36.2章-第9話 ”ダンジョン-試練の間-後半 #4/5”
現実的な問題として当初の目標であった、SEOサービス開始から101日目にあたるPVP大会まで3日前はすでに過ぎて、今は実はすでにロスタイム。バッファー期間2日目、99日目。
幸い転身を一度も切らずにここまで来られているのです。
「今回で決めましょう」
「はい」
英気を養い、ルナリスの銀の髪もつやつやです。
しかし、そこからが難題でした……。
普段の戦闘ではそこまで気にならなかったルナリスの月魔術の射程範囲は実質30m程度。
これはスキル統合したデメリットの側面ですね。反面、魔術を維持し続ける場合、原則、他のことができないところ、舞いという形で、回避に移動、刀や扇を用いた防御に攻撃と、多彩な要素を同時にこなせるという大きなメリットも享受できています。
魔術の射程範囲にしても、肉声だけでは30mも及ぶべくもないところ、舞いによる効果範囲増幅がされているともいえるでしょう。
それはそうと、このどう考えても、最大6名のパーティーまでに入場が制限される試練に不釣り合いな、大規模戦場。城と城壁のみとは言え、その城壁の直径は目算100mはあります……。
そこに配置されている魔眼兵の射程は、いわゆる、Line On Sight, 視線が通る限り。
手前4分の1程に幻惑効果が入っても、後方城壁上、望楼からの視線が通り、麻痺、睡眠、衰弱、毒、混乱、思いつく限りのデバフが積み込まれていきます。
半ばやけっぱちに、高高度からの高速降下飛行で突撃を敢行したときはそれはもう悲惨でした……。
ええ、気が付けば、ルナリスの元にリスポーンしていましたよ。
超高速での地面との無防備な正面衝突、ダメ絶対。
「いや、まじめにどうせいと……」
「遠距離魔術を……打ち込んでみる?」
「雷で少しずつ削る感じでしょうかね」
こくこく。
さすがはファンタジー要素、魔術。その射程はしっかりと前提を満たせばかなり長いのですよね。
声も届かない先でも、魔力の行使、その影響さえ及ぶなら、発動できます。
属性:雷は、スキル統合に含まれていませんので、大丈夫です。
「そうですね。私が接触特化とか、制限重ねているせいで、置物状態で申し訳ない……」
ふるふる
「ナオ……様は、わるく……ないです。適材適所……です」
「遠距離射撃武器とか、なにがしかあれば……あの遺物はうんともすんとも言いませんでしたし……」
実はあのオークションの最後、落札した古代魔導人形に付随していた遺物。
モニター越しではよくわかりませんでしたのと、そもそも置かれていた魔術の収納容器に、さらにいろいろと入っていました。どう考えても、おまけという量ではないだろうという程……それはもう盛沢山に。
その中に、どう見ても狙撃銃とか、そういうたぐいの形状のものも多数含まれていたのですよね……。銃口もないので、現実世界の銃器とは別物。おそらく魔術的な何か、なのでしょうが。
それからは少々の土木作業。
林の城塞側に、融炎の接触発動で切り倒した木を使い、簡易的な遮蔽壁を用意。
ルナリスができるだけ身を隠して魔術を撃ち込めるように環境を整えました。
おそらく千里眼とか、そういう魔眼もちもいるのでしょうが、これで大分、打ち合いに際して積み込まれるデバフが軽減されました。
盾を作ることも考えますが、広く展開した相手の全ての視線を遮るのは無理ですね。内部潜入とかできるなら別でしょうが、現状、そこに至る前でつまづいているのです。
地味かつ大変な作業ですが、城壁上に動く魔眼兵に向かい、雷撃を落とすこと幾百回。
遠距離魔術特化でも、威力増幅手段があるわけでもない彼女の魔術では、1撃ではキルにはもちろん至れず、雷のショック状態のところに何度も重ねて、1体つづ、確実に墜としていきます。
実質キルできた数は十数のけたでしょうが、それが永遠続くとなれば、いづれ城壁上は撤退せざるを得なくなります。今まで淡々と警戒態勢がとられた城塞が、にわかにあわただしくなり始めました。
