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20.第20話 ”ダンジョン:彷徨いの樹海 #3/4”

 まあ、まじめな推測、こんなあからさまに条件達成型で出現した裏ボス的な物が、二人そろって仲良く外に出たからはいさようなら。

 なーんて、なるわけがないんですよね。

 仮に私がここで死亡して、ルナリスの元で、リポップしたとて、ほぼ確実に追いかけてくるでしょう?

 あ、いや、先ほどのメッセージを考えると、そもそも死んでもこの封印? 領域? の中にリポップするのかも?


 だから。

 私よ、気合を入れなおせ。

 こいつは、私が、ここで。

 潰す。


 今一度、簡易鑑定


 ==============

 種族邪霊

 ランク☆8 禁忌級

 名前断章:アトラク=ナチャの断片

 レベル??

 ==============


 怒り狂った蜘蛛の突進を、ハルバードの柄で流すように、自身の体の方を勢いを借りて力任せに奴の進路から外す。

 “闇魔術-減退”

 ただでさえ、元々最大値の少ない堕天使モードのMP。3割ほどが先の大蜘蛛戦ですでに削れているそれを、それでもつぎ込む。

 まずは、特化させたデバフで、奴を手の届きうる地平に引きずりおろさなければ話にもならない。


 たった一つのデバフを仕掛ける間に、こん棒のような足の16連打を捌くことを余儀なくされる。

 距離を取ろうにも、この漆黒に彩られた身の、低すぎるAGIではままならない。

 少しでも隙を作るように、力づくで、打撃の軸をそらし、負荷を軽減する。

 無理なパリィの連続で、急激に腕に蓄積する疲労と痛みを気合で無視。着実に生命を、HPを、削られるがそれすらも”背水”のスキルで力に変え、


 “氷結魔術-戒め”


 圧倒的な魔力と抵抗力の差に、氷に閉じ込めるなんて言う芸当は無理。関節部に限定し、ただひたすら固めるための氷を生み出す。

 脚の付け根、関節、都合24か所以上に生み出したそれはしかし、次々にひび割れていく。

 だが、確かに勝ち取った数秒に、デバフを2つ差し込む。


 “闇魔術-脆弱” , “氷結魔術-戒め”


 合わせて1歩後退、存分に大斧部を振る隙間を勝ち取るが、まだ。その時に向けて、ひたすら力を溜め続ける。

 局所化した上位魔術の、それもデバフ特化のスキルを重ねた氷の拘束はアドバンテージを私に引き寄せてくれる。

 砕き散らし、自由を得る合間に1手づつ、こちらが盤面を進めていける。


 “氷結魔術-減速” , “氷結魔術-戒め”


 特級の化け物といえど、魔術の氷の鈍化は確実にその動きをむしばむ。

 脚部の稼働を戒める氷を砕く速度が追い付かなくなってきている。

 が、無理やり前腕部が挟み込むような斜め振り下ろし。振り上げたハルバードの柄で、両の脚を受け止める。


 剛力を支える背骨と足がきしみを上げる。が、こちらとて力にも特化している。耐え抜く。

 むしろその反動でさらに脚を大地に突き立て、力を籠める。


 辛うじてこれで、この堕天使の身でも手が届く速度にひきづり下した。

 最後の、一手!


 “闇魔術-脆弱” , “氷結魔術-戒め”


