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21.第21話 ”ダンジョン:彷徨いの樹海 #4/4”

 すやすやと、腕の中で眠る、愛おしい銀の姫を抱きしめる。

 さらさらと、絹糸のような髪が、今や白魚のように繊細な私の指の隙間を、零れ落ちる。

 むずがるように、ふくよかな私の胸にギュッとすり寄る、眠り姫。

 いたずらで首筋をくすぐるように撫で上げれば、熱のこもった吐息が、サクランボの唇を割り、漏れだす。


 つい先ほどまでの2人の睦み合いの残滓が下腹部にこみ上げ、思わず内股をこすり合わせてしまう。

 昨夜は頑なに修復を拒まれた、乱暴に引き裂かれた供犠姫のドレスの胸元、覗く白磁の肌のふくらみがうっすらと汗ばみ上下している。


 邪霊として現れた、”☆8 禁忌級 断章:アトラク=ナチャの断片” 討滅戦。


 全力で、群がるモンスターを切り捨て、案の定返り血一つ浴びずに舞い戻った彼女はしかし、見た目に反し堅牢な蜘蛛の巣越し。結界の外からは月魔術の幻惑も届かず。死闘を演じる私をただただ、見つめているしかなかった。


 そして綱渡りとしか思えない命のやり取りの果て。

 無事討ち果たした私は結局。


 彼女に思いっきり……




 泣かれた……。




 いや、彼女があそこまで声を限りに泣きさけべるなんて、正直、思いもしていませんでした。

 天使の動体視力も超える独特の歩法をいかんなく発揮し、儚い力の限り、私に抱き着いたルナリス。

 抱きしめ、頭を撫で、背をあやし、それでも一切泣き止む気配もなく。


 リザルト表示とか当然ほっぽって、途方に暮れつつも、とにかくボスエリアの扱いも分からないので、なんとか広場の外にミニチュアコテージを展開。

 しゃくりあげる彼女をベッドに連れて行くや、思い切り差し込まれた舌に、芯まで舐られるまま、激しい求め合いは止まらず。

 2人で、乱れに乱れたのです。



「いやぁ……怒られるより正直きつかったです……」


 心が壊れたかと怖くなるほど、こんなに泣けるものかと、とにかく泣き止んでいただけない。

 泣きじゃくりながら、貪るように、愛を求められ。

 挙句、自分を壊してほしい、とか、とにかく乱暴に扱われることを扇情的に挑発しながら求られるも、何とか自制心をと思ったら、そんなもの涙とともに蹴倒そうとされ。

 ギリギリ彼女を直接的に傷つける事だけは鉄の意思で避けた結果が、供犠姫のドレスのちょっと、目も当てられない惨状と申しますか。

 いや、性能を彼女の鑑定結果で見せてもらった時から思っていましたよ? ”任意再生”って何よ。って。


 ※任意再生:この装備の再生能力を一時的に停止することが可能


 意味不明すぎるでしょ……いや、まじで。なに目的よ……防具やで? 防具になんでいるん、こんな機能? ん?

 いえ、はい。それはもう楽しませていただきましたよ? ええ。

 くそぅ、悔しいけど嬉しい、びくんびくん。


 今更ですが、これまでもですが、彼女は彼女で”感覚過剰増幅”とか、供犠姫のドレスの”身捧ぐ姫”で、かなり大変なわけですが。

 私もですね、こう、両性を有する。ご存じの通り、両性具有の身に変じておりましてね? いわゆる”ふたなり”ちゃんで、でしてね?


 それも、女性的なあれこれ、まずベースというかそっちが実は主体的な。その上に。ね?

