鉄砲の通り道
堺を出てしばらくすると、俺は暇になった。
正確には、俺にやることがない。
船を動かすのは船頭たちだし、進む方向を考える必要もない。一益様は船旅に慣れているらしく、時々船頭と言葉を交わす以外は落ち着いて座っている。善次郎も同じようなもので、俺だけが船の上をうろうろしていた。
「虎松」
「何?」
「邪魔や」
「どこがお前の場所なん?」
「そこ船頭通るやろ」
「あ、ごめん」
俺は端へ寄った。
しばらく海を眺めていたが、それにも飽きた。こういう時、景色を眺めながら物思いにふけれる人間なら格好もつくのだろうが、俺には向いていないらしい。
代わりに船の中を見る。
俺たちの荷物のほかにも、いくつか荷が積まれている。包まれたもの、箱に入ったもの、縄でまとめられたもの。それぞれ崩れないように置かれ、濡れて困りそうなものには覆いもしてある。
「なあ善次郎」
「今度は何や」
「鉄砲運ぶ時も、こんな感じ?」
「……今さらそこ聞くんか」
「ちゃんと見たことないもん」
「お前、百挺以上売っとるよな?」
「作っとる」
「売っとるのもお前んとこの鉄砲や」
「売っとるんはお前らやろ」
「そうやけどな」
善次郎は呆れた顔をした。
だが、考えてみれば本当に知らない。榊屋で鉄砲を作り、検査し、出荷するものを揃える。そこまでは知っているし、そのために何年も掛けて工房の仕組みを変えてきた。
その後、鉄砲がどうやって尾張まで運ばれているのかは、善右衛門や善次郎たちに任せていた。
「百挺ってどうやって運んどるん?」
「一度に百挺全部運ぶ時ばっかやないぞ」
「そうなん?」
「出来た分から先に動かす時もあるし、ほかの荷と合わせることもある。相手がいつ欲しいか、船がいつ出るかでも変わる」
「船って毎回同じ?」
「同じ時もあるし違う時もある」
「誰が決めるん?」
「俺らや向こうの商人と話して決める」
「雨降ったら?」
「降り方による」
「船出んかったら?」
「待つ」
「納期は?」
「遅れる」
「困るやん」
「困るから先に出すこともある」
「途中で荷が傷んだら?」
「虎松」
「何?」
「お前、今まで何やと思って鉄砲渡しとったんや」
「善次郎に渡したら尾張に届くものやと」
「俺は何や。術でも使うんか」
「使えへんの?」
「使えるか!」
一益様が笑っている。
善次郎は俺を睨んだ後、近くにあった荷を指した。
「ええか。お前らが作った鉄砲が工房から出たら、それで終わりちゃうぞ。まず荷をまとめる。何挺出すか決める。濡れんようにする。傷まんようにする。誰に運ばせるか決める。船で運ぶなら船を押さえる」
「うん」
「港まで持ってく人間もいる。船から降ろす人間もいる。津島に着いたら向こうで受ける人間もいる。そっからまた運ぶ」
「……結構おるな」
「当たり前や」
「百挺作るより人使ってへん?」
「知らん。数えたことないわ」
善次郎は笑った。
「でもな、作ったもんは勝手に歩いて客んとこまで行ってくれへんねん」
「そらそうやけど」
「お前、その『そらそう』を今初めて考えたやろ」
「……はい」
「やろな」
悔しい。
でも、完全に善次郎の言う通りだった。
俺はどうやって作るかばかり考えていた。一挺作るのにどこが詰まる。五十挺作るには何が足りない。百挺ならどこを外へ出す。寸法を揃え、治具を作り、人を育て、検査のやり方を決め、必要なものは在庫として持つ。
そこまでは散々考えた。
でも、百挺作った後に、その百挺をどうやって何十里も離れた客のところまで運ぶのかは、ほとんど考えていなかった。
