52.2章-第25話 ”悠久の楽園、白亜と宝石の双城”
純白のドレスをまとった、銀と白の2人は、ただただ、茫然と目の前に広がる光景に魅入られていた
天に浮かぶ、底部までもが美しい純白の化粧石で綺麗に装飾された、いくつもの浮遊島。
水が相互に流れ落ち、滝の糸で有機的に繋がれた島々の間に、日差しを反射し虹がいくつもかかる。
水の流れを下り、目を地に向ければ、澄んだ蒼い湖が穏やかな水面を見せている。
その湖の中心には、高くそびえる幾つもの白亜の尖塔に彩られた、お城。
無数の水路を内に湛え、いくつもの空間が連なった、荘厳なたたずまい。
さながらお城が水の都を取り込んだかのよう。立体的に交差する陰影が
天上の島中でも天辺に位置するひときわ大きな島に目を向ければ、色とりどりの水晶と金銀の細やかな装飾で創られた、宝石のお城がそびえたっている。すべての水の源はここにあるようだ。
「すごすぎ……ます……夢……を見ているのでしょう……か」
「これはさすがに何かの間違い、です……かね……?」
あまりに幻想的な美しい光景に、手を恋人つなぎにしたまま、うっすらと口を開き、思考停止状態になっていた二人がようやく我に返り、こぼした言葉も無理からぬものではないでしょうか。
「観光するだけで月単位でかかりそうですね」
「間違いなく……でも……ここに決めることをお許しいただけ……わたくしは本当に幸せです」
「当り前じゃないですか。私こそ幸せですよ。それにここは、確実にルナリスだからこそ、貴女だからこその、場所だと思うのですよね」
実は”このお城と領域”、まず、目録の選択肢にあったのはルナリスだけです。
人によって同じ交換品でも、ポイントも違いますが、ラインアップがそもそも異なります。
私に表示されていた最高額の”お城と領域”は250億ポイント。
ルナリスが、それ以上の、500、1,000とんで2,000億が最高額。
湖面に映る2人の影と戯れながら、のぞき込めば、透き通る水面を透かしたそこに煌く無数の、色とりどりの光。
白い砂地に覆われた水底に、無数の宝石か水晶らしき姿が……。
そんな夢物語の世界を眺めながら、湖の上を飛び、地上、湖の内側の白亜のお城。
正面エントランスの門を抜けると広がる、広大なホール。吊るされた巨大なシャンデリア。
赤いカーペットが敷かれた先は悠然と、左右両側から弧を描く階段。中二階になった踊り場は広く、アイアンとマーブルストーンの彫刻で彩られている。
天井に壁、随所に彫刻が施され随所に施されたステンドグラス調の隠し窓から差し込む光が、ホール内に自然な輝きの芸術をもたらしている。
ぎゅっと、左腕に伝わる柔らかなルナリスの感触。腕を抱きしめた彼女が漏らす、微かな嗚咽交じりの声
「わたくし……は……ずっと、ずっと、生まれてこの方……塔の中で暮らして……参りました。親身になってくれる……父の臣下はあれど……友と……わたくし自身を……見てくれるものは……極めて少なく……。師はあれど……それも、学びの時……のみの関係……。ともに何かを……成すは許されず……遥か遠い……外の世界がごとき……。城は……広き城も……わたくしには縁のない……外の世界。狭き居室……から……見上げる月明かり……が、唯一……わたくしを照らす灯り……でした」
お父君は、国王陛下は、様々な圧力の中、きっと彼女を最大限守り、慈しんでいたのでしょう。
命を賭して彼女を逃がした彼ら、彼女らの、意思もまた、真に彼女を思い、愛するものでした。
それでも。幼いころから孤独にさいなまれた彼女には……。
つらかった……のですね。
「かつての居城と……比べるべくもない……美しく雄大な……。ナオ……様と、ここから新たな……生を……歩みを……育めるなど……。まさに楽園……でございます」
「どこまでも、いつまでも、一緒ですよルナリス。私は離れません。嫌と言われても離しません。けれどどこまでも自由に、好きなことを、好きなように、選び取って、楽しんでいきましょうね」
優しい光の差し込む白亜の城に抱かれて、そっと二人、口づけを交わしました。
気持ちが落ち着いてきた彼女に、城内を見て回りましょうと、提案しましたが
「まずは工房の、設置場所を……決めに参りませんか? はやく、サユキ様……を」
気になっていないといってはうそになりますが……。
「それは明日でも大丈夫なのですよ?」
「ここを……見て回るにも、十全とするにも……お話にうかがいました……サユキ様であれば……お力添えをいただける……のではないかと」
「確かに、そうですね。彼女ならいろいろとサポートもしてくれるでしょうし、ちょっとこれは2人だけでは手にあいませんね……」
ルナリスの心の安定を思うと、正直悩んでもいました。
サユキさんももちろん大切な、恩人ですし、会いたいです。が……もう少し先でもいいのではないか? それくらいは許してくれるのでは……と。
