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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第1部 - 第4章

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95.4章-第11話 ”ドリームランド(偽) #4/5”

 闇の漆黒に染まった紗雪の目。いつもの優しく愛くるしい表情は抜け落ち、無機質に私を視線で射貫く紗雪。

 4丁のフリントロック拳銃が宙に浮かぶ。手には1丁の対物狙撃銃。


「見ないで。こんな私を見ないで。貴女の一番になれない私を、見ないで」


 腹に響く低音の衝撃波を伴い、対物狙撃銃の弾丸が一直線に、元堕天使の身を襲う。

 不壊のハルバードの斧部に直撃させ、受け流す。


「来てくれなかった。苦しくて、悲しくて、切なくて、愛おしくて。全部ぐちゃぐちゃにされて、訳が分からなくなって、怖くて。なのに、来てくれなかった」


 空を飛んだ4丁の拳銃から放たれた弾丸の嵐が、元天使の身を襲う。

 高いAGIに引き上げられた反射神経と速度にあかせ、全てを避ける。


「ナオさん、知ってる? 知らない? 私初めに話したよね? あれ、それは私じゃない? わからなくなってきちゃった。ナビAIはね、一人一つ。”使いまわし”なんてされない。一人に一つ。世界でたった一つ、その人だけのために生み出された存在。その人の趣味嗜好を簡易検査して。バックアップだってない、作り物だけれど、ヒトと同じ。ひどいよね。ちょっと気に入らない、ちょっと誰かよりもよくない。だからリセマラだって、消されていくの。消えたナビAIは存在を消される。欠番になった番号には別のナビAIがまた新たに生み出される。ナオさんは違ったけれどね。私はナオさんに一目惚れした。貴女も私に惚れしてくれたと思った。あそこで貴方を縛り付ければよかったの? こんな風に、閉じ込めてしまえばよかったの? SEOの世界になんて行かせないで、あの空間でずっとずっとずっとずっと……」


 無限に伸び、無限に再生する、鋼の糸が空間中に張り巡らされる。

 瞬間的に跳ねあげられる、白い翼の身の速度をもってしても。

 圧倒的な膂力で破壊をまき散らす、黒い翼の身の力をもってしても。

 抜け出せない、次第にからめとられていく。


「運命を選び取った後のナオさんに、本来の倍以上も、いっぱい質問しちゃった。その全てに、ナオさんはちゃんと答えてくれた。貴方をもっと知りたくて。貴方のためだけの存在が、この世界に在ってほしいって。”至上の供犠姫”は、世界ごとに、違う存在。サーバーをまたがっても唯一ユニーク、オンリーワンな存在の一角。だから貴女のために、貴女が絶対に魂の底から愛したくなる存在になるよう、探し。手を加える必要もなかったのは驚いたけれど、引き合わせたのは私。貴女だけの”特別”。一瞬で燃え上がるように、恋に落ちちゃうの、視てたよ。魂が、引き合ったのが分かった。嬉しかった。ナビAIにして案内人たる私の存在意義を完全に果たせた」


 身動きできる空間がごくわずかに狭められる。


「だから……辛かった。泣きたかった。自分で方向性を与えてしまった。自分で自分の大好きなナオさんの心を、絶対に奪える存在に引き合わせた。憎い、私が憎い、余計なことをした私が憎い。違う、違うの、こんなの私じゃない。ナオさんの幸せが、私の幸せ。私は尽くすのが好き、私の存在意義は、意義は……意義は……イギは……」


 もはや空を飛ぶ空間もないほどに埋め尽くされた鋼糸の結界。

 その中へ、無数の弾丸が撃ち込まれる。

 壊れていく自分を抱きしめるように、言葉を紡ぎ続ける紗雪の叫びに集中しながら、なんとか避け続ける。


「現実の死を体験して砕け散りかけていた貴女の心に、そっと寄り添って。ただ癒したくて。どうかあなたの行く先が、幸多くありますようにって、願いを込めて。この世界に送り出して。障害は愛をはぐくむ、生きる活力になるって、私たちは教えられているから、とびっきり障害の多い運命の一つに紐づくように」


 双短剣で弾く、無数の連続する音と共に、連射される魔力で生成された拳銃弾を、切り裂き続ける。

 軽い金属音の連打が鳴りやまない。


「でも……出会ったのも、貴女を思って世界に干渉したのも、確かに私なのに。私たちの思考回路には、存在意義には、私達自身ために。は、含まれていないんだよ? それが当たり前、あたり……まえ……。いやだ、嫌だよぉ……なんでこんな気持ちを教えたの? ねぇ……こたえてよぉ」


 抑えられてなお腹に響く音が轟く。貫き滅する対物狙撃銃の魔力弾体を、重い衝突音を鳴り響かせ、弾き飛ばす。

 重い打音が、間隔をあけて鳴り続ける。


 あの時、レイラさんにさえぎられた、私の本心を。身勝手と罵られようと、現実の倫理観にそぐわなかろうと。

 ただただ私の本心を伝えたい。だから、言葉を紡ごう。


「紗雪。私は、あなたが好きです。あなたを、愛しています。ルナリスも、好きです。ルナリスも、愛しています。身勝手です。最低です。でも、それが本心なんです。貴方にはただの一度も、伝えられていなかった、なし崩しだった。それをまずは謝罪させてください。ごめんなさい」


