わせたらどうなる」
来た。
「え」
「同じ一寸なら、同じ一寸になるのであろう」
「理屈ではそうですけど」
「なら、そうすればよい」
「いやいやいやいや」
「何故だ」
「今使ってる物差し、全部替えるんですか?」
「必要なら」
「誰が作るんです?」
「作らせる」
「その作った物差しが全部同じか、誰が確かめるんです?」
「元になるものを決めればよい」
「その元と同じか確かめる人も要りますよ」
「置けばよい」
「どこに」
「必要なところに」
「増えてますやん!」
信長様が止まった。
俺も止まった。
一益様が片手で額を押さえている。善次郎は、いつの間にか俺から少し離れていた。
おい。
「……増えると、何か困るのか」
信長様は怒っていなかった。
普通に続きを聞いてきた。
「困るっていうか、それだけ人も銭も要るってことです。基準になる物差しを一本作って終わりやないですよ。それと同じ物差しを作って、配って、使ってもらって、本当に同じか確かめて、壊れたり減ったりしたらまた作って……ずっと続けなあかんのです」
「一度決めれば終わりではないのか」
「終わらんです。基準を決めることより、同じ基準を使い続ける方が大変かもしれません」
「なるほど」
「しかも、はい今日から全部これ、って言って皆がすぐ変えるかどうか」
「変えさせればよい」
「そこが殿様なんよなあ……」
一益様が咳払いした。
「虎松」
「すみません」
でも、信長様は少し笑っていた。
この人、本気でやろうと思えばやるんじゃないだろうな。
「善次郎」
「はい」
今度は早かった。
さすがに構えていたらしい。
「商人も、物差しが違えば困るか」
「困ります」
善次郎は即答した。
「例えば布でも木でも、売る側と買う側で測るものが違えば揉めます。長さだけやなく、重さでも量でも同じです」
「なら、同じ方がよいではないか」
「同じ方が便利ではございます」
「では何故、皆同じにせぬ」
「便利になるまでが面倒だからです」
俺は善次郎を見る。
「それや」
「お前は黙っとれ」
善次郎は俺を一度睨んでから、信長様へ向き直った。
「今まで使ってきた物差しや升を替えれば、それまでの取引の仕方も変わります。古いものを持っている者もおりますし、新しいものを用意するにも銭が掛かります。皆が一斉に替わるならまだしも、替えた者と替えておらぬ者が混じれば、かえってややこしくなることもございます」
「便利になると分かっていてもか」
「先々便利になることと、明日から面倒になることは、別でございますので」
「なるほど」
信長様は妙に納得していた。
「お前たち、似たようなことを言うな」
「こいつ商人ですから」
「お前も商売しとるやろ」
「俺は作る方が本職や」
「俺から見たら両方だ」
「善右衛門さんに聞かせたいな、それ」
「やめろ」
信長様が笑う。
「なら、同じにすれば良いというものでもないのだな」
「はい」
俺は頷いた。
「替える手間より、同じにすることで得する方が大きいものからやるのがええと思います」
「何がそれに当たる」
「うちならネジとか、交換する部品とかですね。違う必要がないし、同じ方が後で楽なんで」
「鉄砲そのものは?」
「全部を同じにする必要はないです」
「何故だ」
「使う人も違いますし、材料も全部同じにはなりません。台木なんか木ですから、一本ずつ違います。あと、同じにしようとして無理するくらいなら、多少違っても問題ないところは合わせて使った方がいいです」
「では、何を同じにする」
簡単な質問に聞こえた。
でも、答えようとすると難しい。
「……違ったら困るところ、ですかね」
「それだけか」
「同じ方が便利なところ。あと、同じに出来るところ」
「出来るところ?」
「出来んものを同じにしろって決めても意味ないですから」
信長様は頷いた。
「違ってはならぬところ。違わぬ方が便利なところ。そして、同じに出来るところ」
「はい。逆に、違っても困らんところまで無理に揃える必要はないと思います」
「誰がそれを決める」
また来た。
「……作る人と、使う人ですかね」
「殿様ではないのか」
「え」
一益様が俺を見る。
善次郎も俺を見る。
何で二人とも俺を見る。
「……殿様だけで決めるのは、たぶん危ないです」
「虎松」
一益様が低い声を出した。
「いや、違うんです。殿様が決めたら駄目って意味やなくてですね」
「では、どういう意味だ」
信長様は普通に聞いている。
