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『運命の供犠姫』私のVRMMO生活は、運命値極振りから始まる百合ライフ。呪いの装備は絆の証?  作者: malka
第2部 - 第8章

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187.8章 - 第2話 ”アーカリア大陸史”

 「あれがいつから現れたのか、正確な事はわかりませんわ。ですが、少なくとも2,000年前にはアレイスター王国との接触は果たされていたと、帝国は確信しておりますの」


 そうして、リリエラさんのお話しは始まりました。それは、このアーカリア大陸の歴史でもあります。

 紗雪に補足してもらいながら聞いた彼女のお話。

 要点をまとめれば……。


 ミ=ゴ。その襲来は大陸南方の森林地帯がまだ、ダンジョンと化すよりも昔であったのだろうと、推測されている。

 徐々に、徐々に。その生息域を慎重に広げながら、この大陸の。あるいはこの惑星(SEOの舞台がどんな惑星なのか、実はプレイヤーの得ている情報では、まだ確定していないのですが)の知識を蓄えて行った。


 2,000年前。急激に力をつけたアレイスター王国が周辺国家を併合。対抗して小国家群が連邦制へと移行、フェリシテ連邦が成立。

 この前後にアレイスター王国とミ=ゴの接触が図られ、両者間の協定、すなはち私達のユニーククエストの名称ともなっている『ユゴス コンコード(ユゴス協定)』が始まったと目される。


 邪神崇拝に傾倒し、創世聖教の教えから離れていくアレイスター王国。

 その発展と、邪悪な意図をいち早く察していたミドガ帝国はさらなる西進を決定するも、魔術技術の体系が明らかに変化した同国の戦力と、急激なダンジョン化を果たし領域を拡大する”彷徨いの樹海”に苦戦。帝国への併呑を良しとしなかったフェリシテ連邦までもが抵抗をはじめ、三つ巴……否、彷徨いの樹海に隠れ潜むミ=ゴも含めれば実質四つ巴の紛争へと発展。

 広大な領地もあだとなり、現在の西ミドガ帝国の領土が固定され、それ以上の西進を断念せざるを得なくなったのが約600年前。


「アレイスター王国の供犠姫の仕来りは認識しておりましたわ。遥か昔には海を越えて聖戦へと乗り出した聖国マリシア、創世聖教の兵団と共同で征伐に乗り出した時代もあったと記録されています。しかし、その結果はあえなく……邪神の力、そしておそらくミ=ゴの技術力と”成り替わり”、すなはち人間の乗っ取りによって阻まれました。ルナリスさん……いえ、ルナリス元第四王女、悪しき因習を断ち切ることができず、この大陸の盟主たるミドガ帝国の皇帝として、お詫び申し上げますの」


 悲哀に満ちた表情で、ルナリスを見つめるリリエラさん。

 ですが。


「わたくし……は今、至上の幸福に……ナオ……様と共にある事で包まれて、おります。そして、かつての我が国……こそ、厄災をこの地に……もたらす元凶となった事。お詫び申し上げる……べきは、わたくし……に、ございます」

 別の席に座っている事をもどかしく思いながら。確かに繋がっている心、魂を通じて。しっかりと彼女を慰撫する私。

 紗雪もまた、亡き国の事はルナリスが気に病むべき由縁など何一つないと。力強く主張しています。


「うむ……いえ。ええ、そう仰っていただけると」

 軽く瞑目し、再び続けられるお話。

 軽くルナリスに視線をやれば彼女も続きを興味津々で待っています。


 はっきりとした姿の分からない、ミ=ゴ。その脅威を認識しながらも、”彷徨いの樹海”中層深部以降は軍や生半可な冒険者による侵攻を受け付けず。アレイスター王国とは間にフェリシテ連邦が挟まる形となったと言えど、いつ何時戦端が開かれるかわからない中、特級戦力をいたずらに浪費するわけにもいかず。

