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帰り火の洞窟 ~役立たずと追放された少女、拾った洞窟を仲間たちの帰る場所にします~  作者: Rastarock
王冠と三つ火

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仲裁人は炉還りの記録を読みます

 ルシアンの執務机には、夜のうちに届いた書類が六束積まれていた。


 朝の支度を終えたばかりで、淡い褐色の髪はまだきっちり撫でつけていない。紺色の上着も椅子の背へ掛けたまま、白いシャツ姿で最初の束を開いていた。


 その束は街道補修費についてだった。三つの役所がそれぞれ違う理由を書き並べながら、最後にはほとんど同じ額を要求している。昨夜までの案から数字は少し動いていたが、譲る気のない箇所まで同じだった。


 ルシアンは三枚目まで読んで束を閉じた。開けた窓から朝の風が入り、紙の端を持ち上げるたび、机の隅の真鍮製の文鎮が小さく鳴る。


 扉が二度叩かれた。


「入っていいぞ。街道の話なら、今ならまだ聞かなかったことにできる」


「残念だったな。もっと面倒な方だ」


 入ってきたセドリックは、濃い茶色の髪を短く整え、派手さのない同色の上着を着ていた。薄い書類箱を片腕に抱え、反対の手には蓋つきの陶杯を二つ持っている。左袖の釦が一つ外れたままなのは、朝から何かを急いでいたらしい。


 机まで来ると陶杯の一つをルシアンの前へ置き、座るより先に食事の皿がないことを確かめるように卓上を見回した。


「その顔をするな。朝は食べた。パンと卵だ」


「ならいい。二十年以上前みたいに、朝飯を抜いたまま午前を乗り切ろうとして菓子を三つ食うなら、先に止めるところだった」


「まだ覚えているのか。あれは一度しかやってない」


「一度で十分だった。最近なら忘れてやるんだがな」


 セドリックはようやく向かいへ座り、書類箱を開いた。


「ヴァレーヌ侯爵の周りは、昨日までと大きく変わっていない。会っている相手も、こちらで追えている範囲から外れていない。ただ、レイヴァンが一つ妙なところへ顔を出した」


 差し出された一枚の上部には、王立職能監理院と記されていた。その下にある名前を見て、ルシアンは陶杯へ伸ばしかけた手を止めた。


 オルディス・レイヴァン伯爵。


「本人が行ったのか。南方絡みの照会なら、家の担当者から返せば済むだろう」


「私もそこが引っかかった。城門で止められた未登録職能者について、南方由来の可能性を監理院から照会された。そこまではレイヴァン家の仕事から外れていない。だが、レイヴァンは回答を寄越すだけでなく、昨日の夕方に監理院へ入り、そのまま事情聴取へ同席している」


 ルシアンは書類の下まで目を通した。


 一介の拘束者へ伯爵本人が会いに行った。それだけで悪事になるはずもない。南方交易と情報に長く関わる家なら、未知の職業が国外由来かもしれないという照会を重く見たとしても説明はつく。


 説明はつくが、政争の相手側で長く実務を担ってきたレイヴァンが自分から動いた以上、見過ごす理由もなかった。


「拘束された男は?」


「レオン。《旅商人》として商人登録があり、冒険者登録はC級。昨日、王都へ入る際の検札で職業札から未登録の識別情報が出た。本人は現在の職名を《炉還り》と申告している。私は聞いたことがないし、監理院の既存台帳にもない」


「《炉還り》か。名前だけ聞いても、何をする職か分からないな」


「本人も全部は話していない。まず監理院の記録を読んだ方が早い」


 セドリックが出した二枚目は、最初の聴取を担当した監理官の記録だった。


 《旅商人》から《炉還り》への職業変更は、本人が提示された新職を選んで成立した。提示したのは人間ではなく、ある設備。所在地は第三者に関わるため回答せず、設備の所有者も知らないという。


 技能については、《素材鑑定》《剣術》《騎乗》《野営》《解体》《商談》《危険察知》《身体強化》を本人が選んで開示している。それが全技能ではないことも、監理官は記録上で区別していた。


 同じ設備で職業が変わった者を知っているかという問いには、本人の許可なく他人の職業を話すつもりはないとして回答を拒んでいる。


 ルシアンは最後まで読み、紙を机へ置いた。


「最初の担当は丁寧だな。答えなかったことと、分からなかったことを混ぜていない」


「私もそこは評価した。監理院には守旧派の影響が強いが、職員全員が同じ考えで筆を持っているわけじゃない。少なくとも、この担当は供述と自分の推測を分けている」


「所在地を伏せた理由も、勝手に補っていないな。次は?」


 二度目の聴取では、質問の向きが変わっていた。


 出身はベルク北方の鉱山町。十五になる前に町を出て、父と行商を始め、その後は一人で商いを続けてきたという。南方へ商いに行った経験はなく、本人が南方出身と知ったうえで継続的に付き合う相手もいない。魔族との接触経験もない。