善右衛門たちに頼めば届く。
俺の中では、それで終わっていた。
「……俺、何も知らんな」
「今ごろ気付いたんか」
「お前ちょっと嬉しそうやな」
「十年待った」
「そんな待っとったん!?」
「お前、鉄砲の話になったらずっと俺ら置いていくやろ。寸法がどうとか、治具がどうとか、ばねがどうとか。俺が分からん顔したら嬉しそうに説明しよる」
「嬉しそうにはしてへん」
「しとる」
「してへん」
「しとる」
一益様が口を挟んだ。
「今日は善次郎の番ということだな」
「そういうことです」
「違います」
二人して笑った。
くそ。
◇
せっかくなので、俺は善次郎に色々聞くことにした。
鉄砲を運ぶ時には、当然ながら鉄砲だけを考えればいいわけではない。船にも都合があり、運ぶ人間にも都合があり、港にも荷を受け取る側にも都合がある。
しかも、堺から尾張までずっと同じ人間が運ぶとは限らない。途中で荷を渡すこともあれば、まとめ方を変えることもある。どこからどこまで誰が責任を持つのかも決めなければならないし、物が動けば、その裏では当然、銭も動く。
「鉄砲渡したら、すぐ銭もらえるんちゃうの?」
「相手による」
「すぐ払ってくれるとこもある?」
「ある」
「後のとこも?」
「ある」
「どれくらい後?」
「それも相手による」
「嫌やな」
「商売やからな」
善次郎は平然としている。
「向こうに着いたこと確認してからの時もあるし、まとめて精算する時もある。長い付き合いなら毎回全部その場で終わらせるわけでもない」
「払ってくれんかったら?」
「取りに行く」
「怖いな」
「誰の鉄砲売っとると思っとんねん」
「すみません」
「それにな、払える相手かどうかを見るんも商売や」
「……なるほど」
「作ってから考えたんじゃ遅い時もある」
それは妙に刺さった。
俺は作れるかどうかを考える。
善次郎たちは、売れるかどうかを考える。
しかも、注文があるかだけではない。相手が払えるのか、いつ払うのか、どうやって運ぶのか、その途中で何が起きそうなのか。そこまで含めて、初めて売れると言えるらしい。
「百挺注文来たから百挺作りました。でも運べません、銭ももらえません、やったら困るもんな」
「困るどころちゃうぞ」
「工房死ぬ?」
「死ぬ」
「怖っ」
俺は今まで、生産能力を上げることばかり考えていた。でも、作れる数だけ増えても意味がない。月に二百挺作れるようになったとしても、月に百挺しか外へ出せないなら、残りの百挺は榊屋に積み上がる。
売れていなければ銭にもならない。材料代や職人に払うものは先に出ていくし、完成した鉄砲を置いておく場所も必要になる。工房の中だけを見れば生産量が増えていても、全体で見れば、ただ別の場所に詰まりを移しただけだ。
「二百挺作れても運べんかったら、百挺と一緒か」
「一緒より悪い時もあるぞ」
「何で?」
「置く場所食う」
「それは嫌やな」
「そこなんか」
「蔵建てたばっかやぞ」
「知らんがな」
善次郎が笑った。
でも、冗談だけでもない。空いている場所を残しておくことが大事だと、つい最近実感したばかりだ。作ったものを運べないせいで、その場所が全部完成品に埋まったら、せっかく持たせた余裕が消えてしまう。
作ることと、運ぶことは別の仕事だ。
だが、切り離せる仕事ではない。
榊屋の中だけを見ていたら分からない詰まり方が、外にもある。
「戦になれば、もっと面倒になるぞ」
一益様が言った。
「やっぱりですか」
