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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第2部 - 第8章

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191.8章 - 第6話 ”帝都安寧を祈る儀 #2/2”

 私たちは楽団の皆様が退避するのを後ろに、マジッククローゼットで重ねていた舞台衣装を解除。いつもの防具でもあるドレス姿に戻り武器を手に、舞台袖の暗がりからそっと状況の推移を見守ります。


 魔力はかなり多めに持っていかれましたが、展開した領域は全体としては劇場の内壁内側に沿うように。しかし、通路部分に合わせた、たくさんのへこみというかトンネルが設けられたような形状。

 出入り口が詰まって、後続が出られないなどという大事故にならないようにするための配慮でしたが……捕縛しなければいけない”ミ=ゴ変異体“の影響下にある疑惑の対象が観客全体の3割ともなると。混乱を完全には防ぎきれませんね。


「……おや?」

「どうされました、子爵?」

「なんだ、これは!」


「パパ、待って、置いてかないで」


 座席中央部からの移動にどうしても、小さな淀みが生まれ始めてしまいます。

 それでも、”ミ=ゴ変異体“の影響下に無いと判断された方々の半数は通路や会場の外に出られた状態。



 ここで一気に騎士団と、帝国騎士団が突入してきます。彼らには誰が対象なのか判別できないので、とにかく通路まで出られた人々を急がせるように誘導。


「どうされました? 他の方はさあ、どうぞ前後の列も使って移動を願います」

 シャーリィさんが少しでも時間を稼ぐべく、詰まりの大きな箇所へと声をかけに。ああ、あれは家族全員が”ミ=ゴ変異体“に侵食された貴族の……当主たる男性が何事かと引き返すのを騎士団員が制止する。

 軍人でしょう方々は比較的軽やかに、指示を受け座席をまたいで前後列から移動しています。野外オペラ劇場のような可動式の椅子であればよかったのですが、据え付け型の座席なので列が詰まれば必然的に後ろも抜け出すことができない。


   「おい、何をしておるか」

「いえ、前が動かないのです」

「此度の異例な移動、規律正しく移動せねばならぬというに。陛下をお待たせする気か!」


 後続の人々が怪訝な顔をし、軽い苛立ちを見せ始めます。

 しかし、わずかな虹色を放つ透明な領域の膜に阻まれた”ミ=ゴ変異体“に侵食されている者達の表情は、困惑や苛立ちといった人間らしい表情がついに抜け落ちはじめ。


 一斉に身動きを止める彼ら。


「ふむ。もう少しあがくかと思ったが。存外潔いのだな?」

 一度退席した皇帝陛下が再び貴賓席に姿を現し。眼下を睥睨し、威を発します。そのそばには近衛騎士がしっかりと護衛として侍っています。


「タンサ、カンチ、シテイタ」

 中央後方に座っていた小さな女の子が、平坦な声音で大きな声を発します。

 それに続くように、不特定の”ミ=ゴ変異体“に操られた者達が順に声を上げ始める。


「ヨモヤ」 「セイカクニ」 「ワレラヲ ハイジョ スル」 「コトガ カナウ」 「トハ ソウテイ」 「ガイ ナレド」

 会場中のバラバラの場所から、一つのセリフを繋ぎ、語る……ええもう、人間性の欠片も感じられませんね、”ミ=ゴ変異体“と一旦呼んでしまいましょう。”ミ=ゴ変異体“達。


「「「モンダイ ナシ」」」

 カク、カクと、首を左右に曲げ。ギョロ、ギョロと、目をあちこちへと彷徨わせ。

 その様子はあたかも、あたりの様子を複数の視界で重ね合わせて見ようとしているかのよう。いえ、きっとその通りなのでしょう。”個”ではなく、一つの”集合意識”あるいは、統括する何らかの存在の身体の一部、末端のように機能しだした”ミ=ゴ変異体“達。


「「「「トキ スデニ オソシ」」」」


「やれ! 生死を問わぬ、無事な者達を至急逃せ(のがせ)!」

 冷厳とした声で発せられる、皇帝陛下の号令。


 皇帝陛下の分析通り、探査、ルナリスの感知すら感じ取っていたという事はどのみちばれていた。であれば、座席の再配置とか、少しづつ外に出すとか。もっとやりようがあったのではと、後悔も片隅に覚えるものの。すべてはやはり結果論……なのでしょうか。


 騎士達は得物を抜剣。

 グリン、とあり得ない角度に体を曲げ、飛び跳ねるように後方で事態の推移に追いつけずにいる人々に襲い掛かる”ミ=ゴ変異体“。捕らえ、羽交い絞めにしようとする。あるいは、魔力を纏い強化された身体能力で暴力の限りを尽くさんとする。中には魔術を発動し始める者も。

 逃げ遅れていた夫人や子供達が、悲鳴を上げてパニックに陥る。


「キャアアァァァ!」

「やめろ、来るな!」

「貴官、何をしているか!」

 とはいえ、さすがSEOの住民。彼らもまた武術で、魔術で、反撃を繰り出す。そこかしこで戦闘が勃発する。

 騎士達は守りに徹し、とにかく私の張った領域の外、通路へと次々人々を救出していく。


 まさにカオス。

 無機物的に抜け落ちた表情や、関節の可動域を無視している以外は、外見上まだ差異の無い彼らに、わずかながらも騎士たちの剣先も鈍る。


 私が展開した結界の中は、立場ある者とその家族とはいえ、逃げ惑う無辜(むこ)の民と、暴れまわる怪物が混在する地獄絵図。


「させません!」


 まずは私が、天使の翼をはためかせ、舞台から飛び出しました。

 彼らの性質が分からない。もしかしたら救えるのかもしれない。だから!


