48.2章-第21話 ”第1回大規模イベント その1 - PVP大会本戦 #3/3”
【本戦 決勝 VS PT “戦鬼“】
倍率:11.3倍
保有ポイント:10億
賭けポイント:320億1601万+最終報酬の100%
勝利報酬ポイント累計:925万 (最終集計時、賭け累計獲得 39.4倍)
いよいよ決勝戦。
お相手は予想通り、お二方のパーティー。
フィールドやダンジョンにはほとんど出ず、対人戦特化。
”始まりの街”常設闘技場の大会で1位を死守し続け、剣豪の称号を持つプレイヤー、綾さん。
黒髪ロングに、着物。薙刀と腰に差した刀。
鞘の中の刀の向きがルナリスと上下逆ですので、打刀ですかね。ルナリスが佩いているのは太刀ですので。
そして、ミドガ帝国、帝国騎士団、団長シャーリィさん。もちろん、住民です。
ロングの金髪に、黒赤のドレスアーマー、ロングソード1本。
ただし、左手には明らかに魔術の発動体と思しき、指輪と腕輪。
倍率もひどいことになっていますね……まあ、住民トップ層ともなればレベルだって100を優に超えているでしょう……。
さすがに日和見して10億ポイントだけ、魔導人形の確保のために取り置きましたが、もういっそここまで来たら、行けるところまで行ってみたくなりますでしょう?
「泣いても笑っても、ラスト1戦、いよいよ、決・勝・戦、で~すわ~~」
司会のハイテンションな声が響き渡ります。
「と、とんでもない倍率にゃ……」
「さすがに、このマッチは……きびしい?」
「さぁさ、数々の強豪を鎧袖一触、下してきたパーティー”戦鬼”。そして、多くの悲劇と喜劇、主に賭け事方面で……を生み出し、大番狂わせを生み出してきた本大会最強のダークホース。パーティー”ナオ&ルナリス”。間もなく開幕ですわ~~~!!」
やがてすべての音が遠のき、静寂が決戦場を包む中、対峙する2人と2人。
カウント10
泣いても笑ってもこれが今PVP大会の最後
胸を借りるつもりで参りましょう
カウント5
しっかりと、ルナリスと意思伝達越しに温かな気持ちのやり取りを交わし
カウント0
起こりは静かに。されど迅速に。
天使モードの空に舞い上がるよりも早く、わずかに浮いた状態で、すでに心臓を刺し貫く寸前の美麗なロングソードの切っ先。
双短剣-鳳凰翔舞の側面をかろうじて合わせ、勢いに逆らわず宙を滑り、押しのけられるように回避。接触発動の間に合わなかった融炎の起こりはす、でに短剣でくすぶっている状態。
速度を一気に最速域へ……出鼻をくじくように、私をとり囲み弾ける小さな雷。
袈裟懸け、薙ぎ払い、振り下ろしから変じた刺突。
金の髪をなびかせ、悠然と連撃を見舞う騎士団長様。
合わせる短剣から断続的に、融炎を起爆しますが、国宝級であろうロングソードは揺らぎもしない。
視認限界を超えた速度に微細な飛行制御も交え、辛うじて直撃を避ける私。
小気味よい、澄んだ金属のぶつかり合いの音が、連続する。
「想像以上ですね。まさか受け切られるとは」
「ぎりぎり……です、けれども!」
余裕たっぷりにお褒めをいただく矢先、さらに上がる剣戟の速度。
顎したからの突き上げは容赦なく顔面を串刺しにせんと、穿ち上り、魔力飛行を限界まで振り絞り後退すれば、腹部に強烈な衝撃。
金属の具足による痛撃をついにもらい、喀血。
暴れる横隔膜の動きを無理やりねじ伏せ、もはや逃げの後方飛翔。
の……後方から、翼の付け根に激烈な痛み。思わず悲鳴が喉を突き破り、飛行が打ち切られ地面に無様に這いつくばる。
いけない、あと1撃ももらったら……消し飛ぶ。
考えるよりも早く、転身 顕現体/裏 堕天使モード。
転身の瞬間的な光が消える間もなく、地に伏す私の左肩を貫く剣穿。
肉と骨に食い込む冷たい剣の感触に涙が流れだす。あまりの痛みに体が痙攣する、その間にも突き込まれた剣を起点に、魔力の高まり。
暗黒よ、蝕め……!
体内で発動されかけた、爆発を闇に侵食させ、干渉し、辛うじてくい留める。
「ほぅ」
感心したような声が上から……地面に縫い付けられた姿勢から、無理やり、地面に平行に飛び立つ。
全て諦めて泣きじゃくりたくなるほどの痛みを、脱出に際し、さらに絶ち割られた左腕が伝えてくる。
悲鳴を噛み殺し、飛行を横回転に転じ、切り上げるようにハルバードの横薙ぎ斬撃をがむしゃらに叩きつける。
さすがに受け流すには重すぎたか、1撃目にはじかれた剣に目を見張り、先ほどまでとは一転、回避に転じる騎士団長。
強烈な遠心力に、ちぎれかけていた左腕が……四肢欠損のアイコン……。
さらには、どれだけの余裕からか、回転の隙間に次第に突き込まれる剣閃に、異界の蜘蛛神様に戴いた黒いドレスも引き裂かれていく。修復に傾ける魔力も惜しみ、次第に露出される鮮血をまき散らす肌。
されど、削られていく生命力が、この身に宿る力を増幅していく。
それでも……届かない。
速度で技量で、上回られ、力と飛行で無理やり変則的な動きを加えたハルバードの暴風がごとき斬撃は、金髪を優雅になびかせるドレスアーマーの影すら捉えられない。
生命力も残り2割。
このまま彼女を、ルナリスの元にだけはやれない。何としても……せめて……!
