49.2章-第22話 ”可能性”
===視点:ルナリス===
わたくしは、願いました。
わたくしを救ってくださった、天使様、ナオ様。
わたくしは永遠を、この方と共に歩みたい、肩を並べる価値を宿したい、と。
生まれた時から忌み子と恐れられ。
血の定めを継ぐ母は、これを産み落とし、儚き身となり、果て。
父の愛を受けつつも、共にあることを世界が許さない。
数多の書物、父の愛の証、供犠の子を、救ってくださる英雄に焦がれ。
ああ、しかし、邪なるモノを呼び寄せるこの身は、定めの通りを歩む。
魂魄は失われゆき、最後のひと時、悍ましい悦楽に心を焼かれながら、肉を貪られる。
悔しくて、悲しくて、千々に乱れるその最後。
王家に産まれし、供犠姫の定め、邪神との永劫の約定を果たす。
その時。
天使様が、ナオ様が、自らの身すら顧みず。
暖かい。
柔らかい。
優しく蕩けせてくださる。
私だけの、天使様。
救いをくださった。
さらにこの身を欲する邪なるモノ共を。
祓い、退けるにとどまらず、その悍ましくも神々しき力をも簒奪し。
ただ、ただ、この身の安寧を願ってくださる。
天使様は、完璧ではありません。
ですが、故にこそ、この身を尽くし、お支えしたいのです。
ですのでどうか。
わたくしに、未来が、可能性が、あるというのなら。
あぁ、どうかお示しください。
短くも長き時を過ごした、”試練の間”。その先で
心に秘めたその願いを、確かにこの世界の創造者たる神様は
お聞き届けくださったのです
一欠けらの、道標を、託されて
============
☆9 神授の雫
器の行く先を照らす
器の行く先に無限を与える
選び取るは己自身
道開くは己の奮励
ただ、可能性を示すのみ
しかし、可能性を閉ざす全てを排除す
============
===以上、視点:ルナリス===
死亡状態となるも、試合中のため、リスポーンされず、空中に浮かんだ視点で俯瞰する戦場。
自身の死亡と引き換えにねじ込んだ、騎士団長シャーリィの封印状態。
対抗手段に警戒し、発動範囲も極小化したおかげか、無事、封じる事は出来ている模様。
そして
我が麗しの銀の姫はと目を向ければ。
美しい、虹色をほのかに纏った銀の髪
控えめなふくらみに、程よく低い背丈、愛らしさのとどまることを知らない白皙の美貌
そこまでは何一つ変わらないルナリスの。
背から広がる十二の翼。
優美にして華麗な、翼は虹色の輝きを纏い。
頭上には同じく虹を纏うヘイロー、天の使いの輪。
翼1枚1枚の形状は、私のそれに瓜二つ。
そっと開かれた、長い睫毛に彩られた蒼銀の瞳が虹色の輝きを宿している。
小首をかしげた彼女の見つめる先。
空間が。
虹色の断面を開き、闘技場の空間が横真っ二つに。
ずれた。
指先を、艶やかな唇に添える、銀の姫。
瞬きの間に成される転身
妖艶な、漆黒と紫に彩られた豪奢なドレスを身に纏った姿へと変じた銀の姫。
しかしその装いに、致命的なまでに、堕落へと誘う、退廃の象徴でもあった。
露出された肩に胸元。ロングスカートは前上がりに内股までも曝け出し、アシンメトリーに組み合わされたスカートには深いスリットが幾多。
恍惚とした表情でくるりと身を回せば、背が大きく露出し、腰から広がる漆黒の翼。
全身を覆う薄っすらと虹色に色づく靄。
吸い付くような肌触りのロンググローブの指先を啄む、唇。ちろちろと、蠱惑的に覗く舌先。
甘い溜息とともに、世界が融けて、爛れ落ちた。
瞬きの間に成される転身
無数の獣が空間を蹂躙する。
銀の姫はただあるがままに、銀の瞳を伏せ、物憂げに、獣の背に寝そべる。
瞬きの間に成される転身
美しいグラデーションを成す半透明の翼、その材質は宝石でできているよう。
身体を彩るも薄い宝石の幕。
瞬きの間に成される転身
ナンピト タリトテ
ソノ スガタ ヲ
メニ スル コト
カナワズ
世界が侵食された
瞬きの間……瞬きの間……瞬きの間……
幾度も幾度も
無数の時
世界は蹂躙され、世界は崩壊した。
ただ一つ変わらないもの
それは
愛する天使/堕天使が、愛した銀の姫の、その姿。
どれだけの時間惚けていただろう。
すべてはまるで夢の中。
すべてが終わった時、そこにはただいつも通りに、透ける純白の布を重ねた、ドレスを身に纏い。
羽衣を肩にかけ、片手に扇、片手に刀を携え。
空に舞い歌う、銀の姫。
無数の可能性は脳裏に残り。体が自然に動き出した。
