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虎松〜元エンジニアの戦国ものづくり革新録〜  作者: 真部 朝樹
尾張・国友編

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戦のあと


 津島を出ると、俺たちは陸路を進んだ。


 一益様と川尻さん、善次郎、それに俺。周りには護衛として付けられた足軽が何人かいる。津島までは完全に商人の旅という感じだったが、槍を持った男たちに囲まれて歩き始めると、ようやく織田家の領内に入ったという実感が湧いてきた。


 もっとも、俺が最初に感じたのは緊張ではなかった。


「……普通ですね」


「何がだ」


 一益様が振り返った。


「いや、景色が」


 道の脇には田畑が広がっている。そこで働いている者もいれば、荷を背負って歩いている者もいる。向こうから荷車が来れば、俺たちは少し道の端へ寄って通す。家の前では女が何かを干しているし、子供の姿まで見える。


 桶狭間の戦い。


 前の世界でその名前を聞いた時、頭に浮かぶのは戦だった。織田信長と今川義元、雨の中での戦い。奇襲だったのかどうかは色々言われていた気もするが、とにかく両軍がぶつかり、義元が討ち取られた大事件だ。


 だからなのか、俺は無意識のうちに、もっと殺伐とした風景を想像していたらしい。


「もっとこう……戦の後っぽいのかと思ってました」


「戦の後っぽいとは何だ」


「それが自分でも分からんのですけど」


「田畑は待ってくれぬぞ」


 一益様が前を向いた。


「作らねば食えぬ。戦が終わったからといって、皆が何日も戦の話だけしておるわけではない」


「店も同じやぞ」


 善次郎が言った。


「閉めとった分、商いせなあかん」


「腹も減りますからな」


 川尻さんも笑う。


「それはそうですよね」


 考えてみれば、当たり前だった。


 戦があっても腹は減る。田植えや収穫の時期が、戦の都合に合わせてくれるわけでもない。商人は物を売らなければならないし、職人は仕事をしなければならない。戦に出なかった者にとっては、昨日も今日も暮らしが続いている。


 ただ、しばらく道を進んでいると、最初は普通に見えていた景色の中にも、少しずつ違うものが見えてきた。


 槍を持った男たちと何度かすれ違う。足を引きずっている者もいる。馬に荷を載せて進む一団があり、積まれているものの中には槍や具足らしきものも見えた。道の脇では数人の男が座り込み、壊れた何かを直している。


 店先で話している人たちの会話にも、今川だの義元だの、戦に関わる言葉が混じっている。


 何も知らずに遠くから眺めれば、いつもの暮らしに見える。それでも近くまで来て、一つずつ人や物を見ていけば、その暮らしの中には確かに戦の跡が残っていた。


「……まだ結構、兵が動いとるんですね」


「当たり前だ」


 一益様が答える。


「勝ったからといって、すべてが終わるわけではない」


「今川方についていたところもありますからな」


 川尻さんが補足した。


「これからどうするか決めねばならぬ者もおります。城も、人も、道も、昨日までとまったく同じというわけにはいきません」


「なるほど……」


 歴史の本では、桶狭間の戦いが終われば次の話へ進む。今川義元が討ち取られ、織田信長が勝った。それで桶狭間という項目には一区切りがつく。


 でも、ここには次の頁なんてものはない。


 昨日まで戦っていた人間も今日を生きなければならないし、勝った側だって同じだ。戦の勝敗が決まることと、その土地に暮らす人間の生活が元へ戻ることは、どうやらまったく別の話らしい。


