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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第2部 - 第8章

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192.8章 - 第7話 ”帝都襲撃 #1/5”

 物的損害を避ける余裕も見せながら対処していく騎士団員たちを眼下に、窓ガラスを震わせる警報の鐘が、帝都の夜空を引き裂くように鳴り響く。

 バルコニーへ飛び出した私たちの目に映ったのは、星空を塗り潰すような、黒い影の奔流だった。


「ワイバーン……! それも、通常の群れ規模ではありません!」


 紗雪が叫ぶ。竜の背骨山脈の方角から、雲霞(うんか)のごとく押し寄せる飛竜の群れ。

 先頭を進んでくるのは、皮膜の翼を広げたワイバーンの大編隊。月明かりを遮り、帝都へ向かって一直線に飛翔してくる。ドラゴン級の巨大な個体こそ見当たらないものの、その数は数百どころか、千を超えるかもしれない。


「全隊、対空迎撃っ! 結界を維持しつつ、撃ち落とせ!」


 城壁の上、衛兵隊の制服に徽章が付けられた男性の拡声された声が風に乗って聞こえる。帝都を守る巨大なドーム状の結界、淡く輝く光の幕が展開され、空からの侵入を拒絶している。四方の尖塔から、太い魔力の熱線が夜空へ向けて放たれた。直撃を受けた数匹のワイバーンが、翼を焼かれて墜落していく。

 魔力視に映る視界では、帝都全域に張り巡らされた魔法陣が魔力の輝きとして確認できた。

 アルティザンの細道(職人の路地)でも見た特別な地下水源から供給される水を、魔法陣型の水路に流すことで展開しているらしい。発動して初めて仕掛けとして認識できた。


 とはいえ。

「……数が多すぎます。それに、結界内からの遠距離攻撃だけでは、攻撃密度に限界が」

 紗雪が焦燥の声を上げる。


 本来、帝都の主な想定は周辺のなだらかな下り坂となった平野部に対する防衛。竜の背骨山脈から遠く、これほど大規模な空襲は想定されていない。結界の内側から上空へ向けて攻撃魔術を放つには、結界との干渉を避けるための調整が必要であり、効率が悪い。この空を覆い尽くしそうな数を打ち落とす飽和攻撃など夢のまた夢。城壁上からは魔術攻撃やバリスタらしき野太い杭のような矢も打ち上がっているが、都市部上空に入られればますます攻撃の手は制限される。このままでは、いずれ結界の許容量を超えた単純な質量に押し潰される。


「陛下、どうか避難を」

「ならぬ! 余が退けば、誰が民の心を支えるのだ! そも、ミ=ゴ変異体の対処を成しているここ以上の安全な場所は現状無い」


 眼下、庭園の一角で、真紅の甲冑を纏った皇帝陛下が、その身を晒している。傍らには、不安げに、しかし気丈に付き従う、本物のソフィア伯爵令嬢の姿があった。彼女は影武者としての役目を解かれ、今はただの一人の専属侍女として、主君に寄り添っている。


「ナオ殿! 空を頼めるか! 結界は透過できるよう指示した」


 甲冑越しに、皇帝陛下の声が届く。

 その信頼に応えるために。そして、この胸に渦巻く鬱屈を晴らすために。


「「行きましょう、ルナリス、紗雪!」」

「はい!」

「了解です!」


 私は二つの身体で同時に大地を蹴り、翼を広げた。

 結界の透過権限は確かに、既に付与されていた。光の幕をすり抜け、夜風が吹き荒れる上空へ。


「敵はモンスター……人間ではありません。遠慮はいりませんね」 「最近まともな戦闘も少なくて、ちょっとゲーム的にどうなんだ~なんて、思い始めていましたから!」


 強がりを声に出し。眼前に迫る、雄々しい飛竜の群れへ向かい、帝都の空を駆ける。

 現実的には絶望を覚えるべきワイバーンの大群を見て、私は心の底から安堵していた。先ほどまでの、人の姿をした元・人間たちとは違う。言葉も通じず、ただ殺意を向けてくるだけの怪物。

 それならば――何の躊躇いもなく、全力で叩き潰せる!