俺は少し考えた。
「例えば殿様が、鉄砲のここの寸法は明日から全部これにしろって決めたとします」
「うむ」
「でも、その寸法では今ある道具で作れんかもしれません。作れてもすごく手間が掛かるかもしれんし、材料によっては壊れやすくなるかもしれません」
「ならば道具を変えればよい」
「それに銭が掛かります」
「材料を変えれば」
「その材料が手に入るか分かりません」
「ならば」
「ほら、どんどん増えるでしょう」
信長様が黙った。
一益様まで黙った。
「……なるほど」
「だから、決める人は要ると思います。でも、作る人と使う人の話を聞かんと、変なものを決めると思います」
「使う者もか」
「はい。作りやすくても、使いにくかったら意味ないですから」
俺は尾張へ来てから見た鉄砲を思い出した。泥が付いたもの、雨に濡れたもの、ばねが壊れたもの、どこの誰が作ったか分からない部品で修理されたもの。そして、その場で使えるものを探して鉄砲を直していた与助さん。
榊屋の中だけにいた時には、俺は作る側から見た正しさばかり考えていた。
「俺も、こっち来るまで分かってなかったこといっぱいありました。工房でちゃんと作れたら、それで終わりやと思ってたところがあったんです。でも実際には、運ばれて、雨にも濡れて、泥も付いて、壊れたら知らん人が直すこともあります」
「だから使う者の話も聞く」
「はい。作る側だけで決めると、作りやすいものばっかりになるかもしれません。使う側だけで決めると、今度は作れんものを欲しがるかもしれません」
「では、その間を決める者が要る」
「……そういうことになるんかな」
「誰だ」
「それは俺に聞かれても」
信長様が笑った。
「そこまでは知らぬか」
「知らんです」
「よい」
その「よい」が、妙にあっさりしていた。
知らないと言ったことを責めるでもない。答えを持っていないことに失望するでもない。むしろ、どこまでなら答えられるのか、何なら分からないのか、それ自体を確かめているようだった。
◇
少し間が空いた。
外から人の声が聞こえる。俺はようやく喉が渇いていることに気付いて、水を一口飲んだ。
どれくらい話しているんだろう。
百挺の作り方を聞かれていただけのはずなのに、いつの間にか尾張中の物差しをどうするかという話になっている。しかも、信長様の様子を見る限り、単なる思いつきで聞いているようにも見えなかった。
俺が水を置くと、信長様が口を開いた。
「虎松」
「はい」
「何故、良い物は広がらぬと思う」
また急に来た。
「良い物?」
「そうだ」
信長様は、俺の帳面の上に置いていた鉛筆を取った。
「例えば、ある村に良い鍬を作る鍛冶がおるとする」
「はい」
「よく土に入り、壊れにくい。皆が使えばよい」
「そうですね」
「だが、隣の村では誰も使っておらぬ」
「まあ……ありそうですね」
「腕の良い大工がおる。その者が建てた家は丈夫だ。だが、その者が死ねば、同じものを作れる者がおらぬ」
「はい」
「荷を上手く運ぶ商人がおる。早く、安く、遠くまで運べる。だが、そのやり方を知っておるのはその商人だけだ」
信長様が俺を見る。
「良いものがあるのに、何故その者のところだけで終わる」
すぐには答えられなかった。
俺は今まで、逆の側からしか考えてこなかった。
榊屋でどうやって同じものを作るか。どうやって人へ教えるか。どうやって外の職人にも作ってもらうか。どうすれば一人の腕に頼らず、一定のものを作り続けられるか。
最初から「良いものが広がらないのは何故か」と考えて始めたわけではない。
「……伝える方法がないから、とか」
「それだけか」
「教える理由がないこともあると思います。真似されたら自分の仕事取られるかもしれんし」
「他には」
「そもそも、隣にもっとええやり方があるって知らんこともあるんちゃいますか」
「うむ」
「知ってても、同じように出来るとは限りません。さっきの話と同じで、鍬だけ見ても、どんな鉄使って、どう作ったかまでは分からんかもしれんし」
「腕も要る」
「要ります」
「なら、良いものを見せるだけでも足りぬ」
「たぶん」
信長様は頷いた。
「俺は昔から、それが気に入らぬ」
俺は顔を上げた。
「……気に入らない?」
「良いものがあるなら、使えばよい」
「まあ、そうですね」
「良いやり方があるなら、広げればよい」
「簡単に言いますね」
「簡単ではないと、お前が今説明した」
「……そうでした」