 ここまでは、未知の職業が国外から持ち込まれた可能性を潰すための確認として読めた。


 その後ろに束ねられた紙だけ、筆跡も文章の作りも違っていた。


「これがレイヴァンの分か」


「ああ。監理院の正式記録に添付された意見だ。読めば、本人まで出向いた理由が少し見える」


 未知職の発生源を秘匿。関係者について回答を拒否。設備の由来は不明で、魔族由来でないと証明する材料を持たない。同時期に、中央では別の未登録職能を二件確認している。


 さらに、レオンは過去に違法奴隷商事件へ関与し、その際、奴隷商側が所持していた希少魔道具の一部を受け取った、とある。


 ルシアンは紙を離さず、最初の調書へ視線を移した。


「上手いな。書いてある事実を一つずつ否定しようとすると、ほとんど否定できない」


「だから厄介なんだ。設備の場所を答えないのも、第三者の職について話さないのも事実だ。設備を作った者を知らない以上、魔族由来ではないと本人が証明できないのも、言葉の上では間違っていない」


「奴隷商の魔道具を受け取った、という部分も?」


「そこは別の記録を持ってきた。レイヴァンが嘘を書いたとは言えないが、この一枚だけを読ませるのは趣味が悪い」


 セドリックが開いた次の束には、ベルク冒険者組合の記録が写されていた。


 人攫いの追跡、採石場の拠点制圧、逃走した奴隷商側の馬車への追撃。被害者を救出し、捕虜を連れてベルクへ戻っている。


 奴隷商が落とした鞄は組合へ提出され、記録係の立会いで開封された。金銭、通行証、宿札、書簡、帳簿、黒い宝珠。別に押収された短杖も記録され、宝珠と短杖は証拠確認が終わったあと、レオンたちへ返却されている。


「なるほど。確かに『受け取った』」


「だろう? 救出したことも、捕虜と証拠品を持ち帰ったことも書かずに、最後の一行だけ抜けばそうなる」


「レイヴァンは昔から、嘘をつかずに事実の並べ方を変えるのが上手い」


 ルシアンは事件記録をもう一度上から追った。救出人数、捕虜、負傷者、提出物。少なくとも、ここからレオンが奴隷商側と通じていたと読むのは無理がある。


「商人と冒険者の登録は?」


「どちらも現在まで続いている。ベルクを中心に長く活動していることも、既存の登録記録と食い違っていない。ただし、鉱山町の生まれだとか、父親と行商したという細部は昨日の本人申告が中心だ。今朝までにそこまで裏を取れてはいない」


「それでいい。確認していない部分まで、こちらで白く塗る必要はない」


 ルシアンは三種類の紙を重ねず、机の上に並べて置いた。


 監理院の調書には、答えたことと答えなかったことがある。レイヴァンの意見書は、その隙間を外部勢力への疑いへ向けている。ベルクの記録を足すと、少なくとも奴隷商事件の見え方は大きく変わった。


 それでも、レイヴァンが関わったという理由だけで意見書を捨てる気にはなれなかった。


「ヴァレーヌ侯爵から、この件について何か指示が出た形跡はあるか?」


「今のところ拾えていない。昨日のヴァレーヌ邸にも大きな動きはない。レイヴァン自身の判断で動いた可能性は十分ある」


「南方と魔族を結びつければ、今の争いには使いやすい。改革を進めれば国防が弱くなる、長い平和で危機を忘れた、と何度も言っているからな」


「だからといって、レイヴァンが持ってきた火事の知らせを見ずに捨てたら、こちらまで馬鹿になる。嫌いな相手の報告でも、本当に煙が出ているかは確かめないといけない」


「朝から家を燃やすな。まだ茶も飲んでいない」


「眠いんだ。喩えの質までは求めるな」


 ルシアンはそこで初めて陶杯を取った。蓋を外すとまだ湯気が残っており、一口飲むには少し熱い。


 セドリックは書類箱の底から、さらに厚い紙束を取り出した。


「それで、今朝もう一つ増えた。こっちは所持品確認と、詳しい鑑定に回した分の報告だ。これを読むと、レイヴァンの書き方が気に入らないからという理由だけで、この男を笑って帰す気にもならなくなる」