 先程とは別の場所に再度、脆弱化のデバフを。範囲を局所化し、禁忌の魔物の甲殻の硬度すら侵食する。


 ただただ、デバフを確実に通すよう調整した、このアバター。

 詰将棋のようなデバッファーの戦いの真骨頂、ご覧に入れましょう


「もってけ、全部! “魔に捧ぐ命の輝き”よ!」


 消し飛ばした生命力の10倍の魔力を生み出すアクセサリーに、最後の一滴ぎりぎりまでを注ぎ込む。

 わかっていても、耐えられ得るはずもない、激烈な痛み、命の喪失に、血反吐をまき散らす。血涙が止まらない。

 しかしその血飛沫が、禍々しい蜘蛛の暗赤色の目の1つを覆い隠したことに、暗い愉悦を感じ


 戒めの氷が砕け散る清冽な音が連続する。奴の脚が全て自由を取り戻す。

 だが、こちらはすでに振り下ろしの最中。


 超重量武器のハルバードが、叩き潰されかけた相手の力への反発も上乗せし、今振り下ろされる。


「つぶれろぉ!!」


 進むごとに剛力に後押しされ加速する、斧部の剛撃

 が

 黒檀の頭部直前、上空で“ぴたり”と制止される


「んな……」


 ぬかった……蜘蛛糸。

 巧妙に張り巡らされ、こちらが、アドバンテージを稼ぐ間も、常に織り込まれ続けていたそれ。

 さすがは魔物、いや邪霊ゆえか? 脚に頼らず、魔力か何らかの力で、糸それ自体を超常の手段で支えもない空中に張り巡らされていた。


 確実に滅ぼすと、しっかりと力を蓄え、今まさに解き放たれようとする蜘蛛の前2脚の連撃。


 せめてもの悪あがきのように。

 堕天使の甚大な生命力のほぼ全てを転換され、解き放たれる時を今か今かと待ち望んでいた膨大な魔力を、1つの魔術に込めて解き放つ!


 “魔術:特化-干渉(阻害)”, “属性:氷結”, “魔術:消費増幅”, “生命転換-消費増幅”

 今再び、覆え! 留めよ!


 “氷結魔術 – 氷獄”


 銀の姫を救うため、邪霊の肉体ごと部屋の半ばを封じてみせた氷結地獄が、蜘蛛の左半身を地に縫い固める。


 されど、迫る蜘蛛の致死の攻撃は、連撃。左の1撃が止められようとも、右の振り下ろしは決して止まらない。

 堕天使の身に残された命の、最後の一滴が、上半身を半ばまで断ち割る鈍い剛撃に、消し飛ばされる。

 引き抜かれる脚。勝利を確信した7つの瞳が、半身を凍てつかされようと痛痒も感じさせず、闇にあってなお漆黒の輝きを宿すヘイローの昏い輝きを映し出す。


 闇の中、せめぎあう1人と1匹。


 突如清冽な白き光が満ちる。


 顕現体/表 転……身!


 “背水”の効果により、絶死の一撃を耐えしのいだ堕天使の、今にも崩れ落ちそうな身体は、光あふれる天使への峻烈な輝きとともに変転する。


 デバッファーが、相手のデバフをそう易々と、忘れ、見落とするわけがないでしょう。が!

 確かな感情を有するこの蜘蛛の邪霊。絶体絶命の獲物を前に、刹那の間勝利を確信したその隙とも呼べぬ狭間。


 積み上げられたデバフに鈍る身体を嘲り笑うように、閃光となりて、炎をもたらす双短剣が振るわれる。

 張り巡らされた蜘蛛の糸による計略は、すべて燃え尽き。

 ”糸疣(しゆう)”すなはち蜘蛛の腹部先端にある糸の射出口に、超高温の焔による溶融の一穿が2刺し、えぐりこまれる。


 生命線たる糸の射出部を守る外殻に、2発目の脆弱化のデバフを通されたのが運のつき。

 飛行能力にあかせた、伸身宙返りを蜘蛛の背の上でうち、凍り付いた半身に身動きを封じられた怨敵へ急速落下。

 無垢なる白い天使の光が、蜘蛛の頭上で、漆黒の闇の光に置き換わる。


 顕現体/裏 再度、転身!


 剛力一閃、高空落下の勢いとともに、ハルバードの先端、長く太い槍部が、1回目の脆弱化をやはりピンポイントにかけておいた、頭部中央に貫き通す。

 早贄のごとく地面に深々と突き刺された蜘蛛はしかし、まだ、命の最後の灯を燃やし尽くし、動こうと、氷結地獄にとらわれた半身を解き放たんと、奮い立たせる。


「これがほんとの、最後の最後!」


 渾身の一撃の反動で、ラストHP1が再度削り落とされそうになるのに、焦りながら、”二重性”に許された、最後の転換を発動する。


 顕現体/表 転身! 天使モード!


 天使の姿に変わるとともに、虚空へ消えたハルバードの穿った後、頭部を貫通する穴に、双短剣-鳳凰翔舞が

 するり

 静かに差し込まれ


 “魔術:特化-接触”, “属性:溶炎”, “魔術:消費増幅”,


 目が焼け付きそうな、熱の輝き。

 頭部中心に圧縮された溶鉱炉が出現したような、爆発的な熱量に、本体なればいざ知らず、さしもの禁忌の邪神とて、断片たる邪霊として現出した身では耐えられようはずもなく。 


 閉ざされていた、異界のごとき闇は解け。いっそ芸術的な美しさを孕んだ蜘蛛の巣も消え。

 夕日の残照が、森の広場を照らす中。


 虹色の輝きをまとう銀の姫が、ぼろぼろと涙をこぼし、泣き笑いを浮かべて困ったように、私を見守ってくれていた。


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