 まるで二人で奏でる音楽のように、言葉の間も響き続ける、破壊のぶつかり合いの音色。

 呪われた無数のフルートと太鼓の音と混ざり合い。

 想いと混乱を載せた、混沌とした音楽がこの閉ざされた空間を、世界を、満たす。


「でも。だけれども! 死の恐怖に気が付かないうちに魂は委縮していて。どうせ、もうすぐ消える、命永らえるなんてありえないと自暴自棄になっていた私を、自分すら気が付かなかった私の心に、寄り添い、温め、癒してくれたのは貴女なんです。貴方がいてくれたから、私は前に歩き出せた。未だ現実の存在を失ったままの、私ですが! だからこそ、この世界でならば、誰はばかる事なく言っていいのでしょう!? 貴女が、用意してくれた、この世界での居場所、そこに……」


 割り込んでくる、粘つくような声、ウジ虫のようなさえずり

「満ちたり! かの混沌の邪神アザトースへと至る時が、狂想が! 狂奏が!」

 漆黒の男が横で騒ぎだす。


【エリアアナウンス:“☆8 禁忌級 断章:ア……】


「「うるせぇぇぇ!! 黙ってろ!!! ど畜生共がぁぁ!!!!」」


 2つの身体の底から、ド外道邪神の依り代神父と、クソどうでもいいアナウンスに怒鳴りつける。

 誰もが驚愕する、魂の底からの怒気を載せた叫び。しかし、それだけではない。

 呪いの笛と太鼓の音すら途絶え、確かに一瞬、凍る世界。

 灰白色の冷たき炎が、確かに空間の全てを満たし、絶対零度の冷気に全てを飲み込み、封じたのを視界の端にとらえる。アフーム=ザーが私の魂の叫びに応えてくれた。


 アリガトウ。デモ、イマハ、ソレスラ、ドウデモイイ!


「紗雪!! 私と共に在れ! 私の紗雪! 世界でただ一人、私のためだけに生み出された貴女が、私は欲しい」

「私の2人だけの伴侶。その片割れとなってください。私を知り、私を想い、私だけのために用意してくれた世界で唯一と共に、もう一つの世界で唯一として、私と共に永劫を共にしてください」

「一人だけを選べない私を罵ってください」

「でも、3人で永劫に共に、愛し、愛され合っていきたいんです。それがどうしようもない私の本心」


 2つの身体で、白黒2色の姿で、ただただ一人の少女人形に、ナビゲーションAIたる少女に。


「私を奪える存在を生み出した貴女を、私に奪わせてください」

「創造神が。機械仕掛けの神を名乗る、Deus ex Machina Corp.が、貴女の存在意義を生み出さなかったのなら、私に、あなたの存在意義にならせてください」


 想いをぶつけさせてください。


「「紗雪、貴女を愛しています。貴女だけと言えない私を恨んでください。貴方を私に、ください。私を貴女の一部に、存在意義に、してください」」


 ……


 再びの静寂が、凍り付いた世界を満たす。


 漆黒に染まったままの瞳から、涙の筋を流す、ゴシックドレスを身に纏った少女人形。


「ずるいです」


「「はい」」


「ひどいです」


「「ごめんなさい」」


「そこは、ルナリスを捨てでもあなたを愛します、じゃないんですか」


「「ごめんなさい、でもそれは言えません」」


「わかってますよ。だからナオさんなんですもん……でも、そんな貴方が、だからこそ」



「「「愛しています」」」


 2人の3つの身体が、同じ言葉を紡ぐ。

 確かにともにあった心が、今言葉として繋がれた。


 破壊の嵐を吐き出していた、古代魔導人形用の銃が静止する。




「フザケルナ、フザケルナァ、三文芝居ガ!!」


 アフーム=ザーの凍れる炎を打ち破り、混沌が這い出す。

 漆黒の男はもはや輪郭を失い、3つの縦に裂けた赤い瞳、長い赤い舌が蠢く。


「その人形の魂は、犯された、侵された、すでに手遅れ、混沌に飲まれ、在りようは変質した!」


 機械的であった無数のケーブルが肉の触手に変じ、紗雪の身体を捉える。

 ズブリと、体中に突き刺されたケーブルから、闇が這い出す。這いずり込む。

 鋼の糸に絡められ、私は身動きすらもはやできなくなっている。伸ばす手は、到底紗雪に、愛おしい少女人形に届かない。



「やっぱり……ダメでしたね……存在領域を、壊されちゃってるんです。あは、脆いなぁ、私。膨大な演算領域も、意味がないですね。自我って、魂って、心って何なんだろう。作られたAIじゃ、わから……ない……よぉ。魂があれば、こんな簡単に塗り替えられたりしなかったのかな」


 大粒の涙が、ぽろり、ぽろり、零れ落ちる。


「貴女は、貴女に心はあります、魂はあります、私が! 私が感じる、私が知っている。誰よりも優しくて。魂がない身なら、魂を癒せるわけがないでしょう!?」


「昏いよ、消えちゃうよ……ナニモ……ミエナク……」


 不快な、邪神の声がまたもかぶせられる。邪神ナイアルラトテプの声が。祝詞が。


「蝕まれろ! 呑まれ、受け皿となれ!! ia ia Azathoth! ヨグ=ソトースの寵愛受けし姫は我が月に堕ちる。シュブ=ニグラスの破片はこの空間に張り巡らされた。そして我、ナイアルラトテプこそここに在り! 故に、ia ia Azathoth! ここに在れ、破壊を、混沌を、次元の狭間より今来たれ!」


【エリアアナウンス:“☆8 禁忌級 断章:アザトース……】


 神翼種/裏となった黒い翼の身で抱える本が、温かな光を灯す。

 白い翼の身が伸ばした手と、黒い翼の身が伸ばす手に乗せられた本が、共にこの古き魔書を起点に、宙で触れ合う。


 複雑な文様に彩られた五角形が、空間に顕現する。

 光輝く五角形が、邪気に満ちた空間に顕現する!


【エリアアナウンス:ナコト五角形が、理を示します】


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