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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第1部 - 第4章

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92.4章-第8話 ”ドリームランド(偽) #1/5”

「ルナリス? 紗雪?」


 手をつなぎ、扉に触れた。と、同時に。握り合った手の感触が消え、荒野に一人で立っていました。

 姿の見えない2人。視界の隅に嫌でも映る空欄のパーティー表示に気が狂いそうな混乱を、無理やり一時的に鎮め。

 いえ、そもそも、一人という表現は果たして正しいのか。


「「私が2人?」」


 白い翼に白いヘイロー。純白のロングヘアをハーフアップにした薄赤い眼の美少女。

 黒い翼に黒いヘイロー。漆黒のロングヘアを姫カットにした金眼の美少女。


 向かい合った2つの視界が混ざり合い、両方の姿が脳内に映し出される。

 意識は一つなのに、身体が2つ。情報量が膨れ上がり、頭痛がする。けれどこの痛む脳がどこにあるのかわからない。


 どちらの肉体も痛みを覚えてなどいない。まるで第三の私が宙に浮いていて、2つの肉体を、まさにゲームのアバターとして操っているような。

 ああ、そうか。封印体の中の私、本体の私、ある意味現実の私。ルナリスと出会って少ししてからはずっと、実体顕現を維持できていたので、すっかり忘れていました。

 それが、2つの肉体の実感をもって操っている。ちょうど三人称視点のゲームで、俯瞰的な視点からゲームのアバターを同時操作するみたいな感覚。


 2キャラ同時操作。ゲームクライアントを2つ立ち上げて、ALT+TABで切り替えながら操作したり。あるいは、パソコンを2台おいて同時操作したり。

 過去にも現実ではやっていた記憶がおぼろげながらある。難しいけれど、不可能とまでは言わない。そんな感覚なのだと理解が及んだ時。



 【個人アナウンス:スキル”☆6 多重思考”のスキル結晶を3個獲得しました。スキルスロットが不足しています。インベントリに”☆6 多重思考”のスキル結晶1個が保管されました】


 当たり前ですが、心を落ち着けるためにも順番に確認。素数を数えて落ち着こうとするよりは建設的でしょう。



 ここはあくまで、Steps to Elysium Onlineの中、VRMMOゲームの中。

 パーティー設定が解除されている。

 “狂愛の絆”の効果で、解除できないはずのルナリスとのパーティー状態すら解除されている。

 という事は、近くにいなければならないという制約すら、解除されている可能性がある。


 ステータス画面をチェック。解除どころか、エンゲージメントスキル“狂愛の絆”がグレーアウトされている。消えてはいない、失ってはいない。けれど……無効化されている。

 眷属の表示も同様。ルナリスと紗雪とのシステム的なつながりが、全てグレーアウト状態。

 “狂愛の絆-渇望”でルナリスを召喚できないか試しますが、反応なし。

 何らかの理由でやはり阻害されているようです。



 その事実にどうしようもない胸のざわつきが、膨れ上がります。


「「いっそこの2つの身体で別行動をして捜索範囲を広げるとか」」


 2人の自分の声がお互いの耳を通してさらに2倍聞こえる、頭のおかしくなりそうな状況。

 けれど、先ほどのスキルのおかげか、頭痛も感じず。むしろ自然に意識を分割というか、一人なのに複数の身体の操作、取得される多重化された情報の理解ができてしまいます。


 久しぶりに新たに実感するDeus ex Machina Corp.の超技術か、と無理やり納得。


 だめだめ、まずは状況確認。

 取得したスキルは、顕現体 表/裏 それぞれの空いていた、スキルSlot12に登録されている。”不朽の束縛“がSlot不足で、その分は結晶として保管されたことを確認。思考の本体はむしろ封印体である”不朽の束縛“側かと思いましたが、顕現体でスキル習得できたことで、多重の脳や体の制御をできている事にとりあえず安堵。

