炉還りは帰る場所を広げます
翌日の昼前まで、ベルクの冒険者組合でいくつか追加の確認を受けた。大筋は昨夜のうちに話し終えていたので長くはかからず、リュネも自分で答えられるところは自分で答えた。
組合を出ると、レオンは宿の前へ回しておいた馬車を見た。栗毛と青鹿毛の牝馬は一晩休み、昨日よりよく耳を動かしている。
エイルは弓と荷を背負い直した。リュネの手首にはまだ薄く布が巻かれていたが、顔色はかなり戻っている。
「さて、ここからどうする。ベルクに残るなら宿は取れるし、別の町へ行くなら商隊を探すところまでは手伝う」
エイルは妹を見てから、レオンへ視線を戻した。
「昨夜聞いた、お前たちの暮らしている場所だが……今度は妹にも見せてもらえないか。俺も前に来たときは救出の話しか頭になかった。迷惑でなければ、暮らす場所として相談させてもらえないか?」
「構わん。よかったら来るかと聞くつもりだった」
リュネの目が明るくなる。
「私も見たい。昨日は洞窟って聞いたところで終わっちゃったし。すっごく興味あるんだよ」
「ああ。助けたから住めとも、借りを返すために働けとも言わん。合わなければまたベルクへ戻ればいい」
リュネはその言葉を確かめるように少し黙り、それから頷いた。
「じゃあ行く。兄さんがどうするかじゃなくて、私も自分で見て決めたい」
「それと一つだけ。住まないと決めても構わんが、中で見るものと場所のことは外で話すな。そこだけは約束してくれ」
「分かった。約束する」
◇
西門を出て、人目の少ない脇道まで馬車を進めた。
ベラ、ティルダ、ロアンも一緒だった。昨夜飲みに行った二人も朝には戻ってきており、ロアンは荷台でリュートを抱えながら少し眠そうにしている。
「普通に行けば四日かかるんだが…《帰還》を使う」
エイルが眉を寄せる。
「昨日聞いた、一瞬でお前たちの家へ戻る技能か。人まで連れていけるんだな」
「そうだ。近くにいる人間や馬、荷まで一緒に帰れる。荷車ごとは戻したことがある。二頭立ては初めてだが、無理なら普通に街道を行く」
「私は興味ある。四日より今聞いたやり方がいいし、いつもと違うものは十分見たから、一つ増えてもたぶん平気」
リュネが言うと、エイルも頷いた。
「俺も構わない。お前が試せると判断してるなら、それで行こう」
レオンは御者台へ上がり、二頭の手綱を握った。意識を帰り火へ向ける。橙色の光が地面へ広がり、車輪、馬具、荷台まで包んだ。馬が驚いて首を上げ、リュネが息を呑む。
次の瞬間、ベルク郊外の土の匂いが消えた。代わりに湿った岩と水、炉から流れてくる温かな空気が鼻へ入る。馬車は窪地の中央に止まっていた。
「おかえりなさい。みなさん、無事でよかったです!」
入口からミラが走ってくる。その後ろをキュウが追い、フレイとエルネも顔を出した。リュネは幌を持ち上げたまま、しばらく動かなかった。
「……本当に着いた。さっきまでベルクの外にいたのに」
「話で聞くのと、目の前で景色が変わるのは、やっぱり違うな」
「全然違うよ。足元まで一度なくなったみたいで、まだ変な感じがする」
馬車から降りたリュネは、地面を踏んでから周囲を見回した。エイルも馬車を降りと、驚くより先に、窪地の斜面と入口、森へ抜ける細い通路を順に見ていた。逃げ道と見張り場所を確かめているらしい。
ミラが兄妹の前まで来る。
「エイルさんはお久しぶりです。リュネさんは、はじめまして。無事に来られてよかったです」
「リュネです。兄さんを助けてくれて、私まで助けに来てくれて、ありがとうございました」
「私は待っていただけです。助けに行ったのはレオンさんたちです」
「でも、みなさんが帰る場所を守ってくれてたんでしょう。ありがとうございます」
ミラは少し目を丸くしてから、嬉しそうに頷いた。
