66.3章-第10話 ”少女人形達の快進撃 #1/2”
「お茶でございます、なの」
ゴシックドレス風メイド服に身を包んだ少女人形、サフィーロがすっと、ストローのさされたガラスのコップを差し出してくれます。
「「「ありがとう」」」
ルナリス、紗雪と私、三人で受け取った冷たいアイスティーを一口。
ほのかな酸味と程よい甘さ。
「アイスラズベリーティーですね?」
「はい、なの」
【レイドアナウンス:PT2 範囲殲滅用意、PT1 あわせて交代、殲滅後、越えて前進、PT3討ちもらし処理】
折しも今も戦闘の真っ最中。ルナリスに誘引され、いつものごとくモンスターのわんこそば状態は大繁盛。
今相手にしているのは蛇型モンスターの大群
6人パーティー(以下、PTと略す)を最大4個まで収容できる、レイド。
さらにレイドを複数束ねて形成される、連合レイド。
これらに対し、指揮系統のスキルを持っていると、”アナウンス”で形成した集団のメンバー全員へ、声を直接届かせることが可能。
これを活かし、第1部隊を率いる副統括アクロイトが、指揮を執っているわけです。
魔術部隊となる、サフィーロ率いる第2部隊からなる第2PTが、魔力を高め始める。
その気配を察し、戦乙女風のドレスアーマーの第1PTが、宙に浮かせたランスによるチャージを敢行した後、身をひるがえし、空を駆け、後退。
入れ替わりに、風と氷の刃の嵐が、洞窟内の広間を席巻する。
巻き込まれた多数の蛇のモンスターが切り裂かれ、靄となって消滅する。
生き残りはしたものの、損傷を強いられた残りの敵へと、ゴシックドレス風のメイド服をまとった第3部隊所属、第3PTの少女人形達が気配を絶ち、忍び寄り、静かにそして確実にその命を刈り取っていく。うん、暗殺メイド隊かな?
その様子を横目に、再度転進。嵐の過ぎ去った広間を奥へと突撃する6人の白い翼の戦乙女風少女人形達の第1PT。奥へとつながる通路の入り口を制圧する。
身長は皆60㎝程度と小さくとも、念動によって身の丈をはるかに超える武具を自在に操り。
古代魔導人形のジェネレーターが生み出す潤沢な魔力を用いた大規模魔術を打ち放ち。
メイド姿の諜報/斥候部隊が隙を潰し、情報を集め、罠を警戒。全体の潤滑剤として有機的に機能する。
今はパーティー単位でそれぞれの部隊の子達を集めて編成していますが、最終的にはレイド、連合レイドの規模で適切に分散配置し、規模を拡大。一つの集団にまとめ上げていくことになる予定です。今はその練習段階ですね。
ルナリスの傍に浮かび、控える2振りの剣が一瞬反応を示しかけ……先んじるように飛び出す8本の短剣。
首と胴体を輪切りにされた蛇型モンスター4匹が私たちの後方に落下します。
「ご主人様達には触れさせない、なの」
「さすがですね、素晴らしい反応でしたよ」
メイド姿の副統括サフィーロが、スカートの中に隠したマジックポーチから取り出した短剣を念動で操作し、あげた戦果でした。
ダンジョン”冥府の洞窟-ニベヘリィル”に入ってからここまで、小領域1つを含む2時間ほどの道中。終始うちの子たちが頑張ってくれ、私たちの出番は全くなく。直掩の護衛兼、お世話係のサフィーロに適宜、飲み物やスイーツをサーブしてもらいながら、優雅にのんびり、進んでいるのでした。
ダンジョン攻略とは……?
「練度の確認や練習、ついでにレベル上げにもちょうどいい感じですね。ナオさん、私たちの出番はもう少し奥に行ってからになると思いますよ」
「です……今は……みんなの頑張りをしっかり……見ていてあげま……しょう」
ついつい、人に何かをしてもらって自分はただ見ているだけ。というのが落ち着かないのは、記憶がほとんど失われていても、長年で染みついた社畜の性分なのでしょうね。2人に諭され、心を落ち着けます。
魂が社畜根性を覚えているって……なんか嫌なのですが?