 不謹慎ながら少しだけ、心が軽く、わくわくとしてしまっている自分がいた。


「はあああぁぁッ!」


 天使の身体が翼を全開に、瞬間加速。

 光の軌跡を描いて夜空に一筋の光の線を描き出す。

 双短剣に纏わせた神炎が、紅蓮の線を刻む。調子に乗ってバレルロールなどうって、螺旋の紅線を描き出し。

 すれ違いざま、先頭のワイバーンの首が宙を舞い、断面から噴き出す血は灼熱に蒸発して消える。

 さらには、魔法の光を発動、まだ距離のある後続のワイバーンの群れの只中に閃光を解き放ち、目をくらませることで進行速度に遅滞を生じさせる。


「ナオ様……参ります!」


 ルナリスもまた、虹色に輝く宝石翼もはためかせ、私の隣へ。

 月光を浴びて輝く銀髪。扇と刀を構え、優雅に、しかし鋭く舞うその姿。

 魔力消費の少なさから見てこれも魔法でしょう、纏う蒼電は触れる者の動きを止め、自身の速さをも底上げしている。


「紗雪、援護を!」

「任せてください! 全銃座、開放!」


 後方から、紗雪の展開したウェポンシステムが一斉に火を噴く。

 魔導弾の嵐がワイバーンの翼を首を撃ち抜き、編隊を崩す。

 その隙を突き、私とルナリスが交差するように突撃する。


「堕ちろっ!」


 全天を灰白色の焔が舞う。急激な温度の低下に、きらきらと、細かな氷の結晶が舞う。

 たまらないのは上空を我が物顔で飛行し、火球を、小規模のブレスを、結界に叩きつけていた怪物ども。

 急激に凍てついた体に制御を失い、飛行の維持もままならず、慌てて城壁外へと滑空を始める。


 しかし、こうして上空に上がり近くで見れば、このワイバーンたち、身体のそこかしこに歪みというか。

 眼の数が増えている、翼が5枚ある、脚が3本、明らかに質感の異なるまるで装甲板のような鈍色の板が全身に生えている。

 奇形化した異形の飛竜。まさか、SEOのワイバーンが標準でこうというわけはないでしょう。

 “彷徨いの樹海”でも遭遇した、ミ=ゴによって改造されたモンスター達との共通項……。



 とはいえ、彼らも今となっては動きのにぶり、推進力を失った的(まと)。

 堕天使のハルバードが、鋼のごとき鱗ごと両断する。

 返り血を浴びることも厭わず、ただひたすらに、敵を屠る。この爽快感。

 生々しい肉の感触も、断末魔の悲鳴も、今はただ、私たちが“守れている“という実感に変わる。


【レイドアナウンス:総員西方面を中心に展開、ナオ様がたを中心に南北両翼を制圧します】

 劇場内では悪目立ちするので、外周警戒に回っていたアクロイト達が上空へと舞い上がり、指揮のアナウンスが心地よく響く。魔導人形の子達が南北へ扇形に展開。私達が切り拓き始めた最も敵の密度が分厚い西方面中央を除き、制圧を開始する。