「だから聞いておる」
信長様は笑っていなかった。
怒っているわけでもない。ただ、さっきまで鉄砲について質問していた時とは少し違った。これは今ここで思いついた疑問ではなく、もっと前からこの人の中にあったものなのかもしれない。
「良い鍬を作る鍛冶がおる。だが、その村でしか使われぬ。良い建て方を知る大工がおる。だが、その者が死ねば終わる。良いものを作れる者がおっても、その者一人の手で作れる数には限りがある」
どこかで聞いた話だった。
俺がさっき言った。
俺一人で作れる数なんて、たかが知れている。
「お前は、それを鉄砲で変えたのだろう」
「……まだ、そんな大層なもんやないですよ」
「百挺作っておる」
「それはそうですけど」
「一人で作ってはおらぬ」
「はい」
「榊屋だけでも作っておらぬ」
「はい」
「ならば、一人の腕だけに頼るより多く作れる」
「……はい」
信長様は帳面へ視線を落とした。
俺から奪った鉛筆で、一本の線を引く。
「良い物を一人が作れることと」
もう一本。
「良い物を千人が使えることは、別なのだな」
俺は、その二本の線を見た。
「……はい」
信長様が顔を上げる。
「なら、俺が知りたいのは後の方だ」
そこで、ようやく分かった気がした。
この人が俺を呼んだ理由。
百挺の鉄砲が欲しいだけなら、注文すればいい。榊屋の鉄砲が気に入っただけなら、もっと買えばいい。もっと良い鉄砲が欲しいのなら、腕の良い鍛冶を探せばいい。
でも、この人が聞いているのは、ずっとその先だった。
どうして百挺作れる。
どうして他の人間でも作れる。
どうして同じようなものを揃えられる。
それは鉄砲以外でも出来るのか。
何を同じにすればいい。
誰が決めればいい。
そして今度は、良いものをどうすれば多くの人間が使えるのかと聞いている。
俺は工房の中で困ったことを一つずつ直してきた。寸法が合わないから揃えた。作るのが遅いから仕事を分けた。人によって出来が変わるから治具を作った。榊屋だけでは足りないから外へ仕事を出した。
下から一段ずつ積み上げてきただけだ。
でも、この人は逆だった。
もっと多くの人間が良いものを使うにはどうすればいいのかという、俺よりずっと大きなところから降りてきて、榊屋のやっていることに行き着いた。
見ている方向は逆なのに、今、同じところに立っている。
「信長様は」
「何だ」
「何で、そんなこと考えてるんです?」
一益様がこちらを見る。
俺も、言ってから少しまずかったかなと思った。
でも信長様は答えなかった。しばらく俺を見た後、ふいに視線を外す。
「腹が減った」
「……はい?」
「飯にする」
話が飛んだ。
俺は一瞬呆気に取られたものの、もうかなり長いこと話している。外の様子を見れば、確かにそろそろそんな時間なのだろう。
「では、ここらでお開きですか?」
「何を言うとる。お前らも同席せい」
「はい?」
「はい?」
俺と善次郎の声が綺麗に重なった。
信長様はそんな俺たちを見て、ニヤリと笑う。
「まだ帰すとは言っとらん」
どうやら、延長戦らしい。
「……まだあるんです?」
「ある」
「長いな」
「お前が言うな」
一益様に即座に返された。
善次郎が横で笑う。
「お前、最初に自分で長くなる言うたやんけ」
「俺が喋る方でや」
「だいぶ喋っとるがな」
「それはそうやけど」
信長様が立ち上がった。
俺の鉛筆を持ったまま。
「あの」
「何だ」
「それ、ほんまに持っていくんですね」
「俺のだ」
「いつから!?」
「買うと言った」
「まだ金もろてませんけど」
「善次郎」
「はい!」
「払っておけ」
「何で俺が!?」
一瞬、善次郎の素が出た。
部屋が静かになる。
「……申し訳ございません」
信長様が声を上げて笑った。
「冗談だ」
善次郎が俺を見る。
「虎松」
「何や」
「織田様、たぶんお前と相性ええぞ」
「何で嫌そうなん」
「俺に被害が来るからや」
否定は出来なかった。
俺たちは立ち上がり、信長様の後へ続く。
百挺の作り方を話すだけだったはずが、尾張中の物差しの話になり、鍬や家や荷車の話になり、最後には良いものをどうやって多くの人へ広げるかという話になった。
それでも、俺が最後に聞いたことには答えてもらっていない。
何故、この人はそんなことを考えているのか。
信長様が何を見て、その先に何を作ろうとしているのか。
どうやら俺たちは、その答えを聞くまで清洲から帰してもらえないらしい。




