炉還りは最下層へ降ります
十四日目の夕方、レオンが打ち込んだ青魔鉄の杭に、ティルダがもう一本並べた。岩の割れ目を挟んで固定具を組み、フレイが主索を通す輪の向きを合わせると、下に見えていた広い岩棚へ昇降台を下ろすための台座が、ようやく据えられた。
岩棚の縁へ膝をつけば、灰色の平らな面がはるか下に広がっている。その上には石柱のような影が幾つも立ち、最も奥の影は闇に溶けて輪郭さえ分からなかった。何かが動いたように見えるたび、レオンは身を乗り出し、目が慣れるのを待った。
「レオン、杭を打ち終えたなら今日は引き揚げよう。暗くなってから下ろしても、着いた先の足場を調べられない」
エイルが背後から声を掛けた。レオンはまだ手にしていた槌を見下ろした。昇降台の木枠も金具も野営地から運んできている。あと一仕事できれば、今夜のうちにあの広い岩棚へ立てるかもしれない。
「荷物だけなら下ろせるだろう。あそこまで届くと分かれば、明日の朝すぐに人を送れるじゃないか」
「荷物を下ろして、横風で引っ掛かったら誰が直しに行く。俺たちの足で戻れる明るさを残せと、昨日お前も言ったはずだぞ」
レオンは言い返しかけて、口を閉じた。ティルダは槌の柄にもたれて荒く息をつき、フレイは立ったまま膝を曲げ伸ばししている。何本もの橋を渡って帰るだけで、もうひと仕事だった。
「分かった。明日はここから始めよう。俺もあいつを見つける前に誰かを担いで帰りたくはない」
主索を巻き、台座を砂から守る布を掛ける。ティルダは最後まで下の岩棚を見ていたが、フレイの方から手を差し出すと、その手を借りて立ち上がった。二人は帰り道にも口数が少なく、ただ橋板の上では先に渡った方が振り返り、後から来る者の手摺を見ていた。
◇
石段の野営地に戻ると、ベラは温めておいた干し肉と豆の煮込みを椀によそった。食料は十分にあるはずなのに、皆の前へ置いたあとも鍋の底を掻き回し、汁の濃さを確かめている。レオンが余った分は明日に回せと言うと、ベラは匙を置いてようやく座った。
「明日、あの広いところまで下りるんだね。もしキュウが倒れていたら、まず飲み物がいるだろうから、温かい汁は宝珠へ入れておいておくれ」
「汁も水も毛布も持っている。ベラが毎日足してくれたから、今すぐ見つけても困らんくらいにはなった」
ベラは頷いて自分の椀へ手を伸ばしたが、ひと口飲んだだけで匙を止めた。レオンは何度目かになる食べろという言葉を飲み込み、自分の椀を空にしてから鍋の蓋を閉めた。食べられない者へ無理に食えと言うのが、今夜はどれほど難しいことか分かっていた。
救急用品の袋には、ミラが用意した大きな毛布が入っている。十四日間、誰も使っていない。レオンはその袋を手に取り、結び目が緩んでいないか調べた。見つかったキュウを包むための毛布だと、初めのうちは何度も皆で口にしていたのに、最近は誰もその話をしなかった。
石段の三層側では、ロアンがリュートの弦を調整していた。指先の古い傷は塞がったが、長く弾くとまだ痛むらしい。彼はレオンの方へ楽器を向け、力なく笑った。
「明日は僕、巻き上げ機のところに残るよ。崖へ下りる勇気はまだ出ないけど、上から台を動かす仕事ならできるからさ」
「フレイにもう一度扱いを教わってくれ。お前が上で見ていてくれるなら、俺たちは下で探すことに集中できる」
「それなら、向こうでキュウに会えたときは大きな声で教えてよ。僕だけ上で知らないまま待つのは、さすがに嫌だからね」
レオンは返事をしようとしたが、キュウに会えたら、という言葉を声にする前に喉がつかえた。ロアンも続けなかった。代わりに弦を鳴らし、野営地を吹き抜ける風へ静かな旋律を重ねた。