「道が使えぬことがある。人足も取られる。船も、いつでも好きに使えるわけではない」
「届ける相手が動くこともあります?」
「当然ある」
「……そら川尻さんも早く送れ言うわ」
「今さら分かったか」
「頭では分かってたんですけど」
桶狭間の前、川尻は鉄砲も部品も出来るだけ早く送ってほしいと言ってきた。俺はその時、今川が攻めてくるなら道が危なくなるからだろうと考えた。
間違ってはいない。
ただ、実際にはそれだけではない。道が危なくなる。運ぶ人間がいなくなる。船が使えなくなる。荷を受け取る人間が移動する。届け先そのものが変わる。
戦になれば、榊屋がいつも通り鉄砲を作れていても、その先までいつも通りとは限らない。
「一益様」
「何だ」
「百挺って、多いです?」
「何に対してだ」
「戦で使う鉄砲として」
一益様は少し考えた。
「少なくはない」
「多くもない?」
「百挺あれば百挺で出来ることはある。だが、一度百挺揃えれば、それで終わりではない」
「壊れるから?」
「それもある。壊れる。失う。別のところへ回す。新たに必要になる。予備もいる。城に置くものもあれば、兵に持たせるものもある。それに、戦が一度で終わるとも限らん」
「ああ……」
俺にとって百挺は、一つの目標だった。五十挺しか作れなかった工房が、百挺作れるようになる。だから百という数字自体に意味があった。
でも、使う側からすれば違う。
百挺は到達点ではない。
必要な場所へ百挺入った。それだけだ。次に必要になれば、また要る。
「……嫌な商売やな」
「売っとる奴が言うな」
善次郎がすぐ返してきた。
「いや、分かっとるけど。終わりがないなと思って」
「商売なんてそんなもんや」
「お前たくましいな」
「誰のせいや」
「俺?」
「お前んとこが作る数どんどん増やすからや」
それは申し訳ない。
◇
しばらくして、俺はもう一つ気になっていたことを聞いた。
「一益様」
「今度は何だ」
「信長様って、どんな人なんです?」
「会えば分かる」
「一番困る答えや」
「なら何と答えればよい」
「怖いとか」
「怖くないと言えば安心するのか?」
「ちょっとは」
「では怖くない」
「ほんまです?」
「嘘だ」
「やめてくださいよ!」
善次郎が横で笑っている。
「虎松、お前緊張しとったんか」
「するやろ! 織田信長やぞ!」
「俺に言われても知らんわ」
「お前は会ったことあるん?」
「ない」
「ほな一緒やん」
「俺は呼ばれてへん」
「一緒に来るやん」
「お前の付き添いや」
「誰が付き添い必要やねん」
「昨日まで荷物の用意をお澪に見てもらっとった奴が言うな」
「何で知っとんねん!」
「宗次郎から聞いた」
「あいつ!」
一益様が呆れたように息を吐いた。
「心配せずとも、取って食われはせん」
「そこまでは思ってません」
「なら、聞かれたことに答えればよい」
「それだけです?」
「それだけだ」
「なんか気を付けることとか」
一益様は少し考えた。
「分からぬことを、分かったふりするな」
「……それは大丈夫です」
「何故胸を張る」
「分からんもんは分からんので」
「知っておる」
一益様が笑った。
「前に榊屋へ行った時もそうだった。お主は妙なところで自信満々なくせに、分からぬことは平気で分からぬと言う」
「だって分からんのに分かる言うても仕方ないでしょう」
「なら、そのままでよい。少なくとも、知ったふりをして間違ったことを申すよりはましだ」
「なるほど」
それなら何とかなりそうだ。
いや、何とかなるのか?
