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8.第8話 ”少しづつ、少しづつ”

 ふよふよ~っと。


 物音ひとつない静寂にも飽きましたので、意を決して、“幻影顕現”で純白の天使の姿を露わにします。

 視認不能の幽霊モードにしているので、霊視とか第六感とかそういうスキル持ち以外には見つかることもありません。


 ヘイロー(天使の輪っか)の輝きも、この状態だと私にしか見えない光。つまり、暗闇を照らす光源にはならないのですね。内心少し期待したのですが。

 とりあえず棚と並行に、通路と思しきところを、すい~~っと。魔力飛行で飛んでいきます。


 “幻影顕現”の消費MPがLv10の今の私で1時間あたりおよそ体感0.1%消費。顕現そのものは誤差程度の消費ですすので、寝る時間も考えれば、ゲーム内2か月弱は動き続けられます。


 一方、これが”実体顕現”になると、顕現するのに約1%、1時間あたり10%消費となり、かなり重たいです。”幻影顕現”での探索時間も入れれば、合計半日ももちません。


 魔力(MP)補充の当てがあれば、レベル上昇とともに比較的すぐに気にならなくなる消費でしょうが、今の私は初期値が空になってしまえば、そこでジ・エンド。いよいよ、誰かが装備してくれるのをただひたすらにあの暗闇の中で待つ身になってしまいます。


 サユキさんと、このゲーム内で過ごせる手段を手に入れる約束も、果たせなくなってしまいます。

 慎重に。ですが大胆に、行きましょう。


 ズボッ


 なんて余計なことを考えていたら、壁にめり込みました……。

 普通に透過できるのですが、ちょっとこう、“壁の中にいる“は落ち着きませんね……。

 ただの暗闇ともまた違う、異様なまでの圧迫感がある闇を抜けた先は、石造りの螺旋階段でした。


 壁に規則的に設けられたへこみに、ランタンが配置され、ほんのり明るい空間は、まさにお城の塔の内部といった様相。

 ひとまず上に行ってみましょう。


【サーバーアナウンス:始まりの街南部 フィールドユニークボス ”眠り角兎 クロメ” が、パーティー”名称未設定”により、サーバーで初めて討伐されました】


【サーバーアナウンス:初回限定アナウンス ー ワールドボス、ユニークボスなど特定ボス/コンテンツのレアDropは、一部例外を除き、初回討伐時は確定入手。以後、低確率のランダム入手となります】


 ほぅ。開始初日数時間で早くもですか。


 サーバーアナウンスは、このJP-001サーバー全体に周知された、という事ですね。

 運命値の件といい、こうした特別を積み重ねていける要素がふんだんにちりばめられていそうなのは、大変夢があっていいですね。

 レア泥周回はMMOあるあるですが、Repop周期にはよるものの、確定の初回以外では、どうなのでしょうね。


 ここまで再序盤のボスではDrop内容もたかが知れているでしょうからともかく、エンドコンテンツ近くになれば、よくある例に従えば、年にサーバーに1~数個、産出されるかどうかでしょうか? それが多数存在するともなれば。うん、ゲーマー心理を刺激されますね。


 掲示板とかを見れば、いろいろ情報もあるのでしょうが、時間がもったいないですからね……私はあまり見ないのです。

 いよいよ魔力が切れて、身動き一つできなくなったなら考えますかね……。


 さて、ここの場所はいよいよ、お城、で確定でしょうかね。

 深い青いカーペットが敷き詰められ、随所には大変お高そうな装飾が飾られた、8人は優に横になって歩けそうな広い廊下。


 天井には小型のシャンデリアがずらり。

 螺旋階段はどうやら塔の内部階段だった様子。


 大きなガラス窓から外を見れば、庭の先には白い石組の城壁。窓の大きさひとつとっても、城塞等というよりも、居住性や豪華さを重視したつくりでしょうか?

 しかし、たいそう美しかったであろう庭園は随所が燃やされ、地面が露出し、城壁も崩落こそしていないものの、明らかな爆発の跡と思しきすすけた跡がそこかしこに。


 もうしばらく進むと、崩れた壁を修復する職人の姿も見られます。兵士が駆け回っているわけではなく、音も静かなもの。戦時中、ではないかどうかまでは、わかりませんが今は少なくとも落ち着いていると考えてよいのでしょうか?


