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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第2部 - 第8章

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206/207

202.8章 - 第17話 ”帝都地下特別水路 #6/6”

 虹色に輝く神秘的な五角柱の中。床面にはナコト五角形が輝く線で印されている。

 外に目を向ければそこは闇の中。

 無事に逃げ切れたのか、猫の鳴き声も聞こえず。

 氷に閉ざした、片面を分厚く覆っていた緑の菌糸がどうなったのかもわからない、まさに一寸先は闇。


 内側には神秘的な翼を広げる私たち3人と、まだかしこまったままの4人の姿。テイムモンスター達は思い思いに寛いでいる。スンスンと黒犬と狐のしっとりとした鼻を鳴らしているので、一応、警戒はしてくれているのだろう。

 円に例えれば直径5m程度でしょうか、戦うには不足ですが、背中を預け合うなら程よく余裕のある広さ。

 これが今の私たちに展開できる、“神代魔法:三位再創”の限界の広さ。


「悪いマナに満たされた空間と化した。といったところでしょうか?」 「しかし、わざわざ邪神ナイアルラトテプの関与を明かしてまで、なぜ本人? が出てきたのでしょうね」

「ナオさんに破壊させたかった。なんらか自分ではできない理由があった。いづれか、あるいはその両方、とみるべきでしょうね」

「今こうして落ち着いてみると、アレイスター王国の最後で見た」 「国中から集まった黒い靄と似た気配がしますね」

「あちらは存在の全てを抽出されての事、住民の魂そのものとも言えるでしょうから、さすがに同じでは無いでしょうけれど。来歴、最後に抱いた想いを考えれば……悪いマナと性質が似通っていても不思議はないです」


 なんて、暢気に議論を交わす私と紗雪ですが、ルナリスがじーっと。

 それはもう、じーっと、私の顔をほんのり涙の浮かんだ蒼銀の眼差しで見上げていてですね?

 ええ、それはもう、伸びた金の鎖が天使姿と銀の姫の間だけは輪っか2つ分もない位。

 息遣いをドレス越しに感じるほどに、近くからじーっと可愛らしいお顔で、真剣に見上げるルナリスが。


「ナオ……様」

「――はい」

 観念してそっと彼女と視線を合わせます。


「わたくし……に、お留めする事は……できない、のは、わかり……ます。ですが、後悔は……ナオ……様に、降り積もり……ます。どうか、無茶は……めっ! です」

 そっと唇に押し当てられる人差し指の先。

 そのままそっと頬に添えられる右手に導かれるようにわずかにかがむと。

 ちゅっ。

 軽く触れるだけの口づけ。ふわりと香る、彼女の甘い薫りに誘われて抱き留めようとするも、するり、と薄布のドレスの感触だけを指先に残し。手を伸ばさなければ届かない距離に。

 虹色に輝く結界を背に、銀の髪がゆらゆらと、濃密な混沌たる源の魔力に満たされた中で揺れる。


「魔力、蓄積」

「えー……失礼いたします、はい。あれは、穢れたマナを蓄える。上にあった転送する物とは異なる仕掛けであったと考えられます、はい」

「いわば爆弾のような仕掛け罠であった。といったところでしょうか?」

「肯定、奥」

 ゴスロリスタイルの聖女イリスが、眠たげなオッドアイで見つめる先は奥、下へと通じていたはずの扉の先。悪いマナの黒い靄はそちらに流れて行っているようで、徐々に結界の外側の闇が薄れてきています。


 そこはかとなく嫌な予感しかしないのですが。

 それを裏付けるように。


 `猫、ねこ~~`

 `クトゥルフ神話に猫はつきもの`

 `言う程か?`


 `●綾:結界をもたらす魔力水の供給が急速に衰え始めています。`


 そのメッセージは、今回連絡と情報共有のためにつけっぱなしにしていた配信を通じて、もたらされました。

 ええ、大量の猫萌えコメントに紛れて。

 どうも配信越しでは邪神ナイアルラトテプの声そのものは聞こえていなかったようで。前衛芸術的な土星の猫はまだしも、視聴者視点ではたくさんの猫がふにゃ~ふか~と、争い合っていただけに見えていたようで。


「申し訳ないです……おそらく、敵の罠にまんまと」


 `また、邪神案件引いてる……`

 `猫は異変を察していた`

 `お猫様大戦もっと見たかった`

 `にゃんこ無事かな`


 とはいえ、あの黒猫。額に3つの赤い瞳が生まれたあれが邪神ナイアルラトテプの化身である。という事はアレイスター王国での顛末を公開していたこともあって、分かる方にはわかったわけで。