「はい。おかえりなさいを言うのは、私の役目ですから」
そこへキュウが鼻先を出した。
「この子がキュウ? 兄さんから聞いてたけど、思ってたよりずっと小さいね」
「きゅう」
「本当にキュウって鳴くんだ。鳴き声から名前をつけたって聞いたけど、本当にそのままなんだね」
リュネがしゃがみ込み、そっと鼻先へ触れる。キュウは逃げず、さらに顔を寄せた。その様子を見て、エイルの肩から明らかに力が抜けた。
◇
馬具を外すと、バルトが馬房から出てきた。新しく来た二頭へ自分から近づき、栗毛、青鹿毛の順に鼻先を寄せる。二頭も逃げず、しばらく互いの匂いを確かめていた。
「バルトさん、ずいぶん二頭を気にしています。さっきから自分で近づいて、そばを離れません」
「嬉しいのかな。兄さんも馬の機嫌が分るけど、私は耳くらいしか分からない」
「たぶんです。嫌なら、もう少し離れていると思います」
ミラの説明を聞き、リュネは三頭を見て笑った。
「仲良くなれそうだね。さっきまで知らない馬同士だったのに、もう落ち着いてる」
そこから、リュネを中心に中を案内した。エイルも前に来たときは事情を話してすぐ出発したので、今度は一緒に歩く。
主洞、食堂、厨房、水路、居住区。工房や畑まで全部回れば日が暮れるので、まず暮らすために必要な場所だけにする。入口を抜けてすぐ、リュネが足を止めた。
「……精霊が多い。入口をくぐったところから、空気の感じが変わった」
目を閉じ、何かを聞くように顔を少し上げる。
「森とは少し感じが違う。でも密度が高い。水の近くと、炉の周りが特に多いよ。岩の中なのに、ずっと近くにいる感じがする」
ミラが水路を示した。
「この水は魔力泉です。飲み水にも料理にも使っていますし、畑へ流している分もあります」
「少し触ってもいい? 水の近くに集まっている精霊が、森で感じるものと少し違うの」
「もちろんです。冷たいので、手を入れるならゆっくりの方がいいですよ」
リュネが冷たい水へ指を入れる。その横で、エイルが深く息を吸った。
「……やっぱり楽だな。前に来たときも少し軽くなった気はしたが、あのときは妹のことで頭がいっぱいだった。岩の中へ入ってから、頭の奥に残っていた重さがまた軽くなってる」
レオンが振り返る。
「森に長くいるほど、息がしにくくなって身体もだるくなる。昔からそうだった。中にいると、それがかなり軽い」
ミラが心配そうに近づいた。
「エイルさんは、森にいるといつもそうなるんですか?」
「ああ。昔からだ。どうやら、俺は森に呪われているらしい」
ミラは水路と炉を見比べた。
「この場所は岩の中ですし、魔力泉もあります。もしかしたら、森の呪いが届きにくいだけじゃなくて、この水や魔力が身体にいいのかもしれません」
リュネが水から手を上げる。
「呪いの正体までは私にも分からない。でも、精霊はすごく多いよ。ここで兄さんが楽なら、少なくとも悪い場所じゃないと思う」
エイルはもう一度、ゆっくり息を吸った。
「森の呪いが、ここでは薄くなるのかもしれないな。本当にこのまま楽なら、それだけでありがたい」
◇
居住区では、それぞれが自分で手を入れた部屋を見せた。
「最初から全部こうだったわけじゃないんだね。人が増えるたびに、少しずつ作ってきたんだ」
リュネが木棚や机を見る。
「空間は帰り火が作ります。でも、中の物は住んでから増やしました。お風呂もお手洗いも、最初とはかなり違います」
「住んでから家にしたんだ。兄さん、こういう場所なら荷物を置きっぱなしにしても平気そうだね」
「はい。必要になったものを作ったり買ったりして、少しずつ増えていきました」
エイルは壁より、そこにいる人間を見ていた。厨房で昼食を作るベラ、帳面へ目を落とすエルネ、工房から戻って水を飲むフレイ。それぞれが自分の手を動かして暮らしている様子を、確かめるように眺めていた。