「ずいぶん嫌な前置きだな。見せろ」


「本人立会いで受領札と封印を照合してから、剣と《空間収納宝珠》を確認した。宝珠の中身は一度出して記録し、終わった物から戻して再封印。違法品は出ていない」


 ルシアンは一覧の一行目を読んで、思わずセドリックを見た。


「《岩牙大猪》、一頭。素材一式ではなく、本当に一頭なのか?」


「私も同じところで止まった。王都へ来る途中で遭遇して、本人申告では一人で仕留めたらしい。ほぼ丸ごとの状態で収納されていた」


「旅商人だったはずだが」


「C級冒険者でもある。そこを忘れると、たぶん話を間違える」


「そうだったな。続きは?」


 旅糧、着替え、薬、野営道具。そこまでは、単独旅行者の荷として特別なものではない。


 そのあとに、白魔鋼を使った留め具が二点、青魔鉄を芯材として白魔鋼を組み合わせた短剣が一振りと続く。いずれも売却品ではなく、王都で評価を受けるための試作品だと本人は説明していた。


 監理院の鑑定担当が残した所見は、素材名だけで終わっていない。


 白魔鋼は軽く、魔力を通しやすく、腐食にも強い。古い高級魔道具や上等な武具で見つかることはあるが、量を使えば何でも優れた品になるわけではない。荷重を受ける部分には青魔鉄を残し、白魔鋼は魔力の通り道や着脱・可動を求める箇所へ使う。その使い分けまで加工の段階で考えられている、と記されていた。


 留め具は小さいが、交換と分解を前提に形が揃えられている。短剣も、青魔鉄と白魔鋼の性質を分けて使い、柄まで実戦用に調整されていた。


「珍しい素材を見せびらかす品じゃないな」


「そうらしい。本人が持っていた覚え書きには、白魔鋼だからいくらになるかではなく、軽さ、魔力の通り、加工精度、それから青魔鉄との組み合わせのどこが評価されるかを聞く項目が並んでいた」


「そこは、ずいぶん旅商人らしい」


「問題は次だ。試作品を作った者が、レオン自身の装備も作っている可能性が高い」


 セドリックが渡した別紙には、城門で預けられた剣と、レオンが着たまま監理院へ入った防具の鑑定結果がまとめられていた。


 剣は青魔鉄を主体に、必要な箇所へ別素材を組み合わせた実戦用だった。片手で扱う重心を崩さず、刃元から柄まで、壊れた部品を交換しながら長く使う構造になっている。さらに魔力を通して振り抜けば、その軌道の先へ斬撃を飛ばす付与まで組み込まれていた。


 防具は魔物革と金属部品を組み合わせ、青魔鉄を荷重の掛かる芯へ、白魔鋼を可動部や魔力を通す箇所へ使っていた。複数の部材には精霊由来と見られる加護が残り、風の働きによって着用時の負担を軽くしている。


 さらに、魔力で形を保つ攻撃が防具へ直接触れた場合、その構成を乱す付与が確認されていた。通常の石や武器そのものを砕く力ではなく、魔力で形成された攻撃に対して働くものだという。


 ルシアンは最後まで読み、今度はすぐに紙を机へ戻さなかった。


「試作品三点は、これより落ちるのか?」


「用途が違うから、同じ効果を持つわけじゃない。ただ、鑑定担当は加工精度、素材の使い分け、魔力を通す部分の仕上げを、現用品と同じ水準だと見ている。持ち込んだ試作品だから出来が一段落ちる、という扱いではない」


「誰が作った」


「レオンは仲間が作ったとだけ説明した。名前も工房の場所も出していない。鑑定担当は、鍛造だけでなく、設計、組み立て、精霊への働きかけまで一人で全部やった品には見えない、と書いている」


 つまり、珍しい材料を偶然手に入れた旅商人が、高価な装備を一揃い買ったという話ではなかった。


 使い、壊れた箇所を替え、素材ごとの役目を変えながら作り直してきた痕跡がある。それと同じ水準の試作品を、売るかどうか決める前に市場へ持ち込み、評価項目を分けて聞こうとしている。


 そのうえ、レオンは製作者たちの名前も場所も話していない。


 セドリックが鑑定紙の端を押さえた。


「白魔鋼そのものより、私はこっちの方が気になる。この装備を作って終わりじゃない。直して、作り替えて、同じ水準の試作品まで出せる場所がどこかにある」


「だから危険だ、とまでは言えない」


「もちろん。良い鍛冶師と暮らしているだけかもしれない。ただ、もしレオン本人に王都で何かする意思があったなら、昨日の城門で止まったことを軽くは見られない」


 ルシアンはそこで、机の上へ並べた紙をもう一度見渡した。


 長く続く商人登録とC級冒険者としての記録には、大きな崩れがない。奴隷商事件では救出側に立ち、捕虜と証拠品を正規の手順で組合へ渡している。一方で、未登録の職を持ち、その発生源と他の関係者については口を閉ざしたまま、王都でも容易に揃わない装備を身につけている。


