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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第1部 - 第2章

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38.2章-第11話 ”氷に閉ざされた地”

 あたり一面氷の世界だった。氷河にのまれた渓谷の街。

 山頂を指さすべくもち上げられた少女の手指は無辺を指し示し、氷に囚われ、固められていた。

 危険を知らせる叫びを発する男もまた、鬼気迫る表情のまま、氷に囚われ、固められていた。

 我が子を抱き上げ、あてどなく走り出さんとした母もまた、氷に囚われ、固められていた。


 一条の光が山の陰から差し込む。

 幻想的に美しく、虹色に煌く、一面の氷河。

 氷に閉ざされ、全てが静寂に包まれている。


 見渡せど見渡せど、動くものも、熱を発するものも、ただ一つたりとて存在しない。


 ミニチュアコテージを取り出してみるが、

  “このエリアでは使用できないアイテムです”

 と、無情なシステムメッセージが流れるばかり。


「冷たい……ですね」


 抱きしめたままだったルナリスが、微かな震えを伴い、こぼす。


「防寒着、買っておくべきでしたね……ひとまずは私の翼の中に。少しは冷たい空気が遮れるかもしれません」


 外が見えるように背中から抱きしめる体制に変え、2人もろともに翼に抱き込む。


 魔力飛行でほんのり、浮かび上がり、冷たい氷に足元から侵食されるのを避ける。

 魔力の流れ、というのでしょうか。氷からじわりじわりと、伝わってくる悍ましさと、心地よさの混じった魔力を感じていたのです。遮断された未知の感覚に、一抹の名残惜しさと、圧倒的な安堵を感じます。


「まずはとにかく見て回りましょうか」

「はい。暴れている気配……とかも、感じない……です」


 ですね。すぐさま戦闘になるような凶暴な気配はありません。



 氷に閉ざされた街も、なぎ倒された緑の生い茂ったままの樹木も、何一つ生気を感じる物もなければ、動く陰もありませんでした。

 いっそ天使モードで、氷を炎で溶かしてみるか? とも考えましたが、どこか核になるような特殊な場所が見つかっているわけでもなく、いったん保留。

 課金ショップのお食事取り寄せもできなくなっていたので、インベントリの中に念のために買いだめしてあった干し肉や、パンで最低限空腹を満たします。


 いよいよもって、静寂に包まれた世界に途方に暮れ始めた頃。


「何か、動いています」


 ルナリスの指さす先は山頂方面。よくよく見れば、人影らしきものが、ふらふらと、山を登っています。


「行ってみましょうか」


 再び後ろから抱きしめた彼女が、こくりとうなづくのを確認し、ゆっくりと飛翔。

 少しでも体温の低下を防ぐため、翼でルナリスごと包み込んだままにしているので、空力の制御ができないのです。


 ふらふら、ふらふらと、歩みを進めていたのは、黒い影法師のような、のっぺりと真っ黒な人の形をした何かでした。

 合計6人。


 ふらふらと、左右に揺れながら、山頂……からは少しそれていますね? ここまで近づいてわかりましたが、何か光を発する光源が、山の反対側にあるようです。

 いまだふらふらと、遅い歩みを進める6人の影法師を捨て置き、反対側をのぞき込むと、急峻な崖が永遠と続いた先、海へとつながる入江に鎮座する巨大な氷山。そこからこの光は発せられていました。

 理解し、識って、空を見上げれば、そこに見慣れた青空も、夜空もなく。太陽も月も見当たらず。

 ただただ、美しくも、不安で不安でたまらなくなる、無限に広がる宇宙が、広がっているではありませんか。


 宇宙探査機が撮影した宇宙の映像まさにそのものが、圧倒的な現実感をもって、今、目の前に広がっていました。


 深淵の闇に浮かぶ、無数の星のきらめき。大気に守られない私たちが、剥き出しに、宇宙の目にさらされている。

 大気のゆりかごを失った、人の身のなんと儚い事か。


 感動と、それ以上の孤独感にさいなまれる2人。

 氷山から発せられる光につい、意識が吸い寄せられ、気が付けばまるであの影法師たちのように。

 いつの間にか山に降り立ち、己の足で歩いていた私たち。

 ふらふら、ふらり、と、崖に向かって1歩1歩……。


 きゅっっと、締め付けられる感触に、意識が覚めました。

 “☆8 旧支配者たる蜘蛛神の恩寵のドレスセット”。”彷徨いの樹海”での悪夢を乗り越え、戴いた、普段は緩やかに身を包む美しいドレスが、この身を縛り止めるように、ぎゅっと、拘束してきていました。


 かひゅっ。

 っと、漏れ出た苦しげな声に視線を向ければ、私が封じられている” 不朽の束縛”が、内向きに生えたとげを伸ばし、彼女の儚げな細い首筋から幾条も血の筋を垂らしているではありませんか。


