83.3章-第27話 ”夏祭り”
作戦の開始までは日数もまだあるという事で、スキル結晶の相談だけ済ませ、取り寄せられるか調べるとのお言葉をいただき。後は、時間があいた私達。
せっかくなので、第1回大規模イベントのラスト、お盆の夏祭りに繰り出すことにしました。
こちらのイベントは毎日開催されている、リアル様々な地域のお盆祭りの雰囲気を取り入れた催しとなっています。
アメティスタ達生産組の子達が仕立ててくれた浴衣を、”マジッククローゼット”をいつも通り活用する事で衣装アバター的に着用し。3人でフラフラ。
プレイヤー以外も多数遊びに来ているイベント会場。まずは屋台を楽しみましょうか。
「ルナリス姫、りんご飴、どうぞ」
「ナオさん、チョコバナナです! ここで、はむ、っと! こう咥えてですね」
「紗雪嬢、紗雪嬢、射的やっていきませんか?」
プレイヤーの露店でしょうか。なんだかいろいろな方に声をかけられますね? そこのチョコバナナの屋台のおじさん? 邪な気配が漏れていますよ? いただきますが。
「動画の影響ですね。かなり初期のころから、ナオさんと、ルナリスちゃんの専用スレッドは立っていましたが、いかんせん供給が少ないので、進みが悪かったのですよ。今や超人気ですよ」
「いつの間にかそんなことに……それも動画を撮影、編集してくれる紗雪のおかげですね」
「ふふーん。獲得エモーションもワールド上位で、かなりのものになっていますよ♪」
「ええ。先日、”☆8 血姫繚乱”の入札の時に気が付いてびっくりしましたからね」
ええ、本当に。斎賀さん達が約束してくれている現実側の治療……蘇生? が叶った暁の生活費に対する心配が消し飛んでしまったほどに。
「ナオ……様……」
くいくいっと、夜桜柄の落ち着いた中に、可愛らしい華やかさがちりばめられた浴衣姿のルナリスが、私の裾を引きます。
視線の先を見れば、短冊が下げれられた風鈴がたくさん、飾られています。
「縁結びの風鈴ですね」
「紗雪ちゃん……も。3人……で」
「あや、私もいいのです?」
「あたり……まえ。3人……一緒が……いい、です」
2人の頭をなでなでし、風鈴を一つもらいに行きます。
「じゃあ、3人で書いて飾りましょう」
3人で、いつまでも。願いを込めて3人で短冊に書き連ねます。
飾り台というのでしょうか?木枠の天井部分に風鈴を飾り付けると。
「おや、インベントリに何かが」
“縁結びの風鈴 - 悠久の縁を望んだ3人の、夏祭りの思い出”
取り出してみると、今飾った風鈴のミニチュア版が3個。ちゃんと願いの短冊も再現されています。
「これはいい思い出になりますね」
2人にも1個づつ渡し、大切にしまいます。
またしばらく夏祭りを楽しみ、そぞろ歩きを続けると、川のせせらぎの音が聞こえてきました。
ほとりには、たくさんのまだ火がともされていない灯篭が。
「灯篭流し、ですか」
「イベント最終日に流すみたいですね」
「これ……は?」
「故人を弔う鎮魂や、お盆に返ってきた祖霊を再び送り出す、そんな意味を込めた催しですね」
並ぶ灯篭を見つめる彼女の心に去来するものは……。
「最終日に、また、来ましょうね」
進行も文化も違うでしょう。けれど、彼女がそこに意味を見出してくれるなら。ええ、きっと最終日にまた3人で来ましょう。
「はい」
「ナオ様、ルナリス様、紗雪様、そろそろお時間。なの」
するりと、いつの間にか背後にやってきていたのは金髪ゴシックドレスメイド……もとい、今は和メイドスタイルのサフィーロ。
皆も思い思いにお祭りを楽しんでくれていたはずですが。
「ナオさん、ほら、花火大会ですよ。人数が多いですからね、場所の予約をしてもらってあったのですよ」
「なるほど。サフィーロ、ありがとうございます」
「いえいえ、なの。美味しかったのも、いっぱい買って来てある、なの」
「それはまた、楽しみですね」
「……楽しみ♪」
そこは先ほどの灯篭流しとはまた別の区画にある、海辺の雰囲気が作りこまれた区画でした。
その一角に、うちの子達が勢ぞろいし、楽しそうに会場中で買い集めてきたらしき屋台料理を摘んでいます。
「お連れしたの」
「ナオ様! もう、遅いですわ~♡」
「ルナリス姫、このフルーツ飴、綺麗ですのよ」
「紗雪様、周辺の安全に問題ありません」
順番に、寄って来てくれるルビーノ、アメティスタ、アクロイト。皆それぞれに、思い思いの浴衣を着ていますね。
先日のモンスターラッシュイベントのおかげで、全員スキルスロットはもちろん、マジッククローゼットが手に入ったので、普段から、バリエーション豊かな服装をオフの時間は楽しんでいる姿を、よく見かけるようになりました。といっても、私の嗜好が反映されているためか、ドレス姿が圧倒的に多いのですが。次に多いのは着物や和風ドレスですね。
「皆、大変綺麗ですね。いつもと違った雰囲気も素敵です」
照れる少女人形の皆、本当にかわいいです。交流を深めるうち、やがて時間になったのでしょう。
始まりはぽつぽつと、徐々に盛大に。夜空一面を彩る花火の華が咲き乱れます。
現実と変わらない、いえ、それ以上に、五感に訴えかけてくる圧倒的なリアリティー。
かすかに鼻をくすぐる火薬の匂い。お腹の底まで響く空気を揺らす音。色彩豊かな火の華。手を握るルナリスと紗雪のしっとりとして、それでいてすべすべな感触。すっかり2人が気にいった、フルーツ飴の甘さ。
こんなにも真に迫った、もはやもう一つの現実としか思えない世界が現実に生み出されるだなんて。果たしてどれだけの人が予測していたのでしょう。
「ナオ……様?」 「ナオさん?」
ええ、そして2人との出会い。現実ではずっと、独り身でただただ、空しい人生を歩んでいた私に訪れた最高の転換点。
「ずっと、一緒です」
一瞬首をかしげるも、すぐに笑顔になり
「「はい!」」
即座に同意してくれる2人と、そっと接吻を交わす。
そんな3人を温かく見守ってくれる、少女人形達。
なんと。ええ、なんと、幸せなことなのでしょう。
この時間を永遠のものとし、さらなる幸せ、さらなる理想を実現するためなら。これからの困難だって、うち破って見せますとも。
後日。第2部隊の子達は花火魔術を。第4部隊の子達は火薬花火を開発していました。
宝石城と、水流で結ばれた多層構造の浮島。色とりどり、形も様々な花火が映りこむ姿は、大変幻想的で美しかったです。
あまりに頻繁に、大量に打ち鳴らすもので、アクロイトが取り締まりを強化していましたが……。