「は~い♡ 一斉射~」

 上空からの帝都外部へ向けた斜め打ち下ろし気味に、ルビーノ率いる第2部隊の大規模魔術がさく裂。

 稼ぎ時と言わんばかりに、ありとあらゆる属性の広範囲殲滅魔術が咲き乱れる。

 侵攻速度の緩んだワイバーンの大群に、”☆7 星槍術”による星の光を纏った戦乙女風のアクロイトに率いられ、第1部隊によるランスチャージが敢行される。


 私達という飛行戦力の参戦によって好転した上空防衛。

 うん、ちょっと無双系の感が出てしまっていますが、たまにはいいじゃないですか。

 運命の導きといっても邪神系シナリオは重すぎるんですよ、本当。

 とはいえ、ミ=ゴ絡みという事で、これも邪神系かと思うと……うぅ。

 でもでも、アレイスター王国とのつながりも見えてきた中で、完全に知らんぷりともいきませんし。


「ナオ……様? 何をお考え……でしょう?」

 涼やかな歌声を響かせる合間に、心配そうに問いかける麗しの銀の姫。虹色の輝きを秘めた神秘的な髪を靡かせ、扇と刀を手に。迫る爪牙をいなし、天を舞台に舞い踊る。

 月明かりに照らされる、儚く優雅なその姿に魅せられた奇形化した異形の飛竜の急降下。


 竜種の中では下位種とはいえ、さすがに相手は空が本領のワイバーン。帝都上空にまで入り込まれ始めていますね。


 ズドン、とお腹の奥底に響く重低音。眉間に大穴をあけられ、飛び込んだ銃弾の破壊属性を頭蓋内部にまき散らされた飛竜が、瞳の輝きを失い、遥か眼下へと落下していく。

「うふふ、よそ見はダメですよ♪ あなたの相手は私でしょう?」


 灰銀色の長いツーサイドアップの髪を空になびかせ、翼の羽鳴りと共に空を駆ける小柄な少女。その手には身の丈を超える、対物狙撃銃の形をした、魔導銃。


「と、いけません。下に死骸が落下しては……」

「大丈夫です♪ お任せを!」

 ウィンクと共に少女が手をかざすと、金色の鎖がスカートのすそから伸びる。

 奇形の飛竜をあっという間に縛り上げ、落下を停止。やがて、絶命したそれは黒い靄となって消えていった。

 眼下に広がる、幻想的な魔術の灯りを灯す帝都を穢すことなく。


「回収はお任せ、なの」

「私達もお手伝いしますわ」

 サフィーロとアメティスタも撃ち落した死骸の回収に回ってくれていますね。


 さらには魔導兵団や宮廷魔術師といった方々でしょうか。

 帝城方面からも強大な魔術が放たれ始めています。

 ああ、この後に行うはずだった『幻光の儀』のために待機していた宮廷魔導師団の方達も合流したのでしょう。

 さすがに全員が竜の背骨山脈や周辺の対処に出払っていたというわけでもないようですね。とはいえ、この帝都を防衛するにはあまりに頼りない戦力ですが……。


 そうして、空での戦況が好転しようとしていた、その時。

「――ナオさん、下! 街の様子が変です!」


 紗雪の悲鳴のような念話。

 ワイバーンを蹴り飛ばし、視線を下界へ転じる。


 帝都を美しく彩っていた魔導街灯。その光が、一斉に不吉な赤紫色へと変色したように見えた。

「いったい……何事?」


 ガシャン! バリン!

 割り砕かれる窓ガラス。


 ドドォォン!

 武器を振り回しながら、あるいは魔術を打ち放ちながら、大通りを狂ったように駆けずり回る住民達。

 上空からのモンスターの侵攻に意識をとられていた衛兵隊や騎士団も、突然の内部からの攻撃? 暴動? に対処が後手に回る。


 現実であれば少なくとも日本において、住民は武装など持ちえないがここはVRMMO SEOの内部。力の大小はあるにしても魔術や武具を含めて、住民も皆武装し、戦闘力を有している。

 とはいえ、日ごろから戦いを生業としていない人々に、防衛に回れというのも無茶な話なのだろう。

 帝都中が、暴徒と化した狂える住民達から逃げまどい、大混乱へと陥ろうとしている。


「ナオ殿は引き続き上空を。帝都内は私達が何とかする」

 指向性の通信のような物でしょうか。劇場内部の制圧を完全に終えたらしいシャーリィさんの声が。


「綾も来たしな」

 って、すっごくうきうきした声で、ついでとばかりに。どうやら綾さん、ログインしたみたいですね。

 刀の扱いを短い間とは言え、教えていただいた仲。ルナリスも会わせてあげたいところです。


 と、暢気なことを考えている場合ではありません。

 言われた通り、私達は引き続きワイバーンの相手を。


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