68.3章-第12話 ”冥府の洞窟-ニベヘリィルの異変 #1/2”
進むこと2日半。順調に小領域を抑えつつ進んできたダンジョン”冥府の洞窟-ニベヘリィル”。自然の光源となっていたヒカリゴケもほとんどなくなり、薄暗い内部を照らすのは魔術の灯り。さらには岩肌が剥き出しだった内部も変容し。太い木の根のようなものが、這いまわり、さながら巨大な樹木の地下部分を潜り抜け、進んでいるかのような様相になっている。
「あちら側も似た雰囲気の環境になってきているようですね」
反対側、帝国東側から騎士団長とともに進んでいるプレイヤーから掲示板での呼びかけがある事に、一昨日気が付いたのですよね。専用の、読み書き可能なメンバーを限定した鍵付きスレッドが立てられ。今はそこで、適宜情報の交換がされています。
いえ、いました。というべきでしょうか。数時間ほど前から、あちらからの交信が途絶えているのです。
前方ではうちの子達が、今も襲い掛かってくる屍喰鬼を、光属性を中心に滅してくれています。が、これも問題で。
「帝国で保有している情報によると、この冥府の洞窟、名前の通り確かにゴースト系などのアンデッドは出現するそうです。が、”屍喰鬼”、そして道中で遭遇した”フレッシュゴーレム”、”アンデッドブラッディスライム”の記録は過去数百年をさかのぼっても、存在しないと。もちろんダンジョンですので、出現モンスターやその分布が変わることは十分にあり得ますが……。加えて、この木の根が出てくるようになってくるとむしろ、蛇や亜竜系のモンスターの出現比率が高くなるはず、と」
「蛇も亜竜もこの数日、一度も見かけませんね」
「アンデッドまみれ……です」
「ナオ様、小領域の主の部屋の扉です」
耳元のイヤリングからアクロイトが報告してきてくれます。
「さて、なにが出るか」
これまでと同じはずの鉄の扉から、どことなく嫌なプレッシャーを感じる気がします。
【レイドアナウンス:これまで通り、バフを外で準備してから、突入します】 (※バフ=強化魔法等の強化支援)
「アクロイト、ここからは私達も積極的に参戦しようかと。あちら側の連絡がないのも気になりますので」
「承知しました」
【レイドアナウンス:ナオ様方を中心に陣形を再編。第1は両側面を、第2は後衛、第3は適宜支援に回ってください】
「やり……ます」
ルナリスが刀と扇を手に構え
「第2の子達のラインあたりから援護しますね」
紗雪もフリントロック拳銃4丁を宙に浮かせ、対物狙撃銃を両手に構えます。
すっと開かれていく扉。これまでよりも格段に広い内部。
周囲を覆う木の根は血に染まったかのように赤黒く変色し、薄気味悪く、ドクン、ドクン、と脈打つ。
中央に小山のような巨体でうずくまるは、奇怪なオブジェのような、つぎはぎだらけの竜の部品の塊でした。
各パーツがその本来あるべきであろうあたりから生えている事で、辛うじてドラゴンと分かるシルエット。
ただし、その数は悍ましいほどに増殖しており、翼は10枚、12本の腕に16本の脚、長短さまざまな首に支えられる頭が11個。各頭の目の数もてんでバラバラ。額に第3の目が開いている頭もあれば、6個もの目が横に並んでいる頭もある。
“☆8 ドラゴンキメラゾンビ”
簡易鑑定が示す名前はそのように表示されました。
JJYuurrghuuujyuu
こもったようなうめき声が11の頭から漏れだす。
咆哮と呼ぶには程遠く、湿った何かが詰まったような、身の毛もよだつ、音、音……音の連なり。
その音が漏れだすとともに、それぞれの首から吐き出される濁った赤い何か。それらはウゾル、ウゾリ、と這いずるように動き出すと”アンデッド - ブラッディスライム”の形を成し、床を覆い始めます。
さすがのうちの子達もその気色悪さに、若干腰が引けているよう。
ひどく血なまぐさい空気の匂いとともに
「くしゃい……です」
ルナリスも嫌そうな声を上げつつも、緩やかに舞い踊り始めます。
道中でスキルレベルも上がり、清浄さが増した、光魔術による浄化のドームが第2部隊の子達から広がります。
そのお陰でわずかに、空気が澄んだものに戻ったように感じるとともに、
「行きますね」
双短剣-鳳凰翔舞を両手に構え、身体にはうっすらと光輝魔術による浄化を接触発動で纏い。
“瞬間加速”瞬きの間に異形の竜の背中上方へ斜めに飛翔、すれ違いざま触れるを幸いと双短剣でなで斬りにすると同時に。
“融炎起動”、首の2本を半ばまで断ち切り落します。
「はっや……」
全速全開を叩き込みましたが、瞬間移動でもしたかという程の速度に、飛行の軌道を変えるなどもっての他。辛うじて双短剣を添え、接触発動となる魔術のタイミングを合わせた自分をほめたくなるほど。
