炉還りは五層の支度を終えます
王都の朝には春になっても冷たい風が残っていたが、壁際の暖炉では冬と変わらない橙色の火が燃えていた。一年ほど前、《帰還点登録》を得た直後、レオンたちは最初の《仮帰還点》にルシアンの私室の暖炉そのものを選んだ。人目を避けやすく、勝手に動かされることもない場所を選んだ結果、暖炉へ火を入れなくても困らない季節になってからも、王の私室ではそこだけ火が消えなくなっている。
橙色の光が足元から消えると、レオンは正面扉の閂を確かめた。隣に立つエティエンヌは国王と同じ髪、同じ髭、同じ肩幅をしており、朝の冷気にも暖炉の熱にも平然としているところまでよく似ている。
「今日も先に奥へ入っていてください。外の人たちを入れてから陛下と交代するので、正面の扉が閉まるまでは出ないでくださいね」
「半年も続ければ私も順番くらい覚えるさ。それより、冬はありがたかったこの暖炉が、そろそろ朝から暑くなってきたよ」
「夏まで続いたら陛下にも同じだけ汗をかいてもらってください。影武者だけ痩せたら、そっちの方が面倒です。ちなみに、暖炉は消してもらっても問題ありません」
エティエンヌは国王の顔のまま声を出して笑い、暖炉脇の小扉から奥の部屋へ入った。扉が閉じると、レオンはすぐ正面扉を開けた。
廊下にはルシアン本人と近衛二人、その後ろに王立工房の技師が二人、薬師が一人待っていた。薬師は蓋を革紐で締めた細長い箱を抱え、技師の一人は分解した送風部品を布で包んでいる。半年前なら国王と王立工房の人間をまとめて洞窟へ連れていくなど大仕事だったが、今では誰もこの朝の順番でもたつかない。
「今日は私も洞窟へ行く。午後までには城へ戻るつもりだが、そちらの仕事が長引いても私のことは気にしなくて構わない」
「陛下がそう言って昼飯を食わずに帰った日の方が少ないでしょう。帰る時刻は近衛にも分かるようにしておいてください」
「そこまで信用がないなら、今日は結果で取り戻すことにしよう。少なくとも夕食まで居座るつもりはないよ」
ルシアンが笑うと、後ろの技師たちもつられて笑った。薬師は抱えた箱を持ち直し、近衛たちと一緒に暖炉の前へ進んだ。
その間も王都から国王の姿が消えるわけではない。朝に影武者のエティエンヌを先に私室へ運び、同行者の目から隠したままルシアンと入れ替える。夕方は洞窟から戻った者を先に廊下へ出し、扉を閉めてから本物と影武者を交代させ、最後にレオンがエティエンヌを洞窟へ連れ帰る。最初は順番を一つ間違えるだけで冷や汗をかいた仕掛けも、半年続けば王立工房の荷物を運ぶ朝の日課へ混ざった。
全員が私室へ入ったところで、レオンは奥の小部屋にエティエンヌが隠れたままなのを確かめ、暖炉の前へ進んだルシアンの隣へ立った。
「荷物は身体から離さないでください。いつもの通り、俺の周りへ寄っていればまとめて洞窟まで移れます」
技師たちが工具袋を引き寄せ、薬師も箱を胸へ抱え直す。レオンが《最初の火》を帰還先に選ぶと、暖炉の火が大きく揺れ、橙色の光が一行の足元へ一気に広がった。
◇
次に足裏へ触れたのは、帰り火の洞窟の冷たい石床だった。王都より空気は冷えていたが、主洞にはもう朝から人の声と食器の音が満ち、厨房から焼いたパンの匂いが流れ、外では馬房の戸が大きな音を立てて開いている。昔のように、洞窟の広さを冷気と水滴の音だけで感じる場所ではなかった。
薬師が長卓へ箱を運び、王立工房の技師たちは客席へ座ることもなく双子の工房へ向かった。近衛二人もルシアンへ張りつかず、主洞の出入口と人の流れを見ながら壁際へ下がる。
