41.2章-第14話 ”で~と”
「よもやこれほど早く踏破するとは。祭りの後まで掛かると思っていたのだが」
「大会において確実を期すためにも、全力で挑ませていただきました次第です」
試練の間踏破を成し遂げた後、ルナリスの身体を心配しつつも、まったく疲れすら残っていないといわれ、その脚で冒険者ギルドへ。うっかり堕天使モードのまま行って、一瞬怪訝な顔をされましたが、ステータスの該当箇所だけを見えるモードで表示しひと段落。
むしろ、受付嬢の犬耳お姉さんからは、クールなこの姿もたまらないと、熱烈なラブコールが。
ルナリスが、横抱きに抱き着いてきて、アピールしていたのが最高に愛らしかったです。
「冒険者ランクの件なのですが」
「ああ、聞いているので大丈夫だ。完遂の報告を当家からギルドへも通達しておく故、ギルドで後日報酬も受け取ってほしい」
お互いの立場も明確化し、多少砕けた口調になった辺境伯。私としては正直少し気が楽になりました……。辺境伯からこう、気を使った対応をされるとか……ねぇ……一般市民の出ですのでね?
冒険者ランクですが、プレイヤーと住民は別カウントという事になり。とはいえランクの段階は同じなのですが……。
ルナリスは無事“Cランク”に。私は中級試練突破で、”来訪者級-Dランク”となったのです。
プレイヤーの方が、各ランクの基準が圧倒的に厳しく、その代わり護衛依頼など、いくつかの必須依頼は昇格条件から外れるそうです。普通のプレイヤーはログイン時間の制約があるので、2週間ずっとログインしっぱなしとか無理ですからね。
「ありがとうございます。それと、このような場でぶしつけとは存じますが、先日お心遣いいただきました、落札資金の件で」
「おぉ、無事落札できよかった。帝国でもな? 来訪者たちから、魔導人形に関する質問が多く寄せられているとの話が出ている。なんでも、皆にとって特別な存在の依り代となりうるとか。現存する手段では修復が叶わぬであろうが、どうもその噂の中に、特別な魔導核等のうわさもあってな。念のためと思った次第よ」
「まだ、確実ではありませんが、可能性はあると考えております」
「おぉ、そうかそうか。完成の暁にはぜひ、拝見したいものだ。まあ、ここだけの話だがな……昨今国家間の情勢にも動きが出始めている。万が一古代魔導人形の再現が成った、あるいはまかり間違えて量産などともなれば……連邦に解析の機会を与える事は帝国としても避けたかったのだ」
なるほど。それで、借金という形とはいえ、あれだけ長期の返済猶予かつ無利子という条件を提示いただけたわけですか。
「無事迷宮踏破も叶い、試練の間の魔核も得られましたので」
「そうかそうか、あいわかった。とはいえ入用なようであれば、返済は待つぞ?」
「お心遣い感謝です。されど、お心にただ甘えるばかりは、申し訳が立ちませぬ故」
ルナリス名義になっている借金なんて絶対に残したくありません……。
それに、なんと1個で50億GOLDで買い取ってもらえたので、1個だけ売却し、元々の残金に長期間のダンジョンチャレンジのアイテム売却金と合わせて、返済。
もう1個は将来何に使わないとも限らないので、まだ保管してあります。いざとなれば売れることも分かりましたしね。
そうして、この日はもう明日に迫ったPVP大会の準備があるからと、早々に席を辞したのでした。
いやだって……今日は午後からルナリスとデートの約束なのですもの。
恩があるとはいえ何が悲しくて、おじさまと過ごさないといけませんの。
で~~と、の感覚をより楽しもうと、わざわざ、辺境伯邸にお邪魔する前に一度分かれて……と思ったら、エンゲージメントスキル”狂愛の絆”、まさかのそれもNGでした。
まあ、確かに、声も届かない距離にルナリスがいると思ったら……無理やり連れて行かれそうになっていないか、声をかけられていないか、不安で不安で……あ、考えただけで胃がひっくり返りそう。うん、無理ですね。
ぎゅーっ。歩きながら銀の姫を後ろから抱きしめちゃいます。
「?」
足を止め、不思議そうに見上げてくる彼女。
「なんでもありませんよ~」
ちゅっ
軽く背伸びしてちゅってしてくれましたよ、ちゅって!