「次は冷蔵室です。食べ物を置いてあるので、暮らすなら一度見ておいた方がいいと思います」
「冷蔵室? こんな岩の中で、食べ物を冷たくしておけるの?」
リュネがすぐ反応した。石扉を開けると冷気が流れ出す。棚には乳や野菜、チーズが並び、その奥には解体した氷殻大蜥蜴の肉が、部位ごとに包まれて積まれていた。
リュネの動きが止まる。
「……これ、全部お肉? 棚の奥までずっとあるけど、本当に全部食べる分なの?」
「全部ではないです。冷凍してある分もあります」
「これより、まだあるの? ここに見えてる分だけでも、かなりあるよ」
「はい。氷殻大蜥蜴がとても大きかったので、冷凍して残してある分もかなりあります」
リュネは肉の棚へ近づき、包みへ触れる寸前で手を止めた。
「これ、ちゃんと食べるお肉なんだよね? 保存してあるだけじゃなくて」
「食べますよ。今日のお昼にもベラさんが使うと思いますし、まだしばらく食べられます」
彼女の顔が目に見えて明るくなった。
「兄さん、見て。ここ、いいところだよ。私、お肉が沢山ある場所が好き」
エイルの口元がわずかに緩んだ。
「…お前は本当に肉が好きだな」
「食べることは大事でしょう。それに兄さんもここだと楽なんだよね。私は精霊も気になるし、魔力泉は貴重だし、かなりいいところだよ」
リュネはもう一度、棚いっぱいの肉を見た。
「私、ここ好き。まだ全部見てないけど、ここなら暮らしてみたい」
エイルは妹の顔をしばらく見たあと、冷蔵室を出るときにもう一度、深く息を吸った。今度は考え込むような顔をしなかった。
◇
昼食の前、エイルから話を切り出した。食堂には戻っていた全員が集まっていた。リュネは兄の隣に座り、キュウはその椅子の脇へ伏せている。
「図々しいようだが。もし迷惑でなければ、俺たちもここに置いてもらえないか」
エイルは食卓へ両手を置いた。
「前に来たときは妹を助けることしか考えられなかった。今度は暮らす場所として見たが、森から離れていて身体が楽だ。リュネが俺について森を渡るようになってから、安全に寝かせられる場所ばかりずっと探してた。俺自身、ここなら暮らしたいと思ったし、助けてもらった恩も出ていって終わりにはしたくない。森の警戒や狩りなら俺にもできる」
ミラはすぐに返事をせず、リュネを見た。
「リュネさんは、どうしたいですか? エイルさんではなく、リュネさん自身の気持ちを聞きたいです」
兄ではなく自分へ聞かれ、リュネが少し瞬いた。
「私は兄さんが住むなら一緒に住みたいです。兄さん、一人だと全然だめだから」
エイルが妹を見る。
「自分が苦しくても平気な顔で森へ入るし、寝ないで探し物するし、ご飯も後でいいって言うでしょう。だから私が一緒にいる。でも、それだけじゃなくて、私もここがいい。精霊がたくさんいるし、魔力泉も面白いし……それに、お肉もいっぱいあるから」
ベラが笑った。
「肉なら今日も焼くよ。昨日までまともに食べられなかった分まで、一度に取り返さなくていいくらいにはあるからね」
「じゃあ、ほどほどにいっぱい食べる。昨日までの分を一日で取り返すのはやめておく」
「それくらいなら任せな。昼は胃に重くならないように焼いてやるよ」
ミラも笑ってから、二人へ向き直った。
「私は、お二人にいてほしいです。ただ、ここを帰る場所にしたいかは、ご本人が決めることになっています」
「帰る場所って、住む場所と何か違うの?」
「炉縁者になると、帰り火がここへ帰る人として覚えます。でも、なるかどうかは本人が選びます」
エイルは炉の方を見る。
「俺は選ぶ。ここに住んで、出ることがあってもここへ帰ってくる。世の中は広い。洞窟に住むエルフがいてもいいだろう」
リュネも自分で炉を見た。
