46.2章-第19話 ”第1回大規模イベント その1 - PVP大会本戦 #1/3”
本戦、ベスト16。出場者からみたコロシアムの観客席は、インスタンス空間の中からランダムな会場が接続されています。
観客からは、全ての空間で、試合の観戦が可能です。
ただいま選手紹介真っ最中。ソロとパーティーの2種目が一堂に会しているので、なかなか壮観です。
ドレス姿の絶世の美少女二人。さすがに目立ってしまっていますね。
特にルナリスにそそぐ視線が
「ルナリス、大丈夫ですか?」
「いえ、ナオ……様と……一緒ですから」
他人の目にはわからない程度に、ほんのり力が入っているように見え、軽く肩を抱き寄せ、とん、とん。
優しくなでるように。とん、とん。
「わたくしよりも、ナオ……様に……その、ぶしつけな視線を向ける……輩が」
ああ、少しばかりふくよかな、お胸さんですかね。私は別にいいのですよ。
といっても納得はしてくれないでしょうね。
視線から私を隠すように、腕を軽く抱き、身を寄せるルナリス。
本人たちは目立っていないつもりで、2人の甘い空間を形成する、天使と銀の姫。
「いやぁ、おあついにゃぁ」
「百合ップル、尊い……」
「これはもう、えろい、の世界なのでわぁ……?」
戸惑う司会進行の3人娘などどこ吹く風。
「えー。パーティー戦、2人参加の、ナオさんと、ルナリスさん、ですわぁ。空を制し、見蕩れるほどの美貌に、たぐいまれなる戦闘力を秘めたお二人にも、注目ですわね~」
「お二人は、来訪者と住民の間での、JPワールド初のエンゲージメントクエスト発生者としても有名ですにゃ」
「さすがのイチャラブっぷり……超推せる」
おや、ちょうど私たちの紹介だったのですね。
ルナリスと二人、軽く観客席に手を振ってさしあげます。
「続いてこちらも少人数参加。本大会、本戦出場者で6人未満での参加はこの二組だけですの~。しかして、こちらもまた異色のペア。”始まりの街”闘技大会不動の1位、剣豪”綾”さん。そしてそして、ミドガ帝国にこの方あり、帝国騎士団長”シャーリィ”様ですわ~~~!」
「こ、このペアはやばすぎるにゃぁ」
「もはや、チートレベル……対人最強のタッグ」
「予選勝敗オッズがあまりの偏りに常時1.5倍未満。堅実にポイントを増やさせていただいた皆様も多かった事では? その代わり、ご本人たちのポイントは伸び悩んでしまわれましたが……さあ、大本命のお二人、そのまま優勝をかっさらうのか~? ですわぁ~~」
【本戦 ベスト8決定戦 VS PT ”クーロンズ“】
倍率:2.6倍
保有ポイント:0
賭けポイント:19億7181万+最終報酬の100%
勝利報酬ポイント累計:125万 (最終集計時、賭け累計獲得 31.7倍)
「つかい……ます」
対戦相手が決まるや否や、ルナリスからの一言。
「負担は大丈夫ですか?」
「はい……この相手であれば、全く問題ありません」
「わかりました」
この試合、私はサポートに徹する事が決まりました。
どこにでもいそうな。わざとらしいほどに特徴のない顔の男6人。
人畜無害そうな雰囲気に、中肉中背の肉体を黒革の鎧で包む。
武装は一様に剣と少し大きめのバックラー。
特徴的なのは腰にたくさんの小袋を提げている事か。それも緊急用の薬品などと言われれば信じるだろう。
カウント10
試合中は、司会の声は選手には聞こえないように遮断される。
これも音量を落とされたかすかな観客の歓声が耳に届く。
カウント5
今回私は堕天使モードスタート。
ルナリスを背に隠すような配置。
カウント0
連続して相手の魔術が完成する。
観客席との間を覆う闇のドームが、相手によって張られる
外と中を隔て、一切の外部からの視界を遮る。
相手から吹いてくる風。
いっそ緩やかなそれに乗せられた、粉末。
息を止めていても、蝕んでくる。微かに赤く色づいた粉末を含む風。
別の風魔術も発動された。
私たちの周りを覆う、風圧の結界。
傷を与えるのではなく、ただ、空気と、音を遮断する。
また別の風魔術が発動された。
風圧の結界の外に、透明の荒れ狂う風の刃が無数に乱れ飛ぶ。
逃がさないと、主張するように。
ただじっと、ハルバードを手に相手を見据える私の後ろ。
いつもとは違う、ルナリスの舞いと歌。
幽玄な美しさをたたえたそれではなく、蕭々(しょうしょう)と風が泣き、悲哀を運ぶ、緩やかなしかし奥底に嘆きを湛えた、胸を締め付けられる謡。
「あれ、突っ込んでくると思ったけどな」
「うーん、公開で遊んじゃうほうが、好みなんだけどな~。みんなに気持ち良くなっちゃうところ、見てもらおわなぁい?」
「ばっか。運営ストップかかる前に、ほら早く」
視界の端に浮かぶ、状態異常のアイコン
【魔薬:発情(中度)】
全く胸糞悪い……
「ちょっとごめんねぇ。PVP中はさ、セクシャルガード、外れるんだよ。知っていたかい?」
「ほら、つらいだろう? いいんだよ、我慢しなくて」
「これ、現実にない感覚で強烈でさ。み~んな、秒で、蕩けて、あへっちゃうんだよねぇ」
あえて身じろぎせずにらみつける。