横になると、レオンは自分の脚が思った以上に重いことに気づいた。目を閉じても、昼間見た岩棚の暗がりが浮かぶ。あそこにいなかったら、次はどこを探せばいいのか。考え始めたところでロアンの旋律が耳へ届き、明日の仕事を数えていた頭が、ようやく休むことを許した。
◇
十五日目の朝、ベラは全員にパンと肉を持たせ、自分の分も口へ押し込んだ。ティルダの指は腫れ、フレイの手には新しい豆が潰れていた。エイルは安全索の擦れを一本ずつ調べ、交換が必要な分だけレオンの宝珠から取り出した。
野営地を出てから下の岩棚へ着くまで、誰も急げとは言わなかった。十五日かけて架けた橋と昇降台を乗り継ぎ、風が来ると待ち、収まれば渡る。最初のころは一つ進むたびに歓声が上がった道を、今朝は靴底が板を踏む音ばかりを聞きながら歩いた。
最後の岩棚には、昨日据えた台座が残っていた。フレイは布を外すと軸受けの砂を払い、ティルダと二人で台座を揺すった。レオンとベラが昇降台の木枠を組み立てている間、エイルは岩棚の縁で風を受け、下からの吹き上げと、石柱の裏を回る横風を探っていた。
「最初は石袋を下ろす。台が下で止まるところまで試してからでないと、人を乗せるわけにはいかないよ」
フレイの声にティルダは頷き、石を詰めた袋を載せた。左右の案内索を持つレオンとエイルの手に力が掛かり、昇降台が空中へせり出す。ゆっくり下ろす途中で台を止め、再び送り出すと、やがて主索が緩んで底が岩に着いた。
引き上げた木枠をティルダが裏返し、フレイは金具の擦れを指で探った。いつもなら二人で出来栄えを言い合うところだったが、今朝は傷がないと分かると、顔を見合わせて一度頷いただけだった。
レオンは岩棚の端へ近づいた。下の平らな岩に、人ひとりを下ろせる道がついた。確かに自分たちは十五日かけてここまで来た。その事実を喜びたいのに、あの広い場所を見下ろすほど、そこでも見つからないときのことばかり考えてしまう。
「キュウ、俺たちはすぐそこまで来たぞ! 聞こえてるなら、一度でいいから鳴いてくれ!」
乾いた風が石柱の陰を回り、呼び声をさらっていった。レオンは耳を澄ませたが、どこからも返事はない。上に残るロアンも弦から指を離し、音が消えるまで黙っていた。
「レオンから下りよう。安全索は外さず、足場が固いと分かってから昇降台をつないでくれ」
エイルが告げると、レオンは革帯を確かめ、救急用品と青魔鉄の杭を腰へ結んだ。ベラは手の届くところへ来て、いつもより強い力でその結び目を引いた。
「下に着いても一人で探しに走るんじゃないよ。あたしだってすぐ行くんだから、必ず待っておくれよ」
「待つ。キュウがいるかもしれん場所だからこそ、皆を迎えてから探す。俺もそのつもりで下りる」
レオンが昇降台へ乗ると、エイルが風を待った。横から抜けた一陣が収まるのを確認し、フレイが制動具を少しずつ緩める。木の床が岩棚を離れ、仲間たちの顔が頭上へ遠ざかった。
台は風でわずかに回ったものの、左右から張られた案内索が動きを受け止めた。レオンは両手で手摺を握り、足元へ近づいてくる岩の面だけを見ていた。十数日前、身ひとつでこの高さへ降りようとした自分を、エイルが必死に止めた。その理由を今はよく分かっている。
昇降台の底が岩に触れ、レオンは片足で足場を探ってから体重を移した。固い。もう片足を置き、腰の安全索を締め直して、持ってきた杭を岩の割れ目へ打ち込む。
「下に着いたぞ! 案内索を固定したから、次の者を下ろしてくれ!」
声を張りながら、レオンは思わず周囲を見回した。巨岩がいくつも転がっている。岩棚の中央寄りには太い石柱が上から垂れ下がっていたが、その先は岩に届かず、人の膝ほどの隙間を残していた。遠くの端は見えず、岩陰にも奥へ続く空間がある。
