旅商人は予定より早く帰ります
旅商人は予定より早く帰ります
ベルクを出た日の夜、レオンは街道脇の野営地で、いったんバルトの荷を全部ほどいた。
短い板が六枚。釘と蝶番、錐の替え針。乾肉と堅焼きパンに、干し林檎が二包み。蜂蜜は瓶同士が当たらないよう、それぞれ布で巻いて鞍袋の奥へ入れてある。
売り物だった青魔鉄と毛皮がなくなったぶん、来たときより荷は軽い。だからといって適当に積めば、板の角で蜂蜜の瓶を割る。レオンは一本ずつ荷紐を締め直し、鞍の左右を手で押して傾きを確かめた。
「これならいい」
横から、鹿毛の鼻先が干し林檎の包みへ伸びてきた。白い長鬣が夜風に揺れ、いかにも何もしていない顔で鼻だけが動いている。
「さっき食っただろ」
バルトは耳を伏せた。
「その顔をしても増えん。帰ったら残りをやる」
包みを鞍袋の奥へ押し込むと、今度はレオンの肩口へ鼻面をぶつけてきた。左肩に巻いた包帯の下で、治りかけの傷が鈍く疼く。
「そこはやめろ」
押し返すと、バルトは不満そうに鼻を鳴らした。
レオンは小さな焚き火のそばへ腰を下ろし、銀貨の入った革袋を確かめた。銀貨は三つに分け、一つを腰、一つを上着の内側、残りを鞍袋の底へ入れている。人前で五十枚近い銀貨を受け取った日に、用心を減らす理由はなかった。
西門を出てから休憩のたびに後ろを見た。わざと歩みを落とし、途中で一度だけ脇道へ入って、同じ人影や馬がついてこないかも確かめた。冒険者組合で会計窓口を見ていた灰色の頭巾も見ていない。
追われていると決めつける材料はない。それでも、確認して損をすることもなかった。
レオンは火を普段より小さくし、道から見えにくい木立へバルトをつないだ。水を飲ませ、右前脚から順に蹄を触って異常がないことを確かめる。最後に自分の左肩の包帯を巻き直した。
旅の夜としては、いつも通りだった。
違うのは、荷の中に旅で使わない物が増えていることくらいだ。
板も蝶番も、蜂蜜も、洞窟へ持って帰るために買った。旅の途中で使う荷より、着いた先で使う物の方が増えている。レオンは熾火へ細枝を一本足し、外套を身体へ引き寄せた。明日の道順を頭の中でなぞり終えると、そのまま目を閉じた。
◇
翌日は一日街道を進み、さらに次の日の午後、南橋へ近づいた。
通行止めはまだ解けていなかった。徒歩の旅人だけが一人ずつ渡され、荷車と荷駄馬は引き続き不可。橋のたもとでは、泥だらけの修理人たちが濁った川面を見ながら杭を打ち直している。
レオンは橋番へ状況を聞き、今日中の復旧はないと分かると、手綱を東へ向けた。
「帰りも遠回りだな」
バルトは返事の代わりに鼻を鳴らした。
「俺に言うな。橋を壊したのは俺じゃない」
もう一度、鼻が鳴った。
「分かった。帰ったら林檎をやる」
それで話がまとまったのか、バルトは素直に歩き出した。
東の迂回路へ入ると、ベルクへ向かった時より路面が荒れていた。南橋を避ける荷が集中し、細い道の端まで蹄と車輪に踏まれている。湿った場所では深い轍が残り、乾いた場所では細かな土埃が靴と腹帯へまとわりついた。
その日は途中で野営した。
翌朝早く発ち、昼を過ぎる頃には、すれ違う人馬も減った。右手に低い岩壁、左手に土の斜面が続き、道幅は少しずつ狭くなる。荷車同士なら片方が広い場所まで下がらなければ、すれ違えない区間だった。
バルトが不意に歩みを止めた。
レオンも止まる。
道の先に、松が一本倒れていた。