下手に使ったら冗談抜きに自爆ですね。制御するなど当面、もっての他。直進するしかないでしょうが、減速にもとっさに”瞬間加速”を使用していなければ、天上のシミになっていたでしょう……。
消えた私を追いかけるように、慌てて
【レイドアナウンス:ナオ様に続きなさい。両側から頭部を左右に誘引。根元を狙い、穿ちます。瞬間的な移動のお邪魔にならぬよう注意】
戦乙女たちが3人づつ左右に分かれ、盾を前に。敵頭部群の視界を遮り、死角からランスを突き込んでいきます。
その様子を横目に、背側から翼の付け根を溶断せんと、双短剣を融炎とともに振るっていきます。が、いかんせんそれぞれが太すぎる。しかも、再生能力……と呼んでいいのかわかりませんが、焼き溶かした傍から、腐肉が盛り上がり、傷痕を埋めていってしまう始末。
おなかに響く重低音とともに打ち放たれた、紗雪の対物狙撃銃の魔力弾体が斜め上空から正確に、私が穿ったところを狙い放たれます。が、弾け飛ぶ腐肉はまたも埋められ、刹那の間に再生してしまいます。
竜の前方では、ルナリスの月魔術に幻惑され、明後日の方向へと首を伸ばし。噛みつきや、ブレスの代わりでしょうか。気色の悪い血色のスライムを吐きかける、切り落とされて減った9個の頭。今もまた6本のランスと、ルナリスの飛翔する剣に穿ち、切断され、1本の頭が地に落ちます。
落ちた首の傷痕にすかさず浴びせられる、ルビーノ達からの光と火の魔術。
足元から押し寄せる”アンデッド - ブラッディスライム”の波は、第3の子達が光魔術の付与された短剣で切り刻み、浄化のドームの外縁部ラインとともに、押しとどめています。
転身 顕現体/裏 堕天使モード
小さな傷ではらちが明かないと、ここで転身。
銀の装飾が美しい漆黒のハルバードを振り上げ。
「ぶった斬りましょうねぇ……!」
加重撃に後押しされ、力場纏が見た目以上に範囲を拡大し、剛撃一閃。
斧部を叩きつけられた翼の1枚が付け根をぶった切られ、ズンッ……っと、重い音を立て地に落ちます。
次!
重量兵器を振り回した勢いを殺すことなく、飛翔と重量物を回転させる勢いを共に乗せ、加速していく暴虐の嵐。
背の上を踊る漆黒の破滅となり、当たるを幸いと、翼の付け根を、背の腐肉を、幾本も通っている太い背骨を、滅茶苦茶にぶった切って回ります。
穿った醜い亀裂に、吸い込まれていく無数の弾丸。古式魔導銃4丁から放たれた拳銃弾サイズの魔術弾体は、込められた混沌属性の魔術を内部で炸裂、冒涜的な竜の死骸の集合体内部で、小規模の爆発を連続させます。
痛烈な痛みか。あるいは、再生も追いつかぬ莫大な損傷への恐れか。無秩序に暴れ始める巨体。
しかしその動きは6人の戦乙女が守りに徹すべく切り替えた、宙に浮かべた6人12枚の一際大きな巨大盾にいなされ。押しとどめられ。駄々っ子がもだえるように、害を成せぬまま抑え込まれてしまいます。
身動きを封じられた巨体、その直上に生じる青白い稲妻の予兆
【レイドアナウンス:総員離脱】
全員が巨体から離れると同時、空間全体を焼き焦がすのではないかと思う程の、特大の閃光と轟音が炸裂。
ようやく収まった天災がごとき稲妻の跡。
背を向け、耳も手で覆っていたにもかかわらず、びりびりと痛む気がする身で振り向けば、津波の前兆のように嵩を増し始めていた腐肉と血のスライムともども、跡形もなくクレーターだけを残し。忌まわしい冒涜的なモンスターは消滅していました。
聞けば、ルビーノ筆頭に第2の魔導部隊の子達が、簡易的な儀式場を形成。ルナリスの舞いと歌により紡がれる雷魔術を増幅するとともに、光属性の浄化作用を上乗せした結果との事。
「うふふ~こんな事だって、できちゃうのよ~♡」
と、得意げなルビーノにつられ、ルナリスもテンション高めに嬉しそうに微笑んでいたのが大変よろしい。
先ほどまでの気色悪い相手のこと等、記憶から吹き飛んでしまいそうですね。
そろそろ初期から使っている私のスキル群はSLv10に至りそうなのですが、まだもう少しかかる……のでしょうかね。
激しく動き回ったことで、昂った体が発するじくじくとした熱。血姫繚乱の感覚倍加で敏感になったあちらこちらの反応を。ルナリス達に散々弄られ、身体に覚え込まされた諸々を思い出しながら耐え忍びつつ。意識をそらすよう、戦闘後の損耗確認を進めるうちの子達を横目に、ステータスと、連絡掲示板を眺める私。
天使モードに切り替えてしまおうかと悩む中、ふと、腰に下げた”☆8 原初の魔書”がカタカタ、カタカタと、微かに震え、銀の鎖がかちゃかちゃと、音を立てている事に気がつきます。