 まずはとにかく探索と情報収集ですね。


 現実に一般人が目にすることなどあり得ない、生のお城の中の生活。実に堪能いたしましたとも。

 惜しむらくはただの傍観者としての視点であることですが、モニター越しに映画で見るのとはわけが違いますよ!


 まあ、地下牢的な空間に行ったらそれはもう、ひどい匂いに思わず逃げ出したりなんていう場面もありましたが……。


 そういえばあの囚人。ぼろぼろの布で隠していましたが、軍服でしょうかね? 血みどろのひどい有様ながらに、大変立派であった事がそれでもわかる装いで、キラキラと銀に輝く、絹糸でしょうか? が巻き付けられた十字架を、それはもう大切そうに胸にかき抱いて、ひたすらに祈りをささげている様子でした。

 何より、私が天井から、すすーっと飛び込んでお邪魔しましたら、確かにこちらに視線を上げて、目が合った気がするのですよね~。それ以上何の反応もなく、あまりの不気味さに逃げ出してしまったので、真偽のほどはわかりませんが……。



 ◇  ◇  ◇



 そんなこんなで内部時間3週間(リアル約5日間)。封印体の宝石に蓄えられていたMP3割強を費やした情報収集の成果!

 ええ、いろいろなことが分かりましたよ。主にメイドさんたちの噂話とかから。


 いいですか?


 まず。新人メイドのマリーナさんと、兵士長のチャールさんは恋仲です。それはもう爛れた関係です。実にけしからん。


 人目を忍び、逢瀬を重ねる甘酸っぱいひと時。かと思えば夜には大胆にもお外で逢引き。

 栗色のウェーブロングがふわふわと柔らかそうな、彼女の頭に鼻をうずめ、夢中で抱き合う二人。

 天使様が見ている。なんていうことは当然気がつくわけもなく、それはもう大胆な……。

 ああ、しかし、マリーナさんは気が付いているのでしょうか、出入りの商人が娘さんをチャールさんに嫁がせようと画策していることを!


 え? 違う? あ、はい。


 いえ、別に昼メロに夢中になっていただけでは、決してなくてですね?

 こうした細かいNPC一人一人の生きざま。普通プレイヤーが誰も見ていない、見る事すら無いようなNPCの日常までもが、あまりにリアルに存在していて……。もはや現実と見分けがつかないのですよ。


 ちょっとおふざけで、声をかけて脅かしてみたら、チャールさん、裸のまま! 彼女を背にかばい。ええ、それはもう堂々たる様子でした。いろいろと……。おぇぇ……。余計なことをして、視たくもないモノを見せつけられました……。


 そうしたプレイヤーとの相互作用といいましょうか、ただNPCが定められた日常を淡々と上映している。のではなく、明らかなレスポンスがある。NPC一人一人に高度なAIが組み込まれている…のでしょうか。


 今どきの普通でしたら、定型文の短い台詞とともに、クエストアイコンがピコンって光って、せいぜい軽いサブクエストが進む。

 仮に作りこみがあっても、その程度でしょう? こんな状況が無数に城内だけでも展開されているのです。


 さすがの超技術にも限度があるのでは……?


 ちなみに、観察1週間目に称号”覗き魔”を頂戴しました。

 その効果は、覗き行為に際して、隠密補正微小

 初獲得称号がそれって……ゲセヌ。


 1週間連日は私もやりすぎたとは思いますよ? でもほら、あまりにそのリアルというか……はい、ごめんなさい。

 なお、称号は見なかったことにして当然、セットもしていません。


 シマッテ オコウ ネー。



 少しわき道にそれましたが、そんな検証結果? 実感? を得つつ進めた情報収集。

 “幻影顕現”では書物や保管された資料を覗き見るということができませんので、お城に勤める人々の会話が主な情報源です。移動距離100mでは城下町の様子をうかがうことはできません。