レオンには、広大な岩棚が何の支えもなく宙に浮いている驚きよりも先に、怒りが込み上げてきた。
キュウは地面を伝わる震えに気づくことがある。だから十五日間、岩棚へ着くたびに石柱を叩き、三度鳴らしては間を置き、何度も返事を待った。だが、岩がつながっていなければ、いくら叩いても振動は届かない。キュウがもしこの岩棚にいたとしても、自分たちが必死で送っていた合図には、最初から気づけなかったのかもしれない。
レオンは頭上の石柱を睨んだ。あれほど叩いたのに、手応えがあったと思った日も、もう一度叩けば返事があるかもしれないと期待した日も、何の意味もなかったというのか。
昇降台が戻り、次にティルダが降りてきた。レオンが頭上の石柱を指して説明すると、彼女は隙間を見上げ、槌を握る手に力を込めた。
「……あたし、あんなに岩を叩いたのにさ。キュウには、最初から何も届いてなかったかもしれないんだね」
レオンは答えられなかった。ティルダは石柱から目を離すと、息を大きく吸い込み、巨岩の向こうへ向かって叫んだ。
「キュウ、私たちが下まで来たよ! どこにいるんだい、怖がらなくていいから出ておいで!」
返事はなかった。ティルダはもう一度呼ぼうとしたが、上からベラを乗せた昇降台が近づいてきたため、唇を噛んで着地点を空けた。
ベラ、エイル、フレイの順に下り、五人が揃った。巻き上げ機にはロアンが残る。最後のフレイを下ろしたあと、上から身を乗り出したロアンはレオンたちを見て両手を大きく振った。
「僕はここで見てるよ! 君たちの声はまだ届くから、岩の陰へ入るときには知らせてくれないかな!」
「分かった。俺たちは近い岩陰から探す。上から何か動くものが見えたら、すぐ知らせてくれ!」
◇
岩棚は上から見たより広かった。家ほどもある灰黒い岩が幾つも転がり、その間に砂の溜まった窪みや、足を入れると膝まで落ちそうな亀裂がある。レオンはエイルと同じ側から大岩を回り、暗い隙間には灯りを差し込んだ。
ティルダはすぐ先の岩陰からキュウの名を呼び、フレイはその背へ重弩を負ったまま、足場を見てついていく。ベラは水の溜まった窪みを見つけるたびにしゃがみ、底に砂がたまっていないか、誰かが水を飲んだ跡がないかを調べていた。
以前のレオンなら、どれだけ名を呼んでも返事がないことに腹を立て、もっと大きな声を出しただろう。今は、エイルが灯りを向けた隙間に黄色い鱗がないと分かるたび、次の岩のどこを確かめるかを考えた。そうでもしなければ、膝から力が抜けそうだった。
頭上から垂れた石柱の先端の下には、岩を抱えてようやく通れる隙間があった。ティルダが腹ばいで向こうへ覗こうとすると、フレイが腰帯をつかむ。
「姉ちゃん、反対側から回れば見えるよ。ここで挟まったら、引っ張り出すだけでも大変なんだから」
「向こう側へ回る時間が惜しいんだよ。でも分かった、私も今さら誰かに引っ張り出してもらいたいわけじゃない」
ティルダは不機嫌な顔で立ち上がり、フレイもその腰帯を離した。二人で回り込んだ先には、ただ薄い砂と石の欠片が散っているだけだった。ティルダは槌を握る手を下げず、しばらくその隙間へ向かって立っていた。
外周へ進むと、平らだった岩棚の縁が突然落ち込んでいた。レオンは安全索を杭へ結び、腹ばいになって崖の下を覗いたが、岩の側面は途中から奥へ抉れ、さらに下へ足を置ける場所があるのかさえ分からない。
「キュウ、お前が下にいるなら聞いてくれ! 俺たちがここまで来たんだ、どうか返事をしてくれ!」