ですが、まだ悩む様子の私を横目に、ルナリスが彼女に与えられたハウジング用のメニュー画面を開き、エリアのカスタマイズビューを展開。
このハウジング要素、所有権を持つ住民にも、同じ仮想画面が提供されたのですよね。
「浮島が……何も上にない……島が多数あるので……その一つを使うのでは……いかがでしょう」
「いいですね」
私も画面を開けば、本当に全域にわたってカスタマイズできるのですね。
で、工房の大きさは……大きいな……ちょっとした工場並みの大きさでは?。
再び湖上へと舞いあがり、2人で滝の傍をさかのぼり、上へ、上へ。
細やかな植栽に、水の飛沫、本当にきれいですね。
ただ、こうしてみると確かに島の上など、お城2つを除くとまだ空き地状態の場所がほとんど。
これからここを好きに完成させていくわけですね。
流れ落ちて来る水が外縁部で川を成し、また下へと流れゆく、面積も広く、地下方向にも大きい島。
「うん、広さも十分そうですね」
透過画面越しに重なる表示で建造予定の透視図を確認。
「では、建てましょうか」
こくり。うなづくルナリスと、せっかくなので一緒に決定をぽちっと。
渦巻く魔力、虚空から次々に現れる建材、かたかたとんとん、小気味よく次々と建物が組みあがっていきます。
広大な空間全体とも調和がとれた純白の外壁。
採光用の窓は色とりどりのステンドグラスがはめ込まれ、現実と異なり、内外両方から美しい色彩が見えるよう、それ自体がうっすらと光を宿しているよう。
まるでゴシック調の教会のように荘厳な建物はぱっと見、工房とはとても思えませんね。
中に入れば吹き抜けの縦長な広間と、空中廊下に結ばれた両脇には3階まで研究室風の部屋が並んでいます。
ひときわ広い1階の部屋に入ると、錬金術師と人形作家の工房を一つに合わせたような、内装がお出迎え。
「ここで、自分で制作する感じなのでしょうか……」
「いえ、素材をこちらの……作業台に並べて……あとは……先ほどの透過板から……できるみたいです」
なるほど、魔法陣が描かれた大きな中央の作業台ですね。
まずは神々しい輝きを放つ赤い結晶、”古代魔導人形の魔核(最上級)”。
続いてオークションで入手できた”古代魔導人形の骨格”を取り出します。
こうして並べてみると、球体関節人形と、いわゆるロボットの内部骨格を並べたような様相ですね。
さらに、交換した”最上級素材セット”。不思議な手触りのスライムジェルのような素材、虹色の鱗粉で満たされた瓶、色とりどりの宝石のようなきれいな石、しなやかな繊維や金属糸が巻き付けられた糸巻き、様々な物が次々と出てきます。
簡易鑑定で分かるだけでも、ミスリルやアダマンタイト。他、名だたるファンタジー素材が大量に。
「この粉、精霊竜の鱗粉、となっています」
「珍しいもの……なのですよね?」
「はい……精霊界に住まい……領域を守護する竜と言われ、現世で目にすることは……極めて稀……です」
「かなりとんでもない素材のセットのようですね」
「これだけでも小さなお城……が、立ちます」
「だてに100億ポイントではないという事ですね」
「そうです……ね。魔核に至っては……わたくしの中級鑑定では……名称以外は……わかりません」
素材は全て並べ終えたのですが、制作画面にはまだ表示が。
“因子と決定する素材を、追加しますか?”
あの日、最後に分かれる直前の、サユキさんの姿を思い浮かべます。
おもむろに自分の翼から、風切羽根に相当しそうな羽根や、飾り羽にもこもこ手触りのいい羽毛……
「ナ……ナオ……様!? な……何をなされて」
あ、ぶちぶち採集していたら、ルナリスが顔を真っ青にして慌てふためき始めてしまいました。
「いえね、素材として因子を決定する素材を要求されているので。サユキさん、天使と堕天使両方の羽根を備えていらしたのですよ」
「で……でしたらせめて……わたくしが、お採りしますので……!」
「では、お願いしてもいいですか?」
近くにあった椅子をもってきて座りましょうね。
優しく撫でさするように、少しづつ抜き取られる羽根や羽毛。
「気持ちいいです……」
「よかった……です」
ある程度集まったところで、転身。堕天使モードからも採集してもらいます。
ゆっくりと進む時間につい、うとうとしかけそうになりますね。
「せっかくですからルナリスの髪も梳いてあげますね」
はい、交代ですよ~。
滝ノ水と風に少しだけ乱れていた髪を丁寧に、優しく。
つい、時間を使ってしまいましたが、これで無事準備は完了しましたね。
さあ、あれから現実で1か月。内部で4か月がたちました。
短いようで、長かった時間。
死の瞬間の恐怖と、喪失感。私自身心の奥底に必死に隠していたそれを、癒してくれた。
サユキさんとのようやくの再会です。