 すぐ外は定番の貴族街のようで、広大な敷地を有する豪邸が立ち並んでいました。そこも、明らかに焼き討ちにあった惨状と、美しい姿を威風堂々と見せつけるお屋敷が、対照的に並んでいたわけですが。


 私が今いるこの国の名前は”アレイスター王国”。

 プレイヤーの大多数の初期開始地点”始まりの街”の所在地は”ミドガ帝国”。


 さすがに私の行動範囲では得られる情報に限りがあるので、SEO運営公認の情報 サイト「SEO情報局」(日本版)の有料会員登録をしました。こういう情報サイトって、初期のプレイヤーが不慣れな頃はありがたい物ですからね。。


 そこでも、まださすがに世界地理や他国の情報は集まっていないらしく、両国の位置関係などは不明です。少なくとも、国レベルでスタートポイントが違うこと。が、確定しましたね。


 さて、このアレイスター王国ならびにアレイスター王城ですが、サービス開始のほんの1か月前に内乱というかクーデターが発生。

 首謀者は無数の問題行動の末、幽閉され、いつなんどきにも毒の盃を下賜されると、確信されていた第1王子。


 小声で交わされる囁きを拾うだけでも、死を弄び、邪を崇敬する。数々の禁忌や性魔術の研究と実践。禁止薬物流通への関与。創世聖教からの破門、等々。


 国王陛下、王妃殿下ならびに、次期国王との呼び声名高かった第2王子殿下以下、第4王子まで全ての王子様は断頭台の露と消える。他国に嫁いでいた第1、第2王女は存命。 

 あろうことか、新国王となった第1王子は、同腹の第3王女を正妻として娶ることを宣言。

 元々表に出る事がなく、病弱と噂されていた末の第4王女は行方知れず。


 政変の実働戦力のうち、主力部隊は漆黒の鎧に身を包んだ謎の軍団とされるも、ことが終わった後、忽然と姿を消し、行方知れず。謎の闇の軍勢などと恐れられ、国内への抑止力たる恐怖の象徴の一翼を担っている模様。


 他細かな貴族や軍団の勢力図などは城内の会話を盗み聞くだけでは読み取れなかったものの、第1王子への懲罰推進を当時担った者たちを除き、影響は最小限。国政は意外にも表向き大きくは変わらず、安定路線。武力による政変に伴う混乱と、一時的な衰退は不可避と目されるものの、市勢は意外にも安堵されている模様。


 ちなみに、4倍加速のゲーム内部時間の先週、予定通り2週間でイベント期間は無事終わっていました。

 レベリングトップでもLv14。最序盤にもかかわらず、たったの4レベルアップで幕を閉じています。経験値の表示などもないのではっきりとはわかりませんが、何かレベリングにもコツというか特殊性があるのではないか。とか、考察と検証が始まっている様子。さほど大きく引き離されるようなことがなかったのは一安心です。


 ほぼずっと幻影顕現の幽体状態で過ごさざるを得なかった私。レベルは初期の10のままはもちろん、戦闘も生産も一切できていませんが、ランキングの報酬が1項目だけもらえました。


 総飛行距離! 城内とはいえ、ふよふよ~、す~っと、あっちへ飛んで、こっちへ飛んでを繰り返しましたからね。そもそも飛ぶ手段がないプレイヤーの方が多いはずです……。こちらランキング5位をいただきました。ランキング報酬はこちらのイベントはありませんが、達成進捗報酬はすべて獲得。ポーションやモンスターの羽根素材等、いただきました。


 そして今私の目の前に広がる光景……ええ、一面の財宝ですよ。

 今先ほど顕現のSLvがようやく2に上がり(情報サイトにも書かれていましたが、スキルレベルの上昇もかなりゆっくりらしいですね。初期に魔術系上位スキルが取れていたのは、想定以上のアドバンテージかもしれません)、移動範囲も2倍に広がります。


 未探索領域へ乗り出す前にと戻ってきたのがここです。


 私の本体? というか、封じられているチョーカーの場所も判明しています。

 この宝物庫の奥。案の定、封印指定の宝物の隔離空間でした。


 さて、顕現体でもインベントリ操作はできることはわかっています……。目の前には国宝とされる財宝。いざ、尋常に……!?


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