53.2章-第26話 ”サユキ降臨”
魔法陣が起動する。
光でできた蕾ができあがり、全ての素材を包み込む。
空中にも新たな多重の魔法陣が展開される。
やがて、1枚づつ、花が咲き誇るように、ほどける光のつぼみ。
中央に立っていたのは、ええ、初めて出会ったあの時と全く同じ。メイド服を身にまとった、愛くるしい美少女のカーテシーでした。
あの純白の、無限に広がるような空間の時と同じ、淡いライトグレーのウェーブロングヘアを、一部だけ緩いツーテールにした綺麗な髪を揺らし。見上げる翡翠の瞳が、優しく微笑みかけてきます。
「ナオさん、お久しぶりなのですよ♪ あなたのサユキがついに降臨、ですよ~」
「ええ、お久しぶりです。すっかりお待たせしてしまいましたね」
「いえいえ。そして、ルナリスちゃん、初めまして」
ほんわか暖かな笑顔で、ルナリスへ改めて、カーテシーを見せるサユキさん。
ルナリスも併せてか、ドレスの裾を摘み、綺麗なお辞儀とともに。
「はじめ……まして。ルナリス……ええ、今はもうただのルナリス、で……ございます」
「ええ、ええ。全くもう、ずーっと見ていましたけれど、お二人のそれはもう、ラブラブっぷりと言ったら。見ていられませんでしたよ! 見ていましたけれど! ひゅ~ひゅ~」
「ふ……ふぇ……」
初めての時との違い、最後に合ったあの時そのままに、白と黒の2対4枚の翼に、白と黒の2つの輪が組み合わされたヘイロー。その姿のイメージそのままに浮かび上がり、人差し指を唇に当て、お茶目にウィンクするサユキさん。
「あ、大丈夫ですよ~サユキは、お二人を全力で応援しますから! と、そうです。まずは何より、ナオさん。ナビAIはあの空間ではカタカナかアルファベットの名前しか付けられませんでしたが、今は制限がありません」
「つまり?」
「日本風に付け直してくださいませんか?」
なるほど。
サユキさん…サユキ…
「紗雪さん、でいかがでしょう?」
「いいですね!サユキは紗雪です♪ ……そ・れ・と。ナオさん? じー」
声にまで出して、軽く咎めるようにジーっと見つめてくる紗雪さん。な、なんでしょう私、何かしてしまったでしょうか。
「むぅ…やーくーそーくー! それは紗雪、ちょっと怒っちゃいますよ? ぶ~ぶ~」
「さ…紗雪さんとのですか…? え…えと」
必死に思い出そうと……。
「ひどい、私とは遊びだったのね……!」
「ぅ……ぅぇえ!? そ、そんな人聞きの悪い」
「あんなに情熱的に私を抱きしめながら、”次に会ったら、その時は、貴女が私の物だと証明するためにも、ちゃんと呼び捨てにしますからね”って! ”その時は必ず”って!」
ルナリスからの視線もどこか、ジーっと、突き刺さっているような。って、そうでした思い出しましたよ!
「って、待ってください、後者は確かに言いましたし、呼び捨てにすると約束もしました。が、そ、そんなことは言っていませんよ! あなたが私の物とかそんな!」
「ちぇ……」
視線をそらし、可愛く舌打ちして見せる紗雪さん。が、次の瞬間には小さく舌をぺろりと出して、上目遣いに。
「そ・れ・で?」
一瞬天を見上げ、息を整え……軽くため息の後
「紗雪。お帰り……また会えることをどれだけ待ったか」
すべすべしっとりとした彼女の頬に手を添え、目線を合わせじっと見つめながら。本心からの気持ちをきちんと込めて、伝えます。
とたん、桜色に染まるサユキさんの頬にお耳。
「え……あ……わ、わた。私こそ、です、よ? ナオ……ナオ、さん? ……きゅぅ」
「あ、ちょ」
ふにゅっと体の力が抜け、目を回し始める紗雪。慌てて抱き留めます。
「ナオ……様、やりすぎ……です」
ルナリスがジトーっと半目気味にそんな私を見ているのでした。
「さてさて、お二人とも、素晴らしい素体を用意いただき感謝なのです。正直信じられないハイスペックボディに驚愕を隠しきれません。ていうかこれ、うんえ、創造神の想像を軽く超えてません? 大丈夫? ま、まあ……おかげで私がお二人をサポートできる幅もかなり広がっているのです」
おー。と、ルナリスと2人目を輝かせ、聞きます
「まず、この領域ですが、希少度で言えば”☆9 神話級”相当の場所です。しっかりと増設、管理、拡張していけば、いつか☆10にも届くでしょう。ナオさんはいくつか予測を立てていると思いますが、ルナリスさん……ルナリスちゃんって、お呼びしてもいいですか?」
「わたくし……? は、はい、もちろん」
ちょっぴり、わたわたする彼女を紗雪と二人、微笑ましく見守ります。
「ありがとうございます。ルナリスちゃんの出自に加え、”神授の雫”を使用した事で、アンロックされていますね。来訪者にも、住民にも、通常解放されるような規模でも、内容でもありませんからね。”神授の雫”をと言えば、器の拡張効果は正常に残っているのでご安心を。あの時のシステム的な状態の復元において、経験や記憶は消えていないでしょう? それと同じです。復元された”神授の雫“は改めて、正式な条件を達成して使う時まで、大事に取っておくといいですよ」
こくこく、とうなづき、取り出した神々しい小瓶を大切にしまいなおします。
やっぱり、何か条件というか、まあ、ありていに考えれば進化条件的な物を満たしたら使う。そういうアイテムなのでしょうかね?