ルナリスが頑張ってくれている間、私は川沿いや林の奥など何かギミックらしきものがないか飛び回りましたが、目につく限り何もなし……。城塞周りは何も視線を遮るものがない平原ですし、地下への入り口らしきものも無し。
そもそもフィールドの端が直径5km程の領域でした。広いといえば広いですが、レベルのあるこの世界では足で走っても、かかっても5分~20分という距離ですね……。
これはいよいよ、攻略に必要なスキルなり、メンバー構成が欠けている……という詰みパターンな気もしてきました。
この試練、連続100層踏破の中にそういった要素がふんだんに盛り込まれるのが厳しいのです……。
さて。そうこうする内に、鶴翼の陣、というのでしょうか。
城塞から出てきた、ひょろりとした、指サックに手足が生えたような体形に、頭に当たるであろう指サックの上の方、そのほとんどを占める巨大な単眼が横に開いた、モンスター。魔眼兵達が、両翼にこちら向きに広がった陣形をとり、進軍を開始してきます。
林ごと焼き払われるかと警戒していましたが、あの魔眼には直接的な攻撃能力。それこそ熱線とか、そういったものは無いのでしょうか。
進軍する彼らは、いわゆる兵士のように、剣、槍、弓、弩などを持っています。その数、ざっくり1,000以上はいそうです……。
「川に来るまではこのまま雷で数を減らしましょう」
ある程度の損耗は覚悟したという事か、より狙いやすくない、複数回の落雷に連続で撃たれ、命をちらし、靄と消える魔眼兵の数は増していきます。
「回復もとばない。こちらを見据えて、愚直に前進ですか。やはりいわゆる攻撃回復系統の魔術能力はなさそうですね。私はちょっと試してみたいことがあるので、ひとっ飛びしてきますね」
さて、ルナリアの視界をふさがないよう、林の端の方までに移動し、自身に光輝魔術の輝きを最大で発動できる準備をして、魔術を待機状態にします。
目が痛いほどの光に包まれ、体はほぼ見えていないでしょう。
「彼らの魔眼の発動条件は果たして対象本体の視認か、それとも、存在の周辺空間などもっとあいまいでよいのか、どちらでしょうね?」
高速で飛び出す私。即座に反応し、進軍停止、体の向きごと変え、私に集中しだす視線。
状態異常が入り始めたそのタイミングで、待機状態にしていた光輝魔術発動。
まぶしいが、目がつぶれるほどではない。
光で包み、姿をみえなくすることに特化した魔術。
「ダメですか。視認した空間単位でかけられているとかですかね?」
それか、透視なりとの組み合わせか、いづれにせよこの方法で阻害できない事はわかったので良し。
さすがに数が数な事もあってか、あっという間に抵抗が破られ、積みあがり始めるデバフの数々。
「リスポーンする前に後はこれも」
そのまま飛行速度を限界まで上げ、敵に平行に、右から左へ制御を考えないただただ、AGI全開の超高速飛行。
視界だけは相手の軍勢から外さず……。
視線と体の向きの変更が追随してくる数多の視線。
身体の麻痺が限界を超え、墜落。地面のシミとなり……ルナリスの元にリスポーン。
「よし。次」
“行かないで“
でしょうかね、かなり嫌そうというか、抵抗するような思考を意思伝達越しに感じますが、ごめんなさい。
さすがにもう本当に日数がないので。
「この踏破チャレンジで完遂して、外での明日一日、イチャイチャさせてくださいね」
「はい……」
よし、元気出ましたよ~。死ぬほどというか、実際に死んだ痛みの記憶も飛んでいくというものです。
先ほどと同程度の光をまとい、今度は身をさらし、デバフの積み上がりが始まったところで、一気に上空へ。
先ほどの平行移動距離をはるかに超えても、まだ制御を失う程の麻痺や、睡眠は入っていませんね。
遠視系のスキルがないので、小さく見える相手の細かい状態は見えません。ふぁ、上下方向への追従は弱いと。
次に、城塞方向に突貫。望楼にはいますが、城壁上にはほぼいません。
城内が分かりませんが、少なくとも城壁にいた魔眼兵はほぼ全部が出てきていますね?