「私も。兄さんと一緒にここで暮らして、出かけてもここに帰ってきたい」
◇
炉の前へ、兄妹が並んだ。ミラが帰り火へ話しかける。
「エイルさんとリュネさんが、ここを帰る場所にしたいそうです」
金色の火が静かに高くなる。兄妹が同時に胸元へ手をやった。
「『この場所への帰属を申請しますか』だって」
リュネが読む。
「私は《はい》にするよ。さっき自分で決めたばかりだから、ここで迷う理由はないもの」
「俺も《はい》だ。ここまで見せてもらって、なにも言うことはない」
二人が選ぶと、ミラの表情が柔らかくなった。
「私にも、お二人を受け入れるか聞かれています」
彼女は二人を見て、頷いた。
「一緒に暮らしましょう。二人とも、ここへ帰ってきてください」
炉の火が大きく揺れる。
《第九炉縁者――エイルを登録します》
《第十炉縁者――リュネを登録します》
奥から低い石擦れの音が響いた。
「今の何? 奥の方から岩が動くみたいな音がしたよね」
「たぶん、お二人のお部屋です。炉縁者が増えると、住むための空間も増えるんです」
「もう? 今を選んだばかりなのに、そんなに早くできるの?」
「はい。中の物は自分たちで揃えますけど、寝る場所はできます」
リュネは驚いたまま兄を見る。エイルは炉と、音のした通路を交互に見た。
「住むと決めた途端に、もう俺たちの場所ができるのか」
「住むと決めた人には、帰り火は早いです」
そのとき、外から馬のいななきが聞こえた。レオンは入口を振り返った。
「人だけ迎えて終わりじゃなかったな。外に、これから一緒に暮らす馬が二頭いる」
◇
馬房では、バルトが二頭のそばを離れずにいた。
「この二頭も、これからここで暮らすんですよね?」
ミラが聞く。
「ああ。連れて帰った以上、そのつもりだ。バルト一頭に全部やらせるより、三頭で回した方がいい」
「だったら名前がいります。いつまでも栗毛さんと青鹿毛さんでは、呼ぶときに困ります」
リュネが二頭へ近づいた。ミラは栗毛と青鹿毛を見比べる。
「では、栗毛さんはエッダ。青鹿毛さんはネラ、というのはどうでしょう」
「エッダとネラ。どっちも呼びやすいね。私、その名前好き」
リュネが呼ぶと、栗毛が顔を上げ、青鹿毛の耳もこちらを向いた。
「今、返事したみたい。耳がこっちを向いたよ」
「まだ名前だとは分かってないだろうが、そのうち覚える」
レオンが言うと、リュネはもう一度二頭へ呼びかけた。
「エッダ、ネラ。これから一緒に暮らすんだよね。よろしくね」
ミラも頷く。
「では、今日からエッダさんとネラさんです。バルトさんと三頭で暮らしてもらいましょう」
「馬にも『さん』を付けるんだな。さっきからずっとそう呼んでる」
エイルが聞く。
「はい。バルトさんにもずっと付けていますから、二頭だけ呼び捨てにする方が変な感じがします」
「そうか。それなら三頭とも揃ってる方がいいな。俺もバルト、エッダ、ネラで呼ぶことにする」
ミラはバルト用の飼葉を二つの桶へ分け、二頭の前へ置いた。エッダもネラも少し匂いを嗅いだあと、そのまま食べ始める。ほどなく、ミラの胸元が淡く光った。
「来ました。バルトさんが炉縁者になったときと同じ知らせです」
職業札へ目を落としたミラが、二頭を順に見た。
「エッダさんとネラさんも、ここへ帰る馬として受け入れていいか聞かれています。私は、いてほしいです」
ミラが受容を選ぶと、表示が切り替わった。
《第十一炉縁者――エッダを登録します》
《第十二炉縁者――ネラを登録します》
帰り火が大きく揺れた。ほどなく奥から低い振動が伝わり、馬房の岩壁がゆっくり広がっていく。バルト一頭分だった空間は、三頭が並んで休める広さになった。
外でも石の擦れる音が続いた。窪地の入口が広がり、二頭立ての馬車でもそのまま通れる幅になっている。