 手をこまねくうちに何百年もの時が過ぎ、特に深層は不可侵の領域と化してしまった。


 とはいえミ=ゴの寄生能力や憑依能力自体は認識しており、帝国も明らかな動きの異常を感知すれば対処を行ってきた。希少ではあるものの、特に『魂魄属性』の魔術による識別はほんの百年ほど前までは極めて有効であった。


「ところが、『余の今代』の少し前から……失礼。私の代の少し前からですわね。ミ=ゴに憑依された者の識別が急激に困難になりましたの。従来通り、識別可能な者もありつつ、その枠にとらわれない者どもが現れ始めたのです。やがて行動の変化でしか判別がつかなくなり。さらにはそうした行動の偽装すらも、巧妙化していき。ついに看破する事が困難極まるようになってしまいましたわ」


 現実の神話におけるミ=ゴは人類との精神構造の違いから、人類社会への浸透がうまくいかないとする説が主流なようですが、この辺りはゲーム内故の違い、という事でしょうか。やはり前提知識はそれとしつつも、分けて考えるべきですね。


 幾つもの国宝を用いた識別も試みられた。しかし、それらも効果が見られないか、あるいはそもそも起動すらできない品が多すぎた。私に贈られた“孤絶封界”によって対象を選別し、捕らえる領域を展開する『☆7 深淵の封輪』もそんな、使用できなかったアイテムの一つらしい。

 おそらく『復讐』の属性に加え、種族であるのか、なんらかの特殊な使用条件があったのであろう、と。

 実は私がこの宝物庫に死蔵されていたアクセサリーを使用できるかも、半ば賭けだったらしいです。



 そしてここからが今現在の問題。ミ=ゴの憑依、入れ替わりには大別して3つの方法があることが判明しているそう。


 1つ目。仮に”ミ=ゴ菌糸寄生体“と称するならば。

 当初から判別可能であったのがこの類。菌糸に脳が侵され、完全に操られるというもの。

 これは、魂魄魔術である程度の異常を検知できた。殺害する以外に救う手立てもなかったが……。

 なお、感染経路の詳細は未確定。ミ=ゴの身体の一部が胞子なり、何らかの形で運び込まれ、病原菌のように感染させられるのであろうと考えられている。

 おそらくルナリスが異常を感じてくれていたのは、この形態。



 次に2つ目が、”ミ=ゴの使役体”。

 脳髄を抜き取られ、改造される。

 この改造脳髄、すなはち”ミ=ゴの使役体“を頭蓋内部に戻されるも、外見は元通りの人間のまま。

 今までこの類は、極めて稀な例であった。そのため一部の高官を除き、存在そのものが秘匿されていたとの事。

 基本的には誘拐され、身体改造を施されて送り返される。そうした流れで人間社会に紛れ込まされる形態であったと推測されている。

 しかし、黒い兵士の中身がミ=ゴの使役体であるとの情報を、私が持ち帰った事で事態が急変。

 奴らの施設で施術され、送り返されるのみと思われていた、この存在。

 ところが実際は、改造された脳髄だけで動き回る事ができ。さらには、生者の脳髄と入れ替わる寄生体としての特質を持っている事を、確保してあった生け捕りにした黒い兵士で確認。

 先のアレイスター王国とマリリーニ州との紛争の結果、黒い兵士の死骸が大陸中にばらまかれ。ミ=ゴの使役体が一気に大陸全土へと解き放たれていた事を理解。むしろその拡散こそが、裏で糸を引いていたのであろうミ=ゴあるいは更なる黒幕の目的だったのではないかと、推測するに至った。少なくともクロウリード王の目的とは別に進行していた事態と思われる。

 もはやどれだけ侵食されているか、考えるだに悍ましい状況が一気に進行してしまった。しかも悪い事にミ=ゴの使役体は、魂魄魔術や従来の方法では検知が難しい事も判明している。