 `●綾:いえ、シャーリィもやむを得なかったと。また、邪神の依り代を放置する方がよほど害が大きい。むしろ感謝すると`


 気遣いだけで言っている、というわけでもなさそうですね……確かに、邪神ナイアルラトテプが猫の姿とは言え、入り込んでいるなど、全くもってぞっとしません。他にも依り代が帝都にいないとは限りませんが。


「前回の事で神核にまで損傷を与えています。さすがにそう自由に動ける状態ではないのではないでしょうか。だからこそ、ナオさんを誘導したのかもしれませんよ?」

「そう……だと良いのですが」


 やっと薄れていく闇を前に結界を解除するや否や飛び出していく聖女イリス。

 研究員ヴェルスさんと共に、黒い球体が崩れ去った跡を魔導具を取り出し調べています。

 先程まで緑の菌糸に覆われていたこの広間やや左よりには、やはり配管が埋設されており、それはまさに、先ほどまで黒い宝珠が。私が誘導されて破壊した、真下に通っていました。

 アメティスタもその手伝いに回り、サフィーロは油断なくあたりの探索へ。

 部屋の様相はすっかりと変わり。むしろ、これは元に戻ったというべきなのでしょうか、近未来的な金属質の建材が露わになり、緑の菌糸の痕跡はどこにも見当たりません。

 インベントリには土星の猫のドロップアイテムと思しき、サイケデリックな色彩の”部位”が何種類も。


 綾さんからの連絡で考える限り、この下はやはり……。


 とはいえ、調査を放棄するわけにもいきません。一通りの調査の完了をもって奥へ、進む事としたのでした。


 `神代魔法、綺麗だった`

 `超神秘的。生配信で見られたのラッキー`

 `神代魔法、俺らも習得できるのかな。鬼の子さんの鬼神闘法は、東エリアにたどり着いて、鬼の試練を受ければチャンスがあるっていう情報だったよね`

 `どっちも、種族制限があるからハイヒューマン経由で特殊上位進化ルートに乗らないとだめっていう分析`

 `特殊魔法とか、☆9到達ルートは全プレイヤーにチャンスがあるって言われてる。そもそも住民にも、いる`


 `世界樹スタートの運命値50のエルフプレイヤーも、エンシェントエルフルートが見えてるって配信で言ってた`

 `世界樹、結局あれ、どこなの……? 001サーバー以外の始まりの大陸を割ったのって、世界樹の根が変質したもので確定してたよね`

 `特殊スキル欲しい~!`

 `特殊上位進化ルートに乗っかる以外だと、初期種族か、運命値だなー`


 `運命値100が結局近道だけど……デメリットが……えげつなさすぎる

 `後発組にも結局非推奨扱いのまま`

 `博打すぎて、下手すれば別サーバーでキャラ再作成。今は新サーバーの開放ペースも落ちてるから、かなり待たされる可能性もある`

 `レベル170のトップ勢は結局運命値振ってないプレイヤーしかいないし、善し悪しだよなー`


 なんて、雑談めいた配信コメントを眺めながら。

 こうしてみていると、やはりプレイヤーにとってここはあくまで、VRMMO、ゲームの中。異例の本当に稼げる、現実にマテリアライズなんてできてしまう、けれどあくまでゲーム。ビジネスサーバーはともかくとして、純粋に遊戯として提供されるサービス。

 私が考えすぎ……だったのでしょうか……。いえ、同じような考えの人もきっといるはず。

 プレイヤー間の温度感の違い、それは得ている情報の違いも当然大きいでしょう、それはわかっています。魂だなんだなんて、一般プレイヤーには開示されていない情報。考察が進み、察している人も出てきているようですが。

 なんだか胸に引っかかるものを感じながら、一緒に行動する皆に視線を移すのでした。





 ――研究室。ここもまた、そんな表現がぴったりとあてはまる施設でした。

 脳髄の浮かぶガラス容器に、得体のしれない実験器具が所狭しと並べられた小部屋。

 奥には横長のガラス窓が据えられ、下を覗く事ができるようになっています。

 何より特徴的なのは蛍光緑に光る液体で満たされた、成人男性4人分はある太さのガラス管。

 そしてこれこそ、このミ=ゴが作り出した隠し空間を通る配管と繋がる物でした。


 それが、この地下最奥の部屋中心を上下に貫き、ガラス窓から見える先、地下大空洞の片隅、岩の陰に伸びている様子がこちらからははっきりと見えます。

 とはいえそれはこの大空洞裏側上方に据えられた部屋からだからこそ見える情景。


 巨大な地底湖と、その中央に据えられた大きな立方体の建造物。

 近未来SFチックなミ=ゴの物とは一線を画す、王道ファンタジーの古代文明とはこういうものだと言わんばかりに、不可思議な文字や紋様が刻まれた鈍く輝く金属の塊は、大きさにして一辺10mは優に超えていそう。