おおよそですが、私が156㎝ 彼女が146㎝。小柄ですが、身長差という意味ではちょっと心地よい関係性だと思うのですよね。
「ずーっと、忙しかったですから、今日くらいはゆっくりしましょうね」
「はい。でも……夜はいつも、ベッドで……だから……寂しくありませんでした」
あ、あはは……。試練の間は必ず6時間が経過するので、疲労の兼ね合いもあって、行けても日に2回でしたからね。思ったよりは……ただ、体感は1アタック下手すれば(攻略がうまく進めば)何十日ですから……。
「お、香ばしいいい香り」
「あちらで……アーモンドを炒って露店売りして……ます」
「2人でつまみながら歩きましょうか♪」
こくり
金属鍋でお砂糖とシナモンを混ぜ合わせて、アーモンドを炒っていますね。
昔海外旅行に行った時に食べた物に似ています。おいしくってつい止まらなくなるのですよね~。
今日はいろいろ楽しみたいので1つだけ、2人でシェアです。
「あーん」
ぱく
ちっちゃなサクランボ色の唇の前にアーモンドを摘んで……指先にちょっと触れた湿り気が、愛おしい。
道行く人が振り向いてみてきますが気にしません。
あ、でも、男性のルナリスへのいやらしそうな視線は、翼でカットです。
人にも供犠姫の魅了効果は多少出てしまいますから、ある程度は寛容な気持ちでスルーですけれどね。
「綺麗なお嬢さん達、最近帝都で流行の、レースのハンカチはどうだい?」
ルナリスが興味をひかれたようなので、露店を覗きに行きます。
「手編みの昔ながらのとは違ってね、その分お安くなったってんで、庶民向けにもちょっとした流行になっているのさ。なんでも、来訪者がもゴーレム技術で生産しているらしくてね?」
「ほぅ」
プレイヤーが生み出した新しい潮流というわけですか。
価格帯とかちでしっかり住み分けもしていると。
「柄も伝統的な物とは違う、斬新なのもあってね、うちはそういうのを中心に扱ってるのさ」
二人ゆっくりとみていきますが……お気に召すのはないようですね?
「ありがとう」
「はいよ、また寄っておくれね」
「綺麗でしたね」
「はい……でも、せっかくでしたら……」
ふむ。中世ヨーロッパ風の見せかけでかなり近代調も入っている世界観ですので、ハンケチーフが男性の持ち物的な時代背景とも思えませんし。というかあの露店の方が普通に私たちに勧めていましたね。いわゆる愛の贈り物としての文化……?
「あ、あの……単にですね……日ごろ使う思い出の品として……せっかくでしたらハンカチは、良いものをお揃いでと」
「なるほど」
王侯貴族向けのオーダーメイドの職人もいますでしょうが、近代文化も取り入れられているこのゲーム世界。
「あとでそういうお店も行きましょうね」
高級衣料店も普通に高級街の方にはありますからね。
お花屋さんできれいなお花に目を楽しませ。
いつも遠目に見るだけだった時計塔に上り、街を上から眺め。
噴水広場で吹き上がる水にかかる虹を2人で喜び。
美しいステンドグラスに彩られた図書館の静謐な空気に、静かに肩を並べて堪能し。
甘酸っぱいベリーのたっぷりフレッシュジュースに、ジェラートとかっとフルーツを盛りだくさん盛りつけたデザートが絶品のレストランで舌鼓を打ち。
ああ、本当に……なんと幸せな1日。
町の外に出る事は、誘引の懸念もあり控えましたが、ええ、ずっと、こうしていたいと心の底から思える、憩いの時間でした。
しっかりお揃いにした、手縫いのレースのハンカチも。
もうすぐ70日になる、このホテルのスイートルーム、すっかり我が家に帰ってきた気分になります。
ちょっと素敵な夜の運動の合間、2人で1度汗を流してリラックスタイム。
お外で買ってきたフルーツをナイフでカットカット。
しゃくしゃくして美味しいですね。
「明日からの大会で結果を残して。辺境伯の許可が得られたらどうしますかねー。とりあえずはイベントをこなす感じでしょうけれど……」
「冒険の旅に……出てみますか?」
「それもありですかね~。クエストスクロールもいただきましたし」
「わたくしも、強くならないと……です」
彼女のクエストスクロールは、レベルか技術か、なににせよ、強くなってから次のステップに勧められる系統でしたね。特に……。
「種族の変化か、進化か……」
「天使様には……なれない……はずです」
「ふむ。すごく気にはなりますが、何か私がやるべきこととかあるのでしょうか」
「わからない……ですが、まずは……わたくしが頑張らないと、です」
「ゆっくり、進みたい方向へ、一緒に歩いていきましょうね」
ぎゅーっ
あ、もう食べ終わっていましたね。
飲み物は? ん、そのままですか?
え、ん、んん。
ちょっと甘酸っぱい味が……魔力灯は?
あ、このままがいいですか、はい。
まだ夜は長いですものね、私のお姫様。