根から倒れた木ではない。幹の切り口が白い。まだ樹液が滲み、葉も青々としている。
「下がれ」
手綱を引いた瞬間、左上で弦が鳴った。
矢はレオンではなく、バルトの首へ飛んできた。
半歩踏み込み、左腕の籠手を軌道へ差し入れる。鉄に当たった矢が高い音を立てて弾け、道端へ転がった。衝撃はそのまま左肩へ抜け、治りかけの傷が熱を持つ。
レオンは顔をしかめたが、腕は動いた。
右手で剣を抜く。
「土よ、沈め。《泥縛》」
倒木の向こうから声がした。
バルトの足元が崩れ、乾いていたはずの道が急に泥へ変わった。四本の蹄が沈み、驚いた馬が前脚を引き上げようとする。
「暴れるな、バルト。脚をひねる」
レオンが手綱を短く持つと、バルトは荒く息を吐きながらも踏みとどまった。
背後で土が盛り上がり、腰ほどの壁になる。前には倒木、後ろには土壁。荷を積んだ馬が向きを変える余地はない。
倒木の上へ三人の男が姿を見せた。
中央は幅広の剣を持つ大柄な男だった。レオンより少し低いが、肩と胸には厚みがある。短く刈った茶髪、無精髭の残る顎。革鎧の右腕だけ金属の腕当てで覆われ、その中央に赤黒い宝珠が埋め込まれている。
半歩後ろには頬のこけた痩せた男が杖を持って立っている。右手の大岩の陰には、日に焼けた頭を布で巻いた男が弩を構えていた。最初の矢を放ったもう一人は、左の斜面の途中にいる小柄な男で、膝を地面へつけたまま二本目を番えている。
四人。
「角狼六頭を一人で片づけたって聞いた。だから、こっちも人数を揃えた」
大男が言った。
「褒めに来たなら場所を選べ。道を塞ぐ必要はないだろ」
「褒めるだけならな。冒険者組合で銀貨二十二枚と銅貨五十を受け取ったそうじゃねえか」
その金額を知る者は多くない。
朝の組合で、会計窓口へ顔を向けていた灰色の頭巾。その男が銀貨を数え終わる前に席を立ったことを思い出す。
ただし、目の前の四人に灰色の頭巾はいない。
「組合の中で見てた奴がいたな。そいつから聞いたのか」
「誰から聞いたかなんて、今さらどうでもいいだろ。俺たちは金があると分かれば十分だ」
大男の返しに、嘘を見抜ける材料はなかった。
レオンは周囲を見た。前を塞ぐ倒木。後ろの土壁。左は斜面で、上に弩。右は大岩と崖。その岩と土壁の間に、人間一人なら身体を横にして通れそうな隙間がある。
「金を置けば、馬と剣は持っていけるか」
「駄目だ。馬でベルクへ戻られたら追手を呼ばれるのが早すぎる。剣を持たせたまま背中を向けるほど、こっちも親切じゃねえ」
「なるほど。俺だけ歩かせて時間を稼ぐつもりか」
「話が早くて助かる。金と荷と馬を置け。剣もだ。右の岩の間から歩いて、とっとと帰れ。角狼六頭を殺した男と、無駄に斬り合う気はねえ」
話の筋は通っていた。
金と荷を奪いたいだけなら、最初から四人で斬りかかるより、逃げ道を一つ残して降伏させる方が損が少ない。バルトを奪うのも、追跡を遅らせる意味がある。
盗賊としては、まともな判断だった。
帰れ。
その言葉だけが、妙に耳へ残った。
ベルクへ戻れば宿は取れる。焼けた倉庫も修理が済めばまた使える。街の顔なじみもいる。
けれど、「帰る」と言われて最初に浮かんだのは城壁でも倉庫でもなかった。
金色の火。
湿った岩壁。炉のそばで腹を丸くして寝るキュウ。鍋の蓋を開けたまま味を確かめているミラ。戻るたび、当たり前のように言われる「お帰りなさい」。
鞍袋の奥には、その場所へ持っていく蜂蜜が二瓶ある。