そもそも何を聞かれるのか分からない。百挺をどうやって作るのかと一益様は言っていたが、どこから説明すればいいんだろう。
治具。
寸法。
工程を分けたこと。
外へ仕事を出していること。
人を育てたこと。
検査。
在庫。
どれか一つで百挺になったわけではない。むしろ、それらを一つずつ変えてきた結果として、気が付けば百挺を揃えられる工房になった。
「……難しいな」
「何がだ」
「百挺作れる理由を説明するのが」
「作っておる本人が分からんのか」
「分かるんですけど、いっぱいあるんです」
「なら、いっぱい話せ」
「信長様、途中で飽きません?」
「それは知らん」
そこは教えてくれないらしい。
◇
船が進むにつれて、周りを行く船が少しずつ増えてきた。最初は遠くに見えていたものが、やがて近くを行き交うようになり、荷を積んだ船や人を乗せた船、岸で荷を動かしている人の姿も見えるようになってくる。
「もうすぐや」
善次郎が言った。
「津島?」
「ああ」
俺は前の方を見る。
津島。
名前は何度も聞いている。尾張との商いが増えてからは、荷の行き先としても聞くことが多くなったが、自分で来るのは初めてだ。
「思ったよりでかいな」
「お前、津島を何やと思っとったんや」
「尾張の港」
「合っとるけど雑やな」
「間違ってへんやん」
「お前に堺のこと聞いて『商人のおる町』言うようなもんやぞ」
「それは腹立つな」
「やろ」
近付くにつれて、俺が見ていたのは町並みより荷だった。
船が着けば人が寄ってきて、荷が降ろされる。別の場所では船へ荷を積み、縄でまとめたものを担いで運んでいる者もいる。ここにあるものが全部尾張で作られたわけでもなければ、全部ここで使われるわけでもないのだろう。
いろんな場所から物が来て、ここを通り、また別の場所へ流れていく。
善次郎が船の上で話していたことが、ようやく目に見える形になった。
「虎松」
「何?」
「降りるぞ」
「あ、はい」
船が着き、荷が下ろされる。俺たちも船を降り、久しぶりに揺れていない地面へ足をつけた。
そこで声がした。
「久しぶりだがね、虎松殿」
振り向く。
男が一人立っていた。
見覚えがある。前に一度、榊屋へ来た男だ。
「ご無沙汰しております、清兵衛さん」
「おお、覚えとったかね」
「覚えてますよ!」
松葉屋清兵衛が笑った。
俺も笑い返してから、少し引っ掛かった。
「……あれ?」
「どうしたね」
「清兵衛さん、前からそんな喋り方でしたっけ?」
「そりゃあ、最初ぐらいは取り繕うだぎゃ」
「取り繕ってたん!?」
「堺まで商いに行って、いきなりこれで喋っとったら何言っとるか分からん言われるがね。慣れてきたら別にええが」
善次郎が横で笑っている。
「清兵衛さん、こっちじゃ大体こんなんやぞ」
「知っとったん?」
「そら何年付き合っとると思っとるんや」
「教えてくれや!」
「何でわざわざ教えなあかんねん」
清兵衛が声を上げて笑った。
「善次郎から聞いとったけど、ほんま変わらんがねえ」
「もう二十歳ですよ」
「俺から見たら変わらんて」
「一益様にも似たようなこと言われました」
「ほんなら、そういうことだがね」
「どういうことです?」
清兵衛は答えず、善次郎の方を向いた。
そこで二人の顔が少し変わった。
「荷は?」
「先に回しとるがね。昨日着いた分も問題にゃあよ」
「次は?」
「二日後だが。そっちはちょっと遅れとる」
「道は?」
「大きいところはもう動いとる。けど、まだ人が多いでな。荷も兵もよう行き来しとるがね」
「支払いは?」
「川尻殿の分は話ついとる。ほかは後で帳面見せるで」
「分かった」
俺は横で聞いていた。
会話が早い。
何の荷なのか細かく言わなくても通じているし、どこまで話が進んでいるのかも、お互い分かっている。さっきまで俺をからかっていた二人が、仕事の話になった途端、必要なことだけを次々確認していく。
俺が工房で五平や佐吉と話している時と似ている。
説明しなくても分かる前提がある。
「何や虎松」
善次郎が気付いた。
「いや」
「何や」
「ちゃんと仕事しとるなと思って」