「や、やめ!」


 指をかけ、戒めをゆるめようとするも、茨の装飾が食い込み、手が出ません。


 悪戦苦闘する内、茫洋と焦点の合わずにいた、ルナリスの銀の瞳に輝きが戻ると、自然と茨の戒めも緩められ。彼女自身の再生力で傷も跡形もなく消えました。


「助けられた……のでしょうけれど……はぁ」


 何が起きたのかわからずきょろきょろと見まわす彼女を再びそっと後ろから抱きしめ、漆黒の翼で包み込みます。

 銀の輝きが外に漏れないよう、ぎゅっと、ぎゅーっと。

 ちょっと苦しげにもぞもぞする、柔らかい銀の姫に、ちょっとだけ欲情して首筋にちゅっ。

 甘い汗の香りと、芳醇な血の残り香りが……。


 って、いけません。

 なんでしょう、まだ精神的におかしい気が……。心の平衡が失われる気がする。

 上空の剥き出しの宇宙からは、努めて視線をそらし、


「あちらには行くべきではない。と、蜘蛛神様が伝えてくださったのかもしれませんね」


 氷山から発せられる光から隠れるように、山の影へ戻ります。


 改めて見渡せば、下から見上げると隠されるように、突き出した岩の陰に、山の中を下へと掘り進めたような洞窟の入り口が開いているのを見つけました。


 念のため他に何かないか、あの光も、上空の無限の宇宙も、目にしないよう気を付けながら探索しますが、この洞窟以外は何もなさそう。

 ふらふら上がってくる影法師がまだまだ下の方にいるのを確認し、洞窟の中へ。


 内部もまた岩肌を氷に覆われ、冷気に包まれています。

 空に浮かび進む2人は足音もなく、奥へ奥へと。

 直径5m程の広間が広がり、その先に続くはずの通路は、大きな岩でふさがれている。

 岩の表面には、中央に炎が封じされた透明の水晶玉がはめ込まれている。

 さらに水晶からは、五本に分岐した線が溝として掘られ、頂点を結べば五芒星のような星の形になると想起される。


 簡易鑑定は何も情報をもたらしてくれません。ただ、水晶玉、とか、岩とか……。


「私の鑑定でも……なにも。ただ、岩が星石。とだけ」

「ふむ……。触るべきではない気がひしひしとしますが、外は何もなかったのですよね……」


 あの氷山をやはり、調べてみるという手もありますが……少なくとも、装備を賜った、邪神に属するとはいえ神様が、明らかに行くなと止めてくださった場所に近づくというのも……。

 でもこれはこれで、あからさまに封印ですよねぇ……。五芒星に中央の炎。

 100階層の表題というか、試練のお題目? は、”解放者”でしたか……。


 えー……これ封印とかですよね……触ってよろしいので……?


 けれど、このダンジョン”試練の間”を攻略しない事には、ルナリスとの未来に影が差すのです。

 晴れて2人で過ごす自由を勝ち取るには、やるしかない……!


「何が起きようと……わたくしは、ナオ……様の……おそばに」


 またもう、いじましく、可愛いことをルナリスは。


「進むしか、無いですよね」


 溝に指を添わせても、何も起きないことを確認し、いよいよ中央の炎を宿した水晶に指をかけます。

 すっ……。

 特に抵抗もなく、抜き取れた水晶。


 その中で揺らめく赤い炎が、すーっと、消えてしまいました。

 慌ててはめ込みなおしても、炎が戻ることもなく。

 やむを得ず、水晶を手に取りなおすと……。


 ピシリ……

 ミシ……ミシミシ……


「えーと……」


 ちょっと諦め交じりに、目の前の岩を見れば


「ですよねー……」


 無数のヒビが走り、刻々とその亀裂が大きくなっていきます。


 表面に掘られた模様に、致命的なまでに太い亀裂が走り。

 バキッ

 大きな音とともに、岩、ルナリスの鑑定で星石と示されたそれが砕け散ってしまいました。



 とたん、急激に下がる広間の気温。

 せき止められていた先の通路、その闇の奥から、数秒の後……。


 一面の、灰白色の、炎。

 ゆらゆらと揺らめく炎が。

 這い出し、吹き出し、あふれ出してきました。

 ハルバードを前に、身を守るように構えていた腕をちろりと舐めた灰白色の炎は、液体窒素もかくやという、極低温の冷気を伝えてきます。

 絶対零度を思わせる冷たい炎。


 怖気を感じ、ルナリスを抱きしめ、部屋の反対側へ、洞窟の外へつながる通路へ目掛け、加速を。

 堕天使の身では、速度が出ない……絶望的に遅い……。

 転身するかを悩んだ一瞬の間に、広間の壁を伝って灰白色の炎が、出口へとつながる通路を完全に埋め尽くしてしまいました。


 背にルナリスをかばい、部屋の隅の方に寄り、見つめる部屋の中央。

 冷たい炎に覆われ、いよいよ耐え難い寒さになってきた広間の中。


 封印の説かれた奥から、雪崩のごとく灰白色の炎があふれ出し、渦巻くように球体を成したと思えば、灰白色の炎でかたどられた、体長4mもある巨大な炎の人型が形作られたのです。


 【パーティーアナウンス:“☆8 禁忌級 断章:アフーム=ザーの断片”が出現しました】


 またしても、邪神。いえ、邪霊の分類に矮小化された断片。

 簡易鑑定の結果もそれを裏付けます。


 ==============

 種族邪霊

 ランク☆8 禁忌級

 名前断章:アフーム=ザーの断片

 レベル??