畑側から戻ってきたミラはルシアンを見るなり早足で近づき、王立工房の技師が横を通り過ぎるのを待ってから、本人の袖を引いて耳元へ顔を寄せた。
「本物の王様、お帰りなさい。今日は五層へ行く準備が全部そろう日なので、出発するところまで見ていってくださいね」
周囲へ届かない声で言われたルシアンも、秘密を守ったまま楽しそうに声を落とした。
「朝一番で本人確認をされる国王も珍しいだろうな。今日もエティエンヌとは迷わなかったのか」
「迷いません。顔も声も同じですけど、私には違うところがいくつも見えます」
「そこまで言われると、いつか答え合わせをしたくなるな。今日はやめておくが、かなり気になってきたよ」
二人が小声で笑っていても、近くを通った技師は何も気づかず工房へ入っていった。王が洞窟へ通う日常の裏で、王都に同じ顔が残っている秘密まで守られていることを確かめ、レオンは長卓の木箱へ手を掛けた。
長卓には王都から運んだ細長い箱が置かれている。中には首まで覆う頭巾、透明板をはめた顔面部、交換式の濾過筒、油と蝋を染み込ませた上衣と手袋、それに長靴が収まっていた。前回、エイルと二人で口元へ布を巻いただけで五層へ入った時とは、見た目からして別物だった。
レオンが濾過筒を一本持ち上げたところで、帰り火の前にいたミラが突然大声を上げた。
「みなさん、大変です! 帰り火さんの《拠点カスタマイズ》のレベルが上がりました! 今まで選べなかった場所まで全部光っています!」
「本当か! 今度はどこまで広げられるんだ?」
「まだ全部は見ていません。でも、《生活域・生産機能の拡張を確認しました》って出ています! みんなで増やしたものを、帰り火さんが認めてくれたみたいです」
「そういうことなら、五層の支度を始める前に見せてくれ。俺も気になる」
その声に工房へ入りかけていたティルダとフレイが駆け戻り、ベラも厨房から濡れた手を布巾で拭きながら飛び出してきた。酒蔵へ向かっていたロアンまで向きを変え、長卓の反対側から帰り火を覗き込む。
ミラが帰り火へ頼むと、炉縁者へ共有された立体図が主洞の上へ大きく重なった。これまで色の付いていた主洞と窪地の外側へ輪郭が大きく伸び、さらに主洞の上には二つの層、地下にも広い空間を作れる範囲が現れている。
「三階まで作れるじゃないか! 寝る部屋を上へまとめたら、今の主洞を丸ごと食堂と仕事場に使えるよ!」
ティルダが腕を伸ばして上側の輪郭を指すと、フレイは立体図を地下へ回し、工房の真下へ指を突き入れた。
「私は地下がいい! 姉ちゃんが金槌を振るたび食堂まで響くんだから、炉も金床もまとめて下へ持っていこうよ。もっと大きい炉だって置けるよ!」
「僕の音楽室は工房と同じ地下でも、一番遠いところへ頼むよ。せっかく壁を増やせるなら、演奏の途中で鉄を叩く音まで伴奏にしなくていいだろう?」
「部屋より先に風呂と便所だよ! 人が増えるたび食堂の椅子は足してきたのに、あそこだけ昔の人数のままじゃ朝も夜も行列だからね」
ベラが立体図の端を大きく指で叩くと、今度は浴場と便所をどこへ広げるかで全員が一斉に喋り始めた。ルシアンまで輪の中へ入り、王城の改築図でも見るような顔で立体図を覗いている。
「私の城より増築が楽しそうだな。王立工房なら、この規模の図面を引くだけで何日も会議をするぞ」
「帰り火さんは岩を動かしても工賃を請求しませんからね。王城より安いです」
「ミラ、その話を王立工房の技師の前でするのはやめておこう。彼らの仕事を奪ったようで私の立場がない」
工房の入口から本当に技師の一人がこちらを睨み、主洞に大きな笑い声が上がった。