 レイヴァンは、そうした未確認部分を南方と魔族への疑いに結びつけていた。根拠は薄いが、だからといって未確認の部分まで消えるわけではない。


「セドリック。この男が本当に悪意を持って王都へ入ったと仮定したら、どこが一番危ないと思う?」


「剣だけなら、今は封印されている。防具が強いだけなら、それで街が壊れるわけでもない。私が気にするのは、開示していない技能と、同じ水準の装備を作れる者が他にいるかどうかだな。もっとも、分からないから危険だと決めつければ、レイヴァンと同じことをやる」


「そうなるな。逆に、経歴が白そうだから問題ないと決めれば、今度は装備の方を見なかったことになる」


「紙だけで好きな結論を作れる状態だ。実に面倒だな」


「お前が持ってきたんだろう」


「レイヴァンへ言え」


 ルシアンは少し笑ってから、第一次確認の調書を手元へ引き寄せた。


 同じ設備で職業が変わった者を知っているか。本人の許可なしに他人の職業を話すつもりはない。存在するかどうかだけでも同じで、いると答えた時点で他人の話になる。


 その部分には、監理官の解釈が添えられていなかった。


「ここを、セドリックならどう読む?」


「不審な仲間を庇っている、と書きたければ書ける。自分が拘束されても友人の秘密を売らない、と書きたければそれも書ける。どちらを選んでも、今の紙だけなら書いた側の性格が出るだけだ」


「レイヴァンは前者を選んだ」


「最初の監理官は、選ばずに記録した。さて、ルシアンはどっちを選ぶ?」


 ルシアンはすぐには答えなかった。


 書き手の違う報告をいくら重ねても、レオン自身がどういう男なのかまでは決まらない。本人と一度話せば全部分かるとも思わないが、少なくとも他人が切り取った言葉を読み続けるより、次に確かめるべきものは明らかだった。


「本人と話す。これ以上、机の上で知らない男を作るのはやめよう」


 セドリックは驚かなかった。陶杯を持ち上げ、残っていた茶を飲んでから立ち上がる。


「そう言うと思った。お前が直接動く日は、だいたい予定が増える」


「まだ朝だ。増やす余地は十分ある」


「その考え方をするから嫌なんだ。六束目の街道補修費は消えないぞ」


「なら、お前に任せる」


「今すぐ監理院へ行こう。急に気が変わった」


 セドリックは書類を集めたが、レイヴァンの意見書だけは他の束へ重ねず、薄い紙を一枚挟んで別にした。


「監理院にはどう伝える?」


「面談を一つ入れてくれ。私が話す前に拘束を解けとも、続けろとも言わない。昨日の担当にも最初は同席してもらおう。手続きを踏んで記録してきた者を、こちらの都合で外す必要はない」


「レイヴァンも呼ぶか?」


「呼ばない。レオン本人の話を聞きたい時に、横から筋書きを足す人間はいらない」


「そこは迷わないんだな」


「レイヴァンの意見はもう十分読んだ。次はレオンの番だ」


 ルシアンは椅子の背に掛けていた上着を取り、袖を通した。


     ◇


 王立職能監理院では、すでに朝の受付が始まっていた。


 二人は表の受付を通らず、裏手の記録搬入口から建物へ入った。セドリックが先に手配していたため、その先の細い廊下では、荷を運ぶ職員が一人、こちらを見る前に脇の書庫へ入っていった。朝の受付が始まったばかりの表側から、人の声と紙を揃える音が壁越しに届いている。


「レオンは今どこにいる?」


「朝食のあとで所持品確認に立ち会って、そのまま別の面談室へ移っています。昨日の二次確認を担当した係官が中にいるはずです」


 ルシアンの問いに対し、話し方を改めたセドリックが簡潔に答える。


「所持品を出した時、何か揉めたか?」


「揉めてはいません。《岩牙大猪》が一頭出てきたところで、鑑定を担当した職員がしばらく黙ったらしいです。レオン本人は、帰ったら食べるつもりだったと説明したそうで」


 ルシアンは歩きながらセドリックへ顔を向けた。


「それも正式記録に?」


「いいえ。立ち会った者から聞いただけです。記録には『食用予定』としかありません」


「そのくらいでいい。そこまで記録されたら、本人も気の毒だ」


「岩牙大猪を一頭持ち歩いている時点で、記録係に同情します」


「それもそうだな」


 階段を一つ上がり、廊下の奥で曲がる。前を歩くセドリックは一枚の紙で部屋番号を確かめ、足を止めた。扉の向こうには、まだ会ったことのない男がいる。


 レイヴァンの報告書だけを読めば、レオンは危険人物に見える。ほかの記録を辿れば、義理堅い旅商人という見方もできる。どちらにしても、今ここにあるのは他人の筆で描かれたレオンだった。


「まだ戻れるぞ、ルシアン。街道補修費が待っている」


 声を潜めたセドリックがルシアンの耳元で囁いた。


「それは戻らない理由だろう。扉を開けるぞ」


「知ってる。だから言った」


 ルシアンは取っ手へ手を掛け、そのまま扉を開いた。

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