     ◇


 しばらく進んだところで、俺は前を歩いている足軽の一人が持っているものに気付いた。


 鉄砲だ。


 気付いた瞬間、足が勝手に速くなった。


「すみません」


「ん?」


「それ、どこの鉄砲です?」


「……は?」


 男が俺を見る。


 近くで見ると、俺よりかなり年上だった。三十を過ぎているだろうか。日に焼けた顔で、俺が何を聞いているのか分からないという顔をしている。


「その鉄砲です。ちょっと見てもいいです?」


「若旦那」


 後ろから善次郎に肩を掴まれた。


「何?」


「いきなり何しとんねん」


「鉄砲あったから」


「見たら分かるわ!」


 一益様が振り返った。


「どうした」


「虎松が護衛の鉄砲を見せろ言うとります」


「違う。ちゃんとお願いした」


「同じや!」


 一益様は足軽の持っている鉄砲を見てから言った。


「見せてやれ」


「はっ」


「いいんですか?」


「お主はそれを見に来たのであろう」


「ありがとうございます!」


「殿に会うことも忘れるなよ」


「忘れてませんって」


 足軽から鉄砲を受け取る。


 持った瞬間に分かる。榊屋のものではないし、そもそも細かい形が違う。


「へえ……」


「何だ」


 一益様が聞いた。


「うちのと違います」


「見れば分かるのか?」


「分かりますよ」


 俺は銃身から地板、火挟みの辺りまで順番に見ていった。台木への収まり方も少し違うし、金具の形にも見覚えがない。


 大きく見れば同じ火縄銃だ。やっていることも同じで、火縄の火を火皿へ落として火薬に火をつける。そのために必要なものだって大して変わらない。


 それでも、どういう形にして、どう作るかとなれば違いが出る。


「ここも違うな……」


「何がだ」


「地板の形です。あと、この辺の作りも。ネジもうちのとは違いますね」


「使えるのか?」


「そりゃ使えますよ。今まで使っとったんでしょう?」


「使っとる」


 鉄砲を貸してくれた足軽が答えた。


「別に困らんぞ」


「どこで作ったか分かります?」


「知らん」


「知らんの?」


「俺が買ったんじゃにゃあでな」


「ああ……そっか」


 考えてみればそうだ。


 俺たちは作った鉄砲に榊印を入れているから、当然のように作った場所を意識している。でも、使う人間がそこまで気にするとは限らない。自分で鍛冶屋へ行って選び、銭を払って買った鉄砲でなければ、渡されたものを使っているだけということもある。


 誰が作ったかより、撃てるかどうかの方が大事な人間だっている。


「分解してもいいです?」


「おい」


 一益様の声が低くなった。


「冗談です」


「今、一瞬本気だっただろう」


「新八にも勝手に分解するなって言われてます」


「なら守れ」


「はい」


 危ない。


 見ていたら中まで気になってきた。


 俺はもう一度全体を見てから、足軽へ返した。


「ありがとうございます」


「お、おう」


 男は受け取った鉄砲を妙な顔で見ている。自分が今まで普通に使っていたものを、俺があまりにじろじろ見たせいだろう。


「ちなみに」


「まだあるんか」


「榊屋って知ってます?」


「榊屋?」


「堺の鉄砲鍛冶です」


「ああ」


 男が頷いた。


「知っとるぞ」


「ほんまですか!」


 思わず声が大きくなった。


「最近よう入ってくるやつだろ」


「そうです!」


「お前んとこか?」


「そうです!」


 なんか嬉しい。


 尾張まで来て、自分たちの名前を知っている人がいる。


「俺は持っとらんが」


「あっ、はい」


 少しだけしぼんだ。


 善次郎が笑っている。


「何やその顔」


「別に」


「褒めてもらえると思ったんやろ」


「ちょっとだけ」


「正直やな」


 すると、近くを歩いていた別の足軽が会話に入ってきた。


「榊屋のなら、俺使ったことあるぞ」


「ほんまですか?」


 俺はすぐそっちを向いた。


「どうでした?」


「どうって?」


「使いやすいとか、使いにくいとか。壊れたとか。何でもいいです」


「急に聞かれてもなあ」


「何でもいいです」


「近い近い」


 善次郎に服を引っ張られた。


 足軽は少し考えた。


「まあ、普通だな」


「普通」


「撃てる。ちゃんと火ぃ付く。変なところもにゃあ」


「……普通」


「何や。不満か」


「いや」


 普通。


 なんとも地味な評価だ。


 でも、よく考えてみる。


 百挺以上作っている。


 それを同じ一人が使うわけではない。いろんな人間へ渡り、いろんな場所で使われる。その上で、普通に撃てる。持ち替えても妙な違和感が少なく、特別な扱いを覚えなくても使える。