レオンの声が下へ落ちていき、しばらくしてかすかに反響した。上ではロアンが演奏を止め、耳を澄ませている。レオンが顔を上げると、ロアンは首を横へ振った。
その合図を見た途端、レオンの中で何かが折れそうになった。十五日間、返事がないたびに次の岩棚を目指せばよかった。だが、今立っているこの場所の下には、道を造れる岩棚がこれ以上見えない。新しい橋を掛ける先がないことを、初めて自分の目で確かめてしまった。
エイルが安全索を引き、レオンが身体を起こせるよう手を貸した。その手も固く荒れていた。弓を射る手、縄を結ぶ手、眠らずに風を読んできた手だ。十五日前にキュウが消えたとき、エイルも同じ場所にいた。
「見える範囲の外周は調べ終えた。今度は中央に残った大岩を一つずつ見よう。まだ確かめていない場所はあるぞ」
「分かってる。残ったところは全部探そう。だが、今日も見つからなかったら、まず皆を野営地へ帰して休ませる」
エイルはレオンの顔を見たが、何も言わずに頷いた。レオン自身、その言葉を口にしたくはなかった。誰かを帰すという判断のたびに、キュウを置いて引き返したあの日の自分が戻ってくる。それでも、ティルダの足が何度ももつれ、ベラがしゃがんだまま立ち上がるのに時間をかけているのを見れば、他の決断はできなかった。
◇
昼になってベラが取り出したパンは、誰の手の中でもなかなか減らなかった。ティルダは片膝を立てたまま残りの岩を見つめ、フレイは姉の手に水袋を押しつける。ベラは配り終えたあと、自分のパンを二つに割って荷へ戻そうとした。
「ベラ、あんたも食べてくれよ。今ここで倒れたら、キュウを見つけたときに抱き起こす力も残らないぞ」
レオンに言われると、ベラはしばらくパンを見ていた。以前なら、こんなことを言われた途端に怒っただろう。今は口を曲げただけで、乾いた欠片を水で流し込み、残った半分をレオンの前へ突き出した。
「あんたも食べるんだよ。自分だけがキュウを探してるような顔して、人に飯を食わせるばかりじゃ困るんだからね」
レオンは言われるまま受け取った。噛んでも味はほとんど分からなかったが、腹へ入れれば脚が動く。頭上からはロアンのリュートが響き、音が途切れるたび、誰かが顔を上げた。
休憩の終わりに、ティルダは巨岩へ向かって走り出そうとした。フレイがその腕をつかんだが、今度は怒鳴らず、姉の手に革手袋を押しつけただけだった。ティルダも言い返さず、指先の破れた手袋を替えてから、妹と一緒に岩の向こうへ歩いていった。
中央に残る場所は、探すほど少なくなった。レオンは大きな岩の裏へ回り、狭い割れ目に灯りを入れ、エイルと二人で砂を払った。上から垂れた石柱の下の空間へティルダが呼びかけ、皆が耳を澄ませたが、答えるのは風が細い隙間を吹き抜ける音だけだった。
大岩を一つ調べ終えるごとに、フレイは図面へ印をつけた。今朝までは増えていく橋の線が皆の励みだった。その紙には、もう調べ終わった場所を示す印ばかりが増えている。ティルダは妹が炭筆を動かすたび、その先に残った白いところを覗いた。
とうとう、最も奥に横たわる巨大な岩塊だけが残った。家屋より大きな灰黒い塊で、表面の溝には砂が溜まり、ほかの岩と同じように乾いて見えた。レオンはその周囲を確かめようと歩き出したが、後ろからベラに呼び止められた。
「レオン、あたしはね、あの子が生きてたら、どんな格好でも連れて帰るよ。怪我してたら抱えてでも帰って、ミラに会わせてやる」
ベラはそこで口を閉じた。誰も急かさなかった。レオンが振り返ると、彼女は腰へ吊るした救急袋を両手で握り、布の縁が食い込むほど引っ張っていた。
「でも、もしもう駄目だったなら……骨の欠片でもいい。あの子のものを何か一つ、持って帰ってやりたいんだよ。ミラに、何もなかったって言うだけじゃ嫌なんだ」