するり、ただ緩やかに。
薙刀をとり落し、唖然と空気にのまれながらも、それでも。
闘争に生きる者として、刀を居合に構える姿に油断は微塵もない黒き着物の美女の前に、虹色に輝く銀が舞い降りる。
意識の外、いつ過ぎ去ったかわからなかった。
無数の刃を交え、鍛え上げられた無敗の闘技場の主、黒き乙女の拍子を、
強者なりしと、名乗りを上げる全てを制した"もののふ"の意識すらも、すり抜け。
対する刃を振るうこと能わず。
たった一振りの、銀の姫が振るう"虚"をつく一閃が、首を、刎ね飛ばした。
“WINNER: Party - ナオ&ルナリス”
すっっと、復活した私がルナリスの隣に出現します。
状態異常や、狂愛の楔-献身の回復不能状態も解消されていますね。
まだ呆然自失としたまま、神がかり的な雰囲気の残るルナリスを、ぎゅーっと、抱きしめ。ほっぺに口づけします。
心ここにあらずだった彼女がそれには反応し、ひしっと抱きしめ返してくれることに嬉しさを覚えつつ
少々彼女の状態が不安に。アイテム使用後の状況もリセットされていると思ったのですが……
見える範囲だけでもと、覗き見る事に内心詫びつつも、普段は決して見ないようにしているステータスを眷属への特権で開きます。
おおよそ全て、問題なく……私もですが今回の経験でスキルレベルなど大変上がっていてよろしい。のは今はどうでも良くて。
状態の表示が
状態:ナオの眷属、“拡張された器”
と、2つ目に何やら追加され。
おや、所持アイテム一覧には、しっかりと”☆9 神授の雫“が復旧されていますね……。
す、少なくとも、害のある状態は無いようです……よね?
「ふふ、君たちは本当に仲睦まじいのだな」
同じく復帰された帝国騎士団長様からのお言葉ですね
「いや……お恥ずかし……くはなく、ルナリスは最高にかわいいですが。恐縮です。お体に異常はありませんか?」
「ああ、もちろんだとも。まさか平然と命を捨てて相打ちにもっていかれるとは、恐れ入ったよ」
「力全く及ばず、苦肉の策でお恥ずかしいです……」
「謙遜することはない、そもそも今大会で私と、まっとうに剣戟の応酬ができたのは君だけだぞ? 誇りこそすれ何を」
えらく褒めてくださいますね……嬉しいですが。
「確か辺境伯の所に今はいたな。もし、帝都に来ることがあれば、あるいは、騎士団に興味があれば、私を訪ねてくるといい」
と、差し出される、家紋が刻まれたブローチ。
「これは……大変光栄です。いづれ機会がありましたならば」
「ふふ、私も楽しみにしていよう。それ、綾。約束は約束だぞ、いい加減、来訪者達の闘技場にこもっていないで、私に会いに帝都に来い!」
何やら彼女たちは彼女たちで、約束をしていたようですね。
「むぅ……。しかし、この世界にはこの世界の在りようがある。それを学ばずして成長はありませぬか……」
「そうだそうだ。それに、綾とであれば私ももっと高みを目指せる。それとな、いい加減そのなまくらを振り回すのはやめろ! もっと相応しい得物を用意してやると言っているだろう」
「しかしですね」
うん、仲がよさそうで何より。
「ナオ殿」
「あ、はい」
と、意識をそらせていましたら、綾さんが私に声をかけるとは、少し意外ですね。
「ルナリス殿が今は反応が無いようであったのでな。言伝を願いたい」
「はい、もちろん」
むぎゅむぎゅと、私のお胸様にお顔をうずめるのに忙しい様子ですが、まだ、意識が私しか認識していないようですね……本当に大丈夫でしょうか、愛しの銀の姫君は。
「面白い試合であった。いつかまた、互いに成長した暁には再戦を、と。そして、最後の歩法、見事であった。おそらく彼女はあれを、己の成したことと、思えていないであろう。だが、確実に、それは彼女の舞いの先にあるものだ。自信をもって、と」
この方も。真面目というか、ええ、正直好きですね。
「はい、必ず。そして今回はかなり特殊な運びとなり……」
「それも含めてこその”仕合い”でしょう? 武家の血を引く家の娘として、刀の道の鍛錬にと、”始まりの街”にこもりきりでしたが、広い世界へと目を開く、良い機会をいただきました」
さらりと黒髪を揺らし、ああ、そんな綺麗な笑い方をされるのですね。
おや、すっかり私と話し込んでしまった綾さんを、騎士団長様が、ちょっと不機嫌そうに見ていますよ? 大変にご執心のようで。仲睦まじきは良き事かな。