 それは、俺たちが何年も掛けて目指してきたものに、かなり近いんじゃないだろうか。


「榊屋のは安心して使えるでな」


 別の男が言った。


 俺はそちらを見る。


「安心?」


「そうだがね。新しい奴に鉄砲持たせるなら、まずお前んとこのを持たせること多いぞ」


「新兵に?」


「全部が全部そうとは言わんけどな。似たようなもんが来るで、教えやすい」


「……あ」


 そこか。


「同じように触れば、大体同じように動く。火挟みが妙に固いとか、ここだけ形が違うとか、そういうのが少にゃあ」


「なるほど……」


「あと壊れても部品が来る」


 別の男が笑った。


「ばね折れた時、替えあったぞ」


「使えました?」


「ちょっと合わせてもらったけどな」


「誰に?」


「知らん。直す奴」


「どれくらい削りました?」


「知らん」


「どこを?」


「知らんて」


「元のばねは?」


「捨てたんじゃにゃあか?」


「捨てた!?」


「何でそんな顔するんだ」


「見たかった……」


「虎松」


 一益様が呆れている。


「すみません」


 でも、聞きたいことが次々出てくる。


 榊屋で考えていた半規格化が、実際に使う側ではどう見えているのか。俺たちは完全に同じものを作れているわけではないし、部品を持っていけば何にでもそのまま付くわけでもない。それでも、同じ頃に作ったものなら似た寸法で、交換部品を少し合わせれば使える可能性が高い。


