79.3章-第23話 ”モンスターラッシュイベント #1/2”
結局顕現体表/裏ともに、空いた残り3つづつのスキルスロットは一度保留。変質した魔力で広がった適正に対応するスキルがもしかしたら手に入るかも……と。いざとなれば、候補からスキルを急ぎ覚えることもできますしね。紗雪に助言をもらったように、既存のスキルの下位スキルを重ねて取るという手もありますし。
紗雪はイベント報酬のスキルスロットエンハンサー待ち。
辺境伯に用意いただいた部屋には定期的に顔を出し、戦況に問題がないかを確認。
こちらは、援軍も順次到達し、その都度、敵軍の一角を殲滅するも敵の陣容にも変化なし。まさに無限補充状態。
偵察と、アレイスター王国内部のスパイとの情報交換を密にしつつ、打開方法を模索しているとのことでした。
結果今のところ、私達が、手を出す必要がある場面は無し。
そんなわけで、戦争真っただ中のはずなのに、別空間のイベント会場で、2人とデートをしながら。モンスターラッシュ(拠点防衛=タワーディフェンス型)イベントの開始を待つ2日間となったのでした。
そしていよいよイベント当日。
多くのプレイヤーが、自分たちのハウジングエリアか、専用イベント空間で、開始を待ち受ける中
【サーバーアナウンス:”悪しきマナ”の密度が高まっています。出現するモンスターから領域を守り抜いてください】
マナをたっぷりと含んだ水で満たされた広大な湖の中の島にそびえる白亜の城。上空全周方向へ布陣する総勢100の魔導人形達と、4人の副統括。
襲来する様子も分からないので、今は第4部隊の生産組の子達も、表で待機しています。
広大な領域全体の基盤である、巨大な浮島。その外縁部下方全域を覆っていた白い靄が、徐々に晴れていきます。
そうして見えてきた情景は、ある意味混沌としていながら、別の意味では整然としたものでした。
不自然なほどきれいに、パイやホールケーキを切り分けたように、この”悠久の楽園”を中心として、12分割された外周領域。それぞれの間には確かな境界が、漆黒の壁としてそびえたっています。
ボールが落ちる先が12個しかない、カジノのルーレットと表現するのが良いでしょうか。
現在眼下に様子が見えるのは、そのうちの1角だけ。
白亜の城の正門を背にした方向を南、6時方向とすると、4時の方向だけが中の様子をうかがうことができます。
他の区画は全て、濃密な白い靄に埋め尽くされ、中の様子が一切うかがえません。
そして見えるその領域、森の中らしきそこの手前側には、巨大な魔法陣。
同じ形の魔法陣が”悠久の楽園”6時方向を中心に3個、並んでいます。
「あの”12分割されたのが敵の領土”。魔法陣経由で、”南、6時方向の3個の魔法陣が侵入経路”、といったところですかね」
「ぽいですね。ナオさん、わかりやすいように、その順番で、”敵陣”、”出現ポイント/魔法陣”、そして悠久の楽園の土地を、”自陣”。とでも呼びませんか?」
「採用。みんなにも伝えておきましょう」
「紗雪にお任せくださいな」
通話のイヤリング越しにやり取りが進みます。
【サーバーアナウンス:”モンスターラッシュイベント”が開始されます】
唯一靄のない敵陣に、一斉に黒い兵士の姿が出現しました。
辺境伯領に攻め込んできている、あの兵士達ではないですか。
「あの大侵攻とイベントは連動しているのでしょうかね」
「それか、これが原因で悪いマナが増大したという事かもしれませんね」
「霊視に……映る姿が、違い、ます。あちらは密度が高く……こちらは、すごく希薄……です」
ルナリスが観測結果を教えてくれます。
「なるほど、ある意味こちらは偽物、といったところでしょうかね。さて」
【連合レイドアナウンス:敵出現予測地点に第1、第2レイド移動。残りは白亜城、宝石城にて警戒】
戦乙女風のドレスアーマーに身を包んだ第1部隊副統括、今回も総合指揮を執ってくれているアクロイトが、全体に指示を飛ばします。
各レイド、第1~第3部隊の子達を中心としたメンバーで成り立っています。その約半数を敵出現位置へ振り分け、残りは周辺警戒のため、あらかじめ決められた編成に従って、飛び立っていきました。
「私たちは、敵の大物が来るまでは待機ですかね」
『ナオ様、はい、そのように願います。ご出陣を願う時は、別途ご案内します』
「アクロイト、ありがとう。頼りにしているね」
『はい!!』
イヤリング越しに声を届けてくれたアクロイトにねぎらいの答えを送ると、新たに取得した”☆7 星槍術”に合わせ、アメティスタが作ってあげた、一際美しい純白のランスを従え、敵出現ポイントへと一段突出し、空を駆ける白い少女人形が一人。
まるで流れ星のような煌めきを引き連れているのは、すでに、星槍術で星属性をその身に纏っているからでしょう。
温かな光がランスを包み込んだところで、さらに加速され、いよいよ、突貫。