 これ、もしもスキルスロットを適当なスキルで埋めてきていたら危なかったかもしれないですね。残り各1枠空いているSlot13を見ながら、軽い安堵の溜息を漏らします。


 不思議な感覚ではありますが、両方の顕現体を、独立して動かせること。戦闘行動もとれることを確認。

 立体的な飛行戦闘をどちらの身体も行うのでますます混乱しそうなものですが、まるでこれが当たり前と言わんばかりに、自然に各情報を処理して、自由に動かせる不思議。

 そもそもこの第三者視点はどこからきているのでしょうか。封印体のチョーカーはどこにも見当たりません。

 ルナリスの首に装着されたままであれば、そちらの視界情報が見えているべきですし、そうあってほしいのですが……。


 “不朽の束縛”を意識してみますが、ダメですね。ゲーム開始初日のような、本体であるはずのあの特級呪物なチョーカー本体の情報は何一つ得られません。

 第3の私にしても、空に浮かんでいるような感覚かというと、そうでもなく。

 むしろ、なんだか、この辺りの空間全体に薄く引き伸ばされたような? あやふやな、まるで亡霊にでもなったかのような、頼りない感覚。



 と、一通りの確認ができたところで、すりガラスをひっかくような、耳障りな事はなはだしい鳴き声が上空から多数。

 見上げれば、空を飛ぶ……鳥? 馬? なんですかあれ。頭は鬣の生えた馬。大きく広げられた翼は、霜と石にまみれ。体は象のように巨大で、鱗に覆われている。


 簡易鑑定が示す名前は”☆4 シャンタク鳥”。


「話の途中だが、ワイバーンだ。じゃないのですから」


 携帯端末ゲーム化されたことで、小節単位の区切りにねじ込まれる戦闘シーンに誘導する名作ゲームのセリフを何故か急に思い出しつつ、迎撃態勢をとります。


「ある意味、強いですよね。この状態」


 銀の姫との出会い以降、一瞬たりとも、それこそベッドの中すら。一人になることなく24時間過ごしていたため。身体は分かれても一人という状況が、いっそ新鮮に感じてきましたね。

 とはいえ、豊かなこの美少女ボディの胸の裡は、安否すら確認できない2人を思い、今にも張り裂けそうなのですが。

 狂おしいまでの不安を、双短剣と漆黒のハルバードに込め。


「あ……魔力の供給がもらえないので、消耗にはいつも以上に気を付けないとダメでは?」


 MP回復がシステム上の最低限設定されている自然回復と比べてすら5倍遅いこの2つの身体。自動回復向上系スキルも習得不可能なので、一度枯渇すれば、MP全回復には30時間もかかるのですよ……。

 この制約も、ルナリスと合法的にイチャイチャできる。とばかりに、事あるごとにキスをして回復してもらっていたので、すっかり失念しかけていました……。そのことを思い出し


「無双モード入ったかと思ったら、むしろ、初期の超絶縛りプレイに逆戻りじゃないですか……」


 魔力温存のため、物理攻撃専念で次々押し寄せてくる巨大なシャンタク鳥たちを相手取ります。


 敵よりも素早く空を自由に翔ける、元天使モードで、浅いながらも確かな傷を無数につけ。

 ヘイトを稼ぎつつ誘導。意識がそれた巨体をすれ違いざま豪快なハルバードの一撃がぶった切る。


「元堕天使モードの火力は、元々物理依存なので全く変わらないのがいいですね」

「意外と楽勝かも」


 等と自分同士で言いあって、調子に乗っていられたのも100体ほど始末した頃まででした。 


「待って待って」

「多い! 多いから」


 二つの身体で交互に喋るくらいの余裕はまだありますが、減るどころかついに荒野の空一面を、覆い尽くさんばかりに増えたシャンタク鳥の群れに、恐れを抱き始めます。

 見渡す限りの、敵敵敵。あたりは一面の荒野で、隠れる場所もない。


「とりあえず……逃げ!」

「戦闘状態判定だから、この体が遅いー」


 天使と堕天使2つの身体の間での“移動速度の平均化”は、非戦闘状態でしか起こらないスキル特性。

 元堕天使ボディの、限界近くまで低下させられている能力成長性3という惨憺たるAGI(敏捷性)。

 レベル65を超えた今でも、住民の成人よりちょっと素早い程度、一般人よりまし程度しかない敏捷性。飛行しているので地上を走るよりははるかに速いとはいえ、あちらも飛行している敵よりは遥かに遅いのです……。


「しょうがない……抱っこ」

「自分の身体なのにムニムニして気持ちいい……」

「「いけない一人遊びに目覚めそう」」


 ただでさえ感覚のフィードバックが体2つで2倍。

 挙句、1時間以上既に戦った元堕天使ボディは、”☆8 血姫繚乱”の感覚倍加でドレスとこすれ合ったいろいろに、快感方面も刺激され、割とすでに限界ぎりぎり。


 その感覚は天使ボディ側にもフィードバックされていて。


「だめだめだめ、これまずい、快感のフィードバックでこっちの体まで昂っておかしくなってきてる。とにかく全速で飛ぶ」

「ひぅ……変なところが」


 ああ、もう訳が分からなくなる。この状態で、一人遊びなど”致し”始めたら、頭がおかしくなっても敵に喰いつかれても、止まれないとわかってしまう。

 必死に体の疼きと、自分の中で相互に増幅されている感覚を押さえつけて、逃げの一手。


 ひたすら前を向いて飛ぶ元天使ボディに変わり、抱きしめられたまま後ろを見ている元堕天使ボディの視界が。


「えっぐ……」


 イナゴの群れ、シャンタク鳥バージョン。


 視界一面に映る神話的怪奇生物の群れ、群れ、群れ。


「距離は引き離せてる。そのままゴー」


 と、元天使ボディに加速をかけたところで


「あ、な、ちょぉ!?」


 遮るもの一つない、永遠に続く荒野。それなのに、突如として目の前の空が、急に蜃気楼のように歪み。

 もはや、飛行の軌道を変えて避けられるような距離もなく。

 歪みにそのまま高速で突っ込んでしまいました。


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