意思伝達で隠れてくれるよう伝え、閃光弾のように強烈な光輝魔術を、翼を起点に起動。
デバフの積み込みが止まったのを確認し、望楼の一つに特攻し、まぶたを閉じ眼を保護している2体を確認。引き抜いた双短剣を巨大な目の部分に突き込み、融炎炸裂。無事処理完了です。
繰り返すこと6度。すべての望楼の敵の排除は完遂できました。外壁部の敵軍をひきづり出してくれたルナリスの大金星ですね。
城壁上の鋸壁(デコボコに形成されている部分)から平原の先を見やると、林の方に向き直り、進軍再開、雷撃にわずか筒数を減らされるも、動揺したそぶりもなく、進んでいますね。
城壁内部、数十メートルの平らな地面の間隙の先に聳える城はルナリスと一緒に後で対処……でしょう。となれば。
「これ、後ろから挟撃できそうですね……?」
そうと決まれば。深呼吸一つ、中央最後尾を目標に、いざ。
気が付けば、麗しの銀の姫のお隣でした。
「最悪は特攻アタックを繰り返してもいいのですが、そこまでやるとデスペナがとんでもないことになってダメですね」
「それはさすがに……お止めしますよ?」
「はい。ところで今ので、あちらの動きはどうでした?」
「眼球は、縦にはほとんど動いていない……です。首も、あまり動かないようで……す」
「ふむ。やはりそうですか。それが横方向への制約の方が楽でしたが、多少やりようが出てきましたね」
いや……ちょっと油断というか、甘かったですね。
隊列を組み進軍している彼らはあのままなら後ろから強襲できたでしょう。おそらく城、でしょうね。
強烈なデバフが一瞬で積み上がり、解除する間もなく、麻痺・睡眠での墜落ダメージと、毒のコンボで、リスポーンしていました。
これまでのじわじわ積みあがる感じと違い、あっという間でしたので、城内に上位個体みたいなのがいるのかもしれません。
裏を返せば、これまでの実績から、その強力な個体は城壁外までは手を出してこない様子。となれば今迫る子の1,000近くの兵を殲滅あるのみです。
そもそも城壁が高すぎて、城から平原が見えないので、外で戦う分にはいったん忘れてもよさそうです。
そこからは、比較的単調な繰り返しでした。
ようやく林周辺まで迫った敵軍に、まずは私がおとりとして飛び出す。
視線が集中し始めたところでルナリスが林を抜け、舞い踊りながら月魔術で幻覚を展開。
ようやく射程に入った片翼側の軍勢を幻惑状態に陥れ、迫るは刀でなで斬り、遠くは飛行する剣で削りおとしていく。
そこへ視線を集中させようとするもう片翼へは、上下の飛行移動に重点を置き、光輝魔術の解除を適宜入れながら、ヒット&アウェイで私が削り殺していく。高々度から獲物を狙う鷹や鳶の気分でした。
大変に許容しがたかったのは、睡眠の解除のため、ルナリスが自身を刀で傷つける事でしたが……。
「ようやく後は城内だけですか……」
「長かった……ですね」
「本当に」
ひとたび城内に進入できてしまえば後は、これまた作業でした。遮蔽を活かし、しっかりと幻惑をかけ、確実に少しづつ削っていく。
上位個体らしき敵は城上層部、外に面する大きなガラス窓の据え付けられた広間にいました。
とはいえ、屋内で2対1となれば、どうとでも。高速飛行で翻弄し、月魔術の幻覚で魔眼の方向を惑わせ、比較的脆弱なその体を融炎で消し飛ばしたところで、階層クリアと相成りました。
上位個体を倒した後には1つの宝箱が。
罠を警戒しつつも、開けてみると、いぶし銀の腕輪が6個。
============
☆4 耐性の腕輪 (アクセリー/腕輪)”
形状: いぶし銀色の細い金属性の腕輪。赤い宝石が一つ埋め込まれている。
主材質: 銀、魔核
強化値:0
特性:状態異常抵抗-中
※状態異常に対する抵抗力を高める
============
「お揃い、ですね♪」
嬉しそうなルナリス、マジ天使、です。
天使モードと堕天使モードで1個づつ必要なので、複数出てくれたのはありがたいですね。