ルナリスが放ったと確信できる、特大の稲光を目にし、決意を固めます。
一方。
銀の姫と、綾の激突もまた同時に始まっていた。
しずしずと舞い踊り、月の魔力を歌に込め始めるルナリス。
全力を引き出してこそと。わずかに空に浮き、備えを重ねる彼女を、綾はただ、じっと待つ。
薙刀を下段に構え、柄尻を上げ、刃は上に。いつでも斬りかかれる。引き絞られた弓のように、ただただ力を蓄え待つ。
やがてあたりを月明かりに照らされた桜吹雪が舞いすさぶ。視界を遮る幻影をしかし意にも介さず。
左右から迫った銀の剣のわずか半身分の隙間をするりと躱し抜け。
「参ります」
突き込まれる薙刀の斬り上げ一薙ぎを、舞いの回転に巻き込み、合わせた扇でいなす銀の姫。
返すはもう一方から回し切り裂く太刀の一振り。
頭上にこの一閃を躱し、引き戻しざまの薙刀の横薙ぎを再び扇を添え、回転の新たな起点と成し、縦1回転。
再びその勢いをさらに乗せた太刀の一振りが同じく縦に迫るも、すり足で後退しつつ追うように薙刀の刃が振り下ろされる。
くるり、くるり、と、横、縦、斜め、縦横無尽の回転の向きを変えつつ、とどまることなく、流水がごとく、斬撃を交わし、互いの与える勢いをさらに己の加速に用い、春のつむじ風がごとく、舞い踊る銀と黒の2人の乙女。
「楽しいですね。舞いを基礎とした刀術ですか」
青白く次第に輝き始めた、2重起動されていた雷の高まりに、回転の速度を一気に上げた綾の薙刀の一閃が、ついにルナリスの限界を追い越し、銀の姫の身に凶刃を届かせる。
迸る刹那の血しぶきと、刎ね飛ばされた彼女に、追いすがり、斬撃が無慈悲に重ねられる。
傷は瞬時に癒えるも、やむことのない、捌ききれぬ斬撃に、宙に逃れることも叶わず、その場に貼り付けになるルナリス。
救わんと飛び込む2振りの銀の剣はしかし、まるで鞭のようにしなった薙刀の柄に絡めとられ、無様に地に叩き落とされる。
「残念です。次はもっと長く、激しく、踊りましょうね」
抜く手も見せぬ、神速の居合。
いつの間にか手放された薙刀が宙に未だあるうちに、腰に差した刀が姫を両断せんと迫る。
意地とばかりに、激しい回転をもって、強固な足腰で支えられる綾の軸をわずかにずらした、空飛ぶ剣。
微塵のずれに、銀の姫の首を絶つはずであった刀は、右の腕を肩口から両断するにとどまった。
二の太刀を見舞わんと踏み込む彼女を前に、稲妻を間の空隙に放ち、吹き飛ぶように離れる銀の姫。
その手が一つの、小さな瓶を、握りしめていた。
目にした稲光。意思伝達から伝わる、強い想い。
勝ちたい。
隣にいたい。
情けない私より、貴女はずっと……どれだけそう伝えても、彼女は否定してしまうのでしょうね。
だから。ええ、見せてください。
貴女の。私が愛する銀の姫の。可能性の一つを!
その為の隙間は、私も稼ぎます。
「氷炎よ、冷気の炎をまとう神よ。もろとも封ぜよ!」
残り僅かの生命力を自ら消し飛ばし、残る全ての己のリソースを叩き込み。
旧支配者アフーム=ザーの、力の欠片を秘めたこのかりそめの身を生贄に、限定した領域を、異界の神域と化す。
周辺を一瞬で呑み干す、冷たい炎を生み出すのと引き換えに、黒赤をまとった騎士団長の剣が、堕天使の心臓を刺し貫く。
致命傷
ええ、悦んで受け入れましょうとも!!
この身に突き立つ致命の一撃を!
引き換えに、麗しの銀の姫へと贈れるのですから、愛の証を。
エンゲージメントスキル “狂愛の楔 – 献身”
発動。
ルナリス、今ほんのひと時、貴女の枷を祓いましょう。
【個人アナウンス:”ルナリス”の、Lock済み称号 “至上の供犠姫” 抹消、 “魂の漏出” 抹消】
【個人アナウンス:対象不利益状態は再度発生します。抹消の効果は一時的な物となります】
知っていますよ。ルナリスには何度も泣かれながら、試したのですから。
献身で受ける誓約の終了と同時に、これらの効果は強制的に戻ってしまう。
でもね? 彼女がやろうとしている事の、今だけの助けには、なるのですよ。
彼女の未来を拓く、ヒントにも、ね。
迫る冷たい炎を前に離脱せんと、引き抜かれようとする騎士団長の剣。
背水の、日に1度だけ命を留める効果で拾った、この命を使って。
「一緒に逝きましょうね?」
引き抜かれ、血にぬめる剣を、再び胸の中心に自ら呑み込み、離さない。
今度こそ生命力が、HPが全損し、この身が消え始める。が、その一瞬で、灰白色の炎は騎士団長を氷の封印に閉じ込めていた。
悍ましい神威を秘めた、冷たい炎の気配。人生で初めて感じた、あまりの圧倒的な気配。
来訪者の少女、綾は本能的に、一瞬身をすくませた。
その刹那。
ただただ神々しいとしかわからない、見えているはずなのに形を理解できない、煌めく小瓶の液体を。
白く細い喉を、こくりと鳴らし、虹色の輝きを髪に宿す銀の姫が、飲み干した。