 そんなとんでもない事態に輪をかけて厄介なのが、3つ目。

 リリエラさんが語った100年ほど前から発生している事例の元凶。

 未だもって原因の分からない、しかし結果からおそらく、ミ=ゴの仕業と思われる乗っ取り。


 この3つ目を仮に、”ミ=ゴ変異体“と呼んでいるそうですが。



「数百年以上観測されていない、竜の背骨山脈からのモンスターの平野部への侵攻。これもこの3つ目の原因と関係があるのではないかと、研究と分析を担当する者達は疑っていますわ。さらに、時を重ねるように帝国西部やフェリシテ連邦で発生した、創造神様が与えたもうた試練型ダンジョンに再び発生している、異常の予兆。アレイスター王国がすでに亡き今、ミ=ゴに関わる何者か。あるいは操られた存在そのものが暗躍している可能性は極めて高いと考えざるを得ませんの」


「アレイスター王国の黒幕であったクロウリード王、そして彼らの悲願……迷惑極まりない事ですが……邪神ヨグ=ソトースの領域へ渡るという目的は達せられています」 「今更さらに動くとは思いづらいでしょうね」

「そう……ですね。もはやクロウリードに、現世への……少なくとも、当面は……干渉の思惑は、ないように……思われます」

 つらい記憶でしょうに、一生懸命にあれの思惑に思考を巡らせ、ほんの少し青ざめた唇から言葉を紡ぐルナリス。


「邪神ヨグ=ソトースの領域は時空も歪んでいますので、こちら側と同じ時系列かというと疑問ですが。あれは、邪神の神官となった。そして、かの邪神の領域の扉はすでに消滅し、封じられた空間へと戻っているはずです」


 ナコト写本の知識も参照しながらミ=ゴ、そしてあの領域の今について気丈に、表情を変えず、しかし抑え切れない手の震えを机の下に隠して語る紗雪。


「「失礼」」

 どれだけ気丈にふるまっていても、隠し切れない二人の心の奥底のトラウマに、さすがに見過ごすことは出来ず。

 一言断りを入れて席を立ち、2人それぞれの元へとおもむき、そっと横から抱きしめる私。

 こればかりは皇帝陛下の御前であろうと、後回しには出来ませんので。


 ビクリと強張った後、糸が切れたように脱力して寄りかかってくる、ルナリス。

 ちょっと恥ずかしそうに、そっと身体を離そうとしたので、ぎゅっと強引に抱き寄せる事になった、紗雪。


 皇帝陛下の御前、しかも会話中に不敬なのは重々承知ですが……リリエラさんとして、という言葉に甘えさせていただいたという事にします。


 幸い、察してくださったリリエラさんが。


「おおよその前提は共有ができました。ご相談したい依頼事項は少し間をあけてからにしましょう。少しだけ、所用で外しますわね。すぐに戻りますわ」

 と、わざわざ席を立ち、ソブレロさんもつれて部屋の外へ出られるのでした。


 一瞬だけ……羨ましそうな視線を残していったように見えてしまい。その様子がどこか寂し気で……。



 とはいえ、今は最愛の2人です。心配そうなうちの子達に見守られながら、

「わたくし……は、平気……です」

「ナオさん、心配性すぎますよぅ。えへへ~でも……嬉しい」

 と、気丈にみえて、甘える2人。


 ミ=ゴ絡みだけなら、邪神……と、結局は直接かかわる事もない。現実の神話をなぞった、言うなれば地球外生命体の侵攻にすぎない独立シナリオという可能性も期待していましたが。

 ここに来て、この問題がクロウリード王の謀(はかりごと)の前提にまで根差す、それこそこのアーカリア大陸の歴史に関わるもっと大掛かりなクエストである事が確定的に明らかになってきてしまいました。

 さすが禁忌級のクエスト、一筋縄ではいかないというか……。


 邪神はもちろん。もし運よく? そうでなくとも、ミ=ゴ絡みのここまでのお話から、寄生型モンスターといったタイプな事が確実。あまり気色の良いお話(シナリオ)なわけがないでしょう。



 今回の件、どうするべきなのでしょうね。思い切ってクエスト遂行を諦める。という手も……。



 もうルナリスの現実での生活、存在も確定し。

 どうしても無理にきついシナリオを進める、絶対の必然性まではありません。

 デウスとの約束の25億MCだって、期限が長い上にもう少しで半分までは来ています。最悪は獲得MCからの支払いでの充当だって、既にあるMCを使えば、できてしまいます。