窪地からキュウまで顔を突っ込み、自分の名前が出るたび首を伸ばして立体図へ鼻先を寄せる。大きく成長した身体は人の胸より高く、尻尾を振れば椅子をまとめて倒しかねない。
「キュウの部屋は一階のまま広げましょう。三階まで上がらせたら、途中の曲がり角で壁を削ると思います」
「キュウ、お前だけ一階に豪邸をもらえそうだぞ。その代わり、工房を尻尾でかき回すのはやめてくれよ」
ティルダが背を叩くと、キュウは話の意味など分かっていないくせに、洞窟中へ響く声で機嫌よく鳴いた。
レオンは笑いながら立体図を地下側へ回し、外斜面へ抜けられる位置を探した。寝室や音楽室の場所は皆に任せればいいが、今の運び方だけは前から気に入らなかった。
「地下へ倉庫を作るなら、外から荷車をそのまま入れられる斜路と搬入口も作ろう。酒樽や鉱石を食堂の前へ通すのはもうやめたい。倉庫まで直接入れれば、朝の荷下ろしで人を避ける手間が丸ごと消える」
「それいいね! 工房にも荷物を運びやすくなるし、地下の倉庫は広めに取ろうよ」
「ああ。酒樽と鉱石じゃ置き方も違う。運び込んだ先で分けられるようにしたいな」
「じゃあ搬入口から先の通路も考えないとね。姉ちゃんが大きな炉を作るつもりなら、材料を運ぶ道まで広くした方がいいよ!」
一年前、この洞窟には古い炉と壊れた棚しかなかった。今では三階建てにするか地下を広げるかで、住んでいる連中が声を張り上げて揉めている。
部屋が増えたから人が増えたのではない。ここで暮らす人間と仕事と遊びが増えたから、とうとう洞窟の方が追いつけなくなったのだ。それがレオンにはたまらなく嬉しかった。
「好きなだけ相談してくれ。ただし今日は五層へ行く日だから、俺は先に支度を終わらせるぞ」
「分かってる。こっちも昼までには案を絞るから、二人だけで勝手に先に入っちゃだめだよ!」
ティルダの声を背中で聞きながら、レオンは長卓へ戻った。
◇
昼前になると、長卓の片側は五層用の防護具で埋まっていた。いつもなら皿やパン籠が置かれる場所へ、防護服、頭巾、濾過筒、予備の濾過材、薬瓶、キュウ用に作り直した大きな装具が並んでいる。
レオン、ベラ、ロアン、ティルダ、フレイ、エイル、リュネ、それにキュウまでが長卓の周りへ集まった。
王立工房の技師が最後の送風部品を頭巾へ取り付け、双子が作った固定具へ指を掛けて強く引いた。留め具は外れず、濾過筒へ風を通すと透明板の内側へ空気が流れる。
「これで全員分の送風部品まで完成です。着方も外し方も散々試したんですから、今日は壊さず使って、帰ったら使用感を教えてください」
装着手順は何度も練習しており、洗い方も交換部品の扱いも全員知っている。今日の長卓で新しく覚える手順はもうなく、残っているのは、この装備で石扉の向こうへ入ることだけだった。
一年前、五層へ入ったのはレオンとエイルの二人だけだった。その時の二人を思い出すと、レオンはもう黙っていられなかった。
「エイル、見ろ。前は俺とお前だけだったのに、今日は出入口が狭く見えるくらい人が増えた」
「あの時は、三歩目の先を見る余裕もなかったからな。今日は全員で行ける。あの曲がり角の向こうまで、ようやく確かめられるぞ」
「あたしも楽しみだよ。青い葉だ黄色い花だって何度も聞かされて、ずっと自分の目で見たかったんだからね」
ティルダは大きな空の素材袋を二つ、長卓の防護具の脇へ叩くように置いた。
「四層までと同じ素材しかないなんてことはないだろう。白魔鋼みたいな物を見つけたら、帰ってから使い倒すんだ」
「姉ちゃん、その袋を全部素材で埋めるつもりなら、魔物を撃つ方は私に任せてよ。一番目立つところくらい私に残しておいて」