洞窟へ帰る。
そう考えた瞬間、胸元の職業札が温かくなった。
視界に、洞窟を出る朝に見たものと同じ白い文字が浮かぶ。
《この場所への帰属を申請しますか?》
《はい》
《いいえ》
前に見た時は、戻るつもりではあっても、そこに住むと決めてはいなかった。
今は、問いの意味を考え直す必要がなかった。
レオンは《はい》を選んだ。
《帰属申請を承認しました》
文字が消える。
「どうした。逃げ道まで教えてやってるんだ。考えるほどの話か?」
「いや。帰る場所を考えてただけだ」
大男が怪訝そうに眉を寄せた。
帰る場所は決まった。だが、そこまでの道が開いたわけではない。右の隙間を抜けられるのはレオン一人だけで、泥へ足を取られたバルトは通せない。
「馬は置いていけ。生きて帰れるなら安いもんだろ」
「さっき言った。馬は持っていく」
「馬一頭で命を張るのか」
「一頭かどうかは、本人に聞け」
大男は一度、鼻で笑った。それから幅広の剣を両手で持ち直す。
「交渉は終わりだな」
「そうらしい」
レオンは剣先をわずかに下げた。
「バルト」
鹿毛の耳がレオンへ向く。
「右を噛め」
大岩の陰から出てきた弩使いが、泥へ沈んだバルトの手綱を取ろうとしていた。
バルトが首を伸ばし、その前腕へ歯を立てる。
「ぐっ、離せ!」
弩が地面へ落ちた。
同時にレオンは左斜面へ走った。
斜面の弩使いが狙いを下げる。指が引き金へ掛かるより早く、レオンは露出した木の根へ足を乗せた。矢が放たれる瞬間に身体を右へずらし、左肩の外を通過させる。
弩は次を撃つまでが遅い。
二歩で間合いを詰める。男が弩を捨てて短剣へ手を掛けたところへ、レオンの剣が肋の下へ入った。刃を引くと、男は斜面へ膝をつき、そのまま崩れた。
背後で赤い光が走る。
大男が、さっきまでいた場所から消えたように見えた。
速い。
レオンは振り返りざまに剣を上げた。幅広の刃が噛み合い、骨まで震える。左肩にも衝撃が抜け、息が漏れた。
大男の腕当てに埋め込まれた宝珠が、赤黒く脈打っている。
街道の護衛で似た物を見たことがある。脚力と反応を短時間だけ引き上げる戦闘用の宝珠だ。まともな品なら金貨で値が付く。
「盗品か」
「拾ったと言ったら信じるか?」
「持ち主の死体からなら、盗品と大差ない」
「商人は細けえな」
男が二度目の加速をかけた。
レオンは正面から速さを競わず、斜面を滑るように道へ降りた。刃が外套の背を掠める。
「土よ、穿て。《石弾》」
痩せた魔術師の杖先に拳ほどの石が生まれた。
狙いはレオンではない。バルトの頭だった。
レオンは走りながら剣の腹を差し込み、飛んできた石を横へ弾く。砕けた欠片が頬へ当たり、右眉の古傷の下へ新しい細い裂け目を作った。
大岩のそばでは、腕を噛まれた弩使いが左手で弩を拾い直している。
魔術師へ踏み込もうとしたところで、弦が鳴った。
身体をひねったが、避けきれない。
矢が左の上腕へ刺さった。
治りかけの肩とは違う鋭い熱が腕を貫く。レオンは歯を食いしばり、飛び出した柄を折った。鏃まで抜けば出血が増える。
「守る相手がいると、避け方が鈍るな」
大男が剣を肩へ担ぎながら言った。
「狙うなら俺を狙え」
「馬を狙った方が、お前が勝手に間へ入ってくる。さっきからそうしてるだろ」
反論する材料がなかった。
弩使いが再装填に入る。バルトは泥に脚を取られながら、その男の袖へもう一度噛みついた。男が罵声を上げ、弩を捨ててバルトの鼻面を殴る。