 マテリアライズしたいアイテムが今後増える事を思えばMCはいくらあっても足りませんが……それにしたところで、この機会を逃したとしても、いくらでも挽回は可能でしょう。


 いっそ、聖国マリシアに逃げ出すか……。


 大規模なシナリオ進行が再びこの大陸であると知れば、聖国マリシアに本拠地を移したプレイヤー達も戻って来るやも……と、わずかに期待しましたが、大陸間ワープ手段が一部例外を除いて無いSEOでは、内部時間数週間は最低でもかかってしまいますね。これは一切、あてにはできませんか。

 プレイヤー戦力は、少なくともトップ層という割れるようなプレイヤーはほぼいない。そこで私たちが抜けてしまえば、帝国、いえ。せっかく全サーバーで唯一全土が実質守られたこのサーバーですらも――。


「ナオさん。ルナリスちゃんも私も、本当に大丈夫ですから。そんなことで逃げ出す必要なんかありませんし、むしろ乗り越えるいい機会です。直接、あの時に苦しめられた敵や邪神が相手というわけでもなさそうですし?」

「そう……です。わたくしたち……は、大丈夫です。トラウマ……がないとは、申しません。ですが……臆して、逃げるのでは、いつまでも乗り越え……られません。わたくしたちを、支え……共に、立ち向かわせて……ください」


 まっすぐに、翡翠の瞳と、蒼銀の瞳で私を見つめる2人の、なんと眩い事でしょう。

「わかりました。でも、無理だと思ったら」 「ログアウトしますからね。今回は、今回こそは、そういう手段がもうあるのですから」

「はい……」

「もちろんです!」


 ええ、そうです。

 特別な運命をくれた、現実と遜色ない世界といえども、もう私達は現実の存在。

 どれだけ重いお話であったとしても、退路を断たれていたあの頃とは違うのです。

 あくまでゲームとして、この世界を『楽しんで』いいのですよね。


「それに……ナオさん。これは邪推かもしれませんけれど。というか他のサーバーの状況を考えれば、この001サーバーがもう楽園って言っていい程、別天地。他サーバーはこの大陸で冒険をするなんて不可能な状態にあるので、その最有力立役者の私たちが誰に遠慮する事もないのですが……。そもそもが、デウスもしくは創造神的にこの大陸はチュートリアルワールドとして、巣立ってもらう。そのためにも崩壊するシナリオを主軸に据えて、好んで定住したがる人もほとんどいないであろうクトゥルフ神話モチーフのメインシナリオを敷設したのだ。という推測もプレイヤーの間では信じられていますが……」


 と、少し言いづらそうに、腕の中で身じろぎして、困ったように私の金の瞳を見上げる紗雪。


「アレイスター王国という『実験場』を失い。その先にあるはずだった、他サーバーのようにこの大陸の大半を手に入れる筋書き。奴ら、ミ=ゴなのか、邪神ナイアルラトテプ他、邪神群なのかにとっての楽園として、このアーカリア大陸を改造する未来が失われて。なりふり構わなくなったのかもしれませんよね……?」


「わたくし達……という想定外に至った、存在……神の座を……目指しうる力。あるいは、国土ごと……国を滅ぼした邪神の力を下すに至る奇跡……を、目撃した事で、ミ=ゴという……種族の新たな探求欲、に火がついた、のかもしれません……。そう……であれば、わたくし達が、無関係……とも割り切りづらく」


「う……まあ、確かに」 「無いとは言い切れませんか」


 でも、そうですね。

 リリエラさんの依頼を聞いたら、少しだけ気分転換にログアウトして、現実で遊びに出かけましょうか。

 うん、それも今の私たちには『自由』ですからね。


 とはいえ、そんな時間があると良いのですが。

 4倍の時間経過速度の差はこういう時に、枷になりますね?

 迂闊にログアウトすると、その間に事態が取り返しのつかないほど進行してしまうというリスクが。


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