37.2章-第10話 ”ダンジョン-試練の間-後半 #5/5”
【91層:ボス討伐型試練 炎熱の概念核 灼熱フィールド】
焼け溶けた地面に投げ出され、慌てて空へ浮かんだ二人に襲い掛かったのは、ひたすらに、全方位へ熱と炎をまき散らす、宙に浮かぶ赤い結晶。
全域に放射される絶え間ない攻撃に、魔術での回復も追いつかない。回避不能の天使状態ではさすがにどうすることもできず。
1回目の転身。顕現体/裏 堕天使モード。
スペックは反転し、高耐久、高HPのこの身体。中途半端な攻撃で削られたHPは、”背水”による攻撃力を増幅するバフとなる。
さらに闇と氷それぞれの、阻害に特化したデバフ。放射される熱の威力を阻害し、守りを高める結晶の硬度を阻害、相手を高みからひきずり下す。
大質量高威力の攻撃を叩きつけ、砕き散らす。
さすがに2回のリスポーンを重ねたが、無事撃破。
ただ、月魔術も意味をなさず、雷は結晶表面に流され、わずかな物理的損傷を与えるにとどまったルナリスの寂しそうな、やるせない気持ちが意思伝達越しに伝わってくるのが、心に、痛かった……。
相性があるのだから仕方が無いよ。と、ギュッと抱きしめ慰めますが、彼女の心は晴れません。
そこからは、とにかく単体ボスのラッシュでした。
こちらとしてはむしろ望むところ。多少の死亡&リスポーンを許容すれば、堕天使モードの強烈なデバフと、背水込みの圧倒的な物理火力で生半可なボスは粉砕、蹂躙。
ルナリスがうまく惹きつけ、攪乱し、快進撃が続きます。
かれこれ追加の12デス、今回の挑戦全体では3レベル分相当の経験値ロストを許容した末。
ルナリスには1デッドたりとも、させませんでしたよ!
ついに到達した99階層。
【99層:ボス討伐型試練 闇の魔書 廃墟フィールド】
崩れてなお、厳かな雰囲気を漂わせる神殿。
月も見えず、星明りのみに照らされた薄闇の中。
かつては儀式の中心であったであろう祭壇跡に浮かぶ、一冊の、豪華な装丁の黒い本。
風一つないのにまくれるページ。ページがめくれるたび、闇色の球が次々に浮かび上がる。
避けれども、飛来し、まとわりつくようにどこまでも迫る闇の球
不思議と、ルナリスは狙われず、私だけに迫る闇の球。
彼女のいかなる攻撃も、月の魔術も、歯牙にもかけず。闇の本を覆う薄い膜がはじき続ける。
避けきれず、一つ闇の球が触れる度、闇が、暗黒が、心の内を侵食してくる。
心の動きが阻害される、五感が阻害される。神経の伝達が、思考が、次々阻害される。
「闇は、もっと深い、もっと広い」
闇に浸される中、不思議な声が、語り掛けてくる。
男と女とも、若いとも老いたるとも、判然としない茫漠たる声が語り掛けてくる。
「感じろ、闇とともにあるならば」
黒い本、あるいはかつてのその持ち主たちの声が、恐れを呼び起こす闇とともに語り掛けてくる。
闇という概念、その深淵を、語って聞かせてくれている。
そうか……自分で狭めていたのだ。阻害に、デバフに、特化していようとも。だからこそ闇になしえることはもっと多いのだと。
自分で可能性を閉じていた。
魔術は、もっと荒唐無稽でよいのだと、本が語り掛けてくる。
ありがとう。ここは確かに”試練の間”究極的には、望むものに、挑むものに、成長を促す場。
敵対し、滅し合う場ではないのだと、ふっと、腑に落ちた。
闇が晴れる。
心配そうにのぞき込むルナリスの顔が、緩やかに膨らんだ胸元越しに見えている。
頭の下には柔らかな感触。膝枕をしてくれていたらしい。
「心配……しました」
「私はどれくらい?」
「3時間ほど」
落ち着く彼女の香りを吸い込み、よいしょと起き上がる私の手の中には1冊の本。
鎖に縛られたそれは、先ほど祭壇の上に浮かんでいた本ですね? なんとなく、いえ確実に、見た目が違うような……?
「対ボス切り札位に使っていたこちらの姿ですが、もっといろいろ、できる事はありそうですね」
ついつい、速度と瞬間局所火力に優れ、いざとなれば回復に異常回復もこなす天使モードが、なんのかの使い勝手よくなってしまっていました。
圧倒的なデバフ性能と、ライフを削って火力を上げるこちらの堕天使モードは、確実に対単体ボスの切り札でしたが、うん。
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☆8 原初の魔書 (装備枠:武器2)
形状:光を反射しない、完全なる闇色の本。銀の鎖で封がなされ、表紙には複雑な彫刻と、複雑な文様のようなものが施された五角形の彫金が施されている。
主材質:不明
強化値:0
特性:不壊、原初の知識(闇)、■■<未開放>■■、■■<未開放>■■
※原初の知識(闇):”闇”系統属性に関する理解を深め、解釈を補助する。
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名前も”闇の魔本”ではなくなっていますが……?
装備しよう、と思考すると、するすると鎖が延び、左腰少し後ろの位置に本が固定されました。
「ある意味、ルナリスが試練の間で手にしたブローチとお揃いですね」
「はい……! いづれ、どちらも開放していきま……しょう」
さあ、ラスト100階層です。鬼が出るか蛇が出るか。
転身の残り回数も19回。” 魔に捧ぐ命の輝き”のHP最大値を犠牲にする効果も未使用。
これで踏破できなければ、そもそも無理というレベルに、ここまでは完璧です。
フィールドが再び、巨大な扉が一つ聳えるだけの白い空間に戻る。
2人とも気合は十分。
さあ、なにが来る?
階層を示す数字が切り替わる。
【100層:神話再現型試練 ギリシア神…… …… ……】
空間全体に、無数の切り裂かれたようなノイズが走る。
【パーティーアナウンス:”至上の供犠姫” 濃密な魂の香りを確認 試練への干渉を確認】
ルナリスの顔が青ざめる。ぎゅっと握りあう手のぬくもり。
空間に走る無数の傷が、華開く。世界の次元が、反転する。
甘く爛れる匂いが満ちる。
湿った何かが、這いずる音が
ずるり……じゅるり……ぞるり……
冷気が滲み出す。
魂の奥底まで凍てつくような、痛い冷気。
【パーティーアナウンス:満ちる贄の魂の香りに誘われ、邪霊の欠片が降臨します】
「ひぅ……」
ルナリスの喉の奥から小さな悲鳴が漏れる。
「大丈夫。大丈夫、一緒にいますからね」
銀の姫を、漆黒の堕天使が優しく抱きしめる。
銀の髪と、黒の髪が、美しいコントラストを奏で、混ざり合う。
侵食してくる冷気に、互いの温もりを感じ、抗う。
試練の間、最後の階層が顕現する。
【100層:神話再現型試練 “解放者” 氷に閉ざされた地】