「さて。正直、やった方がいいと思う事が山盛りです。もともと私達ナビAIはこの世界ではもっと機能制限される予定だったのですが、情報サイトさんも全然追いつかないくらい、やれる事が多岐にわたりすぎて。来訪者さん達にもっと支援が必要だろうという判断に至りました。そのため、ナビAIの機能がかなり解放された背景があります。もちろん準備していただいた素体によって、スペック的にできる事には大きく差が生まれますが。さて、まとめるとですね」
そうして、ルナリスと私、二人にくれたアドバイス。
・この領域を維持、発展させ、また、守るため、人員と戦力がとにかく必要
他のプレイヤーを招き入れる予定がない事をみんなで確認し合い、であれば、魔導人形でまずは人数をそろえるのがよいのではないか? となりました。素材さえあればこの工房で量産が可能と。
タワーディフェンスのイベントにしても、3人でどうにかするのは無理でしょうし。
・今度のイベントもだが、それ以降、開始時期はまだまだ未定なものの、いつかはクラン戦が定期開催されるようになる。
領域の発展ポイントを勝敗結果でやり取りすることになり、相手は人(プレイヤーや住民)とは限らない。
この辺りは世界のお話にかかわってくるので、開始が近くなるのを待ってねとのこと。
・ナオたち自身の今後の成長
クエストスクロールの行き先はまだ早い可能性が高い。
将来を見据えつつ地道に成長あるのみ
あ……辺境伯に優勝の報告にもいかないといけないですね? 2人とも、すっかり忘れていました。
まさか、辺境伯、祝勝パーティーを用意されていた。なんていう事ないですよね……よね?
・”特級ランダムテイムモンスターの卵”の扱い。やはりテイム系統のスキルは必須との事。また、おすすめとしては、この領域の天空にある宝石城と、地上の白亜の城、それぞれで2個づつ孵すのが面白いかもしれない。が、もちろん自由。
・紗雪の装備の用意。
これはオークションで同時に手に入れた遺物の復元が望ましい。が、これにも必要な物がいくつか。
ポイント交換の品でもある程度賄えるが、ダンジョン等で入手が必要な物もある。
「あ、それとですね。動画とか配信に興味はありませんか?」
「公式動画のあれですか?」
「はい。外部サイトでもいいのですが、ナビAIがこちらの世界で大多数の来訪者さんと行動できるようになって、公式サイトで、動画や配信を個人でなさる方を増やそうと、創造神様が期待していまして。特にナオさんであれば、MC的にも、割とおいしくなると思います? 今までのナオさんの動画も、実は私、というかそれぞれの専属ナビAIがですが、編集とかはしていたのです」
「配信はさすがにすぐには考えられませんが、動画でしたら、特に意識してコンテンツ作りをしないといけない。という事ではないのですよね?」
「はい! そこは自然体のお二人で問題ないですよ。というか、その方が、今の視聴者さん達に求められています。カメラを意識しない、自然体のお二人を、見せてあげるのが良いです」
「ルナリス、どうです?創造神様の元、来訪者達の世界で、私たちが目にするものや体験した事で、特筆すべきことがあれば、みんなに共有できるようになる。という事なのですが」
「それが、ナオ……様の……ためになる事であれば、わたくし……は、大丈夫です」
「ではでは、撮影は適宜実施しておいて、紗雪がうまく編集しておきますね。一応チェックというか、このシーンはいい? 悪い? の簡単な確認だけ、ナオさんにお願いするようにしますね♪」
言うなり、”ふよん”と、いくつかの球形の近未来的なドローンが浮かび上がり、程なく姿を消します。
あれが撮影用の機材なのでしょうね。意識せずに良いのはありがたいです。
「いろいろとありがとう。まずはそうしたら、ルナリスが一番楽しみにしている、卵から始めようか」
目を輝かせるルナリス。よほど、もふもふに魅了されたようですね。
「ルナリスちゃん、すぐには孵らないから、ゆっくり、面倒を見ましょうね? 特に、こんな特別な卵だと、何か孵化するのにも、特殊条件があってもおかしくないですから」
「はい……です」
そうしてまずやってきた、最も高いところにある、ひときわ大きな浮遊島。
そこに立つお城は、地上で見た時よりさらに圧倒的な美しさと非現実性をもって、私たちの心をわし掴みにしてくれました。
外壁はそのほとんどが、宝石。
実際には魔術的な手段で成形されたそうで、板状の種々様々色とりどりの宝石を板状に加工。さらに、光を最大限取り入れ。かつ、外観としても美しく幻想的に輝くよう、精密なカッティングが施されています。
人の手では到底不可能な、まさに空想のお城。
さらに要所には金や銀の装飾、白を中心としつつも黒や赤などの大理石が、品よく全体の調和をとるように建材として合わせて使用されています。
「まさに、夢のよう……です」
「これは……信じられない、とんでもない建造物ですね」
「いやぁ……紗雪もこれにはさすがに驚愕ですよ~。ちなみに、不壊属性が付与されているので、破損などは恐れずに、楽しんでいただいて大丈夫です。その代わり、建材を削って宝石を手に入れるようなことも、できませんけれどね」
「そんなとんでもない、考えもしませんよ。神がかり的な芸術に、ただただ圧倒されます……」
中も美しい輝きに満ちているものの、さすがにすべてが宝石では目がおかしくなるでしょう。宝石壁を随所に使い、光との共演の美しさを保ちつつも、大理石の占める割合も相応に増し、過ごしやすい空間が演出されていました。