 工房ではそれを「まだ完全じゃない」と見ていた。


 使う側から見れば、「直せる」になる。


「榊屋のは、新兵向けなんですか」


「悪い意味じゃにゃあぞ」


 男が言った。


「分かってます」


「誰が持っても困りにくいってことだ。腕のええ奴でも使うしな」


「なるほど」


 少し面白い。


 俺は別に、新兵用の鉄砲を作ろうとしたことはない。同じように作ろうとした。作る人間による違いを減らそうとした。壊れた時に直しやすくしようとした。


 その結果、使う側では「新しい兵にも渡しやすい」という価値になっている。


 作る側で狙った効果と、使う側が感じる利点は、必ずしも同じ言葉にはならないらしい。


「でもな」


 最初に鉄砲を貸してくれた男が言った。


「腕のええ奴は、国友んとこのがええ言う奴もおるぞ」


「国友?」


 聞いたことのある名前だった。


「近江の?」


「そうそう」


「何がいいんです?」


「精度がええらしい」


「精度?」


「遠いとこでもよう当たるとか何とか」


「ほんまですか?」


「知らん」


「え?」


「おりゃ触ったことないがね」


「ないんかい!」


 男が笑った。


「持っとる奴が言っとっただけだが」


「その人どこにいます?」


「知らんわ」


「会えんかな」


「虎松」


 善次郎がまた俺の服を掴んだ。


「何?」


「お前、今から国友行く気ちゃうやろな」


「行かんよ」


「目が行きたそうなんよ」


「だって気になるやん。精度ええんやろ?」


「殿に会ってからにせえ」


「分かっとるって」


 一益様は何も言わなかった。


 ただ、一度だけ俺の方を見た。


 俺は国友の鉄砲のことで頭がいっぱいになっていて、その視線には気付かなかった。


     ◇


 歩きながら、今度は実際の使い方を聞いた。


「雨降った時どうしてます?」


「濡らさんようにする」


「どうやって?」


「覆う」


「それでも濡れたら?」


「拭く」


「すぐ?」


「暇あったら」


「暇なかったら?」


「後だな」


「…………」


「何だ」


「いや。そらそうですよね」


 工房で考えるなら、濡れたらすぐに手入れしてほしい。水気を拭いて、汚れを落として、必要なところを確認する。


 でも、戦の最中にそんなことを言われても困る。


 鉄砲を撃っている本人にとって、鉄砲を最良の状態に保つことが一番大事なわけではない。生き残ることや、命令された場所へ行くことの方が大事に決まっている。


「落としたことあります?」


「ある」


「どこに?」


「泥」


「うわ」


「拾って拭いた」


「すぐ?」


「その時はな」


「ぶつけたことは?」


「ある」


「どこに?」


「知らん。色々だ」


「台木割れたことは?」


「俺はない」


「火皿は?」


「ない」


「ばねは?」


「お前、ほんまに殿に会いに来たんか?」


 足軽にまで言われた。


「来ましたよ!」


「俺には鉄砲見に来たようにしか見えんぞ」


「両方です」


 一益様が笑っている。


「お主を連れてきたのは間違いだったかもしれんな」


「何でです?」


「清洲へ着くまでに何人捕まえるつもりだ」


「まだ二人です」


「増やすな」


「聞ける時に聞いとかんと」


 俺は悪くないと思う。


 実際に使っている人間が目の前にいる。こんな機会は今までなかった。


 榊屋で鉄砲を作っている時、俺たちは当然「ちゃんと使われる」ことを前提に考える。手入れをして、必要な時に修理をして、無茶な扱いはしない。それは製品を作る側からすれば当然の考え方だ。


 でも、現場ではそうならない。


 雨は降る。


 泥に落とす。


 ぶつける。


 手入れする暇がない。


 ネジをなくす。


 ばねが折れれば、その場にあるものを合わせて使う。


 それを全部「使い方が悪い」で片付けたら、実際に使われる鉄砲とはずっと噛み合わないままだ。


 正しく使えば壊れないことは大事だ。


 でも、それだけでは足りない。


 正しく使えない時にどこまで耐えるのか。壊れた時に、どれだけ簡単に使える状態へ戻せるのか。間違った扱いを完全になくせないのなら、作る側もそこまで考えなければならない。