フレイは素材袋の一つをティルダの側から自分の足元へ引き寄せ、重弩の肩紐を掛けた。姉が取り返そうと手を伸ばすより先に、ベラが二人の間へ短杖を横に差し入れる。
「素材袋の取り合いは五層から帰ってからやりな。それよりレオンとエイル、前みたいに二人だけで先へ走るんじゃないよ。こっちは一年近く、あんたたちの『三歩目の先』に付き合ってきたんだからね」
「前に帰ってきた時、二人とも毒と酒でふらふらだったくせに、風呂の中では青い葉の先へ行きたいって笑ってたじゃないか。そこまで聞かされたら、今日はあたしたちも一緒にその先を見るよ」
エイルは声を上げて笑いながら、いつでも動けるよう弓を背へ回した。
「そこまで覚えてたのか。俺は覚えてるぞ。青い葉の先で道が右へ曲がってた。あの日はそこへ足を出す前に指が動かなくなった」
「なら今日は三歩目を越えて、その曲がり角まで行く。先が森でも沼でも魔物の巣でも、何があるか自分の目で見て帰るぞ」
「曲がり角の向こうなら、僕も音を聞きたいね。三層の森と四層の崖で響き方が全然違ったんだから、五層だけ毒草しかありませんでしたでは退屈すぎるよ」
ロアンは防護手袋をはめたまま精霊リュートを抱え、太い弦と細い弦を続けて鳴らした。布越しでも指が動くと分かると、満足したまま楽器を肩へ掛ける。
「じゃあロアンが音を聞いている間に、私は草の担当。それだけ強い毒と痺れを持つ植物が固まって生えているなら、薬に使える物まで一つもない方が不思議だもの」
リュネはティルダの素材袋へ、小さな空瓶をいくつも革紐ごと放り込んだ。
「知らない葉や実を見つけたら、この瓶にも入れて持って帰って。見た目が似ていても、採った場所や育ち方が違えば確かめたいことが増えるもの」
「いいよ! 鉱石や魔物の素材とは分けたいから、瓶を入れた袋はあたしが持つ。フレイ、そっちは大きな物を拾った時に使ってくれ」
「任せて! 姉ちゃんが夢中になって拾い始めたら、私が周りも見ておくよ」
フレイはもう一枚の素材袋を腰へ結び、リュネは薬瓶の入った方をティルダへ押し返した。
「薬の使い方だけは、ここで一回言っておくよ。青と黄は具合が悪くなった時に飲んで帰るための予備だから、飲めば進めるなんて考えないでね。そこを守ってくれれば、あとは私も楽しむから」
「分かった。今日は薬を飲み比べに行くんじゃなく、止まってた探索を再開しに行く」
レオンが答えると、ベラは夕食のご褒美まで言い出した。
「それなら帰ったら肉を焼いてやるよ。前より先へ進んで何か面白い物まで見つけてきたら、酒も一本開けていい」
「それだけで酒が出るのか。今日はずいぶん気前がいいな」
「待った分の祝いだよ。あんたたちがまた入口から三歩で帰ってきたら、その酒は料理に使うけどね!」
「聞いたか、エイル。帰りの酒を守るためにも四歩以上は絶対に行くぞ」
「目的が急に安くなったな。俺はあの曲がり角の先まで行くから、お前は酒のために好きなだけ歩け」
長卓の周り全体から笑い声が上がる中、キュウは笑う代わりに、自分用の防護具を着せられてから何度も大きな頭を振っていた。透明板へ鼻先が当たるたび不満そうに喉を鳴らすくせに、誰かが石扉の方へ動けば真っ先についていこうとする。
「キュウ、お前も行きたいのは分かったから、ぶつけて壊すなよ。王立工房が何度お前の頭を測ったと思ってるんだ」
「四回です! 成長するたび寸法が変わったので、次に大きくなったら今度こそ追加料金を取りたいくらいですよ!」
工房の入口から技師が怒鳴り、キュウは負けじと洞窟中へ響く声で鳴いた。