ティルダが足を止めた。フレイは姉の袖を握ったが、二人ともベラの言葉を否定しない。エイルも弓を下ろしたまま、巨大な岩塊の方へ顔を向けていた。
レオンは、今夜洞窟へ補給に戻ったときのことを想像した。ミラはきっと、いつものようにキュウの返事を聞けたかと尋ねるだろう。十五日間、毎度同じ答えを返してきた。今夜も返事がなかったと告げたあと、その先を何と言えばいいのか分からない。
キュウがいない洞窟へ、仲間たちを帰す。そこではまた食事を作り、炉に火を入れ、誰かが仕事へ出掛ける。自分もそこにいなければならない。そう考えるだけで、永遠にキュウを置いていくことになるように思えた。
ベラがひどいことを言ったとは思わなかった。誰かが口にするまで、自分たちはその可能性を見ないふりしていたのかもしれない。レオンはひと息吸い、皆が待っているのを確かめてから言った。
「分かった。まだ調べてないのは、あの大岩の向こうだ。そこを探して、それでも見つからなければ、今日のうちに全員で野営地へ戻ろう」
ティルダが何か言おうとして唇を開いたが、声にはならなかった。フレイに腕を引かれ、二人は並んで岩の端へ進んだ。ベラも救急袋を持ち直し、足を引きずらないよう一歩ずつついていく。
レオンは青魔鉄の剣へ手を掛けた。岩の周囲へ近づくにつれて、これまでとは違う違和感があった。地面へ深く食い込んでいるように見える巨岩なのに、その根元の砂だけが妙にさらさらしている。エイルがしゃがんで確かめようとしたとき、砂粒が岩の下から押し出されるように滑り落ちた。
「待ってくれ。あの岩の根元、砂が今も動いている。風だけであんなふうに流れるものなのか?」
レオンの言葉を聞くより早く、エイルが立ち上がって手を広げた。岩塊の下から乾いた砂が筋を引いてこぼれ、太い影がゆっくり膨らんでいく。
「全員、岩から離れろ! あれは石じゃない、こっちへ動いてくるぞ!」
灰黒い巨岩が持ち上がった。砂が斜面を滑り落ち、硬い甲羅の下から太い脚が一本伸びる。爪が岩床を打つたび、足の裏へ鈍い震えが伝わった。もう一本、さらにもう一本と脚が現れ、最後に皺の深い首が甲羅の縁から押し出された。
黒い目が、身構えた五人を順に見た。《断崖甲亀》だとエイルが告げたとき、レオンは剣を抜き、ティルダを自分の右へ下がらせた。今日これ以上戦う力がどれほど残っているのか、考えるまでもなく乏しかった。
ベラは短杖を構え、フレイは重弩の肩当てを押しつける。エイルが矢を番え、ティルダは槌を両手で握り直した。十五日前なら全員が迷わず前へ出た相手かもしれないが、今は誰も余分に踏み込もうとしなかった。
上の岩棚でロアンの弦が鳴った。見上げると、彼は巻き上げ機から離れずに立ち、巨体が起き上がるのを見ている。レオンは声を張った。
「ロアン、台を動かせるよう準備しておいてくれ! こちらが退くことになったら、すぐに全員を引き上げたい!」
「分かった、上から見てるよ! 君たちの逃げる場所だけは、絶対に空けておくからね!」
《断崖甲亀》が長い首を下げる。甲羅の縁が岩床を擦り、巨体が前脚へ重みを移した。レオンはエイルと目を合わせ、五人が下がれる岩陰の位置を確かめた。あの亀と戦えば、誰かが怪我をするかもしれない。もう一人を失うくらいなら、まだ探せていない場所があっても引き返すしかない。もっとも、あの亀がキュウの仇かもしれないと考えれば、引き返す選択肢はないのだが。
その判断を口にしようとした瞬間、岩棚の下を風が吹き抜けた。亀の足音とは違う、小さな音が混じったような気がして、レオンは顔を上げた。
「きゅう!」