レオンは魔術師を追うのをやめた。
弩使いへ踏み込む。
相手が振り向く。剣先を腹まで届かせる時間はない。手首を返し、右腿を深く斬った。
弩使いは脚から力を失い、泥の縁へ倒れ込む。
「馬まで使うか」
「こいつは勝手にやってる」
バルトが鼻を鳴らした。
「そうだな。たぶん文句を言ってる」
大男の宝珠が再び光る。
一度目。
斜め上からの斬撃を、剣の根元で受けて外へ流す。
二度目。
横薙ぎを半歩下がって避ける。
三度目。
胸を狙った突きを、首をずらして頬の横へ通す。
赤い光が薄くなった。
連続で引き出せるのは、今のところ三度。次に光が戻るまで、短い間がある。
レオンはそこへ踏み込み、大男の剣を外へ押し出した。空いた脇腹へ刃を走らせる。革鎧が裂け、男が大きく後ろへ跳んだ。
「こいつ……!」
追えば届く。
右足を踏み出した瞬間、魔術師の杖が地面を打った。
「土よ、捕らえろ。《地の手》」
固い道から土の塊が盛り上がり、右足首へ絡みつく。
レオンの動きが止まった。
剣を振り下ろして土を断つ。その一瞬で、大男の腕当てへ赤い光が戻った。
速い斬撃が脇腹へ入る。
鎖帷子が刃を止めたが、衝撃までは消さない。肋骨が軋み、肺の空気が押し出された。レオンは一歩下がり、膝をついた。
「一対一なら、俺が負けてたな」
大男も斬られた脇腹を押さえている。
「一対一でやり合う勇気はなかったか外道め」
「盗賊に作法を求めるな。それに、俺たちはお前を倒しに来たんじゃない。金を取れれば十分だ」
言っていることと戦い方は一致していた。
正面の男が圧力をかけ、魔術師が足を止め、傷を負った弩使いまでバルトとレオンのどちらかを狙う。人数が減っても、残った三人は互いの隙を埋めている。
大男が距離を詰める間に、弩使いが泥の上へ座ったまま弩を引き寄せた。右脚では立てなくても、引き金なら引ける。
レオンはそちらへ向きを変えた。
弦が鳴る。
矢はレオンの横を抜け、バルトの右後ろ脚を浅く裂いた。
鹿毛の身体が大きく震えた。泥の中で脚を引き、痛みで暴れかける。
「バルト、動くな!」
手綱を引いた声に反応し、バルトは歯を剥きながらも踏みとどまった。白い尾が泥を叩き、後ろ脚から細く血が流れる。
「次は頭を狙え」
大男が言う。
魔術師が杖を持ち上げた。
「土よ、穿て――」
レオンは立ち上がろうとした。
その胸へ、大男の蹴りが入る。
背中から道へ倒れ、息が止まった。左上腕には矢が残り、脇腹は鎖帷子の下で熱を持っている。右足首には崩した土がまとわりつき、立ち上がるだけでも一拍遅れる。
それでも、手綱は放さなかった。
右の岩と土壁の間には、さっき教えられた隙間がある。
起き上がって走れば、レオン一人なら入れる。大男も、金と荷を置けば追わないと言った。今からでも手綱を捨てれば間に合うかもしれない。
バルトを置いていけば。
泥の中の鹿毛が、レオンへ顔を向けた。
雨の街道も、雪の峠も一緒に越えた。荷を積みすぎれば噛み、知らない人間が背へ触れれば蹴る。角狼を一頭蹴り倒し、今は盗賊の腕まで噛んだ。
これを置いて自分だけ帰るという考えは、選択肢の形にすらならなかった。
帰る場所なら、もう決めた。
なら、バルトも連れて帰る。
「帰るぞ、バルト。一緒にだ」
胸元の職業札が、もう一度熱を持った。
魔術師の杖先で石が形を作る。その向こうへ、白い文字が浮かぶ。
《新規技能《帰還》を取得しますか?》
《はい》