 だからこう、完全にダブルでね? 百合的なあれをしながら、それもしてしまっていて、いろいろと、こみあげてきてしまうわけですよ。ちなみに避妊は生活魔法として基礎魔力でできます……本気でどうなってるの、Steps to Elysium Online。


 うん、そろそろ思考を戻しましょう。どこまでも爛れ落ちてしまいそうで怖いです。



 今通っているルートは、おそらくボス戦はこの1回でおしまい。


 距離的にはちょうど半分あたりで、後は何事もなくミドガ帝国領側へ抜けられるであろうとの事。

 アルフレドさんのかつての、徹底した調査に感謝ですね。


 抜けた後の事は正直情報もあまりなく、ある程度は出たとこ勝負。

 まあ、基本的にはこっそりと、冒険者登録など2人でして生活費を稼ぎながら、いろいろ冒険をしたいね。という事になりました。


 次に、あの突然変異的なボス戦のリザルト。

 まあ普通に考えて、ルナリスとのクエストの続きの一環、でしょうね。


 すやすやと、穏やかに眠りについているルナリスを起こさぬよう、思考操作でインベントリを操作します。


 ボス討滅報酬がですね……まず、こちら……。


 ===============

 MC:92,274,590

 GOLD:922,746,880

 ===============


 MCは現金換金可能、つまりリアル約9千万円相当。

 まあ、ルナリスとの幸せな生活のためにも、MCはいったんリアルを忘れて、ゲーム内の装備諸々をしっかりそろえるのに大半は使うつもりです。スキル結晶とか、プレイヤーオークションはMC払いが基本ですからね。

 サユキさんとの約束を果たすにもMCが必要となる可能性もありますしね。

 GOLDにしても、例えばスキルスロットエンハンサーで1億GOLDが開始価格という世界。そこに来て約9億。


 金額があまりに途方もなくて、思わず運営問い合わせまでしてしまいましたよ……。

 そうしたら、”異常ではないのでご安心ください”という旨の返答が5秒で帰ってきました。


 まあ、冷静になって、解析されているMCの算定式を考えると、これでもやはり”断片”という事で大幅に弱体化されていたであろう分、☆8ボスにしては、約10%程度まで入手MCは落ちているのですよね。

 倒せるわけがないですが、これの100倍の金額がちらつくSteps to Elysium Onlineがすさまじいですね。

 サービス開始日前日に見せられた秘密の光景と、全世界の国家を巻き込んだプロジェクト、という意味が今更ながら実感されてきます。



 で、それに輪をかけて問題がこちら


 ===========

 ☆8 異界の箱

 異界の神の歓心を得た者に下賜された箱

 血を捧げなさい

 贈り物に、光輝の血が、足りません

 ===========


 このメッセージって……断片かつ邪霊として降りた、アトラク=ナチャの本体の……?

 オタク的には慣れ親しんだモチーフともいえるそのクトゥルフ神話的コズミックホラーな、蜘蛛の神様の名前。果たして何が起こるのか、興味よりも恐怖の方が勝る気がしますが……。

 ルナリスが起きてくるまで保留にしましょう。


 あとは、彼女が起きていたら何を食べようと、リアルコラボのリストを。

 って、また、ものすごく増えていますね。協賛店舗のリンクが3倍以上に伸びて……国内のみならず国外店舗も。

 この辺りとか、ミシュ〇ンの星を獲得されている有名レストランではないですか。

 お値段も相応ですが、無事に森を安全な場所まで逃げきれたら、豪華なディナーを2人で楽しむのもありかも。


 とりあえずもう昼過ぎになるので、そろそろ眠り姫を起こして。

 ボンゴレビアンコに、イタリアンジェラート、ブラッドオレンジのジュース、にしましょう。

 あ、ジェラートにはウェハースも付けますよ。それも2枚。




 ほんにゃりと、嬉しそうに、ほんのり甘めのレモンのジェラートを、ちっちゃくすくって、お口に運ぶルナリス可愛い。

 おなかも満たされたところで、先ほどの箱を、実体化。


 闇を固めたような、光の一切を吸収する完全黒体のごとき色合い。

 表面を指でなぞってみると、蜘蛛の巣をイメージさせるような細かな彫刻の凹凸が彫り込まれていることが分かります。


「使っても問題ないと思います?」

「……おそらく、は。あと、わたくしの……血も、捧げ……ます」

「え……ルナリスに無意味に血を流させるのは嫌なのですが?」

「わたくしの……第六感……が」


 ふむ、スキルで何かを感じると。


 しぶしぶ了承し、オープンセサミ。箱を開くと中も同じ闇の空間。

 短剣を取り出し……あ、これ、怖い、腕を自分で切るの怖すぎる。

 思わずプルプル手を震わせていたら、小首をかしげたルナリスが、エイヤとばかりにズンと、短剣の先端を。


 血、血ぃ、吹き出してるぅ。

 思った以上にドバドバ箱に飲み込まれていく私の血。

 ルナリス? 意外なところで容赦がありませんね?