「しばくぞ」
「褒めたのに!」
「今まで何やと思っとったんや!」
「善次郎やと思ってた」
「それどういう意味や!」
清兵衛がまた笑った。
「善次郎、おみゃあ、こいつとずっとこんなんなんか」
「そうなんですよ。俺、苦労してます」
「俺の台詞や!」
一益様まで笑っている。
でも、俺は少しだけ感心していた。
清兵衛。
川尻。
善次郎。
善右衛門。
船頭。
荷を運ぶ人間。
榊屋の中にいると、ほとんど見えない人たちだ。
それでも、俺たちが作った鉄砲が尾張まで届くまでには、こういう人たちの仕事がある。工房で完成した鉄砲が、善次郎に渡した途端に客の手元へ現れるわけではない。
俺が見ていなかっただけで、榊屋の仕事にはずっと続きがあった。
「ところで」
清兵衛が一益様へ向き直った。
「お迎えの衆なら、もう来とるがね」
「そうか」
「川尻殿も一緒だで」
俺は思わず顔を上げた。
「川尻さん来てるんですか?」
「おるがね。ほら」
「虎松殿」
後ろから声がした。
振り向くと、何人かの男がこちらへ歩いてくる。その先頭に、見覚えのある男がいた。
「川尻さん」
「ご無沙汰しております」
「生きとった」
「……ええ、おかげさまで」
善次郎が俺の肩を叩いた。
「第一声それか」
「いや、手紙では知っとったけど!」
「もうちょいあるやろ!」
「ご無事で何よりです」
「遅いわ!」
川尻が苦笑した。
「虎松殿も、お変わりないようで」
「皆それ言うなあ」
「良いことでは?」
「俺、もう二十歳なんですけど」
「存じております」
「何で皆子供見るみたいな顔するんやろ」
「日頃やろ」
「善次郎は黙ってて」
川尻の後ろには、武装した男たちがいる。槍を持ち、旅の供というより、明らかに何かあった時に備える格好をしていた。
「この人たちは?」
「道中の護衛です」
一益様が答えた。
「やっぱいるんです?」
「いる」
「戦、終わったんですよね?」
「終わったからといって、翌日からすべて元通りになると思うか?」
「……ならんですね」
「今川方の者がすべて一斉に消えたわけでもない。兵も動いておる。道には荷も増えておる」
川尻も頷いた。
「大きな道は通れます。ただ、まだ普段通りとは言えません」
「なるほど」
歴史の本なら、桶狭間の戦いはもう終わっている。
勝ったのは織田信長。
今川義元は死んだ。
そこで一つの出来事に区切りがつき、次の頁では別の出来事が始まる。
でも、実際の土地は頁をめくったからといって切り替わらない。
戦が終わっても兵は残る。荷も動く。傷を負った者もいれば、昨日まで敵だった者がどこにいるのか分からない場所もある。一方で商人は商いを再開し、農民は畑へ戻り、暮らしそのものは待ってくれない。
勝敗が決まることと、その土地が平時へ戻ることは別らしい。
考えてみれば、当たり前のことだった。
「では、参りましょう」
川尻が言った。
「はい」
俺は返事をしてから聞いた。
「どこまで?」
川尻が少し笑った。
「まずは、殿のおられるところへ」
俺は一瞬黙った。
「虎松?」
善次郎が俺を見る。
「何や」
「急に静かになったな」
「いや……ほんまに会うんやなと思って」
「今さら何言うとんねん」
「津島着いたら急に現実味出てきたんや!」
一益様が歩き出した。
「心配するな。まだ着かん」
「それ何の慰めにもなってませんよ!」
善次郎と清兵衛が笑い、川尻も苦笑しながら俺たちの先へ出た。護衛の足軽たちがその周りを固め、俺も慌てて後を追う。
堺から津島までは、船で来た。
その間に見えたものだけでも、知らなかったことは山ほどあった。鉄砲を作った後に運ぶ者がいて、受け取る者がいて、銭を動かす者がいる。戦になれば、そのどれか一つが止まっただけでも、榊屋で作った鉄砲は相手まで届かない。
そして、ここから先は、その鉄砲が実際に使われた場所へ入っていく。
信長に会うのはもちろん気になる。
でもその前に、自分たちが送り出したものが、この土地でどう使われ、どう壊れ、どう直されているのか。
今は、そっちも同じくらい気になっていた。