「この、”抑制の宝珠”を使えば、この洞窟を帝国東西の安定した交通網に組み込めそうなものですが」
手に持っているのは先ほど小領域でも使った、今回のかなめともなるアイテム。
小領域の主、ボスのリポップを停止させるアイテムです。
「まず、それ一つを作るのに、初級とはいえ試練ダンジョンの魔核か同等以上の魔核が必要になります。さらに複数の希少な素材を使い、結界系の高位魔術使いによる加工が必要になります。金額もですが、制作可能な数が無尽蔵とはいきません」
紗雪の説明を聞きながら、両手でぎりぎり持てるサイズの、水晶玉のようなそれを見つめます。
「さらに、ボスのリポップ停止は長くとも1か月程度しか維持できません。それを過ぎると、抑制されていた期間に比例して強化されたボスが沸く事になります。これは、”抑制の宝珠”を使った場合も、人を駐屯させた場合も同じです。前者なら、リポップしたタイミングで壊されるだけで済みますが、後者は下手をすれば大惨事ですね……」
「なるほど。それで、あくまで今回のような。緊急で近道を作り、通過する場合位しか使えない手段なわけですね」
「はい。”彷徨いの樹海”のように、もともと自然の地形であったところがダンジョン化してしまうと、実力のある集団が単独で通過するのはともかく。一般的な流通経路としては完全に使用不能になってしまうのには、そのあたりの理由があります」
【レイドアナウンス:敵種別ゴーストに変化、PT2にバフを受けつつ殲滅】
おや、洞窟の雰囲気も一段暗くなり、モンスターがゴーストに変わったようです。
うちの子たちは皆天使の輪、ヘイローもあるので、目立ちますね。第2、第3の子達は闇の灯りという特性上、周辺を照らし出す感じはありませんが、周りの闇や暗がりとは明らかに異なる、昏い存在感とでも言いましょうか。生産系の第4の子達は今ここにいませんが、第1の子達の頭上にある白いヘイローは、まばゆい輝きであたりをも照らしていますね。
第2の子達は集団での魔術行使。儀式魔術、合同魔術等が得意ですが、特化させているというわけではないので、全般的にそつなくこなしてくれます。属性もそれぞれが複数持ちつつ全員でカバーする感じ。今は光を中心とした付与魔術を武器にかけて、第1、第3の子達がゴースト相手に戦えるようにしていますね。
さすがに上位属性は売りがほとんどなかったので、副統括にあたる子達にしかあげられておらず。皆まだ下位属性ですが、このダンジョンを進める中でレベルなども上がっていく事でしょう。
付与をかけ終われば、集団詠唱で合わせた光魔術の浄化をレイド周辺一帯、半球状に覆うように展開。領域内のゴースト達を弱体化。弱ったところを刺し貫き、切り裂き、順調に殲滅しながら進んでいきます。
そうこうする内に、小領域の主の間、ボス部屋に到着した模様。
洞窟の先に金属製の扉が据え付けられています。
「罠無し」「魔力良し」「武器損耗無し」「ゴースト系と予想、作戦は」
それぞれに、手早く状況の確認を進めていますね。
【レイドアナウンス:先にバフをかけなおしてから突入。ゴースト系単体の場合、ルビーノ副統括が先手を撃ち込みます】
指名され、ルビーノがロングドレスの裾をふわりと翻し、こちらに振り返り、手を振ってくれます。蠱惑的な笑顔と、ウィンク付きで。
開かれた門の先、そこには予想通り、大型のゴースト系。死神の鎌を肩に担いだ、黒い靄の集合体。レイスでした。
魔力を高めながら入る、ルビーノと、第2の子達。先行し、部屋の左右両翼へと展開する白い戦乙女達。彼女らの周囲にはすでに光属性のエンチャントをかけられた剣が各自2本づつ、寄り添っています。
部屋の中に入ると同時
「合わせなさい♡」
ルビーノが声を放つと同時、先ほどと同じ、光属性のドーム状領域が展開され、レイスが一瞬痺れたように静止。
その隙に突き刺さる、ルビーノが放った一条のレーザー光。光輝属性のホーリーレイと呼ばれる魔術でしょう。
避ける事も、鎌で防ぐようなこともままならず、まともに受けるレイス。
【レイドアナウンス:たたみかけます】
アクロイトがアナウンスで指示を出すと同時、飛び出す第1PTの子達。
手の動きに合わせ、射出される6人12本の剣が的確にレイスを刺し貫き、その場にくぎ付けにします。
やられてばかりではないと、背筋が震えるほどに高まるレイスの魔力。
圧縮を繰り返され、その都度、内在する威力が際限なく、高められていく。
ひとたび放たれたならば、この空間ごと、破壊する。そんな幻視を抱くほどに。
【レイドアナウンス:紗雪様】
「は~い」
紗雪の構えた対物狙撃銃に、昏い魔力が収束していく
「属性:混沌、魔力擾乱……充填……弾体形成、……発射」
ズン……消音の魔術道具を取り付けてなお、低音が体を揺さぶる射撃音とともに発射される魔力弾丸。
大規模な破壊をもたらさんと、レイスの頭上に形成され始めていた闇の球体を正確に撃ち抜いた。
と、同時、圧縮されていた破壊的な魔力が暴れ狂いだす。
魔術をこそ拠り所とするレイスが、その異常事態に思わず、己が生み出していたはずの魔力塊を見上げ……。
暴走。
射出される時を待たずその場で放射される、暴虐。煩わしい小さな者たちを排除しようと、破壊の力を込めた己の魔術を至近で自ら浴び、靄状の身体をごっそりと消し飛ばされる。
そこへすかさず、投げ放たれる光を付与された短剣の嵐。影に潜んでいた第3パーティーの子達が意識のそれた隙を突き、レイスの魔核をハリネズミ状態にしていた。
ついぞ鎌をふるうことなく、その魔術をこちらへ振らせることもなく。小領域の主であった “☆6 レイス”は完封の末、消滅するのでした。