 それに混ぜ合わせるように、取り出した太刀を腕に突き立てるルナリスさん。

 増幅される痛みも、慣れたものとばかりに眉一つ動かしません。

 覚悟決まりすぎというか、男前すぎるよ、私の彼女さん?


 光輝魔術の治癒と、気持ち的に浄化を2人にかけて


「アトラク=ナチャ様? これでよろしいのでしょうか……ね?」


 蓋を閉じて待つことしばし。


 私の簡易鑑定に映る箱の表示が


 ===========

 ☆8 異界の箱

 異界の神の歓心を得た者に下賜された箱

 良き、捧げもの

 また、期待している

 ===========


 実はメッセージボードか何かですかね?

 ズルリと、開く箱の蓋。

 闇色のもやもやが浮かび上がり、私の目の前に漂い、はらり。

 差し伸べた腕の中には、特上の肌触りで、はんなりと優しく垂れるようなドレスへと姿を変えたのです。

 いつまでも感じていたくなる、心地よい生地。


 夢心地になりそうな至高のドレスですが……


「私、あの時、毒とかもらってませんよね……クモの印とか、肌に刻まれていませんよね……?」


 いやですよ、巨大な蜘蛛の姿に変貌するとか。


「こくほうきゅう……以上の神器……です」


 中級鑑定の結果をそっと囁いてくれるルナリスから、恐ろしいお言葉が……。


 ===========

 ☆8 旧支配者たる蜘蛛神の恩寵のドレスセット

 形状:着用するものの性質により、色が変化するドレス。アクセントとして、緑と金の糸が織り込まれ、暗赤色の宝珠がちりばめられている。ドレープが効いた優雅な一着。現実の理を外れた半透明に透ける生地を無数に重ね、着用していることを忘れるほどに軽やか。なお、背は翼のために大きく、腰まで開かれている。

 主材質:旧支配者の蜘蛛糸、天使と堕天使の血、至上の供犠姫の血

 強化値:0


 ・天使転身時 (ベースカラー白)

 基本性能:MP/AGI/DEX/INT/CHR/LUK+☆8, HP/STR/END/MND-★3

 特性:瞬間再生、魔力特性最適化、魂魄強化

 ※魔力特性最適化:☆接触時魔力効率増大-極大、★距離に比例した魔力効率減退-極大

 ※魂魄強化:肉体、精神に作用する阻害効果/異常効果への耐性向上:小


 ・堕天使転身時 (ベースカラー黒)

 基本性能:HP/STR/END/MND/CHR/LUK+☆8, MP/AGI/DEX/INT-★3

 特性:瞬間再生、魔力特性最適化、魂魄強化

 ※魔力特性最適化:☆阻害効果強化-極大、★損傷効果減退-極大

 ※魂魄強化:肉体、精神に作用する阻害効果/異常効果への耐性向上:小

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 禁忌級☆8にふさわしい、メリットとデメリットが混在する性能ですが、まさに私のための一点物としか言いようがない、ピーキーな特性をがっつり補強してくれる、まさに神装備……!


「魂魄強化は間違いなく、ルナリスのおかげですね。ありがとうございます」


 早速これまでの初期装備を着替え、くるりと回って見せると、ふわ~と、それはもう羽根のように軽やかに裾が舞い上がります。


 結局その後は、まだ落ち着かない風のルナリスと、ゆっくり一晩お休みと決め、明朝早く”彷徨いの樹海”を抜けるべく再出発。さらに4日の途切れることなきモンスターとの戦闘を経て、実に10日間に及ぶ逃避行は終わりを迎えたのでした。



【サーバーアナウンス:☆8 禁忌級クエスト 「供犠姫救出」 をプレイヤー「ナオ」がクリアしました】


【個人アナウンス:☆8 禁忌級クエスト 「供犠姫#2-逃避行:魂の香り」をクリアしました……評価算定中】


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