《いいえ》
技能名以外、何も書かれていない。
どこへ帰るのか。どれだけ離れていても使えるのか。手綱の先のバルトまで連れていけるのか。
分からない。
だが、バルトを連れてここを抜ける確かな手段は一つもなかった。
レオンは《はい》を選んだ。
《新規技能《帰還》を取得しました》
表示が消えた。
「……帰還、か」
名前を見れば、何をする技能かくらいは想像できる。
帰る場所は、ついさっき自分で選んだ。
レオンは剣を握った右手を地面につき、身体を起こした。左手は手綱から放さない。そのままバルトの首元まで寄り、泥に濡れた革紐を手首へ一度巻きつける。
接触していれば連れていける、などという保証はない。それでも、試すなら離しておく理由もなかった。
「バルト、こっちへ寄れ。できるだけだ」
鹿毛が痛めた脚を庇いながら、首をレオンの肩へ寄せた。
大男が眉を寄せる。
「何をしてる。今さら、その馬を泥から引き出せると思ってるのか」
「帰る準備だ。お前らと続けるより、そっちの方が早そうなんでな」
「頭でも打ったか?」
「その可能性はある」
魔術師の石弾が放たれた。
レオンは初めて使う技能へ意識を向けた。思い浮かべるのは、金色の火のある洞窟だ。ミラとキュウがいる場所。そして、肩へ首を寄せているバルトもそこへ連れていく。
覚えたばかりの《帰還》を使う。
足元の泥へ橙色の光が走った。
円を描くように広がった光がレオンの身体を包む。次いで、手綱から鞍、泥に沈むバルトの輪郭まで薄い光が走った。
そこまで見て、レオンは初めて息を吐いた。
「何だ、それは!」
大男の腕当てが赤く光り、魔術師の石弾が迫る。今度は避けなかったのではない。技能が本当に間に合うのか、どこへ出るのかも分からないまま、もう避ける余裕がなかった。
ただ、手綱だけは握った。
石弾が届く寸前、岩場の景色が水面のように歪んだ。
泥の匂いが途切れる。
次の瞬間、湿った土と岩、焚き火とは違う微かな煙の匂いが鼻へ入った。
バルトが大きくいななく。
四本の脚はもう泥へ沈んでいない。鞍も左右の荷もそのまま、鹿毛の身体が隠れ窪地の地面を踏んでいた。
レオンは手綱を握ったまま片膝をついた。正面には、見慣れた洞窟の入口がある。
本当に帰れたのだと考えるより先に、奥で何かを落とす音がした。
すぐに足音が近づいてくる。
「レオンさん!」
ミラが洞窟から飛び出してきた。
小柄な身体がこちらへ駆け、短い赤毛が頬へ跳ねる。その後ろから、黄土色の丸い身体のキュウも慌ててついてきた。
「レオンさん、その腕……脇腹も。バルトさんの脚まで血が出ています。先に、どちらを……」
ミラはレオンへ駆け寄りかけ、バルトの右後ろ脚を見て止まった。またレオンへ手を伸ばし、今度は左上腕に残った矢を見て息を呑む。
両手が一度、宙で迷った。
レオンは浅い呼吸を整えながら顔を上げた。
丸く大きな桃色の瞳が、傷とバルトとレオンの顔を忙しく往復している。
目が合った。
ミラは何かを言おうとして口を開き、いったん閉じた。
「……お、お帰りなさい」
レオンは少しだけ目を閉じた。脇腹の痛みで呼吸は浅いままだったが、張りつめていた右眉の古傷のあたりがわずかに緩んだ。
「……ただいま」
帰れる場所があっても、無事に帰れるとは限らない。
それでも最後には「お帰りなさい」と「ただいま」がありました。
今回の話が心に残ったら、評価を残していただけると、とても励みになります。