「”☆7 憐憫の金鎖” – 慈悲なる憐憫!」


 褒賞にたまわった金の鎖のアクセサリーの特性を発動し、神炎纏う双短剣の一撃を、精神へのそれに転嫁する。

 至近特化の存在ごと燃やし尽くす焔を、対象の精神のみに影響を及ぼす慈悲なる一撃へと変え。


「ガァァァァアア!?」

「お願い、離れて! その人を解放して!」


 頽れる(くずおれる)おそらく元は騎士だった屈強な男性。もしも、精神体か何かが憑依しているだけなら、これが特攻になるかもしれない!

 そんな淡い期待はしかし……。


「離れろ、ナオ殿!」


 ミジュリ。湿った悍ましい音が耳朶をうつ。

 飛び散る鮮血に、黄色い……ぅ、多少慣れたかと思っていましたがこれは、きつい……おそらく人体の脂肪、その他諸々。久しぶりにSEOの冗談抜きのリアルさを内心で呪い、全身に浴びたそれが発する臭気を我慢。

 そんな私の目の前で、背中側が背骨を中心にバックリと裂け。醜悪な緑色の触手をうごめかせる男性。

 こうなってはもはや到底”ヒト”とは見えない。


「……甘いぞ、ナオ殿!」


 鋭い叱咤と共に、銀色の閃光が走りました。

 シャーリィ騎士団長です。

 倒れ伏す怪物を頭頂から背骨沿いに縦に、躊躇なく割断しました。


「あ……っ!」

「よく見ろ! その中身を!」


 転がり落ちた首。そして、崩れ落ちる身体。

 どう見ても人間のそれ、触手の生えた脳髄上の別の生命体がいるという事もないような……いえ。


「そんなっ」


 その断面。骨髄でしょうか、から溢れたのは蠢く菌糸と、得体の知れない粘液。そこから伸びる緑の触手達。

 さらに頭部を見やれば、脳があるはずの場所も、蠢く緑の菌糸に侵されて……。


「嫌らしい擬態……いや、置換か? 命にかかわらない肉体の損傷では判別がつかん。脊髄、脳。この2つがおそらく入れ替わり、変質されている。彼らは既に死んでいる。外見を取り繕われた、ただの操り人形だ!」


 シャーリィさんの悲痛な、押し殺した声。

 彼女の剣が震えているのが見えました。彼女だって、斬りたくて斬っているわけではない。かつての同僚や、背を預ける帝国の官僚、貴族達。あるいは、守るべき民たる彼らの家族を。

 その手で介錯しなければならない苦しみ。


 剣の柄を握り込む、小手の軋み。

「総員、躊躇を捨てよ。敵の正体は暴かれた……彼らに、安らかなる眠りを捧げよ!」


 彼女の号令を受け、致命傷を避けて相手を制圧しようとしていた帝国騎士団が、涙を呑んで全力を開放。


 私は……そんな勇ましい彼らを前に、呆然と立ち尽くすしかありませんでした。


 邪神とも戦った、その眷属とも。あるいはモンスターを無数に屠った。

 でも、人……ううん、もう人ではないのは理性ではわかる。でも、見た目は完全な人の姿を残してる。

 アレイスター王国を滅ぼした……でも、あの国の人々は既に、皆、絶えていた……。

 住民にも未成熟ながら魂がある。いつかは、ルナリスや紗雪のように完全な魂に至る可能性もある。それなのに……。


 私を染めるこの血潮は、赤い。

 胃のひっくり返りそうな匂いは、しかし、確かな”人”の生の匂い。


 乱戦の様相を呈する中、紗雪のウェポンシステムが解放される。宙に浮かぶ数多の魔導銃。

 ピンポイントの銃撃が騎士達を的確に援護する。


 ☆9 蘇生薬なら?

 あれなら、多分救えるのだと思う。でも、あんな奇跡の薬、SEOと言えど大量に用意などできるはずがない。

 もし私が、慈悲と神聖/光輝の特性をもっと、もっともっともっと! 磨き上げていたら?

 ここにいるのが私ではなく、聖国マリシアにいるという運命値100、聖女のプレイヤーだったなら?


「ナオ……様」

 心配そうに、しかし、迷いを断ち切るように。まだ舞台袖で同じく茫然と固まってしまっていた堕天使の私を促す銀の姫。

 彼女もまた率先し、前へ進み出る。


 歌が。響く。

 銀の髪を揺らし舞い踊る。


 ”ミ=ゴ変異体“と言えど、彼女の放つ魅惑には抗いきれないのか。

 これまでの敵よりも鈍いとはいえ、確かに気をそらせ、彼女へと歩みを進めようとする。

 その致命的な隙を逃す未熟者はこの場に投入された精鋭たる騎士達には居なかった。


 あっという間に制圧が進む。




 ――その時。帝都全域に、けたたましい鐘の音が鳴り響きました。

 薔薇窓のガラスがビリビリと震える、地響きかと思う程の、警告の音。


 『ナオさん! 外部からの侵攻です! 竜の背骨山脈方面上空、無数の反応!』


 紗雪の悲鳴のような念話。

 大急ぎで外へと飛ばした彼女が操るウェポンシステムを成す魔導銃、その魔核がとらえた映像が私達の間に共有される。


 西方、まだ帝都から多少の距離がある空。

 しかし、美しい夜空に瞬く星々は黒い影の大群に覆い隠され、ただただ暗い闇が広がるばかり。

 その正体は……。


 帝都安寧を祈る儀式は、皮肉にも、帝都最大の悲劇の幕開けとなったのです。


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