姫カットに綺麗に整えた私の黒髪に、汚らわしい粉末が降りかかるのが腹立たしい。
油断しきった仕草で歩み寄り、手が伸びてくる。いきなり胸元と下腹部に2人の男が手を伸ばそうと……。
あわせて
「月影刀舞 – 写身」
私の斜め前方にもう一人の私が出現する
距離のずれに気が付いた様子もなく、表情は紳士然としたまま。
対照的に劣情の赴くまま、揉みしだかれる幻影の私の姿。
彼らには幻覚の感触が感じ取れているのだろう……。
この幻影だけは私にするよう、譲らなかった。幻でもルナリスの身に汚らわしい劣情を……なんて許せるか。
属性:暗黒
冷気の炎纏う神聖との邂逅の果て、進化を遂げた” 魔術掌握 : 特化 - 干渉”と、”原初の魔書“の知恵と補助で深度を増した闇への理解の発露。
浅薄な有象無象がもたらした闇を、呑み込み、消滅させる。
観客席から丸見えになる試合場。
「属性 – 魂魄。 己が罪過を数えよ」
ルナリスから、耐えがたいほどに甘い、甘い、濃密な蜜の香りが漂ってくる。
魂魄魔術が備える特性の一つ。魂に刻まれた業を測り、業を強要する。
善悪など所詮は相対的な物。天秤の基準は術者に応じる。
悪に善を強いる時、術者の魂もまた、悪へ引き寄せられながら己が内の善にて抗う。
故に、軽率に使えば、己の在りようを崩され、本質を失う危険をはらむ。
さらに理性のタガが外れた彼らが、彼女が生み出した私の幻影に、6人そろって縋りつく。
しまいには、怪しげな首輪を持ち出し、はめようとする。”隷属の首輪”、と簡易鑑定には示される。
もういいでしょうね
「“狂愛の楔 – 慈愛”」
私の発動したエンゲージメントスキルに、2人をむしばんでいた魔薬の不快な影響が抜けていく。
さらには、高められた抵抗が風の結界の中に充満した、魔薬の効果を遮断する。
銀の姫をとらえたあの地下の魔毒とは比べ物にならないほど弱い効果とはいえ、不快な感覚が消え、清々する。
夢中で幻の肉体に欲望を吐き出していた男たちは、やがて、無意識に過去の罪状を叫び始める。
悪業を成すごとに、強要された善への反動で、自白を口々に垂れ流す。
耐えがたい、汚物の言葉。数多の犠牲者への行状が暴かれていく。
誰それが、どう……で……。
証拠としての有効性は知らないが、捜査の一助にはなるだろうと我慢し、妄言を垂れ流させておく。
全く。どうやってSEOの脳波計測やらをかいくぐったのやら。
サイコパスとかそういうのでしょうか?
“WINNER: Party - ナオ&ルナリス”
【イベント会場-全体アナウンス:一時的にイベント会場との接続を解除します。別途ご案内をお待ちください】
男6人が消えました。
まあ、私たちは、実害はほぼ無かったので別にいいのですが……余罪がひどそうですね。
ルナリスと私、両方の前にウィンドウが開きます。
“この度は、大会進行中における監視体制に不備があり。ご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます”
“該当者6名の犯罪行為自白を確認。ミドガ帝国における法に基づき処罰がなされます”
“お詫びについては後日別途、お送りいたします。また、現地ミドガ帝国からの御礼についても、これとは別に手配される見込みです。さらに、希望される場合、ミドガ帝国が主導する魔薬摘発へのクエスト参加を申請いただくことが可能です”
「んーそれは別にいいかな、というか、どう考えても胸糞悪い経験になりますよね。女性が積極的に参加したいクエストでもないでしょう。ルナリスもいいですか?」
「はい……わたくしは……関心ございません。帝国にて、しかるべき……措置と、根絶に動いてくださるなら。そも……王国は……」
あぁ……クーデター王子もとい、僭王自身があれか……怪しいお薬のいわば元凶……まさかあっちから流れてきていないでしょうね……少し嫌な予感がしますが、ルナリスはもう第4王女様ではないのです。知りません。
「一つだけ聞かせてください。大会進行中以外の彼らの行為に対して、SEO、来訪者としての判定は?」
“申し訳ございません、SEO内部における行為は、この世界に閉じる限りにおいて、SEOの法と司法、統治機構にゆだねられます”
「まあ、そうですよね。いえ、確認だけでしたのでありがとうございます」
ゲームとしては、その中での行為は究極的に自由。
SEOに限らず現実のMMOでも、ゲームの中でPKしたからリアルで逮捕なんてないですからね。
現実価値と互換なものの窃盗、悪用とか、現実に立件される犯罪行為は別ですが。
今回は、別空間とはいえ、ミドガ帝国の住民、それこそ観客の貴族や憲兵、参加者の騎士団長、お歴々の前。
それも、創造神が主導するイベントの本戦の場で衆目にさらされたから、住民としても意地がある……か。
しかし、彼らもうかつですよね。予選は注目が低いから誤魔化せたのか。
それでいい気になって調子に乗りましたかね?
後味悪い結果になってしまいましたが……これからも油断なく、この世界を楽しむため、肝に銘じておきましょうか。
ルナリスに迫る悪意を徹底的に排除できるように。