「これなら、荷を積んだまま馬車を中まで入れられるね。前よりずっと楽になる」
フレイが新しい幅を見て言った。
「雨の日も、入口で全部降ろさなくて済む。馬車置き場も少し奥へ寄せられそう」
エルネは馬車を見ながら頷いた。
「こりゃ助かるな。おらも三頭前提で、積み方を考え直せる」
バルトが大きく鼻を鳴らした。その横では、エッダとネラが新しく広がった馬房へ並んで入っていく。リュネが嬉しそうに後を追った。
◇
昼食のあと、エイルが自分から職業札を取り出した。
「ここで暮らすなら、何ができるかは知っておいてもらった方がいい。仕事を決めるとき、その方が早い」
リュネも札を外す。
「私も見せる。薬のことだけじゃないし、兄さんだけ見せるのも変でしょう」
エイルが職名と技能を開示した。
《職名――狩人》
《弓術 Lv5》
《追跡 Lv4》
《森林行動 Lv5》
《風読み Lv4》
《身体強化 Lv3》
ティルダが表示を見て目を見開いた。
「弓と森が五。あの森の中で、あれだけ動けるわけだ」
ベラは《身体強化》の文字を見て、エイルへ目を向けた。
「でも《身体強化》は三なんだね。川を渡ったときから細かい使い方だとは思ってたけど、数字よりずっと上手く見えたよ」
「全身をずっと強くするわけじゃない。踏み込むときは脚、弓を引くときは背中と肩、木へ移るときは足首まで流す。森で無駄に使うと長く動けないからな」
ベラが納得したように頷いた。
「出力より配り方か。あたしはそこまで細かく切り替えないから、見え方が違うのも納得だよ」
次にリュネが開示する。
《職名――薬師》
《薬草知識 Lv4》
《調薬 Lv3》
《精霊感応 Lv4》
《魔道具鑑定 Lv3》
《精霊付与 Lv2》
「《精霊感応》は、さっき精霊が多いと言っていたのと同じ技能か?」
レオンが聞く。
「うん。精霊がいる場所とか、強い弱いとか、こっちを気にしてるかくらいなら分かる。機嫌や簡単な意思ならやり取りできるけど、人間みたいに何でも話せるわけじゃないよ」
「《魔道具鑑定》は、名前どおり魔道具を見る技能か? 普通の鑑定とは違うのか」
「鑑定用の水晶玉を使って、魔道具の名前と、だいたい何をする道具か、基本的な使い方を読む技能。分からない物もあるし、細かいところまで全部見えるわけじゃない」
「《精霊付与》は、精霊とやり取りしながら、物にその精霊の性質を加える技術だよ。お願いするだけじゃなくて、どこへどう乗せるか私の方でも調整するの。私はまだLv2だから、大きな物や長く残るものは難しいけど」
ミラが興味深そうに身を乗り出す。
「魔力泉や、ここで作っている物にも使えるでしょうか」
「試してみたい。森の精霊は木や水の近くに散っていることが多いけど、ここの精霊は水路と炉の周りへ妙に集まってるの。魔力泉そのものに寄ってるのか、別の理由があるのか調べたい」
リュネはもう実験するつもりらしく、フレイへ同じ木から切った端材がないか聞き始めた。
「比べるなら厚さも揃えた方がいい。水を吸う量が違ったら、何が原因か分からなくなる」
横からエイルが口を出すと、リュネが兄を見る。
「精霊付与なんて知らないのに、そういうところだけ急に参加するよね」
「知らないから、分かるところだけ言ってる」
「じゃあ四枚選ぶの手伝って。普通の水、魔力泉、炉の近く、それと何もしないやつ」
エイルは少し考えただけで頷いた。
ベラが二人を見比べ、呆れたように笑う。
「来たその日に実験を始める妹と、それに普通に混ざる兄か。ずいぶん変なのが二人増えたね」
「でも、面白そうです」
ミラはもう結果を楽しみにしていた。
フレイが工房から端材を持ってくると、リュネとエイルは四枚を並べ、どれが一番条件を揃えられるか真剣に選び始めた。