 ==============


 とにかくひとあてせねばと、デバフを積み上げにいかかります。

 99階層で得た、闇の魔書にもたらされた認識の拡張も盛り込み


 不慣れな認識を明確に意識するため、意識の裏で言語化し、現象の具現化を後押しする。


 “属性:暗黒” 


 あまねく空間に満ちる闇よ。

 光あらば闇あり、闇なくば光を認識しえず、全てが光に満ちるならばそれもた新たな闇。

 闇を侵さんと欲す灰白色の炎を、闇に封ぜよ。


 “魔術:特化-干渉(阻害)”


 断片たる邪霊を押し込めんと、空間が圧縮されるように、灰白色の冷たい炎の輪郭が揺らめく、押し込まれる。


 矮小な邪霊の身に顕現させられた邪神の凍れる炎が、拡散を阻害される。

 舞い、歌い始めたルナリスの心地よい声が耳に優しくしみわたる。

 性質は真逆と言えど、見かけ炎の相手に、なにができるのか、微かな不安な彼女の心の裡が、意思伝達越しにひしひしと伝わってくる。


 凍れる炎の拡散、空間が満たされてのデッドエンドは抑えましたが……これ、ルナリスではないですが、こちらからの攻撃は何が通るのでしょう……試しにハルバードの一振り。

 歯牙にもかけず避けるそぶりも無し。空しく灰白色の炎を通り過ぎる。

 ルナリスが放った2本の空を飛ぶ剣の舞も、雷を蓄えた刀の一閃も同様。

 落雷もまた空しく床の氷に輝きとともにはじかれるだけ。


 いまだ灰白色の炎の濁流やまぬ封印の解けた通路にも”属性:暗黒”、流入を阻害を試みる。

 ダメ元で、”属性;氷結”、氷の壁を形成し蓋を……氷を無視して炎が流れ込んできますね……。


 底知れず下がり続ける気温に、息を吐く傍から氷の粒と化す。

 舞い踊るルナリスの動きもどこか緩慢になってきている気がします。


 やむを得ないでしょう、突破口も何も見つかっていませんが……デバフの持続時間に気を付けつつ

 転身 顕現体/表 天使モード


 “属性:融炎” 


 拘束され、体積を増やせず、しかし供給され続ける凍てつく焔に密度を高め続ける敵。

 足元の氷、壁面、手あたり次第に双短剣-鳳凰翔舞で乱れ切り、その端から炎熱を炸裂させます。


 敵本体はこれも意に介さず、ただすり抜けるだけ。

 そもそも接触すらしていない扱いのようで、接触特化の魔術属性では発動すらしない。

 ならばと足元の氷を叩き割り、融炎を噴出させますが、これも無駄。

 灰白色の炎はただ何事もなかったようにこれまで通り不規則に揺らめくだけ。


「いい加減反応くらい、したらどうです」


 闇の拘束も間もなく切れる。その前にまた転身をせねば……。拘束が途切れれば、拡散する灰白色の炎にのまれる。

 炎で気温を上げ、転身、闇で拘束し、転身

 残り18回の回数制限も、ただ無意味な千日手ではただ、いたずらに、力尽きるまでの時間を引き延ばす役にしかたたない……。それでも、やるしかない。じりじりと、命の制限が削られるように、転身回数が削られていく。けれどやはりやるしかない。天使のみの炎の熱が無ければ、2人とも凍死する。


 輪郭が膨れ上がり始める……限界か。

 転身 顕現体/裏 堕天使モード


 “属性:暗黒” 封ぜよ……!



 繰り返すこと9度。

 転身残り回数2回……。


 あらゆる手を、考えられる全てを尽くし……通じない。

 闇が、氷が、光が、雷が、月の魔力が

 物の理を、魔の理を、心の理を、許される限りのありとあらゆる在りようを試みるも通じない

 絶対零度の灰白色の炎は、ただただ、全てを受け入れ、全てを無為と嘲笑う。


 高まり続ける、冷気の圧力……いな、もはや神気の域と呼ぶべきか。

 脳髄を吐き出しそうになる悍ましさと、狂気的なまでの壮絶な概念の美。


 意思伝達を通じ共有された焦りは、どちらの物だったか……

 血も凍る冷たさと、灼熱の余波の繰り返しに、感覚の失せた体。


 なおも優雅に舞い踊り、崩れるを良しとしなかった、銀の姫の身体が

 傾ぐ


 神威の顕現を今にもなさんとする灰白色の炎へと、くべられる贄がごとく……

 その身が倒れこむ。

 すべてを悠久の氷に包み込む炎の中へ、ルナリスの身が、崩れ落ちる


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