「虎松殿」


 川尻さんが声を掛けてきた。


「はい?」


「そんなに気になるなら、見ますか?」


「何を?」


「榊屋の鉄砲です」


 俺は足を止めた。


「見れるんですか?」


「この先に、戦の後に集められた武具があります。すべてではありませんが、榊屋の鉄砲も何挺かありますよ」


「行きましょう」


「まだ何も説明してません」


「行きましょう」


「お前、信長様より食いつきええやんけ」


 善次郎が呆れている。


「だって実物やぞ」


「殿も実物や」


「そういう話ちゃうやろ」


「同じやろ」


 一益様がため息をついた。


「通り道だ。寄ってやる」


「ありがとうございます!」


「ただし、日が暮れるまで全部分解し始めるなよ」


「しませんって!」


「どうだか」


 信用がない。


     ◇


 そこへ向かう途中、一度だけ、俺は足を止めた。


 道から少し離れたところに、焼けた家があった。


 全部が焼けたわけではない。黒くなった柱が残り、その横には崩れた柵がある。すぐ近くの畑では人が働いているのに、そこだけが周囲から取り残されたように見えた。


「ここも戦になったんですか」


 俺が聞くと、川尻さんがそちらを見た。


「この辺りで大きな戦があったわけではありません。ただ、小さな争いはあちこちでありました。兵が通れば、何も起きぬとは限りません」


「……そうですか」


 俺が知っているのは、桶狭間の戦いだ。


 今川義元が尾張へ攻め込み、織田信長がこれを破った。前の世界で俺が知っていたのは、その大きな流れだけだった。


 でも、ここに住んでいる人にとっては、それだけではない。


 兵が来た。


 道が使えなくなった。


 荷が止まった。


 家が焼けた。


 家族が戦へ出た。


 そして、帰ってこなかった人間もいるのだろう。


 歴史に名前が残る大きな戦の周りには、名前の残らない出来事がいくらでもある。


 俺たちの鉄砲も、その中にある。


 自分が何を作っているのかは、分かっていたつもりだった。十年も鉄砲を作ってきたのだから、人を撃つ道具だということを今さら知らなかったとは言えない。


 それでも、堺の工房で鉄と木を見ながら考えるのと、その鉄砲が運ばれてきた土地で焼けた家を見るのとでは、同じことを考えているはずなのに少し違った。


 俺はしばらく焼けた柱を見た後、皆の後を追った。


     ◇


 川尻さんが言っていた場所へ着くと、そこには様々な武具が集められていた。


 槍、刀、具足、そして鉄砲。きれいに並べられているものばかりではなく、確認が済んだもの、これから見るもの、修理が必要らしいものが分けられているようだった。


「ここで使えるものと、直すものを分けています」


 川尻さんが説明する。


「持ち主のところへ戻るものもありますし、別へ回すものもあります」


「鉄砲見ていいです?」


「どうぞ」


 俺はすぐに鉄砲のある方へ行った。


 一挺ずつ目で追っていく。


 これは違う。


 こっちも違う。


 さっき足軽が持っていたものとも違う。


 同じ火縄銃なのに、細かい形はかなり違う。銃身の長さや太さ、台木の形、地板や火挟みの作り方。誰が作ったのか分からないものでも、並べて見るとそれぞれに癖がある。


 その中に、見覚えのある形があった。


「……あれ」


 川尻さんが俺を見る。


「分かりますか?」


「分かります」


 近付く。


 地板。


 火挟み。


 台木。


 寸法の取り方。


 何度も見てきた形だ。


 そして、印がある。


 榊印。


「うちのや」


 思わず声が出た。


 工房から出した時とは違う。


 台木には傷がある。金具には汚れが残り、火皿の周りには何度も使われた跡がある。銃身にも細かな擦れがあり、泥だったのか、黒っぽい汚れが完全には落ちていないところもあった。


 俺が知っている榊屋の鉄砲は、最後の検査を終えた姿だ。


 きれいに仕上げ、撃てることを確認し、これなら出せると判断して送り出す。


 目の前にあるのは、その後の姿だった。


「これ、使われたんですよね」


「ええ」


「桶狭間でも?」


「どこで使われたものか、そこまでは私も分かりません。ただ、今回の戦の前後に使われて戻ってきたものです」


「なるほど」


 俺はもっと近くで見る。


 すると、ネジが一つ気になった。


「……これ」


「何か?」


「ネジ、替わってるかもしれん」


「分かるんですか?」


「たぶん。うちで出したやつと頭の形が違う」


 誰かが直した。


 榊屋へ戻さず、この尾張で。


 嘉兵衛さんが作ったものとも違うように見える。榊屋から交換部品として出したものなのか、それともこちらにあった別のネジを合わせたのか。見ただけではまだ分からない。


 触りたい。


 ものすごく触りたい。


「川尻さん」


「はい」


「これ、触っていいです?」


「どうぞ」


 俺は鉄砲を手に取った。


 重さは知っている。


 形も知っている。


 自分たちで作ったものなのだから、当たり前だ。


 それでも、工房で最後に持った時とは違う。傷があり、汚れがあり、誰かが使った跡がある。俺たちの知らないところで手を入れられ、部品を替えられ、それでも鉄砲としてここまで戻ってきた。


 今まで修理で戻ってきた鉄砲を見たことはある。


 でも、今回は違う。


 俺がその使われた場所まで来ている。


「直せるものと、直せぬものを分けております」


 川尻さんが言った。


「必要なら、ゆっくり見ていかれますか?」


 俺は鉄砲から顔を上げた。


「いいんですか?」


「一益様がよろしければ」


 俺は一益様を見る。


「……日が暮れるまでだ」


「ありがとうございます!」


「分解は」


「勝手にしません!」


「ならよい」


 善次郎が横で笑った。


「信長様に会いに来た奴とは思えんな」


「信長様は逃げへんやろ」


「言い方!」


 俺はもう一度、手の中の鉄砲を見る。


 どこが傷んだのか。


 何が替えられたのか。


 なぜそこが壊れたのか。


 直した人間は、何を見て、どう判断したのか。


 そして、俺たちが次に作る鉄砲で何を変えれば、使う人間がもっと困らずに済むのか。


 聞きたいことが、また増えた。


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