「料金の話だけはエルネが泣きながら聞くぞ。エルネに怒られたくなければ、今日はそれを着たまま帰ってこい」
レオンが首の横を叩くと、キュウは身体ごと石扉へ向き直った。尻尾が床を叩くたび、出発を急かしているように大きな音が鳴る。
その様子を見ていたミラが、長卓の反対側から両手を上げた。
「みなさん、帰ってきたら五層で見たものを全部教えてください。前はレオンさんとエイルさんの話だけだったので、今度は八人で見たら、きっと違うものがたくさんあります」
「ああ、八人で見てくる。キュウが何を見つけるかも楽しみだな」
「キュウはきっと、私が見つけられないものまで見つけてくれますよ。帰ってきたら、みんなの話を聞かせてくださいね」
レオンは笑ってミラへ大きく頷いた。
「任せろ。八人分の土産話を持って帰る。お前が帳面を一冊使い切るくらい、面白いものを見つけてくるよ」
その言葉を口にした瞬間、レオンの中で五層から戻ってから今日までの時間が一気につながった。五層の扉を開けた日、エイルの指が動かなくなり、自分の喉も焼けるように痛んだ。薬を飲んで二度入り、それでも三歩目の先へ進めず、黄色い花と青い葉を見ただけで戻った。
その翌日から、五層へ戻るための仕事が始まった。
リュネは薬を作り直し、双子は装備を直し、ベラは加工や試験を手伝い、ロアンまで素材や精霊の使い方へ首を突っ込んだ。王都へ対策を探しに行けば、国王と知り合い、騒乱に巻き込まれ、帰還点まで増えた。その間にも洞窟では人が増え、仕事が増え、とうとう主洞の上下へ新しい階まで作れるようになった。
五層だけが、あの日の三歩目で止まっていた。今日、その止まった続きをようやく自分たちの足で動かせる。
レオンは頭巾を被る前に、エイルの肩を拳で強く叩いた。エイルも拳でレオンの肩を叩き返し、獲物を見つけた時のような笑顔を隠そうともしなかった。
「最初からそのつもりだ。あの日に引き返したのは正しかったが、悔しくなかったわけじゃない。今日は俺たち二人の続きを、こいつら全員で奪い返しに行くぞ」
「よーし。じゃあ早く行こうよ! 私、どんな魔物がいるのかずっと楽しみにしてたんだから!」
フレイが重弩を肩へ掛けると、ティルダも戦槌を背負い直し、二人そろって石扉へ顔を向けた。
「ようやく出番だね。あたしも一年待ったんだ。今日は一番後ろからでも全員を守ってやるよ!」
ベラが短杖を掲げると、ロアンはその隣でリュートの弦をひとつ鳴らした。
「それなら帰り道は僕に任せてよ。珍しいものを見つけたら、その場で一曲作ってしまうかもしれないからね」
ロアンがリュートを背へ回し、リュネも薬袋を腰へ押さえながら列へ加わる。キュウはとうとう我慢できなくなったのか、全員の脇を抜けようとしてティルダとフレイの間へ大きな頭を突っ込んだ。
五層へ入る前から列はもうきれいではなかったが、レオンは並び直せと言う気にならなかった。前は二人で開けた扉を、今日はこんな連中と開けるのだから、その方がずっと面白かった。
レオンは防護頭巾を肩へ掛け、石扉へ向かって歩き出した。
「行くぞ。今日から五層の続きを始める。帰ってきたら、今夜はベラの肉と酒で続きを話そう!」
ティルダとフレイが同時に声を上げ、ベラが負けない声で怒鳴り返し、ロアンは例の勇壮な曲をかき鳴らす。リュネはキュウの巨体を避けながら列へ入り、エイルはレオンの隣で声を上げて笑った。
石扉まで残り十歩もないところまで来た時、長卓の端でずっと一行を見ていたルシアンが椅子から立ち上がった。
「その話で盛り上がっているところ悪いんだが、先に頼みたいことがある」