 さらにその立方体からは同じく魔術紋様らしきものが緻密に刻まれた配管がそこら中に伸びており、大空洞の四方八方に伸びる洞窟へと続いている。あの配管のずっと先がそのまま、通路に半ば埋もれていたのだろう。おそらく本来であれば、この地底湖は薄青く輝く、魔力を帯びた水で満たされ。アルティザンの細道(職人の路地)で見たような魔力水を、あの配管が帝都の各所へと運んでいたのであろうことは想像に難くない。


「古代魔導文明、遺産」

「なるほど、あの立方体や配管が全て、そう。というわけですか?」

「肯定……汚染」


 そうですね、汚染というのが正しいのでしょう。

 今、地底湖はどす黒く染まり。古代魔導文明の遺産だという機材は稼働が止まったという事なのか、魔力を放つ様子もなく、明らかに沈黙している。今となっては本来の様子を直接知るすべもないですが、きっと、こうした物のご多分に漏れず、神々しい輝きを放ちながら魔力を水に印加し、稼働していたのではないでしょうか。


 そうなった原因。

 この部屋から伸びる蛍光緑の液体を運ぶ配管は、まさに地底湖と繋がる紋様で飾られた元々あったはずの配管の一つに接続されていました。維持管理するものがたとえ来たとしても、岩陰を巧妙に活用し、時に地中に潜らせながら、見つかりづらいように。

 日頃からこの蛍光緑の液体その物も混ぜ込まれていたのか? それにしては魔力水に異常は検知されていなかったはず。

 いずれにせよ、先ほどの悪いマナはこの配管を通じて、あの装置へと全て流し込まれてしまったのでしょう。


 その結果が、装置の破壊……ではないと信じたいですが、少なくとも停止。そして、帝都防衛の要であり、職人や特別な施設の運用を下支えする地底湖、魔力水の汚染。

 デウスですら、活用が難しいとして領域防衛のタワーディフェンスゲーム要素に援用し、プレイヤーの心理的活動の材料にするくらいしか利用価値を見出せなかった、悪いマナ。それに汚染され尽くしたここの水は現状、頼る事はもはやできない物へと変質させられてしまった。


「結界の喪失、生産の停止による補給の弱体化、主要施設の機能停止。影響は計り知れないですか……」

 帝都外部、先鋒の到来まではもう、1時間もない。本隊との交戦までも約5時間。


 ここの悪いマナの浄化は?

 手にしたばかりの神代魔法―三位再創であれば領域内はどうとでもなる。けれど、範囲が狭すぎて話にならない。

 私の光属性と慈愛属性? 試すにしても1時間では……。

 ルナリスの時空属性はいつか、大規模な時間操作ができるかもしれない。けれど今はとても無理。

 紗雪の保有属性は、こうした浄化には不向き。

 うちの子達を呼び戻してもここまで広大な空間全域となると、おそらく厳しい。

 次々候補となりうる手段を考えるけれど、打つ手なし。外に頼る……にしても、地上の混乱も収まっていない中では、とても無理。プレイヤー達も主力級ははるか遠く聖国マリシア。


「聖女イリス、この状況に打つ手はありますか?」

「――無理」

「イリス様は研究と知識に特化されております故、はい。本国におります十三聖女の中にはもちろん、容易く浄化を成す者もおりましょうが……」

「ありがとうございます。ご無理を申しました」 「綾さん、聞いていらっしゃいますでしょうか、この状況への対処自体は出来そうになく。何か手立てはありませんか?」


 少しの間の後。

 `●綾:復旧可能な技師や、創世聖教からの派遣も間に合わないそうです。それよりも、軍勢がいよいよ遠見の魔術で視認可能な距離に入り始めました。調査は十分です、帝都内の鎮圧も何とか数時間以内に終わりそうですので、ナオさん達は皇帝陛下の援護に回っていただきたいそうです`


「……承知しました」


 結局。作戦行動としては失敗……だったのでしょうか。確実にプラスの成果は邪神の片鱗を見つけた事、くらいでしょうか。いえ、それすらも誘導されたものであれば……。思えばあのプレイヤー? たちからして、囮だったのでしょうね。

 私たち個人としては、神代魔法のさらに先の開花という大きな成果を得ましたが。


 防衛力も大きく落ちた今、帝都ミドガを落とさせないためにも、戦力として役に立たねば。


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