ちょうど出現した黒い兵士12体を一突きでバラバラに粉砕してしまいました。
「すご……」
「張り切っていますね。ですがいい威力です。そして……」
「魔法陣は……壊れていません……ね」
「あの威力で壊れないなら破壊不能オブジェクトですかね」
「可能性が高そうです」
追いついた47人の少女人形達が、3つの魔法陣に対し、空中で陣形を整えます。
『ナオ様。敵出現ポイントに対し、防衛拠点の構築をご許可いただけますかしら』
「アメティスタ。ありがとう、是非頼むよ」
『かしこまりました』
背後から、アメティスタを先頭に、飛び立つ30名のマーメイドラインのドレスをまとった少女人形達。どの子も第4部隊所属の子達ですね。
「基本構造はこちらでやる必要あるかな?」
「いえ、副統括にはハウジングエリアのカスタマイズ権限を割り振ってありますので、大丈夫ですよ」
言っている傍から、敵出現ポイント3つそれぞれの手前に、城壁と、3つの砦が出現しました。
あくまで基本構造らしく、シンプルな作りのそれに、第4部隊の子達が取り付くと。次々素材や工具を、空間拡張のポーチから取り出し、着工。
第1、第2レイドが敵兵を出現する端から殲滅する後ろで、着々と魔術とスキルを併用した建造作業が始まりました。
直径8km程のこの浮島の南方一角を、まるっと防衛陣地にする感じですね。
「他の場所に出現ポイントが形成されなければ、これが一番、領域を荒らされずに済みますね」
「敵陣が広がるとわかりませんが、あそこに3個、出現ポイントがすでにあって、今使われているのが中央の1個だけなので、あそこだけ、という可能性もありそうですね」
「メタに考えれば、全周に出現ポイントができたら、せっかくのハウジングエリアなのに、土地活用が何もできないですよね」
「確かに。できてもあと1,2か所でしょうかね」
「防衛箇所1か所は、さすがに難易度が低すぎるか……」
「ええ。一応そのつもりで、アメティスタとも予測の共有をしておきますね」
「お願い」
午前は結局4時方向の1か所だけが解放され、ボス出現もなく、うちの子達が交代で完ぺきに抑え込んでいました。
ポイントも順調にたまっていますね。
孫眷属扱いの少女人形達もテイムモンスターに準ずる扱いのようで、みんなそれぞれにポイントが入っています。
獲得したポイントは、各自好きに使っていいと通達してあるので、イベント後には皆それぞれに成長できそうですね。
PVP大会の時のような異常なポイントは入りませんが……いえ、あれはさすがに異常すぎて。またあんな事があっても、戸惑いますが。ギャンブル怖い。
そうして、13時になり、今度は8時方向が解放。出現ポイントの魔法陣は2個が稼働し始めましたが、敵は相変わらず黒い兵士達で、鎧袖一触とばかりに、殲滅。
18時になると6時方向が解放され、黒い獣、というのでしょうか。黒い兵士達と似た質感の、鎧をまとった四足歩行の獣たちが出現し始めました。
さらに、他の敵陣から出現した兵士達と融合し、人獣一体の新しいモンスターとなる始末。
とはいえこの頃には自陣の城壁と砦がすでに完成しており、城壁外側で戦う子達の後ろから、第2の魔術部隊と、魔導銃を構えた第4部隊の子達が援護射撃を送るという陣形で、城壁までたどり着かせる事すら無く、殲滅を完了してくれました。
ちなみにレイドや連合レイドを組んでいる場合も、多少の傾斜分配にはなりますが、所属全員に経験値が入るので私達や、周辺警戒を担当してくれている主に第3のメイド姿の人形少女の子達もしっかりと成長できます。スキル経験値は実践しないとだめですけれどね。
「今日はお試しな感じで終わりそうですね」
「はい……敵陣側に……見える気配も、消え始めて……います」
ルナリスが魔眼を開放してから、霊感と霊視の精度も飛躍的に向上したらしく、遥かな眼下遠くの敵情まで教えてくれます。
そして彼女が見てくれた通り、21時には魔法陣が光を失い、1日目のモンスターラッシュは終わりを告げたのでした。
「今日だけでポイント1憶ですか。悪くない配り具合ですね」
「ナオさん、スキルスロットエンハンサー、5個取れるのでスロット増やしてしまっていいですか?」
「もちろん! 紗雪の戦闘の幅が広がりますね」
「はい♪」
5個の小さな結晶をさっと使用すると、2個のスキル結晶を取り出す紗雪。
“☆7 属性:特性付与”, ”☆5 武術:糸/鎖術“の2つですね
後者はまさに、糸使いや鎖使いとしての戦闘方法を身につけるスキル。
前者が変わり種で、攻撃の特性を変更したり、追加で付与するもの。
以前から、封印/拘束結界としての鎖魔術を使っていた彼女ですが、この特性付与を使うと、拘束のための鎖の結界に斬撃属性を追加して、攻撃力を付加したりできるわけです。
さて。
――警戒だけは怠らず、休みましょうか。




